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~スタッフ職の管理監督者該当性~
(東京高等裁判所令和4年3月2日判決を題材として)
「退職した元管理職から残業代を請求されている。」「管理職には残業代の支払いは不要ではないか。」といったご相談を受けることがままございます。しかしながら、労働基準法が深夜割増を除く割増賃金の支払いを不要としている管理監督者の範囲は世間が認識している範囲よりも極めて狭いため、「元管理職」は労基法上の管理監督者に該当せず割増賃金の支払いが必要なケースが極めて多いのが実情です。

そこで、本NewsLetterでは、管理監督者に関する一般的な考え方などに触れた上で、スタッフ職(※)の管理監督者該当性について判示した東京高等裁判所令和4年3月2日判決・労働判例1294号61頁(以下では「本判決」といいます。)を紹介するとともに管理監督者として割増賃金を支給しない場合の留意事項についてご説明させていただきます。
※スタッフ職:スタッフ職とは、企業における指揮命令のライン上にはなく専門的な知識・経験を発揮して業務を担当する職種をいいます。一方、工場長や部長等、実際に指揮命令権限を持った管理職は、ライン管理職と呼ばれます。
1 管理監督者に関する一般的な考え方
労働基準法は、その41条2号において「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」(以下「管理監督者」といいます。)については労働基準法第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない。」としています。この規定により、いわゆる管理監督者に該当する場合には深夜割増を除く割増賃金の支払いが不要となります。
管理監督者の該当性については、多くの裁判例では、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」等と定義しつつ、職位等の名称にとらわれず、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有しているか、②自己の労働時間についての裁量を有しているか、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ているか(以下、これらの3つの要素を併せて「本件考慮要素」といいます。)といった事情を総合考慮して、その該当性を判断してきました。そのため、管理職の肩書があれば、即座に管理監督者に該当するものではないことにご留意ください。
2 本判決について
⑴ 本判決の事案の概要
本件は、資産運用業、投資助言・代理業、第二種金融商品取引業を業とする被告会社(以下「被告会社」といいます。)との間で、専門社員として、期間を1年とする有期雇用契約を締結し、主に、被告会社の運営するファンドの情報を、顧客である投資家に対し伝える業務、具体的には、月次レポートの精査、準広告審査、共通コメントのチェック、臨時レポートの作成業務を行っていた原告労働者が未払残業代として2747万1761円等の支払いを求めた事案です。
原告労働者の年俸は、約1270万円であり、被告会社における部長に次ぐ待遇であり、社員の上位約6%に入る年俸額でした。また、被告会社は、原告労働者に対し、深夜労働に対する深夜手当を支払っていました。
この請求に対し、被告会社は、原告労働者が、いわゆるスタッフ管理職として管理監督者に該当し、被告会社が原告労働者に対し、支払うべき未払残業代がない旨主張しました。
※本記事では、紙面の都合上、その他の争点に関する事項は割愛させていただきます。
⑵ スタッフ職の管理監督者該当性に関する補足
スタッフ職について、厚生労働省は、上記1で述べたライン管理職における判断基準とは異なり、❶経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当していること、❷ライン管理職と同格以上の位置づけとされている場合には、管理監督者に該当し得る旨を通達で示してきました(昭和63年3月14日基発150号)。被告会社は、この通達を根拠に、原告労働者を管理監督者として取り扱ってきたという背景があり、本件でも上記2要件を満たせば管理監督者に該当するとの主張を展開しました。
⑶ 本判決の判決要旨
裁判所は、従来の裁判例と同様、本件考慮要素を管理監督者該当性の基準として示しつつ、「労基法の趣旨や労基法41条2号の『監督若しくは管理の地位にある者』という文言に照らすと、以上のことは、いわゆるスタッフ職の管理監督者該当性の判断に当たっても基本的に妥当する」と判示し、上記通達の考え方を否定しました。その上で、裁判所は、③原告労働者は、形式的には、管理監督者として位置づけられ、待遇面では管理監督者であるライン管理職と同格以上の報酬を受領していることを認定しつつも、①相当程度難易度の高い重要な業務に従事していたことは認められるものの、経営者と一体的な立場に立ち、労働時間等に関する規制を超えて労働することが要請されるような重要な職務と責任を有する者に当たるということができないのみならず、経営上の重要事項に関する企画立案等を担当しているともいえないこと、②労働時間の裁量についても、実態としては、勤務時間や休憩時間を自由に選択する余地はなく、私用で外出する場合は、就業規則に従って事前に上司に連絡してその許可を得るなど、極めて裁量の余地に乏しい状況であったことを認定して、管理監督者には該当しないと判断しました。
3 管理監督者として割増賃金を支給しない場合の留意事項
上記のとおり、本判決は、スタッフ職かライン管理職のいずれかにかかわらず、従来どおり、本件考慮要素に従って判断することを判示しました。そのため、スタッフ職であっても、本件考慮要素に従って管理監督者該当性を吟味する必要がございます。
また、本判決は、従業員が相当程度難易度の高い重要な業務に従事しているだけではなく、形式的には管理監督者と位置づけられ、待遇面ではライン管理職と同格以上の報酬を受領していたにもかかわらず、経営者と一体的な立場にあるとはいえないとしているため、社内で管理監督者として位置付けていることや専門的な知識を要する業務に従事していること、管理職として高い処遇を受けていることのみを重視して、労働基準法上の管理監督者に該当すると判断することにはリスクがあるものと考えられます。
管理監督者該当性に関するご質問や制度の構築、就業規則の改定などにつきましては、お気軽に担当弁護士までご相談いただければと存じます。
以上