1 本紙作成の目的について
令和3年6月1日、特定商取引に関する法律(以下、単に「特定商取引法」といいます。)の改正があり、令和4年6月1日以降、EC事業(BtoC取引のECサイトを運営されている事業者様が対象となりえます。)においてカートシステム(ECカートソフトウェアを利用したオンライン上の決済システムをいいます。)を利用する事業者様(以下では単に「EC事業者」といいます。)は、カートシステムの最終確認画面(インターネット通販において、消費者がその画面内に設けられている申込みボタン等をクリックすることにより契約の申込みが完了することとなる画面が該当)において一定事項(※後記2ご参照)を記載しなければならないことになりました。 EC事業者が、上記義務に違反することなどにより一定事項に関して消費者に誤認を与える表示をした場合、消費者は当該取引を取り消すことができることになりました。 そこで、本紙では、法改正によりカートシステムの最終確認画面に記載することが必要となった事項を整理するとともに、これらに対応していない場合にEC事業者が被る不利益について、具体例も交えご案内いたします。
2 カートシステムの最終確認画面に記載すべき事項
最終確認画面において記載すべき事項は以下のとおりです。
*消費者庁ホームページ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」(令和5年10月31日現在)から引用
3 「最終確認画面」に上記2記載の事項を記載しない場合や誤認を与える表示をした場合
(1)取消権の行使
EC事業者が上記2記載の事項につき、記載をしなかったり、誤認を与える表示を行った場合に、消費者が誤認をして申込みをしたときは消費者は当該取引について取消権を行使できるものとなりました(同法15条の4)。
(2)具体的な事例の検討
この事例は、カートシステムの最終確認画面(購入を確定させる画面)には返品できないことを表示していなかったものの、商品を購入する際に表示される商品ページには「この商品は返品できません。」と記載していたというものです。 このような場合においても、EC事業者は一定事項につき記載をしなかったとして、消費者からの申込みの取消し(返品)要望に応じる必要があるかどうかが問題となります。 結論としては、本事例では最終確認画面に返品できない旨の記載が一切なく、消費者は記載がないことにより当該事項を誤認して購入したと述べていることからすれば、特定商取引法第15条の4の取消権を行使された場合には、EC事業者は返品に応じなければならないリスクが高いものと考えられます。 たしかに、ECサイト上の最終確認画面までの商品ページ自体には「この商品は返品できません。」と記載されており、通常、商品ページを見た消費者は当該商品が返品できないとの表示を確認することから、最終確認画面に申込みの撤回等に関する記載がなかったとしても「申込みの撤回・解除に関する事項」を誤認することはなかったと考える余地もありそうです。 しかし、今回の改正法については、EC事業者に対して、決済にかかる「最終確認画面」に一定の事項を記載するよう義務付け、もってECサイト利用者(消費者)に当該事項につき誤認を生じさせないこと企図したものであることからすれば、最終確認画面に記載されていなかった事実は、それ自体消費者の誤認を生じさせるものとして、裁判所で争われた場合には取消権の行使が認められるリスクが高いと考えられます。
4 表示方法のご案内
以上述べたところを踏まえると、消費者に対する誤認を生じさせないという観点からは、2に記載した事項(法第12条の6第1項第2号、同法第11条第第5号所定の事項)は、最終確認画面上に網羅的に記載することが望ましいといえます。 もっとも、カートシステムの仕様等により、最終確認画面上に全てを記載することでかえって消費者に分かりづらくなるなど、最終確認画面に全て記載する方法が相当でない場合も想定されます。 そのような場合には、 ① 最終確認画面上には商品や価格等の基本的な事項を表示し、 かつ、 ② 最終確認画面内にリンクを設け、リンク先を確認することを利用者(消費者)に求める表示をし、必要な記載事項はリンク先で容易に確認できるようにする といった対応方法も考えられます。
以上の記載方法、その他「最終確認画面」を通じて掲載する必要がある事項につきましては、消費者庁作成の資料が参考となりますので、併せてご参照ください。
以上