HOME人事労務ラボその他 > うつ病で休職した従業員の復職の判断

2022/05/15

うつ病で休職した従業員の復職の判断

Twitter facebook
Question

 うつ病に罹患して休職した従業員が,復職可能であるという内容の主治医の診断書を提出して復職を申し出てきたのですが,うつ病などの精神疾患は診断が難しく,再発してしまうことも多いとも聞いており,主治医の診断書に基づいて復職可能と判断してよいものか不安があります。こういったケースで,会社は当該従業員が復職可能かどうかの判断をどのように行ったらよいでしょうか。

Answer

 当該従業員の主治医のみならず,産業医等の意見も参考にしながら,場合によっては「試し出勤制度」を導入・活用するなどして,従前の職務を通常の程度行える状態に回復していると言えるかどうかについて,様々な視点から当該従業員の状態を評価し,総合的に判断することが望ましいといえます。

ポイント

  • ・メンタルヘルスの不調により休職した従業員の復職の可否については,主治医の診断のほか,産業医の意見等もふまえ,当該従業員の状態を多角的に評価し判断することが望ましい
  • ・復職の可否の判断においては,職場復帰支援の一貫としての「試し出勤制度」の導入・活用が有用と考えられる
  • ・復職可能と判断された場合は,その後の適切な職場復帰支援,職場復帰後のフォローアップを実施することが疾患の再発防止に資すると考えられる

目次

1.はじめに

 うつ病等のメンタルヘルスの不調により休業した労働者への対応については,厚生労働省が,その円滑な職場復帰を促進するための事業場向けのマニュアルとして「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成24年7月改定,以下「手引き」といいます。)を作成しています。

2.職場復帰支援の流れ

 手引きに示されている職場復帰支援は,病気休業開始及び休業中のケア(第1ステップ),主治医による職場復帰可能の判断(第2ステップ),職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成(第3ステップ),最終的な職場復帰の決定(第4ステップ),職場復帰後のフォローアップ(第5ステップ)の5つの段階からなっており,以下の内容で構成されています。

(1)病気休業開始及び休業中のケア<第1ステップ>

 病気休業の開始にあたっては,当該労働者の主治医により作成された診断書を提出してもらい,診断書には病気休業を必要とする旨の他,職場復帰の準備を計画的に行えるよう,必要な療養期間の見込みについて明記してもらうことが望ましいとされています。
 また,管理監督者等は,病気休業診断書が提出されたことを人事労務管理スタッフ等に連絡し,当該労働者が安心して療養に専念できるよう傷病手当金等の事務手続,悩みの相談先等の説明を行い,職場復帰支援のために予め検討が必要な事項について当該労働者と連絡をとり,場合によっては当該労働者の同意を得た上で主治医と連絡を取ることも必要となるとされています。

(2)主治医による職場復帰可能の判断<第2ステップ>

 労働者から職場復帰の意思が伝えられたら,事業者は当該労働者に対し,主治医による職場復帰可能との診断,及び就業上の配慮にかかる主治医の具体的な意見が記載された診断書の提出を求めます。
 この際,復職可能と判断できる回復の程度は,原則としては,「従前の職務を通常の程度行える健康状態に復した」状態(千葉地判決昭和60.5.31)をいうとされていますが,主治医による診断は,必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているかどうかを判断したものとは限らないため,注意が必要です。
 そこで、復職可能性の判断にあたっては,産業医等の意見も参考にする,予め主治医に対し職場で求められる業務遂行能力にかかる情報を提供した上で意見を提出してもらうといった対応を取ることが考えられます。

(3)職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成<第3ステップ>

 最終的な職場復帰を決定する前段階として,職場復帰の可否を判断し,職場復帰支援プランを作成します。
職場復帰の可否を判断するにあたっては,当該労働者の職場復帰に対する意志の確認,産業医等による主治医からの意見収集,当該労働者の状態の評価,職場環境等の評価等,必要な情報を収集し多角的な視点に基づいた評価を行い,総合的に判断する必要があります。手引きにおいては,職場復帰の可否の判断基準の例として,労働者の職場復帰への意欲,通勤時間帯の一人で安全に通勤ができること,会社が設定している勤務日に勤務時間帯の就労が継続して可能であること,業務に必要な作業をこなすことができること,作業等による疲労が翌日までに十分回復していること,適切な睡眠覚醒リズムが整っており,昼間の眠気がないこと,業務遂行に必要な注意力,集中力が回復していることが挙げられています。
 そして,この段階において職場復帰が可能と判断された場合は,職場復帰日,管理監督者による就業上の配慮,配置転換等の人事労務管理上の対応,産業医の意見,フォローアップの方法等について検討し,具体的な職場復帰支援プランを作成します。
 近年,正式な職場復帰決定の前に実施される社内制度として注目されているのが,「試し出勤制度」です。「試し出勤制度」とは,当該労働者において,正式な職場復帰の前に,通常の勤務時間と同様の時間帯においてデイケア等で模擬的な軽作業当を行ったり,当該労働者の自宅から職場の近くまで通常の出勤経路で移動を行い職場付近で一定時間を過ごしたり,職場復帰の判断等を目的として試験的に職場に一定期間継続して勤務する等をしてみるといった内容のいわばリハビリ的な出社等を実施することを定める社内制度をいいます。この「試し出勤制度」により,早い段階において当該労働者の職場復帰の試みを開始することができるほか,事業者が最終的な職場復帰の可否を判断するにあたり有用であると考えられ,また,当該労働者の職場復帰に対する不安の緩和という効果も期待することができます。

(4)最終的な職場復帰の決定<第4ステップ>

 第3ステップの職場復帰の可否についての判断,職場復帰支援プランをふまえて,最終的な職場復帰の決定を行います。産業医等が職場復帰に関する意見及び就業上の配慮等についてとりまとめた「職場復帰に関する意見書」を作成し,労働者の状態の最終確認,事業者による最終的な職場復帰の決定を行い,当該労働者に通知します。

(5)職場復帰後のフォローアップ<第5ステップ>

 職場復帰後は,疾患の再燃・再発の有無の確認,業務遂行能力の評価,職場復帰支援プランの実施状況等,管理監督者による観察と支援,事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し,必要に応じて職場復帰支援プランの見直し,職場環境の改善等を行います。

3.まとめ

 メンタルヘルスの不調により休業した労働者の復職に際しては,復職の可否の判断を適切に行うことも重要ですが,疾患の再発の可能性を低減しスムーズな職場復帰を実現するための適切な職場復帰支援,職場復帰後のフォローアップを実施することも重要と言えます。そして,適切な職場復帰支援等を実現するには,手引きを参考に,休業開始の段階から主治医との連携を試みるなど,復帰を見据えた対応を開始することが望ましいと考えられます。

村上 智映(むらかみ ちえ)

本稿執筆者
村上 智映(むらかみ ちえ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 従業員のメンタルヘルスの不調については,上述のように職場復帰の可否を判断し,職場復帰に向けた対応を行うケースのほか,職場復帰が難しい場合の対応,メンタルヘルスの不調が職場のパワーハラスメントが原因である場合の対応等,様々なパターンが考えられ,関係法令,裁判例等をふまえた慎重な対応を要します。お困り事があれば,弁護士までご相談ください。

労働問題に関する
このようなトラブル
悩んでいませんか?

お問い合わせ

ご相談は以下まで、
お電話・メール・LINEにて受付ております。

相談のご予約はLINEが便利!

法律事務所ASCOPEを友達に追加しよう!

対応時間:平日10時~19時

「友だち追加」ボタンをタップ頂くことで
ご登録頂けます。

受付では、
一旦下記についてお聞きいたします。

法人名(ご担当者名)/ 所在地 / 電話番号 / 相手方氏名(コンフリクト防止のため)/
相談内容の概要(相手方代理人名、次回期日、進捗状況等)/
ご来所可能日時

TOP