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2021/04/28

給与の天引きについて

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Question

 会社所有の車の自損事故を起こした従業員について、当社が被った損害を賃金から天引きしようと考えているのですが、問題はないでしょうか。

Answer

 従業員が賃金からの天引きに同意し、それが当該従業員の自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に認められる場合には、損害分を賃金から天引きすることができます。
 もっとも、このような同意が認められない場合には、賃金の全額払いの原則に反し、労基署から是正勧告を受けたり、労働者から未払金及び付加金の請求を受けたりする可能性があり、また、悪質と判断された場合には、刑事罰が科される可能性もありますので、注意が必要です。

ポイント

  • ・賃金は原則として全額を支払わなければならない。
  • ・労使協定に基づく控除は、事理明白なものに限られる。
  • ・労働者による個別の同意がある場合にのみ、賃金から損害分を天引きしうる。
  • ・全額払いの原則に違反した場合には、刑事罰が科される可能性がある。

目次

1 額払いの原則とは

 労働基準法24条1項本文は、以下のように規定しています。
 「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」
 この条文から導き出される原則の1つが、賃金は労働者に全額を支払わなければならないとする全額払いの原則です。

2 全額払いの原則の例外

 (1) 法令に別段の定めがある場合

 ただし、全額払いの原則の例外として、「法令に別段の定めがある場合」には賃金から控除することも許されます(労働基準法24条1項但書)。
 例えば、税金や社会保険料を控除して賃金を支払う場合には、全額払いの原則に反しません。

 (2) 賃金控除に関する労使協定がある場合

 また、労働者の過半数組合や過半数代表者と賃金の一部を控除する旨の労使協定を締結した場合にも、全額払いの原則に反しません(労働基準法24条1項但書)。
 もっとも、通達では、本規定によって控除が許されるのは、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、組合費等といった事理明白なものに限られるものとしています(昭和27年9月20日基発第675号)。

 (3) 労働者の個別の同意(会社との合意)があるとき

 その他にも、会社が労働者との間で個別に合意した場合には、その合意の範囲において賃金控除が許されています(最判平成2年11月26日、東京地判平成23年2月23日参照)。

3 全額払いの原則違反の罰則

 全額払いの原則に違反した場合には、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法120条1号)。
 また、上記違反が露見した場合には、労基署から是正勧告・指導がなされることがあり得るほか、違反態様が悪質な場合には、書類送検されて刑事手続に移行する可能性もあります。

4 本件の場合

 本件のような自損事故における損害分を控除したい場合に考えられる方法としては、労使協定を締結するか(本記事2(2)参照)、労働者と個別に合意する(本記事2(3)参照)方法が考えられます。
 もっとも、労使協定の締結による方法については、全額払いの原則の例外として認められない可能性がありますので、注意が必要です
 すなわち、東京地判平成31年1月31日では、「労働者が関与した事故の内容や損害等が全く明らかにされない」ことや、「無事故であったり安全運行を心掛けたりした場合に支給される手当が満額支払われていることなど」から、「損害賠償として賃金を控除される理由が明確ではない」として、事故費等の賃金からの控除が認められないものと判示されました。
 そのため、労働者が起こした自損事故の損害分を賃金から天引きする場合には、労働者の同意を得た上で、同意書等の書面を作成する方法が安全といえます。
 ここで注意していただきたいのが、かかる労働者の同意が自由な意思に基づいてなされたといえる必要があるということです。
 労働者の同意が自由な意思に基づいているかを判断するための要素としては、以下の事情が挙げられますので、同意書の作成などの際にはご留意ください。

  • ① 控除額が多額ではないか。
  • ② 労働者に対して修理代金の資料(領収書等)を見せることで、控除金額が適正であることを確認させたか。
  • ③ 本件自損事故における労働者の過失が明らかであるか。
  • ④ 労働者が本件賃金控除につき異議を唱えることができる状況であったか。
法律事務所ASCOPE 監修

本稿執筆者
法律事務所ASCOPE 監修
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 たとえ労働者が賃金からの天引きに同意していた場合であっても、会社側で何ら対策を講じていなければ、後に労働者から、同意は自由な意思に基づいてされたものではなかったとして争われる場合がございます。賃金からの天引きをするには、専門的な知識・判断が必要となりますので、実施を検討されている場合には、専門家である弁護士に是非一度ご相談ください。

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