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2022/08/15

就業規則の変更による労働条件の不利益変更

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Question

 当社では,経営環境の悪化に伴い,就業規則で定められた退職金の支払基準を下げたいと考えています。全従業員から変更に同意する旨の記載のある書面に署名押印をしてもらったので,就業規則の変更は有効と考えて問題ないでしょうか。

Answer

 従業員の同意が自由な意思に基づいてなされていれば有効といえます。

ポイント

  • ・就業規則の変更による労働条件の不利益変更が有効となるためには,労働者との合意があること又は変更内容が周知され合理性を有していることが必要です。
  • ・労働者との合意により就業規則の不利益変更を実施する場合,労働者に対して情報提供や説明を十分に行う必要があります。

目次

1.就業規則の変更による労働条件の不利益変更

 就業規則を変更して労働条件を労働者にとって不利益に変更するためには,①労働者との合意をすること又は②就業規則の内容が周知され,かつ合理的なものであることが必要です(労働契約法8条,9条,10条)。
 そして,①の「合意」については,使用者が労働者にとって不利益に変更された労働条件を提示し,労働者がこれに同意するというケースが大半であると考えられます。ここでは,その同意が有効なものである,ひいては就業規則の変更が有効であるというためにはどのように同意を得る必要があるかという点について解説します。なお,①の方法による場合,変更の対象となる労働者だけではなく,就業規則の適用を受ける事業場の全労働者との合意が必要な点にご注意ください。

2.労働条件の不利益変更についての同意の成否

(1)判例の立場

 判例(※1)は,賃金や退職金に関する労働条件の不利益変更における労働者の同意の有効性について,「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきものと解するのが相当である」と判示しています。つまり,単に労働者から同意を取得するだけでは不十分であり,判断に必要な情報提供を十分に行い,変更内容について労働者が十分に理解している状態で同意を求めることが必要であるといえます。

(※1)山梨県民信用組合事件(最高裁判所平成28年2月19日第2小法廷判決・民集70巻2号123ページ)

(2)判例を踏まえた同意の取得方法

 労働者からの同意を得たことの証明として,使用者において同意書を作成し,労働者に署名押印を求めるという方法が考えられます。上記判例は,合併に伴い賃金や退職金の支給基準が変更され,労働者によっては退職金額が0円になるという事案でしたが,説明会における退職金額の説明の実施や退職金一覧表の提示等にとどまり,変更による具体的な不利益の内容や程度について情報提供がされる必要があったと判示しています。 具体的な説明の程度や方法は,変更の内容や不利益の程度が大きくなるにつれて詳細に行う必要がありますが,基本的には,説明会を開催し,資料に基づいた説明を行い,納得しない労働者に対しては個別の説明も行い,労働者の求めがある場合には専門家も交えた個別の説明を行うことが必要になるでしょう。
 なお,同意の取得方法として,変更に同意する旨の記載のある書面に「同意しない旨の意思表示がなければ同意したものとみなす。」といった文言を記載し,明確な反対の意思表示がない限り同意したものとみなす方法で同意を取得することも考えられます。
 しかし,このような方法で同意を取得した事案において,裁判所が「不利益な変更を受け入れざるを得ない客観的かつ合理的な事情があり,従業員から異議が出ないことが従業員において不利益な変更に真に同意していることを示しているとみることができるような場合でない限り,従業員の同意があったとはいえない」と判断し,同意の有無を厳しい基準によって判断した裁判例(※2)も存在するため,みなしによる同意の取得は,同意の有効性が認められないリスクが高まります。

(※2)協愛事件(大阪高判平成22年3月18日判決・労判1015号83ページ)

川島 孝紀(かわしま たかのり)

本稿執筆者
川島 孝紀(かわしま たかのり)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 ここまで説明してきたように,労働者にとって不利益となる就業規則の変更を行う場合,慎重な対応が求められることについてご理解いただけたかと思います。就業規則の変更を含め,就業規則に関してご不明な点がある場合には,事後的なトラブル発生のリスクを低減するためにも,ぜひ弁護士にご相談ください。

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