従業員から「労基署に相談する」と言われたらどうすべきか
会社の人事・労務担当者にとって、従業員からの通報や相談は大きな不安材料です。
特に気になるのは、実際に調査が入るのか、会社としてどのタイミングで対応すべきか、そして後々のトラブルをどう防ぐかという点でしょう。
元労働基準監督官である社会保険労務士として、実務に沿った視点で解説します。
労基署とはどのような組織か
労基署は、労働基準法や関連法令を扱う国の地方出先機関です。
主に以下のような業務を担っています。
- ・ 労働条件相談・監督部署:就業規則や労働条件に関する相談を受け付け、必要に応じて指導や監督を行う
- ・ 安全衛生課:工場や建設現場での安全衛生指導
- ・ 労災課:労災保険の手続きや事故補償
- ・ 総合労働相談コーナー:ハラスメントや職場トラブルなど幅広く相談対応
※地域や規模によって名称や担当業務は異なる場合があります。
労基署への相談・通報の種類
従業員が労基署に相談する場合、大きく分けて3つのタイプがあります。
1. 単純相談
単純相談は、法的助言や情報提供で終わるケースが多く、調査に直結することはほとんどありません。
例えば、従業員が「就業規則を見たことがない。就業規則について、労務担当者とも話し合ったことがない」と相談した場合、労務担当者に確認するよう助言されることが一般的です。
2. 情報提供(匿名可)
従業員が法令違反の疑いを匿名で報告するケースです。
長時間労働や未払い賃金などの情報も含まれ、退職者や第三者からの情報提供もあり得ます。 内容や証拠の有無に応じて、監督署は調査を実施するか、実施するとすれば実施時期はいつか等を検討します。
3. 申告監督(氏名開示あり)
氏名や調査希望内容を開示して行う申告です。申告の場合、「法違反でないことが明白でないもの以外はすべて受け付ける」運用となっているため、証拠等がなくても受け付けることとなります。
申告された場合は、比較的短期間で調査に着手されます。申告内容をもとにして申告監督と呼ばれる調査が始まりますが、「従業員の代理人」ではなく、中立的な立場で行われます。
申告監督では、 法令違反が確認されれば是正勧告、確認できなければ行政指導が終了します。
なぜ「相談しても動かない」と感じられるのか
相談や通報があっても、会社側からは動きが見えにくいことがあります。主な理由は以下の通りです。
1. 単純相談で終わっている
単純相談は法的助言にとどまり、情報提供の意思表示がなければ調査対象になりません。
2. 情報提供しても調査に至らない場合がある
- ◦ 内容が法令違反に該当しない
- ◦ 評価制度や人間関係のトラブルは監督署では対応できない
- ◦ 人手不足や情報の信頼性の問題で、調査が後回しになることもある
3. 調査は行われているが見えにくい
監督署は必要最小限の接触で調査を行います。労務担当者や会社の決裁権限を持つ方を中心にヒアリングを行うため、その他の従業員は調査の有無に気づかない場合があります。
また、改善には時間がかかることが多く、従業員が変化を実感しにくいケースもあります。
*なお、調査内容によっては従業員に個別にヒアリングをする場合もあります。
労基署への通報リスクを下げるために
日頃の労務管理と従業員対応が、通報リスクを下げる上で重要です。ポイントは次の通りです。
- ・ 就業規則や労働条件を整備し、従業員が確認できる状態にする
- ・ 残業代や休暇の管理を適切に行う
- ・ 従業員の相談や情報提供に真摯に対応する
特に「隠れ残業」や未払い残業は、他の従業員からの通報や労使紛争に発展する可能性があります。
また上記に説明した「申告監督」にて、行政指導に至らなかった場合は、労働審判等で争われるケースも考えられます。
社労士・法律専門家に相談するメリット
専門家に相談することで、労務管理の現状を客観的に把握でき、法令遵守のための改善策を提案してもらえます。
また、労使トラブル発生前に適切な対応を支援することで、未然にリスクを抑えられます。
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まとめポイント
- ・ 労基署への相談は「単純相談」「情報提供」「申告監督」に分けられる
- ・ 単純相談は原則調査につながらない
- ・ 情報提供や申告監督は内容や証拠に応じて調査が検討される
- ・ 日頃の労務管理と従業員対応が、通報リスクを下げる

