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トップページに戻る優越的地位の濫用に関する公正取引委員会の考え方及びセブンイレブン事件(公取委命令平成21年6月22日)について

- 執筆者
- 青田敏輝(弁護士)/愛知県弁護士会
はじめまして、弁護士の青田敏輝です。
私は、法的紛争に巻き込まれた方々とのコミュニケーションを大切にしています。真の問題点を把握し、ベストな解決に導きたいと考えています。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
●プロフィール
埼玉県立杉戸高等学校 卒業
明治大学法学部法律学科 卒業
東京大学法科大学院 修了
CHAPTER1
優越的地位の濫用とは
1 関連条文
優越的地位の濫用:独占禁止法2条9項5号ハ(「その他」以下)
取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
2 優越的地位の濫用とは
「優越的地位の濫用」とは、
①行為者たる事業者の「優越的地位」があり、
②その地位を「利用して」
③「正常な商慣習に照らして不当に」
④「相手方に不利益を与えること」(2条9項5号イ~ハの行為(以下「不利益行為」といいます。))
をいいます。
以下、各要件について説明します。
⑴ 優越的地位
「取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、著しく不利益な要請等を行っても、これを受け入れざるを得ないような場合である」(「優越的地位の濫用に関する独占禁止法の考え方」(以下「ガイドライン」といいます。)
簡単にいうと、取引の相手方が、行為者(事業者)との取引をせざるを得ない状況にある場合をいいます。
優越的地位を認定するにあたり、総合的に考慮される事情(ガイドライン・第2-2参照)
(行為者A、相手方Bとして考えます。)
①BのAに対する取引依存度(Bの全体の売上高におけるAに対する売上高の割合)
②Aの市場における地位(市場シェア、その順位等)
③Bの取引先変更の可能性(BがA以外の事業者との取引開始や取引拡大をする可能性、BがAとの取引に関連して行った投資等)
④その他BがAと取引することの必要性を示す具体的事実(Aとの取引の額、Aの今後の成長可能性、取引の対象となる商品・役務を取り扱うことの重要性、Aと取引することによるBの信用の確保、事業規模の相違等)
すなわち、典型的には、Aが市場において大きなシェアを有する一方で、BはAに比して小規模であり、Bの営業上Aとの取引が欠かせず、またAに代わる取引先を確保するのが困難といった状況の場合、AのBに対する優越的地位が認められます。
⑵ その地位を利用して
優越的地位にある行為者が、相手方に対して、不当に不利益を課して取引を行えば、通常、「利用して」行われた行為だと認められます(ガイドライン・第2-3参照)。
⑶ 正常な商慣習に照らして不当に
公正な競争秩序の維持・促進の観点から個別に判断されます。これを、より具体的に整理すると、以下の場合は、「正常な商慣習に照らして不当に」の要件を満たすと考えられています(菅久修一・品川武・伊永大輔・原田郁「独占禁止法第4版」184頁参照)。
①取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合
②取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、不利益を与えることとなる場合
このように、契約で定められた事項以外について負担を強いられ、それに対して対価が支払われず、または十分ではない場合に「正常な商慣習に照らして不当に」と判断されるものといえます。
⑷ 相手方に不利益を与えること(不利益行為)
優越的地位にある事業者の以下の行為が、典型的な不利益行為といえます。
*(参考)優越的地位の濫用(法2条9項5号イ~ハ)の典型例
イ 購入・利用強制
ロ 協賛金等の負担の要請
従業員等の派遣の要請
ハ 受領拒否
返品
支払遅延
減額
このように、優越的な地位にある事業者が取引相手に対し、金銭あるいは人員派遣の要請等何らかの経済的負担を強いることは「利用して」と判断されます。
CHAPTER2
セブン-イレブン事件(公取委命令平成21年6月22日)
1 事案の概要
X社は、コンビニチェーンを運営しており、自己のフランチャイズ・チェーンの加盟者が経営するコンビニエンスストアで廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で、加盟者に対し、加盟店基本契約の解除等の不利益な取扱いをする旨を示唆するなどして、デイリー商品の見切り販売を行わないようにさせ、もって、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせていた、という事案です。
2 ロイヤルティ算定の仕組み
- ・X社は、加盟者からロイヤルティを収受している
- ・ロイヤルティの算定方式は以下のとおり算出されます。
=売上総利益(加盟店で販売された商品の売上額-当該商品の原価相当額)×一定率 - ・X社と加盟者の加盟店基本契約では、販売期限を経過したデイリー商品を全て廃棄させていた
- ・廃棄された商品は、販売されていないため、ロイヤルティの算定上、その原価相当額は売上総利益から差し引かれない
3 優越的地位の成否
X社との取引必要性の間接事実(本件排除措置命令書)
- ・X社は我が国で最大手のコンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営む事業者である一方で加盟者は中小の小売業者
- ・契約期間の延長又は更新の合意ができなければ、契約が終了し、契約終了後は競業避止義務を負う(又は店舗を直ちに返還する)
-
・X社の指導・援助のもとでの経営
➡加盟者にとってはX社と取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障をきたすことになり、このため、加盟者はX社からの要請に従わざるを得ない立場にありました。
したがって、X社の取引上の地位は、加盟者に対して優越しているといえます。
4 不利益行為
⑴ 前提
- ・デイリー商品を含む推奨商品の販売価格は、(推奨価格はあるものの)加盟者自らの判断で決定できる
- ・デイリー商品は、メーカー等が定める消費期限又は賞味期限よりも前に、X社独自の基準で、販売期限を定めている。販売期限を経過したデイリー商品は、すべて廃棄することとされている
-
・加盟店で廃棄された商品の原価相当額は、その全額を加盟者が負担することとされている(一方でロイヤルティの額は、X社は廃棄された商品の原価相当額の多寡に左右されない)
➡加盟者には、利益がゼロでも廃棄による損失を避けたいという思いがあり、見切り販売を行う動機があります。
⑵ X社が行ったとされる不利益行為
- ・X社は、加盟者がデイリー商品に係る「見切り販売」を行おうとしていることを知ったときは、当該加盟者に対し、見切り販売を行わないようにさせる
- ・X社は、加盟者が見切り販売を行ったことを知ったときは、当該加盟者に対し、見切り販売を再び行わないようにさせる
- ・加盟者がX社が見切り販売の中止あるいは停止をさせようとしたにもかかわらず見切り販売を取りやめないときは、ディストリクト・マネジャーと称するX社の従業員らは、当該加盟者に対し、加盟店基本契約の解除等の不利益な取扱いをする旨を示唆するなどして、見切り販売を行わないよう又は再び行わないようにさせる
など見切り販売を行おうとし、又は行っている加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせていました。
5 正常な商慣習に照らして不当に
期限切れデイリー商品の全廃棄やロイヤルティ算定方式自体は、加盟(予定)店との基本契約締結前の優越的地位のない段階から、加盟者にも明示されていたことから、直ちに優越地位の濫用を認定しにくいと考えられます。
しかし、本件でX社は、契約後、経営相談員を使って契約外で、見切り販売を制限していました。
➡「①取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合」に該当し「正常な商慣習に照らして不当」と判断されました。
6 正当化理由
一部の加盟者が、デイリー商品の原価相当額の負担を軽減するため、見切り販売をする事例があり、その場合、もし、原価相当額を下回る価格で販売されると、見切り販売によってロイヤルティが減少する事態もあり得るため、X社は、見切り販売を制限していたとも考えられます。
しかし、例えば、加盟店で販売された商品の価格が原価相当額を下回っている場合、赤字分を加盟者が負担するなどの、より制限的でない他の手段もあり得るから、本件の制限は正当化されないものといえます。
7 公取委の結論
以上のことから、公取委は、「自己の取引上の地位が加盟者に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の実施について加盟者に不利益を与えている」として、独占禁止法19条に違反との判断をしました。
以上
Point
- 行為者(X社)が相手方に対して優越的地位を有するかの判断において、様々な間接事実が考慮されること
- X社が、相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えたことが、正常な商慣習に照らして不当と判断されること
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