第1.はじめに
ASCOPE News Letter 2023年6月30日号(※1)でも解説させていただいたところではありますが、2024年4月から、改正労働基準法施行規則等が施行され、従業員を雇い入れる際や労働契約の締結・更新のタイミングの労働条件明示事項が追加されます。 いよいよ施行まで残り1か月となりました。既に労働条件通知書等の書式の改定は対応済みの企業様も、対応が直前に迫った今、これを機に、あらためて労働条件の明示事項やそのタイミングについて、確認してみませんか。 対応がこれからの企業様も、まだ間に合います。労働条件通知書のひな形変更といった作業に今すぐ取り掛かりましょう。
(※1)本稿は2024年3月号のニュースレターにて執筆されたものです。 ASCOPEでは企業活動に関わる法改正や制度の変更等、毎月耳よりの情報をニュースレターの形で顧問先の皆様にお届けしております。 会社法務に精通した社会保険労務士、顧問弁護士をお探しの企業様は、是非ASCOPEにご依頼ください。
第2.追加される明示事項
1.就業場所及び業務の変更の範囲(改正労基則第5条第1項第1号の3)
①対象となる労働者:すべての労働者 ②明示のタイミング:すべての労働契約の締結時と、有期労働契約の更新時ごと ③「就業場所と業務」とは:労働者が通常就業することが想定されている就業の場所と、労働者が通常従事することが想定されている業務のことを指します。 配置転換が命じられた際の配置転換先の場所や業務は含まれますが、臨時的な他部門への応援業務や出張、研修等、一時的な変更先の場所や業務は含まれません。(※2) ④「変更の範囲」とは:今後の見込みも含め、その労働契約の期間中における就業場所や従事する業務の変更の範囲のことをいいます。(※3) ⑤その他:変更の範囲の明示が必要となるのは、2024年4月1日以降に契約締結・契約更新をする労働者となりますが、トラブル防止のため、制度改正以前から労働契約を結んでいる労働者についても、変更の範囲を明示することを検討することが推奨されています。(※4)
2.更新上限に関する事項(改正労基則第5条第1項第1号の2)
①対象となる労働者:有期契約労働者 パート・アルバイトや契約社員、派遣労働者、定年後に再雇用された労働者等の有期契約労働者です。 ②明示のタイミング:有期労働契約の締結と契約更新時ごと ③明示する内容とは:更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要になります。 ④その他(更新上限を新設・短縮しようとする場合の説明事項): 有期労働契約の締結後、契約の変更や更新に際して、通算契約期間や契約更新回数について上限を新設(新たに定める)または上限を短縮する(引き下げる)場合は、あらかじめ、その理由を労働者に説明しなければならないとなりました。 更新上限を新設・短縮しようとする場合、あらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで)更新上限を設定する・短縮する理由を労働者に説明することが必要になります。(※5) 「更新上限の短縮」とは、例えば、通算契約期間の上限を5年から3年に短縮する、または更新回数の上限を3回から1回に短縮することです。 更新上限の新設・短縮の理由をあらかじめ説明する際は、文書を交付して個々の有期契約労働者ごとに面談等により説明を行う方法が基本ですが、説明の方法は特定の方法に限られるものではなく、説明すべき事項をすべて記載した労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合は当該資料を交付して行う等の方法や、説明会等で複数の有期契約労働者に同時に行う等の方法によっても差し支えありません。(※6)
3.無期転換に関する事項(改正労基則第5条第5項・第6項)
①対象となる労働者:無期転換申込権が発生する有期契約労働者 ②明示のタイミング:無期転換申込権が発生する契約更新時ごと ③明示する内容とは:該当する有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間、 ⅰ無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)と ⅱ無期転換後の労働条件 を書面により明示することが必要になります。初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も、有期労働契約を更新する場合は、更新の都度、上記の明示が必要になります。 なお、ⅱについては、2024年4月1日以降は、 ア 無期転換申込権が生じる契約更新時と、 イ 無期転換申込権の行使による無期労働契約の成立時 のそれぞれで明示する必要があります。 ただし、アの段階で、明示すべき労働条件を事項ごとにその内容を示す方法で行っており、かつ、イで成立する無期労働契約の労働条件のうち、明示すべき事項がすべて同じである場合には、イの段階では、すべての事項が同じであることを書面の交付等により明示することで対応することが可能です。 ④その他:均衡を考慮した事項の説明(努力義務)(改正雇止めに関する基準第5条) 無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)とのバランスを考慮した事項(例:業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲等)について、有期契約労働者に説明するよう努めなければならないこととなります。
第3.まとめ
【すべての労働者に対する記載事項】 ・就業場所および従事すべき業務の変更の範囲 |
【有期雇用の労働者に対する記載事項】 ・更新上限の有無および内容 ・無期転換申込権が発生する更新時ごとに、無期転換を申し込むことができる旨 ・無期転換申込権が発生する更新時ごとに、無期転換後の労働条件 |
・労働条件通知書(又は雇用契約書兼労働条件通知書)の修正 ・対象労働者への更新上限に関する説明(更新上限を新設・短縮しようとする場合) ・対象労働者への無期転換後の労働条件に関する説明(努力義務) |