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2025/10/15

企業名公表制度と送検事案に学ぶ、違法な長時間労働の実態

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企業名公表制度と送検事案に学ぶ、違法な長時間労働の実態

目次

はじめに

 労働基準監督署は、企業の労務管理が適正に行われているかを監督・指導する行政機関です。長時間労働や労働基準法違反が確認された場合、是正勧告や行政指導が行われ、それでも改善が見られない場合には企業名公表制度や送検が行われます。本稿では、企業名公表制度の概要や公表事案の傾向、送検事案の実態について、元労働基準監督官の視点から解説します。

1.企業名公表制度の概要

 企業名公表制度は、主に以下のような目的で運用されています。

(1)違法な長時間労働や労働基準関係法令違反を行った事業場の情報を公にすることで、社会全体の法令遵守意識を高める。
(2)企業に対する是正措置の実効性を確保し、再発防止を促す。

 公表の対象となるのは、労働基準関係法令違反で送検された事案や、複数の事業場で長時間労働が認められた事業場です。公表情報には、企業・事業場の名称、所在地、公表日、違反内容、事案概要などが含まれ、原則として1年間ホームページに掲載されます。

 この制度は、単なる「見せしめ」ではなく、企業が自ら労務管理を見直すきっかけとして位置付けられています。

2.公表事案の傾向

 厚生労働省の下部組織である労働基準監督署では労働条件の確保のため、労働条件に関する調査や行政指導を行っています。労働基準監督署においては、様々な切り口により臨検調査が行われていますが、重点的に行われているのが長時間労働の抑制監督です。

 厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果」によれば、長時間労働抑制を主軸とした臨検調査では、26,512事業場を対象に調査が行われ、11,230事業場(約42%)で違法な時間外労働が確認されました。

 特に注目すべきは、月80時間を超える時間外・休日労働が認められた事業場が 5,464事業場(約49%) に上る点です。これは、過労死防止の観点からも重大な違反と位置付けられる水準です。

 違法な長時間労働の背景には、以下のような傾向が見られます。

・人手不足による業務過多
・残業管理や勤務時間把握の不十分さ
・労働契約や就業規則の運用に関する認識不足

 これらの要因が重なり、企業は法令違反のリスクを抱えることになります。
 複数の事業場を展開する大企業においては、いわゆる「スリーアウト制度」が適応され、繰り返し違反がある場合、企業名が公表されるケースがあります。


※「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(厚生労働省資料より)


3.送検事案の実態

 違法な長時間労働が確認された場合、その他重大な法違反が認められた場合に刑事告発(送検)されるケースがあります。送検される事案は、労働者の健康や安全に深刻な影響を及ぼすおそれがある場合が多く、単なる時間外労働の超過だけではなく、過労による健康障害や過労死のリスクが高いケースも含まれます。

 送検されると、企業や経営者には社会的信用の低下という影響が生じます。また、送検事案の公表は、他の事業場に対しても警鐘となる役割を果たします。

4.監督署の調査と是正勧告の流れ

 監督署の調査は、主に以下のステップで行われます。

(1)原則、抜き打ちでの立入調査
(2)タイムカード・業務記録の確認、必要に応じて労働者へのヒアリング
(3)違法行為が確認された場合の是正勧告

 是正勧告それ自体は強制力はないものの、従わない場合は刑事責任の追及につながるため、企業にとって無視できない行政措置です。

 なお、建設業や製造工場等において、安全衛生法に規定された安全基準や作業手順に違反したことを原因として、重大な労働災害を発生させた場合は、行政指導を行うことなく即時に刑事事件として捜査が行われる場合もあります。

5.実務で気をつけるポイント

 公表事案や送検事例から学べるポイントは以下の通りです。

勤務時間の把握と管理の徹底:タイムカードや勤怠システムを用い、法定労働時間を超える残業を常時把握する。
労働者健康管理の強化:長時間労働者への面談や健康診断のフォローを定期的に実施する。
業務分担の見直し:業務量の適正化やチーム内調整により過重労働を防止する。
内部監査や教育の実施:就業規則や労務管理ルールを社員に周知し、違反が起きにくい環境を整備する。

 これらの取り組みは、単に公表や送検を回避するためだけでなく、企業全体の健全な労務管理の維持につながります。

まとめ

 企業名公表制度や送検事案は、違法な長時間労働の実態を明らかにし、企業の法令遵守を促す重要な仕組みです。令和6年度の統計を見ると、未だ多くの事業場で違法な時間外労働が確認されており、監督署の指導や送検によって改善を促されています。
 人事労務担当者や経営者は、公表事案の傾向を把握し、勤務時間管理・健康管理・業務調整などの実務対策を徹底することが求められます。企業としての法令遵守意識を高めることが、労働者の健康を守り、企業の信用を維持する最も確実な方法です。

上田 真準(うえだ まさのり)

本稿執筆者
上田 真準(うえだ まさのり)
・衛生工学衛生管理者
・労働基準監督官を経て社会保険労務士登録、上場企業にて労務業務に従事の後、ASCOPEに参画

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