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2025.07.07

裁判例紹介:原子力発電所内で勤務していた孫請企業の従業員がアスベスト粉じんに被災したことについて、現場に対する具体的な指揮監督を行っていた元請企業及び下請企業に対して安全配慮義務違反を認めた事例(静岡地裁平成24年3月23日判決労判1052号42頁)

氷海 匠弘

本稿執筆者 氷海 匠弘(ひょうかい なるひろ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

・学習院高等科 卒業
・慶應義塾大学法学部法律学科 卒業
・東京大学法科大学院 修了

はじめまして。弁護士の氷海匠弘です。

私は、夜景を眺めるのが好きで、無数の光が広がる街並みを見ていると、それぞれの光の下に、それぞれの人生があることを感じます。
弁護士として、そんな一人ひとりの人生に寄り添い、困っている人の力になりたいと思っています。
あなたが直面する困難に、一緒に立ち向かい、よりよい未来へと繋げるお手伝いをします。どんな小さなことでも、まずはご相談ください。
あなたの「光」を守るために、努力して頑張り続けることを約束します。

どうぞよろしくお願いいたします。

裁判例紹介:原子力発電所内で勤務していた孫請企業の従業員がアスベスト粉じんに被災したことについて、現場に対する具体的な指揮監督を行っていた元請企業及び下請企業に対して安全配慮義務違反を認めた事例(静岡地裁平成24年3月23日判決労判1052号42頁)
本判決のポイント

①シール材(アスベスト含有製品)の危険性について抽象的な危惧を有することが認識できた被告らについて、シール材の危険性に対する予見可能性があったことを認めました。

②注文者が、請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合には、その間に雇用契約が存在しなくとも安全配慮義務を負う場合があるとし、被告らの一部が安全配慮義務を負うことを認めました。


〈目次〉

第1.事案の概要

第2.重要な争点

第3.判決

第4.判旨

第5.検討



第1.事案の概要

 本件は、有限会社A(以下「A」といいます。)の従業員として被告Y1が所有する原子力発電所(以下、「本件原発」といいます。)において、メンテナンス業務に従事していた亡B(以下「B」といいます。)が、悪性中皮腫により死亡したことについて、Bの妻子である原告らが、被告らの安全対策の不備又は本件原発の瑕疵によるアスベスト被ばくによってBが死亡したと主張して、本件原発を所有する被告Y1と、本件原発のメンテナンス業務を被告Y1から請け負っていた被告Y2と、本件原発のメンテナンス業務を被告Y2から請け負っていた被告Y3に対して、安全配慮義務違反を理由とする債務不履行又は工作物責任を理由とする不法行為に基づき、損害賠償金の支払いを求めた事案です。

1.被告らについて
 (1)被告らの関係について
   被告Y1は、本件原発の所有者として、本件原発の定期点検業務を被告Y2に委託していました。被告Y1は、本件原発の最終的な管理責任者ではあるものの、日常の点検作業等の具体的な指揮監督には関与していませんでした。
 被告Y2は、被告Y1から点検作業等の全般を請け負う元請業者であり、その業務の実施を被告Y3に再委託していました。もっとも、被告Y2についても、現場での直接的な作業には関与せず、被告Y3の工事担当者を通じて作業を監督する立場にありました。
 被告Y3は、被告Y2からの再委託を受けて作業を実施する下請業者であり、Bが所属していた孫請業者であるAの作業員に対して、現場において具体的な作業指示や監督を行っていました。


 (2)本件原発における石綿の存在
   本件原発のポンプや焼却炉等には、ガスケットやパッキンというシール材が装置機器等を接続する際の継ぎ目から流体が漏れることを防止するために使用されており、シール材にはアスベストを含有する製品が使用されていました。

2.Bの職歴及び健康状態について
  Bは、昭和60年ころまでカツオ漁、昭和61年9月ころまでアルゴン溶接に従事した後、昭和61年9月29日にAに入社し、それ以来Aでのみ稼働していました。Aでの作業を行う場所はほとんどが本件原発内でした。
 中皮腫発症以前のBは健康に問題がなく、病気で仕事を休むことはありませんでした。Bは、平成16年8月30日、腹部の異常を訴えて入院し、9月9日に胸膜原発性悪性中皮腫と診断され、平成17年6月8日に39歳で亡くなりました。


第2.重要な争点

 本件の重要な争点は、①被告らの安全配慮義務の有無及びその内容、安全配慮義務違反の有無②被告Y1の工作物責任の有無です。

第3.判決

 本判決は、発注者である被告Y1については安全配慮義務が存在せず、また、工作物責任についても社会通念上工作物が通常有すべき安全性を欠くことができないとしてその損害賠償責任を否定しました。 一方で、被告Y2及びY3については、安全配慮義務違反を理由とした被告らの債務不履行等に基づく責任が認められるとして、Bの遺族に対する合計約5345万円の賠償を命じました。

第4.判旨

1.争点①(被告らの安全配慮義務の有無及びその内容、安全配慮義務違反の有無)について
 (1)Bの作業内容及びアスベストばく露の可能性
   裁判所は、被告の安全配慮義務の発生時期及び内容を判断する前提として、Bがどのようなばく露作業に従事していたかを以下のように認定しました。  Bは、昭和61年9月29日にAに入社し、平成14年4月1日から平成16年8月18日まで、A社の作業員として本件原発の定期点検に従事していました。定期点検の対象機器は補機と呼ばれる機器であるポンプ、タンク、クラッドセパレーター(遠心分離器)、焼却炉等であり、他の作業員と交替しながら作業を行っていました。  Bの具体的な作業は、主として各種ポンプに取り付けられたガスケットやパッキンといったシール材の取り外し作業でした。これらの部材には、当時、アスベストが含まれており、Bはそれらの取り外しや取り付けの作業を繰り返し行っていました。

  ア ガスケットの取り外し作業について
    Bを含む作業員は、ガスケット等を取り外した後、フランジ面を水でぬれたウエスで拭き、ガスケット等のかすや錆を取り除き、それで不十分な場合には、サンドペーパーや水を含ませたスコッチブライトを用いてフランジ面を磨き、ガスケット等のかすや錆を除去していました。その際、フランジ面の状態を確認するため、フランジ面に約30センチメートル程度まで顔を近づけることもありました。

  イ パッキンの取り外し作業について
    Bを含む作業員は、スタッフィングボックスからケガキ針等を用いてすくい上げるようにしてパッキンを取り外していました。

 (2)安全配慮義務について
  ア 一般論
    まず、裁判所は、一般論として、安全配慮義務は、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随的義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般に認められるべきものである」としました。
 その上で、「注文者と請負人との間において請負という契約の形式をとりながら、注文者が単に仕事の結果を享受するにとどまらず、請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合、すなわち、注文者の供給する設備、器具等を用いて、注文者の指示のもとに労務の提供を行うなど、注文者と請負人の雇用する労働者との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合」には、注文者と請負人との請負契約及び請負人とその従業員との雇用関係を媒介として間接的に成立した法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入ったものとして、信義則上、注文者は当該労働者に対し、使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものと解するのが相当であるとし、このことは注文者、請負会社及び下請け会社と孫請け会社の従業員との間においても同様に妥当するとしました。
 さらに、「安全配慮義務の前提として、使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命・健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないと解される」としました。


  イ 被告Y1の安全配慮義務について
    裁判所は、被告Y1は、作業現場である本件原発の敷地・建物を所有・管理し、放射線管理の観点から作業員の出入り等を厳重にチェックしており、作業員に対し防護服、工具の一部及び材料等を提供し、請負会社である被告Y2に対し定期点検の実施要領である工事仕様書を渡していたものの、工事仕様書に記載される事項は概括的な事項にとどまっており、社員を現場に常駐させていたわけではなく、進行状況については被告Y2の現場監督者に対して適宜報告を求め、また品質管理の観点から重要項目について現場監督者に立会いを求めていたにとどまると認定しました。そのため、被告Y1は、Aの雇用していたBから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたとは認められず、安全配慮義務を負うものではないとしました。

  ウ 被告Y2及びY3の安全配慮義務について
    裁判所は、「シール材は、明治時代に生産が開始された我が国における代表的な石綿製品であり、継続的にシール材を取り扱っていた被告Y2及び被告Y3は、当然、シール材にアスベストが使用されていたことを認識していたものと推認できる」とした上で、このような点に鑑みれば、被告Y2及び被告Y3がシール材にアスベストが含有されていることを認識していなかったとしても、被告Y2及び被告Y3は、シール材にアスベストが含有されていることについて予見可能であったと認められるとしました。
 これに加えて、「昭和35年にはじん肺法が施行され、昭和46年制定の旧特化則やその後の特化則でアスベスト粉じんが発散する屋内作業場における局所排気装置の設置や呼吸用保護具の備付け等の規制が設けられ、昭和47年にはILOやWHOがアスベストのがん原性を認めて国際的な知見が確立され、昭和50年改正の特化則で石綿作業の湿潤化等の規制が設けられ、昭和51年には石綿代替化に関する通達が出されている」ことも併せ考えると、「被告Y2及び被告Y3は、シール材の危険性について少なくとも安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧を有することができたというべきである」として、被告Y2及び被告Y3にシール材の危険性についての予見可能性が認められるとしました。
 その上で、被告Y2について、「被告Y2は、実際の作業手順、作業スケジュールを記載した作業手順書及び作業工程表を作成し、これをもとにAら2次下請業者の現場作業指揮者が細かい施行方法を決定していた。また、被告Y2は、作業全般の調整業務を行う現場責任者と作業現場の監督をする現場監督者を選任していたところ、現場監督者はほぼ現場に常駐し、朝礼や現場での打合せに参加するほか、被告Y3の工事担当者を通じて作業を監督した。そして、被告Y2は、工事要領書を作成していたところ、これには点検工事に当たって被告Y2の現場監督者が留意し作業員に対して指導確認すべき重要管理項目等が詳細に記載されていた。」と認定し、「このような事情によれば、被告Y2は現場監督者による被告Y3の工事担当者に対する指示という形で間接にAの従業員であるBを指揮監督しており、また必要があればBに直接指示を行うことも可能であったといえるから、請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたと認められる」として、特別な社会的接触の関係に入っていたことから安全配慮義務を負うことを認めました。
 また、被告Y3についても、「被告Y3は、作業現場に工事担当者を置いてAの現場作業指揮者を指揮監督し、朝礼を主宰した。工事担当者は、Aの作業員に代わって実際に作業を行うこともあった。」と認定し、「そうすると、被告Y3はAの従業員であったBから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたと認められる」として、特別な社会的接触の関係に入っていたことから安全配慮義務を負うことを認めました。
 そして、被告Y2及びY3が負っている安全配慮義務の具体的な内容として、「被告Y2及び被告Y3には、アスベストが使用されている材料をできる限り調査して把握し、Aの現場作業指揮者や作業員であるBらに対して周知すべき注意義務がある。また、アスベストの人の生命・健康に対する危険性について教育の徹底を図り、Bらに対してマスク着用の必要性について十分な安全教育を行うとともに、アスベスト粉じんの発生する現場で工事の進行管理、作業員に対する指示等を行う場合にはマスクの着用や湿潤化を義務付けるなどの注意義務があった。」としました。
 なお、シール材をアスベスト非含有の製品に代替する義務については、シール材を提供していたのは被告Y1であったこと、シール材の特性により現在に至ってもアスベスト非含有の製品に代替することは困難であることなどを考慮すれば、このような義務違反は認められないとしました。


 (3)被告Y2及びY3の安全配慮義務違反について
  ア 作業の際のアスベスト対策状況について
    被告Y3の工事担当者は、フランジ面を清掃する作業員に対し、ガスケットを取り外した後、ほこりが舞いそうなときはマスクを着用するように指示していました。そのため、Bを含む作業員は取り外し後に行われるフランジ面の清掃作業等において、ほこりや錆の飛散が予想される場合にのみ、現場作業指揮者の指示や各自の判断によりマスクを装着したり、タオルを口に巻くなどしたりしていました。
 平成11年ごろ、被告Y2は、労働基準監督署から、ガスケット等の取り外し作業に際して防塵マスクの着用や湿潤化を徹底するように指導されました。そのため、被告Y2は、平成12年1月以降、ガスケット等の取り外し作業を行う作業員に対し、湿潤化と防じんマスクの着用の徹底を指導しました。被告Y3は、平成12年ごろから、ガスケット等を取り扱う場合には、マスク等を着用するよう指導していました。
 平成12年以降は、被告Y2や被告Y3の指示により、Bを含む作業員は、ガスケット等の取り換え作業において必ず防塵マスク、全面マスク又はフィルター付きマスクを着用するようになりました。


  イ 被告Y2及びY3の安全配慮義務違反の存否
    裁判所は、「被告Y2及び被告Y3は、平成11年まで上記の義務を自覚的に履行しておらず、平成11年末ころの労働基準監督署による指導をきっかけにして、マスク着用や湿潤化の徹底及びアスベスト教育などのアスベスト対策を始めたものである。かかる経緯からすれば、上記義務を履行していなかった被告Y2及び被告Y3には安全配慮義務違反が認められる。」としました。

2.争点②(被告Y1の工作物責任の有無)について
 (1)一般論
   裁判所は、一般論として、「工作物責任とは、工作物が通常有すべき安全性を欠くときに認められ、工作物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきであると解される(最高裁判所昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)。」と判断しました。

 (2)被告Y1の工作物責任の存否
   その上で、本件においては、「シール材はポンプに配管を連結する箇所等に使用される原子力発電所において必須の部品であり耐熱性、強度などの点でアスベスト含有製品の使用が適していること、シール材については現在においても法令によってアスベストの使用禁止から除外されていること、アスベスト非含有の適当な代替品が当時なかったこと」からすれば、「アスベスト非含有の代替品を使用することは当時としては不可能ないし著しく困難であったといえるから、社会通念上、工作物が通常有すべき安全性を欠くということはできない。」とし、被告Y1の工作物責任を認めませんでした。

第5.検討

 本判決は、発注者である被告Y1、元請である被告Y2、下請である被告Y3という被告らの関係性の中で、どのような者が安全配慮義務や工作物責任を負いうるのか判断したものです。
 被告Y1について、安全配慮義務については、現場の常駐や具体的な作業指揮を行わず、Bから「実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けている」とは評価できないとして、安全配慮義務は発生しないと判断しました。工作物責任については、当時、アスベスト非含有の代替品を使用することが不可能ないし著しく困難であったといえることなどから、工作物責任も否定しました。
 これに対し、被告Y2及びY3は、継続的にシール材という代表的な石綿製品を取り扱っていたため、シール材の危険性についての抽象的な危惧を有することができたという予見可能性が認められる上、Bから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じており、特別な社会的接触の関係に入ったと認められるにもかかわらず、粉じん抑制措置・防じんマスクの徹底・危険情報の周知といった注意義務を怠ったことから、安全配慮義務違反を認定されました。

【弁護士への相談について】

 本判決の判示を前提とすると、石綿製品が使われていた場所で業務を行った方が石綿疾患を発症してしまった場合、企業との雇用契約関係にない方であっても、①現場統制や具体的指示があった中で作業していたなどの実質的な労務提供があり、②企業側がアスベストについて法令を遵守した対策をしていなかったことが認められる場合には、労働の提供を受けていた企業に対する請求が認められる可能性があると考えられます。
 企業に対する責任追及が認められるかどうかの見通しを判断するためには、弁護士による詳細な事情の確認や専門的な判断が必要ですので、過去にアスベスト粉じんにばく露する作業に従事した方で具体的な救済方法についてご関心のある方は、ぜひ一度弁護士までご相談ください。

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