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2025.08.19

裁判例紹介:アスベスト製品の製造工場において製造作業に従事していた原告ら3名について、うち2名が作業に従事していた昭和33年8月以前の期間は被告会社に石綿関連疾患に関する予見可能性が生じておらず、他の1名についても損害が発生していないとして、使用者の責任が否定された事例(控訴審:大阪高判平成27年6月24日(判例時報2309号66頁)、一審:奈良地判平成26年10月23日(判例時報2309号81頁))

遠藤佑成

本稿執筆者 遠藤佑成(えんどう ゆうせい)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

・慶應義塾湘南藤沢高等部 卒業
・慶應義塾大学法学部法律学科 卒業
・中央大学法科大学院 修了

はじめまして、弁護士の遠藤佑成です。

私は、皆様の抱えるご不安のひとつひとつに丁寧に寄り添い、法律を用いて問題を解決し、皆様に安心して人生を歩んでいただけるようなお手伝いがしたいと思い、弁護士を志しました。
弁護士として最善のご提案ができるよう、常に法律知識を磨き続け、皆様のよりよい未来を全力で模索し続けることをお約束いたします。
皆様のお悩みに誠心誠意向き合ってまいりますので、どんなことでもおひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。

どうぞよろしくお願いいたします。

裁判例紹介:アスベスト製品の製造工場において製造作業に従事していた原告ら3名について、うち2名が作業に従事していた昭和33年8月以前の期間は被告会社に石綿関連疾患に関する予見可能性が生じておらず、他の1名についても損害が発生していないとして、使用者の責任が否定された事例(控訴審:大阪高判平成27年6月24日(判例時報2309号66頁)、一審:奈良地判平成26年10月23日(判例時報2309号81頁))
ポイント

①原告らは、石綿製品の製造業務に従事していたところ、この業務中に石綿曝露があったと認定されました。

②安全配慮義務の前提として予見可能性が必要であるところ、それがどの時期から被告会社に生じていたかについては、当時の国内外の知見の蓄積や、被告が必要な情報に接することができた時期等を詳細に認定して判断がなされました。

③また、具体的に肺機能の低下がみられない原告について、原告の主張した精神的苦痛を含む損害を認めることはできないと判断されました。


〈目次〉

第1.事案の概要

第2.重要な争点

第3.判決

第4.判旨

第5.検討



第1.事案の概要

 本件は、被告会社と雇用契約を締結し、被告会社の有する工場(以下、「本件工場」といいます。)におけるアスベスト製品の製造業務に従事していた3名の原告(以下、「原告1、原告2、原告3」といいます。)が、それぞれ、自己が肺疾患に罹患したのは、被告会社に勤務中、本件工場において、被告の安全対策の不備により石綿粉じんに被曝したためであるとして、被告会社に対して、雇用契約上の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行等に基づき、損害賠償金の支払いを求めた事案です。

1.被告の概要(被告における石綿の存在)
  被告会社は主にアスベスト製品の製造・販売を業務内容とする企業であり、本件工場でも、大規模な分業制のもと様々なアスベスト製品が製造されていました。

2.原告らの作業内容
  原告1は、昭和31年9月から同年12月までアルバイトとして被告会社に勤務し、その間、本件工場内の「テックス」と呼ばれる場所において、石綿保温材の製造作業に従事していました。具体的には、ペースト状の石綿をプレス機で圧縮・成形したうえで、これを乾燥室に運び入れて乾燥させる作業を行っていました。
 原告2は、昭和44年4月から昭和55年2月まで被告会社に勤務し、そのうち昭和45年6月以降の期間中、本件工場の鉄工工作室において、各種機械のカバーの作製、機械部品や金型等の修理等の作業を行っていました。
 原告3は、昭和32年3月から昭和33年8月まで被告会社に勤務し、その間、本件工場において石綿製品の製造業務に従事していました。具体的には、ほぐれた状態の石綿を袋から取り出して機械に入れ、液体で洗浄したうえで乾燥室に運び入れて乾燥させる作業や、乾燥して固い板状になった石綿を電動のこぎりで整形する作業を行っていました。
 上記のような原告らの作業について、裁判所は、原告らがそれぞれ当該作業中に取り扱っていた石綿製品やそれに付着した石綿粉じん、及び本件工場内に飛散していた石綿粉じんに曝露した事実を認定しました。


3.原告らの疾患
  原告らはそれぞれ、本件工場での作業中に石綿粉じんに曝露したことによって、原告1は軽度の石綿肺及び胸膜プラーク、原告2が初期の石綿肺、びまん性胸膜肥厚及び胸膜プラーク、原告3が良性石綿胸水、石綿肺、びまん性胸膜肥厚に罹患したと主張しました。

第2.重要な争点

 本件の重要な争点は、①被告の安全配慮義務の発生時期及び義務違反の存否、②原告らの損害の有無です。

第3.判決

 本件の一審判決と控訴審判決はともに、原告1及び3については被告の安全配慮義務違反が認められないこと、原告2については損害が認められないことを理由として、原告らの請求を棄却する結論をとりました。

第4.判旨

1.争点1(被告の安全配慮義務の発生時期及び義務違反の存否)について
  被告に安全配慮義務が発生することの前提として、被告が原告らを上記作業に従事させていた当時、石綿による曝露作業によって原告らが何らかの健康被害を受けることを予見し得たこと(予見可能性)が必要となります。

 (1)一審判決
  ア.当時の知見
    裁判所はまず、被告に予見可能性があったかどうかを論じる前提として、諸外国や日本において、石綿による健康被害の可能性についての知見がどのように確立されていったかについて、以下のように明らかにしました。
 第一に、諸外国においては、昭和15年頃には石綿肺の危険性が、昭和30年頃にはその発がん性が、そして昭和35年から10年程度の間(1960年代)には中皮腫との関係性が明らかにされていたと示しました。
 第二に、日本においても戦前から石綿の危険性は指摘されており、(ⅰ)昭和33年頃には石綿関連作業員に関する石綿肺罹患の実情が相当深刻なものであると明らかになっていたこと、(ⅱ)昭和35年にじん肺法が制定された頃には石綿粉じんが石綿肺などの危険性を有するとの知見が確立していたこと、(ⅲ)昭和35年以降に石綿粉じんが石綿肺以外の疾患の原因となることについての研究及び報告がなされたため、(ⅳ)昭和45年頃には石綿の危険性(石綿粉じんの発がん性及び中皮腫との関連性等)が一般紙においても報じられ、広く知られるようになったことを指摘しました。
 また、このような国内外の知見及び法令の整備状況等に照らせば、少なくとも我が国の研究者や関係行政庁においては、昭和35年には石綿粉じんの吸入が石綿肺の原因となり得るとの認識が、昭和40年頃には石綿が発がん性や中皮腫との強い関連性を有しているとの認識が、相当程度深まっていたということができると判断しました。


  イ.被告会社の注意義務
    裁判所は、上記の状況を踏まえ、被告がこの当時においては主として石綿製品を製造及び販売する大規模な企業であったことからして、前記(ⅰ)のような事情があった昭和33年頃には、遅くとも、石綿による健康被害に関する予見可能性があったと判断しました。
 一方で、石綿関連疾患に関する知見の集積には各病態によってばらつきがあり、石綿による肺がんや中皮腫の発症については石綿肺に関する知見の集積よりも遅い昭和35年以降に明らかになったことを指摘したうえで、当時の社会及び経済の状況も総合的に考慮して、被告が昭和33年頃よりも前の時点で従業員に対して石綿粉じんへの曝露防止義務を負っていたとまで認定することはできないと判断しました。
 そこで、裁判所としては、昭和33年頃以降においては、被告に予見可能性が生じており、被告が使用している労働者が石綿粉じんに曝露することがないよう、工場において換気、粉じんの湿潤化、粉じんの除去及びマスクの装着等の対策を行う義務(安全配慮義務)を負っていたというべきと判断しました。


  ウ.原告らに対する安全配慮義務違反の存否
    原告1については、作業従事期間が昭和32年12月までであるところ、その期間において被告に安全配慮義務が生じていたものとはいえないから、被告が当該義務に違反したという事実もないとしました。
 原告2については、作業に従事したのは昭和44年4月以降であるため、被告が原告2に対して負う安全配慮義務に違反したと認定できるとしました。
 原告3については、昭和33年8月まで作業に従事していたところ、同年のどの時点から被告に安全配慮義務が生じたかまでは立証されていないため、原告の主張通りに、被告が同年8月の時点で生じていた安全配慮義務に違反した事実を認めることはできないとの判断が下されました。


 (2)控訴審判決
  ア.当時の状況
    控訴審判決は、当時の知見の集積状況や国内の制度内容等をより詳細に認定し、被告について、(ⅰ)昭和32年9月頃には、局所排気装置導入のために必要なその設計施工者に関する情報を含む基本的な情報を入手することが可能な状態にあったこと、(ⅱ)遅くとも、昭和33年3月31日頃までには、当時の医学的知見や王子工場の特定の作業場における粉じん濃度の測定結果を知らされ、勤続年数3年1か月以上の労働者に石綿肺が発症することがまれではないこと及び本件工場内に恕限値を超える粉じん濃度が検出された作業場が存在したことを把握していたこと、及び(ⅲ)昭和33年通達が所轄の労働基準局に到達した同年7月頃ないしそれから間もない時期ころには、粉じん濃度の測定方法及び抑制目標限度に関する公式見解を把握し得る状態にあったことが推認されるとしました。

  イ.被告会社の注意義務
    このことから、被告が、遅くとも昭和33年8月以降において、本件工場の労働者に対し、3年以上の長期にわたって抑制目標限度を超える濃度の石綿粉じんが浮遊する作業場における作業を継続させることがないようにすべき義務(安全配慮義務)を負っており、具体的には、速やかに局所排気装置を導入して石綿粉じんを抑制目標限度内に抑制するように努め、同装置導入までの間は、粉じんの湿潤化、呼吸用保護具着用の徹底、高濃度の作業場で業務に従事していた従業員のより低濃度の作業場への配置替などの所要の措置を講ずべき義務を負っていたとしました。

  ウ.原告らに対する安全配慮義務違反の存否
    しかしながら、控訴審は、昭和33年8月より前に本件工場での作業に従事していた原告1及び3に対しては被告の安全配慮義務違反が認められない一方、昭和44年4月以降に作業に従事した原告2に対しては、被告に安全配慮義務違反が認められると判断しました。

2.争点2(原告らの損害の有無について)
  被告が原告2に対して安全配慮義務の履行を怠ったことにより、原告2に賠償を求めるべき損害が発生していたか否かという点が問題になりました。

 (1)原告2の主張
   原告2は、本件工場における石綿粉じんへの曝露によって、初期の石綿肺、びまん性胸膜肥厚及び胸膜プラークを発症したものであり、これによって換気障害が発生し、日常生活において息切れなどの症状が生じていると主張していました。

 (2)一審判決
  ア.石綿肺、びまん性胸膜肥厚について
    石綿肺による呼吸機能障害は、基本的に、びまん性の間質の繊維化に伴う拘束性換気障害であり、びまん性胸膜肥厚による呼吸機能障害も同様に拘束性換気障害であって、いずれもパーセント肺活量(肺活量の正常予測値に対する実測値の割合。%VCともいう。)の低下を指標として判定すべきものとされています。
 これに対し、原告X2については、パーセント肺活量の低下は見られず、拘束性換気障害が生じているとは認められないし、一秒率の値も74.32%であって、拘束性換気障害の基準とされている70%(石綿肺やびまん性胸膜肥厚による著しい呼吸障害の判定においては、パーセント肺活量が60%以上80%未満の場合、一秒率が70%未満であり、かつ、パーセント一秒量が50%未満である場合に著しい呼吸機能障害を認めることとされている。)を上回っているものと認定されました。
 裁判所は、原告2の検査結果からして、肺機能にこのような呼吸障害をきたしている状態にあるとは認められず、このほかにも何らかの身体機能の制約が生じているとは認められないと判断しました。


  イ.胸膜プラークについて
    裁判所は、原告2の胸部CT画像や医師の意見書において、同人に胸膜プラークが生じていることが確認されることを認めました。
 しかし、胸膜プラークは、通常はそれ自体が肺機能の低下をもたらすものではなく、石灰化の進展の程度によっては肺機能が低下するおそれを生じさせるものであるところ、原告2については、裁判時点でそのような肺機能の低下が認められませんでした。したがって、裁判所は原告2に胸膜プラークによる損害が発生しているとは認められないとしました。
 また、原告2は、石綿粉じんに曝露したという事実、あるいは曝露の事実を示す胸膜プラークが存在すること自体によって、いつ肺がんや中皮腫などの重篤な石綿関連疾患が発症するかもしれないという不安感を感じているとして、これに対する精神的苦痛を損害として主張していました。
 しかし裁判所は、原告2がそのような不安感を感じているとしても、これをもって法律上の請求権を発生させるべき損害が生じているということはできないと示しました。


 (3)控訴審判決
   原告2は、昭和55年2月に被告会社を退職して以降、石綿粉じんにさらされる状態にありませんでした。そして、曝露開始から概ね45年が経過し、退職後35年が経過した控訴審時点においても、びまん性胸膜肥厚の癒着の程度が軽いため、肺の線維化が進行しておらず、拘束性換気障害がうかがわれないだけでなく、肺がん発症にも至っていませんでした。
控訴審は、これらの事実を認定したうえで、原告2には主張するような損害が認められないとし、原告2の呼吸機能が若干低下していることについても、主として重喫煙者であったことに起因するものと評価せざるを得ないと判断しました。
  そのため、控訴審においても、原告2の請求は認められませんでした。


第5.検討

1.安全配慮義務違反の発生時期について
  本裁判例は、安全配慮義務違反を論じる前提として、被告会社に石綿による健康被害に関する予見可能性があったかどうかという点について、まず、日本において、(ⅰ)昭和33年頃には石綿関連作業員に関する石綿肺罹患の実情が相当深刻なものであると明らかになっていたこと、(ⅱ)昭和35年にじん肺法が制定された頃には石綿粉じんが石綿肺などの危険性を有するとの知見が確立していたこと、(ⅲ)昭和35年以降に石綿粉じんが石綿肺以外の疾患の原因となることについての研究及び報告がなされたため、(ⅳ)昭和45年頃には石綿の危険性(石綿粉じんの発がん性及び中皮腫との関連性等)が一般紙においても報じられ、広く知られるようになったことを指摘しました。
 そして、大規模な石綿工場を保有する被告について、石綿による健康被害に関する情報に接することができた時期や、自社で行っている石綿関連作業についての把握状況を詳細に認定したうえで、遅くとも昭和33年8月以降には予見可能性が生じていたこと、及び本件工場の労働者に対して3年以上の長期にわたって抑制目標限度を超える濃度の石綿粉じんが浮遊する作業場における作業を継続させることがないようにすべき義務(安全配慮義務)を負っていたことを認めました。
 他の裁判例ではじん肺法が制定された昭和35年頃に予見可能性を認める傾向が見受けられるため、本件で予見可能性の時期についての考え方は、アスベスト被害の損害賠償請求等を検討する際に、参考になるものと考えられます。


2.損害の認定について
  本裁判例は、石綿粉じんへのばく露によって初期の石綿肺、びまん性胸膜肥厚及び胸膜プラークを発症したという原告2の主張に対し、原告2の肺機能に具体的な呼吸障害等の低下を示す数値が見られないことを理由として、原告2に損害が生じたものとは認められないと判断しました。
 これについて、裁判所は、びまん性胸膜肥厚について、労災認定基準等と同様の「著しい呼吸機能障害」の有無を検討しており、本件では検査結果上、これが認められていませんでした。
 また、労働者が石綿粉じんにばく露したことや胸膜プラークが生じていることによって精神的苦痛を感じていても、そのことによって法律上の請求権を発生させるべき損害が生じているということはできないと示しました。
 本裁判例で示された判決内容は、アスベストにばく露する作業を行った方々がアスベスト被害の損害賠償請求等を検討する際にも、参考になるものと考えられます。


【弁護士への相談について】

 本裁判例のように、訴訟においては、被災者の業務内容や石綿曝露の有無、被災者の病態、会社が行うべきであった石綿対策の内容、また、会社が実際に行っていた石綿対策が十分なものであったか等が具体的に検討されます。
 会社に対する責任追及が認められるかどうかの見通しを判断するためには、弁護士による詳細な事情の確認や専門的な判断が必要ですので、過去にアスベスト粉じんに曝露する作業に従事した方で具体的な救済方法についてご関心のある方は、ぜひ一度弁護士までご相談ください。

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