裁判例紹介:石綿の入った麻袋などを運搬するトラクター運転手が退職後、中皮腫を発症し死亡したことにつき、会社に損害賠償責任が認められた事例(神戸地判平成21年11月20日(労判997号27頁)、大阪高判平成23年2月25日(判時2119号47頁))
本稿執筆者
矢口 裕崇(やぐち ひろたか)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
・洛南高等学校 卒業
・東京大学法学部 卒業
・東京大学法科大学院 修了
はじめまして。弁護士の矢口裕崇です。
法律問題は突然の出来事として訪れることが多く、どのように対処すべきか分からず、不安を感じられる方も少なくありません。そのような状況において、少しでも安心してご相談いただけるよう、丁寧にお話を伺い、ご事情に寄り添いながら最善の解決策をご提案することを心がけております。
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ポイント
労働者Aが、勤務先Y社において、石綿の入った麻袋などの荷物をトラクターで運搬するという業務に従事し、Y社を退職後、石綿関連疾患である中皮腫に罹患し、死亡したたという事案において、
①Aには、Y社での業務に起因して石綿粉じんを暴露する機会があり、その業務が労災基準が挙げる石綿ばく露作業に該当すること、その業務以外に有力なばく露機会がないことなどから、その業務とAとの死亡との間には相当因果関係が認められました。
②Y社には、Aに石綿粉じんばく露の機会があった期間について、安全配慮義務の前提としての予見可能性があったとされ、Y社は、昭和40年以降、労働者が石綿粉じんをできるだけ吸入しないようにするための措置をとるべき義務を負っていたというべきであるが、そのような措置をとっていたとは認められないとして、Y社の安全配慮義務違反が認められました。
〈目次〉
第1.事案の概要
第2.主要な争点
第3.判決
第4.判旨
第5.検討
第1.事案の概要
本件は、亡A(以下、単に「A」といいます。)の妻X1と子X2(以下、併せて「Xら」といいます。)が、Aの勤務先であったY社に対し、Aが貨物の運搬作業中に石綿粉じんをばく露して中皮腫にり患・死亡したとした上で、その原因はY社の石綿粉じんに対する安全対策が不十分だったことにあるとして、安全配慮義務違反および不法行為に基づき損害賠償請求をした事案です。
1.AのY社における勤務
(1)AのY社における勤務時期
Aは、昭和26年にY社に入社し、トラクター運転手として昭和52年まで勤務しました。
(2)Aの具体的な作業状況
Aは、昭和26年から昭和51年まで、以下のように、陸揚げされた貨物を台車付トラクターで倉庫まで運搬する業務に従事していました。
ア.岸壁付近での待機(荷物の積み込みのため)
Y社では、岸壁に陸揚げされた貨物は、トラクターで倉庫まで運ばれていました。
トラクター運転手であったAは、岸壁までその貨物を受け取りに行き、その場所で他の作業員がトラクターの台車に荷物を積み込む(沿岸荷役業務)までの間、トラクターの運転席で待機していました。トラクターの運転席には蓋がなく、運転席と、荷物を積み込む台車との距離は数十センチメートルから数メートル程度でした。
Y社では、少なくとも昭和40年から昭和51年にかけて、数か月に1回程度の頻度であったものの、継続的に石綿が取り扱われていました。その取扱いの際には、石綿は麻袋に入れられていたものの、船内荷役の時点における手鉤の使用などにより袋が破れることが多く、石綿が飛散し得る状態でした。沿岸荷役業務では、そのような麻袋が直接取り扱われており、石綿が飛散しうる状態のままの麻袋が台車に載せられていました。
イ.積み込まれた荷物の倉庫への運搬
上記アの沿岸荷役業務が終わると、Aは、トラクターで、台車に載せられた荷物を倉庫まで運搬していました。
運搬の際、トラクター自体はゆっくりとした速度で走行するものの、岸壁から倉庫までの道路上には鉄道の引込線や石畳などがあるためトラクターがそこを通ると揺れ、また、もともと荷物が台車に丁寧に積まれていなかったこともあって、石綿の袋などの荷物が落ちそうになったり、実際に落ちたりすることがありました。その場合には、Aが、落ちそうになっている荷物を押し戻したり、落ちた石綿の袋などの荷物を直接台車に積み直したりすることもありました。
ウ.倉庫内での待機(荷下ろしのためなど)
トラクターが倉庫に到着すると、Y社作業員が指示して荷役会社の作業員が倉庫などに荷物の入庫作業を行っていました。その際、へい付けの際の作業効率を上げるためにトラクターが倉庫内に入り、荷物を下ろすこともあり、そのようなときは、Aは15分程度の時間、倉庫内で待機することもありました。
倉庫内の状況としては、倉庫内はいつもほこりが多く、風が吹いた時や、人やトラクター等の機械が行き来する際には、ほこりが舞っていました。倉庫内におけるへい付け作業の際にも手鉤が用いられていたため、袋が破れて石綿などの荷物の中身が飛散することがありました。
また、Aは、岸壁から荷物を運搬する他に、庫替の際に石綿などの貨物を運搬することもありました。
エ.マスクの着用状況
Aなどのトラクター運転手が、業務に従事する際、Y社から防じんマスクが支給されることはなく、自前の、または会社から支給されるガーゼマスクを用いるなどして作業に従事していました。
(3)Aの、Y社の業務に起因する石綿粉じんのばく露の機会
上記のとおり、Aがトラクター運転手として稼働していた昭和26年から同51年までの期間のうち、少なくとも昭和40年から同51年までの間、数か月に1回程度の頻度で石綿を運搬する機会があり、継続してAが石綿にばく露する機会がありました。
さらに、Aは、直接に石綿を運搬する場合でなくとも、倉庫内に入る可能性はがありました。上記の倉庫内の状況によれば、トラクターが倉庫内に入る際や作業員のへい付け作業の際の倉庫内は、石綿運搬時に限らず、いつもほこりが多く、風が吹いた時、人やトラクター等の機械が行き来する際には、ほこりが舞っていたのですから、このほこりの中にも、それまでの石綿搬入時に飛散した石綿が含まれている可能性もありました。そうすると、トラクターが倉庫内に入っていた時には、石綿を運搬する場合でなくとも、Aは石綿粉じんにばく露する機会がありました。
2.AのY社における勤務前後の職歴・居住歴等
(1)Y社退職前の職歴・居住歴等
Aは、昭和13年に満州に移住し、それ以降昭和15年までB駅税関に勤務し、その後昭和20年までC株式会社に用度係・倉庫係として勤務していましたが、それぞれの具体的な勤務内容は不明という状態でした。日本への引揚げ後は、Aは、Y社に入社する昭和26年まで、家事に従事していました。
(2)Y社退職後の職歴・居住歴等
Aは、Y社を退職した後、昭和53年から平成9年まで書店を経営していました。その間、自宅の他に書店で寝泊まりすることもありました。
Aが経営していた書店の周辺には、D社やE社の工場などがありましたが、いずれも直線距離にして少なくとも200メートル以上離れていました。
3.Aの中皮腫発症から死亡に至る経過
Aは、平成9年、中皮腫と診断され、中皮腫の切除手術を受けました。その後、平成10年にガンの転移が見つかり、平成11年、中皮腫により死亡しました。
4.石綿関連疾患としての中皮腫
(1)中皮腫とは
中皮腫は、肺、心臓、消化管などの臓器の表面と体壁の内側を覆うしょう膜と呼ばれる膜の表面にある中皮細胞に由来する悪性腫瘍です。中皮腫は、石綿との関係が特に濃厚な疾患で、中皮腫の大半が石綿粉じんのばく露により生じるとされています。石綿粉じんのばく露から中皮腫の発症までの潜伏期間は、20年から40年程度とされています。
中皮腫は、石綿肺(アスベスト(石綿)の高濃度ばく露によって発症するじん肺)と異なり、アスベストの低濃度ばく露でも発症し、年数を経るほど発症頻度が高くなる、すなわち、アスベストの体内沈着量がさほど多くなくとも、沈着した期間が長くなるほど中皮腫発症の危険性が増大するとされ、間接ばく露が原因の場合もあるとされています。
(2)石綿による疾病の労災認定基準
「石綿による疾病の認定基準について」(厚生労働省労働基準局長通達平成15年9月19日付け基発第0919001号。以下「平成15年認定基準」といいます。)は、石綿との関連が明らかな疾病には、胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫などがあるとし、また、石綿粉じんにばく露する作業には、「倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業」、「石綿又は石綿製品を直接取り扱う作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける可能性のある作業」などがあるとしています。
5.石綿粉じんが人の生命健康に及ぼす影響に関する知見や規制等
わが国において昭和12年以降、石綿肺の調査等が実施されて、昭和31年には労働省労働衛生試験研究として石綿肺と勤務との関係が明らかにされました。そして、これを背景として、「特殊健康診断指導指針について」と題する通達(基発第308号)が発出され、昭和35年に制定されたじん肺法は、石綿に係る一定の作業について、同法が適用される「粉じん作業」と定めるなど法令の整備が進みました。
第2.主要な争点
本件の主要な争点は、①Aの業務と中皮腫による死亡との間の相当因果関係が認められるか、②Y社の安全配慮義務違反が認められるか、です。
第3.判決
本判決は、Y社に対し、安全配慮義務違反等が認められるとして、Xらへ総額として約3367万円の損害賠償金の支払うよう命じました。
なお、本件について、XらおよびY社の双方が控訴した控訴審においてはAの死亡慰謝料が増額され、Y社には総額として約3567万円の損害賠償金の支払いが命じられました(大阪高判平成23年2月25日(判時2119号47頁))。その後、上告受理申立てが不受理となり(最決平成25年11月21日(判例集未登載))、控訴審判決が確定しています。
第4.判旨
本裁判例は、上記第2の争点について、概要以下のとおり判示しました。
1.争点①(Aの業務と中皮腫による死亡との間の相当因果関係の有無)
前記認定の石綿に関する知見によれば、中皮腫は、石綿との関係が特に濃厚な疾患で、中皮腫の大半が石綿粉じんのばく露により生じるとされており、Aが発症した中皮腫も石綿粉じんのばく露を原因とするものであることが推認できる。
上記のとおり、Aは、トラクター運転手として稼働していた期間のうち、昭和40年から同51年までの間、継続して直接的または間接的にAが石綿粉じんにばく露する機会があったと認められ、これは平成15年認定基準によると、「倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業」または「石綿又は石綿製品を直接取り扱う作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける可能性のある作業」に該当するものである。
Aが上記トラクター運転手として稼働していた期間及び中皮腫を発症した時期は、中皮腫の潜伏期間が20年から40年程度とされていることともよく符合する。
そうすると、Aが直接石綿などの荷物を取り扱う荷役業務に従事していたわけではないことや石綿の取扱いが数か月に1度程度の頻度であったことを考慮しても、中皮腫は、アスベスト低濃度ばく露でも発症し、年数を経るほど発症頻度が高くなり、間接ばく露が原因の場合もあることなどからすると、上記期間におけるY社の業務が原因で、昭和51年から20年以上経過した平成9年ころにAが中皮腫を発症することは十分に考えられる。
これに加え、上記のとおり、AのY社に勤務する前の職歴が認められるものの、それらの職場における具体的な職場環境や勤務状況が不明であり、石綿粉じんにばく露する機会があったと認めるに足りる具体的な証拠もないこと、Y社を退職する前の居住歴において石綿粉じんへのばく露の機会があるとは認められないこと、Y社を退職した後のAが経営していた書店の周辺にD社やE社の工場などがあったが、D社の工場の石綿の取扱いの有無自体が明らかでないし、Y社主張のとおり、E社の工場の従業員が中皮腫を発症したことがあったとしても、その内容も明らかではない上、Aの書店と上記2つの工場とはある程度の距離が離れており、Aの石綿粉じんにばく露する機会があったとまではいえず、結局、AにY社における業務以外に有力な石綿粉じんにばく露する機会があったとはいえないことを考慮すると、昭和40年から昭和51年までの間のY社におけるトラクター運転業務と中皮腫によるAの死亡との間には相当因果関係があるというべきである。
2.争点②(Y社の安全配慮義務違反の成否)
(1)安全配慮義務の前提としての予見可能性
ア.予見可能性の有無
安全配慮義務の履行を可能にさせるために必要な認識としては、石綿の発がん性による中皮腫の発症可能性の認識まではなくとも、石綿粉じんにばく露することにより健康・生命に重大な損害を被る危険性があることについての認識があることで足りるというべきである。
これを本件についてみると、上記の石綿に関する知見、規制等に照らせば、遅くとも昭和35年頃までには、石綿粉じんにばく露することによりじん肺その他の健康・生命に重大な損害を被る危険性があることについてY社を含む石綿を取り扱う業界にも知見が確立していたものということができ、石綿粉じんにばく露することによりじん肺その他の健康・生命に重大な損害を被る危険性があることについての予見可能性があったというべきである。
そうすると、Aがトラクター運転手の業務に従事した期間のうち、Aに石綿粉じんへのばく露の機会があった昭和40年から昭和51年までの期間の全てについてY社に安全配慮義務の前提としての予見可能性があったこととなる。
イ.Y社の反論に対する応答
Y社は、安全配慮義務を課す前提として必要となる予見可能性としては、石綿の発ガン性による中皮腫の発症可能性について予見が可能であることが必要であり、昭和35年のじん肺法制定当時、じん肺の一種としての石綿肺は認識されていたのに対し、石綿の発がん性についての国際的知見が確立して政府が石綿の発がん性を認識したのが昭和47年であると主張する。
しかし、石綿肺と中皮腫は、健康、生命に重大な損害を被る危険性のある疾病であるとの点で共通する上、石綿粉じんを原因とする呼吸器疾患である石綿肺(じん肺の一種)と悪性腫瘍(がん)である中皮腫との症状や発症機序は異なるとしても、それらの差違によって、石綿肺と中皮腫とでY社が行うべき措置が異なることを具体的に示す証拠はない。そうすると、石綿肺と中皮腫の発症や機序の差違は、後記の内容の安全配慮義務違反の前提として要求される予見可能性を検討するに当たり、重要であるということはできないから、Y社の主張は採用できない。
(2)安全配慮義務違反について
上記のとおり、Y社は、昭和40年以降、石綿を荷物として取り扱っていたのであり、上記(1)によれば、昭和35年当時、少なくとも石綿の吸入が人の生命、健康に重大な損害を被る危険性があることを予見することが可能であったのであるから、昭和40年以降、労働者が石綿の粉じんをできるだけ吸入しないようにするための措置をとること、具体的には、労働者に対して防じんマスクなどの呼吸用保護具を支給し、労働者が作業着や皮膚に付着した石綿粉じんを吸入することがないように石綿粉じんの付着しにくい保護衣や保護手袋などを支給するとともに石綿の人の生命・健康に対する危険性について教育の徹底を図るとともに、防じんマスクは吸気抵抗のため、呼吸が難しくなって着用を嫌うことも考えられるから、防じんマスク着用の必要性について十分な安全教育を行う義務を負っていたというべきである。
しかし、Y社は、上記のとおり、本件当時、トラクター運転手を含む港湾労働者に防じんマスクの支給をしておらず、ガーゼマスクを支給していただけであり、その支給開始時期も明らかではない。Y社が保護衣や保護手袋などを支給したことをうかがわせる証拠は全くない。昭和40年から同49年までY社においてフォアマン(積卸荷役の現場監督)を行っていた証人も、当時、石綿が有害物であるとの認識が基本的になかったと陳述・証言していることからもうかがえるように、Y社は、石綿の人・生命に対する危険性についての教育や防じんマスク着用のための安全教育を実施していなかったものと推認される。
そうすると、Y社は、安全配慮義務違反があったといわざるを得ない。
これらの安全配慮義務違反は、Y社に予見可能性が認められる昭和40年からAがトラクター運転手の職から離れた昭和51年まで全期間にわたって認められ、上記期間のAのY社における業務とAの死亡との間に相当因果関係が認められることからすると、Y社の安全配慮義務違反とAが中皮腫を発症して死亡したこととの間に相当因果関係があると認められる。
第5.検討
1.Aの業務と死亡との相当因果関係
本裁判例は、Aの中皮腫の発症がY社における業務が原因であると十分に考えられること、AのY社における業務以外に有力な石綿粉じんにばく露する機会があったとはいえないことなどを考慮して、その業務とAの死亡との相当因果関係を肯定しています。
以上を踏まえると、本裁判例は、本件における相当因果関係の立証としては、Aの死亡がY社における業務であると十分に考えられ、他に石綿粉じんにばく露した機会を示す具体的証拠がなければ、相当因果関係を認めるという考え方に立っていると考えられます。
2.Y社の予見可能性
本裁判例は、まず、安全配慮義務違反の前提としての予見可能性の程度としては、石綿の発がん性による中皮腫の発症可能性の認識までは必要なく、石綿粉じんにばく露することにより健康・生命に重大な損害を被る危険性があることについての認識があることで足りるという判断枠組みを示しました。
そして、その判断枠組みに基づき、遅くとも、じん肺法が制定・施行された昭和35年(頃)には石綿粉じんに曝露することによりじん肺その他の健康・生命に重大な損害を被る危険性があることについて被告を含む石綿を取り扱う業界にも知見が確立していたとし、本件で問題となった昭和40年から昭和51年までの期間において、Y社の予見可能性が認められる、としています。
他方、Y社は、昭和47年のIARC(国際がん研究機関)報告が労働省労働衛生研究所により日本国内で紹介されたことにより、石綿と中皮腫との因果関係の医学的知見が成立した時期は昭和47年であり、したがって予見可能性の成立時期も昭和47年であると主張しました。
これに対して、裁判所は、石綿肺と中皮腫とでY社が行うべき措置が異なることを具体的に示す証拠はなく、石綿肺と中皮腫の発症や機序の差違は、安全配慮義務違反の前提として要求される予見可能性を検討するに当たり、重要であるということはできないとして、被告の主張を排斥しています。
もっとも、仮に本件において予見可能性が肯定されるのが昭和47年からであったとしても、本件では昭和50年までが問題となっているため、Y社の予見可能性が否定されることはなかったと考えられます。
3.Y社の安全配慮義務違反
本裁判例は、Y社に上記2のような予見可能性があったのであるから、Aなどの労働者に対し、防じんマスク、保護衣および保護手袋といった防護具を支給し、石綿の危険性や防じんマスクの着用の必要性についての教育を十分に行う安全配慮義務があったとしました。そして、Y社がそれらの義務を果たしたとはいえないとして、Y社の安全配慮義務違反を認めました。
そうすると、本裁判例によれば、予見可能性が肯定される勤務先において、労働者が、防じんマスクなどの防護具を支給され、石綿の危険性などについて十分な教育を受けているとはいえない場合には、その勤務先の安全配慮義務違反が認められる可能性があると考えられます。
【弁護士への相談について】
本裁判例の判示を前提とすると、従業員として、直接石綿製品を製造、使用等してはいないものの、石綿の運搬の際などに石綿にばく露して石綿関連疾患にり患した場合に、その勤務先に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。
本裁判例のように、訴訟においては、具体的な作業内容・ばく露状況に加え、会社の行うべきであった石綿粉じん対策の内容なども具体的に検討することが必要です。
会社に対する責任追及が認められるかどうかの見通しを判断するためには、弁護士による詳細な事情の確認や専門的な判断が必要ですので、過去にアスベスト粉じんにばく露する作業に従事した方で具体的な救済方法についてご関心のある方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。