本稿執筆者
本多 翔吾(ほんだ しょうご)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
駒澤大学高等学校 卒業
駒澤大学法学部 卒業
明治大学法科大学院 修了
ご相談においては、中長期的な観点から様々な手段を視野に入れて、ご相談者にとってベストな選択をご提案できるよう尽力いたします。
〈目次〉
1.はじめに
2.船員のアスベストばく露について
3.利用可能な救済制度について
1.はじめに
船員として勤務していた方が、船内での作業中にアスベストにばく露したことによって、アスベスト関連疾患を発症された場合には、労災補償(船員保険)等を検討されるものと存じます。また、場合によっては、元勤務先に対して損害賠償請求を行うことも検討の余地に値するものと存じます。
本稿においては、船に乗り込んで行う作業中にアスベストにばく露し、労災補償や元勤務先に対する損害賠償請求をご検討されている方に向け、①船員のアスベストばく露形態及び②利用可能な救済制度についてご紹介いたします。
2.船員のアスベストばく露形態について
(1)関連する職種について
船に乗り込んで行う作業のうち、アスベストにばく露する可能性がある職種は、「船員」、「機関士」、「航海士」、「乗組員」と呼ばれる方々です。
(2)アスベストにばく露する可能性がある作業内容
船舶の機関室には、エンジンの配管部分等に石綿含有保温材が巻き付けられていることが多々ありました。そのため、機関室で主に作業を行う機関士の方は、配管部分等の保守、点検、修理等の際、石綿含有保温材等から飛散した石綿粉じんにばく露することがあります。一方、機関室へは、機関士以外の方も出入りすることが多く、機関室は、構造上、建造物と異なり、換気窓は存在しなかったため、アスベストが機関室に滞留します。そのため、機関士以外の方でも機関室で何らかの作業を行った船員、航海士、乗組員の方々が機関室に出入りすることによって、アスベスト粉じんにばく露する可能性があります。
3.利用可能な救済制度について
過去の乗船期間中に石綿を取り扱う作業(石綿ばく露作業)を行ったことがある方が肺がんや中皮腫等を発症した場合、その病気が乗船中の作業により石綿を吸引したことが原因であると認められたときは、船員保険法に基づき、船員保険の職務上の給付を受けることができます。この職務上の給付というのは、労災保険に類似する給付となります。当該申請をする場合、申請先は、いわゆるアスベスト健康被害においては、作業が平成22年よりも前に行われていることが通常のため、労働基準監督署ではなく、全国健康保険協会(協会けんぽ)船員保険部となります。
また、発症した疾患が、アスベストを原因とする肺がんや中皮腫であった場合には、環境再生保全機構に対し、石綿健康被害救済法に基づき、療養手当(ひと月当たり、10万3870円)の給付の申請等も行うことができます。
その他、元勤務先が存続している場合には、元勤務先に対する損害賠償についても検討の余地がございます。
また、船員手帳や船員健康管理手帳がお手元にあれば、上記各制度を利用するにあたって有益なので、相談の際にお手元に用意していただければと思います。
【弁護士への相談について】
過去の乗船期間中に石綿を取り扱う作業(石綿ばく露作業)を行ったことがある方で、肺がんや中皮腫等のアスベスト関連疾患を発症している方については、是非弁護士にご相談ください。