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2024.02.28

判例紹介 火力発電所での試運転業務や運転業務等に従事したことが原因で定年退職後に悪性胸膜中皮腫に罹患し死亡したとして、使用者の責任が認められた事例(名古屋地判平成21年7月7日労経速2051号27頁)

中本 賢

本稿執筆者 中本 賢(なかもと けん)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

洛南高等学校 卒業
神戸大学法学部法律学科 卒業
東京大学法科大学院 修了

法律問題の解決のためには、早期にご相談いただくことが大切です。ご不安やご要望に沿った解決法を一緒に探していきましょう。
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判例紹介 火力発電所での試運転業務や運転業務等に従事したことが原因で定年退職後に悪性胸膜中皮腫に罹患し死亡したとして、使用者の責任が認められた事例(名古屋地判平成21年7月7日労経速2051号27頁)
ポイント

①Aの火力発電所における業務のうち、試運転業務については、作業場周辺で石綿が粉じん化している中で行わざるを得なかった業務であるとして、石綿ばく露作業であると認定されました。

②直接石綿を取り扱う作業を従事していなくても、試運転業務を行っていたAについては、石綿被害を受けないよう、会社が定めた石綿に関する要領書や安全衛生指針の内容を周知させ、呼吸用保護具(防じんマスク)を着用させる等安全な方法により作業させる義務があったにもかかわらず、会社がそのような安全配慮義務を怠ったと認定され、会社の責任が認められました。


〈目次〉

第1.事案の概要

第2.重要な争点

第3.判決

第4.判旨

第5.検討



第1.事案の概要

  本件は、被告電力会社と雇用契約を締結し、被告会社が管理する火力発電所における試運転業務や運転業務に従事していた亡A(以下「A」といいます。)の相続人である原告らが、Aが、定年退職後、悪性胸膜中皮腫により死亡したのは、被告会社の勤務中、被告の安全対策の不備により石綿粉じんにばく露したためであるとして、被告会社に対して、雇用契約上の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行等に基づき、損害賠償金等の支払いを求めた事案です。

1.被告火力発電所の概要
 (1)被告火力発電所の仕組み
   被告火力発電所では、蒸気を作るボイラー、蒸気によって発電機を回転させるタービン及び発電機の3つが主要な機器であり、これら3つ1組を「1ユニット」と呼び、火力発電所ごとにそれぞれ1号機、2号機などの番号をつけていました。ボイラーは屋外に設置され、タービン及び発電機などはタービン建屋といわれる1つの建物内に設置していました。複数のユニットが同じタービン建屋内に存在し、各ユニット間に仕切りなどはありませんでした。これら主要設備はパイプやダクトなどの配管で繋がっていました。

 (2)被告火力発電所における石綿の存在
   被告火力発電所においては、①ボイラーやタービン、配管等に、保温材・断熱材として石綿を含有する建材が巻き付けられ、②設備機器室、予備電源室、変圧器室などの防音材・断熱材として石綿が吹き付けられ、③建物の耐火ボードや床材、変電設備の変圧器の防音材などに石綿が使用されていました。

2.Aが従事してきた作業内容
 Aは、昭和33年4月に被告に入社し、平成11年7月まで、被告火力発電所において以下の業務に従事していました。


 (1)新入社員教育期間(昭和33年4月〜同年6月)
   Aは、新入社員教育期間中、火力発電所建設に伴う保温材取付工事中のタービン建屋内を見学することがありました。

 (2)S火力発電所における業務(昭和33年7月〜同37年12月)
  ア 試運転業務(昭和33年7月〜同34年3月、同35年6月〜同36年3月)
 S火力発電所建設時に機器の試運転を行いました。モーター等の機器類が単体で正常に稼働するかの試運転を行い、その後、設備に通常運転時と同様の負荷をかけて負荷試運転を行いました。
 試運転業務は、機器設置後、同一ユニットの機器・配管等に対する保温材の取付工事が行われるのと並行して行うため、試運転業務に従事するAのような従業員は、請負業者が保温材の取付け作業を行っている周辺で作業を行うこととなりました。


  イ 運転業務(昭和34年3月〜同年7月、同35年3月〜同年6月、昭和36年3月〜昭和37年12月)
 運転業務は、①中央制御室における発電制御、②計器類の監視、③機器の起動・停止操作等発電ユニットの運転操作、④巡視・点検及び⑤定期点検時の業務に分けられますが、Aは、担当するユニットを巡回し、異音、異臭、温度、振動状態、燃料や温水等の漏洩につき異常の有無や機器の運転状況を確認する巡視・点検業務、ボイラー・タービン・電気・計測設備の定期点検業務を行っていました。


 (3)Y火力発電所における業務(昭和37年12月〜同38年12月)
   Y火力発電所においてS火力発電所における試運転業務とほぼ同様の業務を昭和37年12月から昭和38年5月まで、S火力発電所における運転業務とほぼ同様の業務を昭和38年6月から同年12月まで行いました。

 (4)Mガスタービン発電所における業務(昭和38年12月〜同60年16月)
   Mガスタービン発電所は、昭和42年5月に営業運転を開始した、ガスの力でタービンを回すガスタービン発電所です。Aは、昭和41年7月から昭和42年5月まで、試運転業務に従事しました。昭和42年5月から昭和58年7月までは、運転業務に従事していました。そのほか、発電所の建設時や廃止時には作業管理業務にも携わっていました。

 (5)S火力発電所における運転業務(昭和60年6月〜平成11年7月)
   Aは、昭和60年6月から平成11年7月31日の定年退職時まで、S火力発電所において、運転業務に従事しました。

3.Aの病歴
 Aは、平成11年7月に被告を60歳で定年退職した後、平成17年2月ころから、せき、微熱、寝汗、体がだるいなどの症状を呈して、同年5月、悪性中皮腫の診断を受けました。その後、左肺の全部摘出手術、放射線療法や化学療法を行うも、平成18年3月、悪性中皮腫が再発し、同年9月9日、悪性胸膜中皮腫により死亡しました。死亡当時、67歳でした。
 Aは、平成17年8月15日、労働基準監督署へ療養補償給付申請を行ったところ、同年12月15日、業務上の災害として療養補償給付の支給決定がなされました。


第2.重要な争点

  本件の重要な争点は、①被告の安全配慮義務の発生時期及び内容、②被告の安全配慮義務違反の存否です。

第3.判決

  本判決は、被告の安全配慮義務違反を理由とした被告らの債務不履行等に基づく責任が認められるとして、遺族に対して合計3000万円の慰謝料の請求を命じました。

第4.判旨

1.争点①(被告の安全配慮義務の発生時期及び内容)について
 (1)被告の安全配慮義務発生の前提として、Aが行ったばく露作業の認定
   まず、裁判所は、被告の安全配慮義務の発生時期及び内容を判断する前提として、Aがどのようなばく露作業(じん肺の一種である石綿肺を発症する危険が存在する程度に、石綿粉じんにばく露するおそれのある作業)に従事していて、その期間がいつかを具体的に認定しました。そして、裁判所は、石綿粉じんを直接発生・飛散させる作業(直接作業)に従事していなくても、直接作業が行われている傍らで別の作業を行なったことにより、直接作業に従事した者と大差のない石綿粉じんを吸入する状況にあった者はばく露作業に従事したということができることを前提とした上で、以下ア〜ウのとおり、Aが行っていた作業を詳細に分析した上で、Aが試運転業務に従事していた約33か月の期間について、ばく露作業に従事していたと認定しました。

  ア 新入社員教育期間
 新入社員教育期間における作業はばく露作業であったとは認められないとしました。


  イ 各発電所における試運転業務
 火力発電所の建設に伴い、石綿を含有する保温材をのこぎり等で切断した上、配管等に取り付ける作業はばく露作業に該当するものと認めた上で、試運転業務は、保温材の切断・取付け作業と並行してその周辺で行われたものであり、試運転業務もばく露作業に該当すると認定しました。
 そして、Aが、試運転業務に従事した期間を具体的に認定した上で、その合計が約33か月であったと認定しました。


  ウ 運転業務
 運転員が行う作業の有無・頻度は大差があり、Aが自ら保温材の取付け、取り外し作業を含む故障箇所の確認作業や補修作業を行ったことは認定できないとしました。
 また、請負業者が定期点検以外にも補修作業のため保温材の取付け、取り外しを行っており、Aが運転業務等に従事していた際に近辺を通行するなどして石綿粉じんにばく露する可能性があったと一応は推測できるものの、保温材の取り外しが行われても劣化していなければ必ずしも粉じんは発生せず、保温材が劣化していたことも認定できないことから、運転業務がばく露業務であると認定することはできないとしました。
 さらに、運転業務中に、他のユニットの建設が行われており、石綿粉じんが飛来する可能性があったと一応推測できるものの、全体として換気がなされ、清掃も行われていたことを考慮すると、これをもって運転業務がばく露であると認定することはできないとしました。


 (2)Aの健康被害に対する被告の予見可能性の発生時期
   被告の安全配慮義務を発生させる前提として、石綿によるばく露作業によってAが何らかの健康被害を受けることを予見し得たこと(予見可能性)が必要となります(予見可能性)。 裁判所は、昭和30年代に入ってから、石綿粉じんによる健康被害に関する通達や行政機関による研究結果の公表が相次いだこと、昭和35年4月に制定されたじん肺法が、粉じん発生源から発散する粉じんにばく露する範囲内で行われる作業のうち、粉じん発散の程度、作業位置、作業方法及び作業姿勢などからみて、当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると客観的に認められるすべての作業(「場所における作業」ともいいます。)がばく露作業に該当することを明らかにした趣旨と解されることから、被告が、昭和35年4月時点において、Aが試運転業務に従事することによって、じん肺基準の人体に有害な濃度の石綿粉じんにばく露し、じん肺その他何らかの深刻な健康被害を受けることを予見し得たと評価しました。
 また、ばく露期間について、じん肺法所定の健康診断を要する期間が1年ないし3年を基準としていたことから、ばく露作業の従事期間が合計1年程度に達する見込みの者についてはその危険があると判断することができたものと認定しました。
 以上から、「被告は、既にばく露作業の従事期間が約9か月間に達している亡Aを、昭和35年6月16日からS火力発電所の3号機の試運転業務に従事させる時点では、その当初から、前記予見可能性があり、それによる被害を回避するべき安全配慮義務を負っていたものというべき」としました。


 (3)被告の安全配慮義務の発生時期及び内容
   裁判所は、被告の安全配慮義務の発生時期については、上記(2)の観点から昭和35年6月16日以降とした上で、被告の安全配慮義務の内容については、「各職場に適切な呼吸用保護具を備え付けた上、試運転業務に従事するAに対し、火力発電所建設時の保温材取付け作業が行われている場では石綿粉じんが飛散していること、石綿粉じんの人体に対する有害性について、注意喚起・指導し、試運転業務を行う際にはこれを着用するよう具体的に指示するべき安全配慮義務を負っていたものというべきである。」としました。

2.争点②(被告の安全配慮義務違反の存否)について
 (1)被告のじん肺対策及び石綿対策について
   被告が行ったじん肺対策及び石綿対策としては、主に、昭和50年1月、要領書を制定し、昭和54年2月に、同要領書を改正して安全衛生指針を定めたことが挙げられます。要領書や安全衛生指針では、石綿の危険性、有害性について記載し、特定化学物質を取り扱う作業に当たっては、事前に取り扱う物質の危険性、有害性を把握し、災害を防止するための必要な措置を定めることを定め、①屋内作業場の一定の個所から特定化学物質の粉じん等が発散する場合は局所排気装置(換気装置)を使用すること、②有害物質を取り扱う作業場には、関係者以外の者が立ち入ることを禁止し、その旨を見やすい個所に表示すること、③必要に応じ防じんマスクその他保護具を着用すること、④作業場の整理整とん、清掃に努めること、石綿の主な用途が保温材である旨記載し、作業環境測定を行うべき作業として、保温材の取付け、取り外し工事を挙げ、⑤石綿を含む第1、2類の特定化学物質を取り扱う作業場について、6か月以内に1回、定期的に空気濃度を測定することについて定めていました。
 また、被告は、石綿を直接取り扱う請負業者に対しては、作業時にマスク等を着用するよう指示していました。
 一方、被告において、石綿を直接取り扱うわけではないが石綿にばく露する可能性作業を行うAら従業員による石綿のばく露を防止するための具体的な方策(呼吸用保護具の使用等)が行われているとは認定されませんでした。


 (2)被告の安全配慮義務違反の存否
   裁判所は、被告が、じん肺法等の制定を受け、要領書や安全衛生指針を定めて対策を行ったことは認定する一方で、被告が粉じん作業には請負業者が従事したとの認識のもとに、じん肺予防も主に請負業者において注意すべきであると判断していたことが認められ、現に、粉じん作業者に対する特殊健康診断は亡Aら被告火力発電所に勤務する社員はその対象としていなかったことや、呼吸用保護具の各事業場への備付けがどのように行われ、被告が社員に対し、どのような基準で使用を指示したかが明らかにされないことに照らしても、被告がAに対し、呼吸用保護具の使用にかかる前記1(3)の安全配慮義務を履行しなかったものと認定しました。
 被告は、社員は当然に被告が定めた要領書及び安全衛生指針を読み理解し、自ら実践することが求められていたと主張しましたが、裁判所は、被告が単に要領書や安全衛生指針を定めて社員に対し自らじん肺予防を実践することを求めるのではなく、社員について、その内容について周知させ、安全な方法により作業すべきことを徹底する義務があったとして、被告の当該主張を退けました。


第5.検討

  裁判所は、Aが行っていた火力発電所における業務のうち、試運転業務については、保温材のような石綿製品が取付けられたり切断されたりして粉じん化している中で作業せざるを得なかった業務であると認定しました。
 そして、被告は、試運転業務を行ったAに対し、被告が定めた石綿に関する要領書や安全衛生指針の内容を周知させ、呼吸用保護具(防じんマスク)を着用させる等安全な方法により作業させる義務(安全配慮義務)があったにもかかわらず、安全配慮義務を怠ったため、責任があるとして、Aに対する損害賠償を命じました。
 なお、裁判所は、被告の安全配慮義務の存在の前提として、昭和30年代に国が石綿健康被害についての研究結果を公表したり、アスベスト健康被害防止のための法令・通達を整備していたので、被告はアスベストによって石綿肺などの健康被害が生じることを予見(予測)して対応しなければならなかった、と判断しました。

【弁護士への相談について】

 本判決の判示を前提とすると、石綿製品(保温材や断熱材)が使われていた場所で作業を行った方が石綿疾患を発症してしまった場合、直接石綿を取り扱う作業をされなかった方であっても、直接作業が行われている傍らで別の作業を行なったことにより、直接作業に従事した者と大差のない石綿粉じんを吸入する状況であったといえる場合には、雇用先会社に対する損害賠償請求が認められる可能性があると考えられます。
 本裁判例のように、訴訟においては、被災者の作業内容やアスベストばく露の可能性、会社の行った、あるいは行うべきであった粉じん対策や石綿対策の内容等が具体的に検討されます。
 会社に対する責任追及が認められるかどうかの見通しを判断するためには、弁護士による詳細な事情の確認や専門的な判断が必要ですので、過去にアスベスト粉じんにばく露する作業に従事した方で具体的な救済方法についてご関心のある方は、ぜひ一度弁護士までご相談ください。

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