〈目次〉
第1.はじめに
第2.混和剤について
第3.考えられる救済制度等のご紹介
第1.はじめに
建設作業等の業務中におけるアスベスト(石綿)ばく露が原因で、アスベスト関連疾患を発症された方については、労災補償、石綿健康被害救済給付及び建設型アスベスト給付金の申請などの手続を行い救済を受けることが考えられます(救済制度の詳細は、後記3に記載いたします)。
このうち、労災補償や建設型アスベスト給付金の申請においては、取り扱っていた建材にアスベストが含まれていたかどうかを確認するため、申請先である労働基準監督署や厚生労働省から「業務中にどのような建材を扱っていたか」確認される場合があります。さらに、建材メーカーに対する損害賠償請求の可能性を検討する上では、業務中に取り扱っていた石綿含有建材の使用時期を確認する必要があります。
そこで、本記事においては、アスベスト関連疾患について各種救済方法をご検討されている方に向けて、アスベストが含有されていた建材のうち、「混和剤」について、主に①どのような建材であるのか(用途や種類、製造時期について)、そして②具体的にどのような作業において混和剤が使用され、石綿粉じんにばく露する原因となる可能性があるかという2点について解説します。
第2.混和剤について
混和剤とは、左官工事等において刷毛塗り作業における作業性の向上を図るために、作業現場において混和剤とセメントとを混ぜ合わせ、水を加える等により使用されているものとなります。この作業は、乾燥した粉体をモルタルセメントに混ぜるという作業を伴うものであり、発じん量が多く石綿粉じんばく露のおそれが高いものとされています。
1.種類
アスベストを含有する混和剤として、代表的なものとしては、「テーリング」というモルタル混和剤があり、石綿含有率は約45%とされています。
また、当時は「無石綿」と表示された混和剤においても、厚生労働省の通達「蛇紋岩系左官用モルタル混和材による石綿ばく露の防止について」(平成16年7月2日基発0702004号)では、混和材を分析したところ、「無石綿」、「ノンアスベスト」等と表示された商品の中に、相当量のクリソタイル等の石綿(アスベスト)を含有するものがあると報告がされました。
なお、同通達にて平成16年6月時点で石綿を含有することが明らかになった左官用モルタル混和材は以下のものとなります。
(1)「モルスター」
モルタル及び補修材用混和材
(2)「ノンアスエース」
補修用混和材
(3)「NSハイパウダーⅡ」
非石綿系作業性改良材
(4)「サンモール」
セメント混和材
(5)「ハイワーク」
しごき・補修用混和材
(6)「ニューコテエース」
左官用作業改良材
(7)「ビルエース」
補修用混和材
したがって、これらの混和剤を建設現場で使用していた場合には、石綿粉じんにばく露したおそれが否定できないと考えられます。
2.製造期間
上記のとおり混和剤は「無石綿」と記載されたものであっても石綿を含有する場合があるため、アスベストを含有した混和剤の正確な製造時期は明らかでありませんが、例えば、後述の裁判例で建材メーカーの責任が争いとなった混和剤である「テーリング」は、石綿を含有した製品としては1956年頃(昭和31年)から2003年頃(平成15年)まで製造されていました。
3.混和剤の使用と石綿粉じんばく露との関係性
最高裁令和3年5月17日判決では、左官がモルタルを作る際に,石綿又は石綿を含有する混和剤を加えて撹拌する作業により,石綿粉じんが発散し、これにばく露したことについて、「被災者らがテーリングを使用する際に生じた石綿粉じんが,ごく僅かなものであったと認めることはできない」として、建材メーカーに対する被災者の請求を棄却すべきものとした原審の判断が破棄されております。
また、京都地裁令和5年3月23日判決では、混和剤であるテーリングを使用していた被害者について「被災者は、モルタルに混和剤を混ぜて使用しており、混和剤を投入したり、撹拌機で混合する際に、石綿粉じんにばく露した。改修工事の際には、解体作業の付近で左官作業を行った際に、石綿粉じんにばく露した。」として、左官工であった被害者による建材メーカーに対する損害賠償請求を認めました。
第3.考えられる救済制度等のご紹介
上記2で説明した混和剤を使用する職務に従事し、石綿関連疾患を発症してしまった方については、以下の手続を行える可能性があります。それぞれの制度の詳細については、弊所に一度お問い合わせください。
①労災制度による補償
②石綿健康被害救済制度(石綿による健康被害の救済に関する法律)に基づく給付
③国に対する損害賠償請求(国家賠償請求)
④建設アスベスト給付金制度
⑤使用者(又は一定の要件を満たす元請企業)に対する損害賠償請求
⑥建材メーカーに対する損害賠償請求
【弁護士への相談について】
中皮腫、石綿肺などの石綿関連疾患の診断を受け、治療を受けている方で、過去に左官工として混和剤を使用する業務に従事した経験のある方は、上述したこれらの手続を行える可能性がありますので、ぜひ一度弊所までお問い合わせください。