本稿執筆者
坂根 健(さかね けん)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
静岡県立浜松北高等学校 卒業
中央大学法学部法律学科 卒業
東京大学法科大学院 修了
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〈目次〉
1.はじめに
2.アスベスト含有床材とは(用途、種類、使用時期など)
3.床材の使用と石綿粉じんばく露との関係性について
4.利用可能性のある救済制度等
5.まとめ
1.はじめに
建設作業等の業務中にアスベストにばく露したことによって、アスベスト関連疾患を発症された方については、労災補償や石綿健康被害救済法による給付、建設型アスベスト給付金の申請、建材メーカーに対する損害賠償請求といった救済方法が考えられます(詳細は後記4のとおりです。)。
そして、労災補償や建設型アスベスト給付金の申請においては、労働基準監督署や厚生労働省から業務中にどのような建材を扱っていたかについて確認される場合があり、また、建材メーカーに対する損害賠償請求の可能性を検討する上でも、業務中に取り扱っていた石綿含有建材の種類及びその使用時期について確認する必要があります。
そこで、本記事においては、アスベスト関連疾患について各種救済方法をご検討されている方に向けて、アスベストが含有されていたとされる建材のうち、「床材」と呼ばれる建材について、主に①どのような建材であるのか(用途や種類、使用時期等について)、そして②具体的にどのような職種(作業工程)において床材が使用され、石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性があるかという2点につき、これまでの裁判例の動向も踏まえながら説明いたします。
2.アスベスト含有床材とは(用途、種類、使用時期など)
床材とはその名のとおり、建物の床に用いられる建材であり、主に大工や内装工の方が取り扱います。床を敷いた後に床材を削るといったことはありませんので、他の職種が取り扱うことはありません。
裁判例(※1)上、アスベストを含有する床材として言及のある建材のうち、使用例が多い建材の概要及び各使用時期は以下のとおりです(※2)。もっとも、各使用時期以降の作業においても、床材の補修等を行った場合には、床材から飛散した石綿粉じんにばく露する可能性がありますので注意が必要です。
(1)石綿含有ビニル床タイル
塩化ビニル樹脂を主原料にした正方形の製品で、職人からは「Pタイル」という名前で呼ばれていました。耐水性・耐久性があり、主に事務室、病院、商業施設及び公共施設の床や、一般住宅であれば台所及び洗面所の床に広く使用されました。
また、タイルカーペットの下に張られていたといった例も多くありました。
使用時期:1952年~1987年
(2)石綿含有ビニル床シート
塩化ビニル樹脂を主原料にして、充てん剤などを配合して成形した製品で、巻物状になっているという点を除けば、石綿含有ビニル床タイルと同様の性能と用途を有していました。個々の製品の寿命はさほど長くなく、10年前後でした。
防水性が高いことから水回りの床に多く使用されていました。
使用時期:1951年~1990年
(※1)京都地裁平成28年1月29日判決(判例タイムズ1428号101頁・判例時報2305号22頁)
(※2)裁判例上は、石綿含有ソフト巾木なども言及されていましたが、一般住宅向けには木製のものが使用されることが多く、石綿含有ソフト巾木が使用されることはほとんどありませんでした。
3.床材を使用し、石綿粉じんにばく露する可能性がある職種(作業)について
床材を使用する作業内容としては、床の下地工事の過程で、石綿含有ビニル床タイルや石綿含有ビニル床シートを、床に貼り付ける前に切断する作業において石綿にばく露したことが想定されます。したがって、前記のとおり、床材の使用を原因として石綿にばく露した可能性がある職種としては、建物の外壁が完成し、サッシが取り付けられて雨風が入らなくなった後に、建物の内装工事(下地工事)に関わる内装工、及び大工が考えられます。
大工及び内装工が行う作業は、内装工事における様々な工程に関与するため、いつどのような作業をしている際に石綿粉じんにばく露した可能性があるかについても多種多様です。
裁判例(※3)上、大工は、木造建物については、基礎工事から仕上げ工事に至るまで建設工事のほぼ全工程に関与し、S造及びRC造建物については、内部造作の仕上げ工事に 主に関与するとされ、床材との関係では、改修工事において、床の取り壊しを行う際に石綿粉じんにばく露した可能性があるとされています。また、内装工は建物の外壁ができサッシが取り付けられて雨風が入らない状態になると、壁、天井、床の順に下地工事を行い、その後同じ順番で仕上げ工事を行うとされ、かかる作業工程のうち、床仕上げ工事において、石綿含有ビニル床タイルや石綿含有ビニル床シートを、床に貼り付ける前に切断する際に、それぞれ石綿粉じんにばく露した可能性があるとされています。
なお、建材メーカーに対する裁判例においては、記事作成日時点(2023年9月13日)では、石綿含有ビニル床タイルや石綿含有ビニル床シートを製造販売した企業に対する責任が認められた例は確認できておらず、今後さらなる検討が必要です。
(※3)同掲1
4.利用可能性のある救済制度等
上記2で説明したような石綿含有建材(床材)を使用した建設現場において、大工ないし内装工として、床部分の工事に従事し、石綿関連疾患を発症してしまった方については、①労災制度による補償、②石綿健康被害救済制度(石綿救済法)による給付のほか、③国に対する損害賠償請求、④建設アスベスト給付金制度の利用が考えられます。また、⑤使用者(又は一定の要件を満たす元請企業)に対する損害賠償請求、⑥建材メーカーに対する損害賠償請求の法的手続も考えられます。
【弁護士への相談について】
床材は建設作業等において幅広く使用されていました。石綿が含有されていたとされる床材を扱った建築作業に従事した経験のある方で、アスベスト関連疾患を発症してしまった方は、ぜひ一度お問い合わせください。
従事していた作業の詳細について分からない場合であっても、お気軽に弁護士までご相談ください。どのような救済が受けられるのか一緒に検討させていただきます。