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2023.06.01

アスベスト含有建材(スレート)について

本多 翔吾

本稿執筆者 本多 翔吾(ほんだ しょうご)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

駒澤大学高等学校 卒業
駒澤大学法学部 卒業
明治大学法科大学院 修了

ご相談においては、中長期的な観点から様々な手段を視野に入れて、ご相談者にとってベストな選択をご提案できるよう尽力いたします。

〈目次〉

1.はじめに

2.スレートの種類、用途及び使用時期

3.スレートによりばく露の可能性のある職種及び職種ごとのばく露形態

4.裁判例上、損害賠償責任を肯定された建材メーカー等(建設型アスベスト被害)



1.はじめに

 建設作業等の業務中にアスベストにばく露したことによって、アスベスト関連疾患を発症された方については、労災補償や建設型アスベスト給付金の申請を検討されるものと存じます。労災補償や建設型アスベスト給付金の申請においては、労働基準監督署や厚生労働省から業務中にどのような建材を扱っていたかについて確認される場合があります。
 また、ご自身が扱っていた石綿含有建材の使用時期によっては、建材メーカーに対する損害賠償請求を行うことも検討の余地に値するものと存じます。
 本稿においては、労災補償や建設型アスベスト給付金の申請、建材メーカーに対する損害賠償請求をご検討されている方で、業務中に「石綿含有スレート」を用いていたことがある方に向け、①石綿含有スレートの種類、用途及び使用時期、②石綿含有スレートを用いた際のばく露形態及びばく露の可能性のある職種、③裁判例上、損害賠償責任を肯定された建材メーカー等について解説いたします。

2.石綿含有スレートの種類、用途及び使用時期

(1)石綿含有スレートの種類
  スレートとは板状の建材であり、様々な種類がございますが、代表的な建材としては、以下のものがあげられます。これらのスレートについて、一定の時期に石綿が材料として使用されているものがありました。
・スレートボード平板
・スレートボードフレキシブル板
・スレートボード軟質板
・スレートボード軟質フレキシブル板
・スレート波板


(2)スレートの用途
 ・スレートボード平板
 外装材としては、軒天井材として、内装材としては、壁材、天井材として使用されています。

・スレートボードフレキシブル板
 外装材としては軒天井への利用が多く、内装材としては内装制限を受ける火気使用室で使用されている例が多いです。また、湿度による変化が少ないことから、浴室の壁・天井、台所の壁などにも使用されています。

・スレートボード軟質板
 内装材として使用されるほか、塗装下地、パネルの表面材、化粧板の基材として使用されることがあります。しかし、湿度による伸縮性があることから、外部や浴室や洗面所などの湿気の多い部屋には向いていません。

・スレートボード軟質フレキシブル板
 耐候性、耐水性を改善する化粧加工を施した製品は、軒天井を中心とした外装材として、その他の化粧加工を施した製品は内装材として使用されています。また、化粧加工の他に吸音を目的として直径5ミリメートル~8ミリメートルの小さな孔を開けた「石綿スレート孔あきボード」があり、居室の壁や天井に使用されております。

・スレート波板
 軽量で強度があることから、工場などの屋根(大波)、壁(小波)に使用されています。


(3)石綿含有スレートの使用時期
 ・スレートボード平板:1931年~2004年
・スレートボードフレキシブル板:1952年~2004年
・スレートボード軟質板:1936年~2004年
・スレートボード軟質フレキシブル板:1971年~2004年
・スレート波板:1918年~2004年(小波)、1931年~2004(大波)


3.石綿含有スレートにより石綿ばく露の可能性のある職種及び職種ごとのばく露形態

 石綿含有スレートにより石綿粉じんにばく露した可能性のある職種及び職種ごとの典型的なばく露作業内容は次のとおりです。ここでは、建築作業に限らず解説しています。 また、各人の具体的な作業内容によってばく露状況は異なります。

(1)ばく露の可能性のある職種
 ・運搬作業員・倉庫内作業員
・造船所作業員
・建設現場作業員
・解体作業員
・産業廃棄物処分場や中間処理施設の作業員
・スレート板の製造作業員


(2)職種ごとのばく露形態
 ・運搬作業員・倉庫内作業員
 倉庫内に保管されている石綿含有スレート板の運搬、出荷作業の際に暴露する可能性があります。

・造船所作業員
 船内の不燃内装材としての石綿含有スレートを取り付ける作業の際にばく露する可能性があります。

・建設現場作業員
 外装材または内装材としての石綿含有スレート板を切断・加工したり貼り付けたりする作業の際に、ばく露する可能性があります。
 建設作業員として、内装工、大工、電工など多くの職種にばく露の可能性があります。

・解体作業員
 バールを使用して天井の石綿含有スレート板等を破砕する作業の際にばく露する可能性があります。

・産業廃棄物処分場や中間処理施設の作業員
 産業廃棄物処分場においては、特別管理産業廃棄物としての石綿の入った袋を収集・運搬等する際にばく露する可能性があります。
 中間処理施設には、石綿含有と非含有製品がともに持ち込まれ、これらを手で選別する作業の際にばく露する可能性があります。

・スレート板の製造作業員
 工場におけるスレート板の製造過程でばく露する可能性があります。


4.裁判例上、損害賠償責任を肯定された建材メーカー等(建設型アスベスト被害)

 以下では、裁判例において、建設作業中にアスベスト被害を受けた被災者らについて建材メーカーの責任が肯定された事例を紹介いたします。

(1)東京高裁令和2年9月4日判決
  東京高裁令和2年9月4日判決(以下「東京高裁判決」といいます。)は、前提として、石綿含有建材を製造・販売する建材メーカーは、実効的な石綿粉じん曝露防止対策が不可欠である旨等の警告表示義務を負う旨判示しつつ、実際に責任を負う企業は、「被災者の石綿粉じん曝露の主な原因となったであろう石綿含有建材」について、「20%以上のシェアを有すると認められる建材」を製造及び販売していた建材メーカーである旨判示しました。
 その上で、石綿含有スレートボードフレキシブル板及び石綿含有スレートボード平板について、昭和43年~昭和45年、昭和49年、昭和51年及び昭和53年において、現A社のシェアが概ね3割を超えるため、A社が責任を負う旨判示しました。


(2)福岡高裁令和元年11月11日判決
  福岡高裁令和元年11月11日判決(以下「福岡高裁判決」といいます。)は、東京高裁判決と同様、石綿含有建材を製造・販売する建材メーカーに警告表示義務を負う旨判示しつつ、「被告企業らの製造・販売する建材が概ね20%を超えるシェア」を有していた場合には、当該石綿含有建材を製造・販売していた建材メーカーが責任を負う旨判示しました。
 その上で、スレートボード(平板、フレキシブル板)及び石綿スレート波板については、昭和46年、昭和53年及び平成2年において、A社のシェアが20%を超えていることから、A社が責任を負う旨判示しました。


(3)大阪高裁平成30年9月20日判決
  大阪高裁平成30年9月20日判決(以下「大阪高裁判決」といいます。)は、東京高裁判決及び福岡高裁判決と同様、石綿含有建材を製造・販売する建材メーカーに警告表示義務を負う旨判示しました。しかし、東京高裁判決及び福岡高裁判決とは異なり、「マーケットシェア10%」を有する建材メーカーが責任を負う旨判示しました。
 その上で、石綿スレートボード(平板、フレキシブルボード)については、昭和43年、昭和45年、昭和49年及び昭和53年において、A社及びM社の2社のシェアが10%以上を超えていることから、同二社が責任を負う旨判示しました。
 また、石綿スレート波板については、昭和43年、昭和45年、昭和49年及び昭和53年において、A社及びU社の2社のシェアが10%以上を超えていることから、同2社が責任を負う旨判示しました。


(4)小括
  以上から、各裁判例においてシェア10%か20%かで見解は分かれているものの、昭和43年から昭和53年までの間に建設作業員として石綿スレートボード(平板、フレキシブル板)及び石綿スレート波板を業務中に継続的に取り扱っていた方について、建材メーカーの責任が認められる傾向にあると考えられます。

【弁護士への相談について】

 石綿含有スレートは建設作業等において幅広く使用されていました。石綿含有スレートボードを扱っていた方で、アスベスト関連疾患を発症してしまった方は、ぜひ一度お問い合わせください。

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