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2023.02.15

判例紹介 建設現場ではつり工として勤務し肺がんのため死亡した方の遺族による損害賠償請求が棄却された事例(東京地判平成24年10月30日 労経速2160号11頁)

佐藤 はるな

本稿執筆者 佐藤 はるな(さとう はるな)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

錦城高等学校 卒業
立教大学法学部法学科 卒業
早稲田大学法科大学院 修了

どのような悩み事であっても、ぜひお気軽にご相談いただきたいと思います。皆様のお気持ちに寄り添い、悩み事が解消できるよう誠意をもって対応いたします。

判例紹介 建設現場ではつり工として勤務し肺がんのため死亡した方の遺族による損害賠償請求が棄却された事例(東京地判平成24年10月30日 労経速2160号11頁)

〈目次〉

第1.事案の概要

第2.判決

第3.判旨

第4.検討



第1.事案の概要

 本件は、建造物の解体作業等などを業とする株式会社である被告Y1及びY2(以下、両者を「被告ら」といいます。)の被用者として、はつり工として勤務していた亡Aが肺がんにより死亡したのは、Aが被告らの従業員としてそれぞれ建築現場において勤務したときに、多量の石綿粉じんを吸入して肺がんなどに罹患したことによるとして、亡Aの相続人である原告X1~4が、被告らに対して損害賠償の支払いを求め、また、併せて国に対して規制権限不行使を理由とする損害賠償を求めた事案です。
 本件では、Aの傷害及び死亡が石綿被害によるものであったかが主な争点となりました。

第2.判決

 裁判所は、Aの疾病及び死亡について、石綿ばく露、石綿肺及び石綿ばく露を原因とする肺がんによるものであったとは認められないとして、原告らの請求を棄却しました。

第3.判旨

1.前提事実
 亡Aは、昭和34年頃から出身地である九州において建設現場ではつり工として勤務した後、昭和42年頃、上京し、被告Y1にはつり工として勤務しました。 同被告におけるAの作業内容は、新築工事現場における躯体調整、新築現場や改修工事現場における躯体調整というコンクリート、モルタル、ブロック等を削る作業のほか、改修工事現場において柱や壁を壊す作業も行っていました。
 昭和63年9月、被告Y1の当時の代表者であったIの弟で、同被告ではつり工として勤務していたFが独立して被告Y2を設立し、被告Y1からはつりの仕事を引き継ぐこととなったことから、被告Y2の設立とともに、Aも被告Y2に転籍して勤務することとなりましたが、被告Y2におけるAの仕事の内容も被告Y1勤務時代と同様でした。
 Aは、被告Y1に勤務していた昭和52年に結核にり患して約9か月入院したことがありましたが、その後も昭和63年9月まで同被告に勤務していました。被告Y2においては、従業員に対して毎年健康診断を実施していましたが、Aについては、平成元年ないし同11年までの胸部X線検査の結果においては、既往症である結核の影響により、要精密検査とされたり、陳旧性肺結核が認められたりしたことがありましたが、その他に大きな異常は認められず、また、Aは、毎年の健康診断当たってたばこを1日20本くらい吸っているとの申告をしていました。被告Y2においては、Aに対し、少なくとも平成元年、同3年、同6年、同8年、同10年にじん肺検診を受診させていたが、いずれも、じん肺による肺機能の障害はない(F(-))とされ、X線写真による検査結果において不整形陰影は認められず、また、胸膜プラークを示す「plc」にチェックはされておらず、胸膜プラークが確認されたことはありませんでした。
 Aは、平成12年3月27日朝、作業現場に向かう途中で倒れ、同日から同年4月7日までC病院に入院して治療を受け、その後も療養を続け、入退院を繰り返し、仕事に復帰することがないまま、平成20年5月2日、 肺がんのために死亡しました。
 独立行政法人国立病院機構災害医療センターのJ医師のAに対するじん肺健康診断において、平成19年4月時点のX線写真の像に不整形陰影は認められず、粒状影(円形陰影)については「1/2」と、大陰影については「B」とされ、付加記載事項として「ca(肺がん)」「em(肺気腫)」にチェックがされましたが「plc(胸膜プラーク)」にはチェックされず、せき及びたんがいずれも「+」とされていますが喀痰等に石綿小体や石綿繊維が確認された旨の記載はなく、医師意見として「じん肺に肺がん合併」とされました。また、平成20年1月23日付けの労働基準監督署長宛ての同災害医療センター医師作成の書面において、Aにつき、X線検査及びCT検査の結果では胸膜プラークはなく、石綿肺の所見もないとされ、また、同人についてたばこ40本を40年間吸ったとの記載がされました。
 平成19年11月28日、東京労働局長は、Aに対し、じん肺法に基づき、じん肺管理区分管理3ロに該当する旨のじん肺管理区分決定を行いました。
 原告X4は、平成19年頃、被告Y2を訪問し、同被告の当時の社長で あったFに対し、Aがじん肺と肺がんになったと伝え、後日、Aの労災請求を行うため、労働基準監督署から「従事歴証明書(事業者記載用)(石綿)」の用紙を入手した上、これを被告Y2に持参し、同被告の取締役経理部長であったGに交付しました。Gは、被告Y2の事務全般を担当していたものの、作業員が現場で具体的にどのような作業を行っているかは必ずしも十分に把握していなかったが、Fから、Aの家族が来て何か要望があればとにかく聞いてあげて融通をきいてあげなさいとの指示を受けていたことから、平成19年12月12日付けで、同用紙の①事業場の主な業務内容欄に「とび土工工事業」、②被証明者の石綿に係る具体的な業務内容欄に「新築現場及び建物解体現場での斫り作業」との記載をし、③上記②に記載された業務に該当する業務の種類欄として「石綿が吹き付けられた建築物、工作物の解体、破砕等の作業」との選択肢に印を付け、④上記②に記載された業務への従事期間欄に「11年6月~」、⑤上記④に記載された従事期間における上記②に記載された業務の頻度欄に「月10~20日位」との記載をするなどして本件証明書を完成させ、これを原告X4に送付しました。

2.石綿ばく露の有無について
 裁判所は、「石綿ばく露の指標となる医学的所見としては、①胸膜プラークの病態が見られること、②気管支肺胞洗浄液又は喀痰の中に石綿小体が見られることが挙げられている。なお、これに加え、石綿肺にり患していることも挙げられることがあるが、本件においては、石綿肺り患の有無自体が問題となっているものであって、石綿肺り患の有無を指標として検討することはできない」とし、Aは平成20年5月2日に肺がんのため死亡しているところ、裁判所は、①については「医師作成のじん肺健康診断において、平成19年9月時点のX線検査及びCT検査において胸膜プラークは確認されておらず、また、平成20年1月23日付けの独立行政法人国立病院機構災害医療センター医師作成の書面においてもX線検査及びCT検査の結果では胸膜プラークがないとされている」こと、②については「上記じん肺健康診断において、Aの喀痰等から石綿小体が確認された旨の記載はな」く、「上記じん肺健康診断において石綿繊維が確認された旨の記載もない」ことから、石綿ばく露の指標となる医学的所見を確認することはできないと認定しました。

3.石綿肺の罹患について
 裁判所は、「臨床による石綿肺の診断には、①10年以上の職業性石綿ばく露歴があること、②胸部X線で下肺野を中心にした不整形陰影を認めること、③他の類似疾患(突発性間質性肺炎、膠原病や薬剤性、感染症などによる間質性肺炎等)や石綿以外の原因物質による疾患を除外することが必要であるとされている。」と指摘し、そして、①について、Aが業務に従事していた改修工事現場において壊す柱や壁内に石綿が含まれた可能性は否定できないが、Aは昭和42年頃からY1にはつり工として勤務しているところ、被告Y1に勤務することになった頃から作業現場においてマスクを着用するようになり、Aが昭和63年9月から勤務を始めた被告Y2においては、昭和63年当時からヘルメット、防じん眼鏡、防じんマスク等を準備し、作業員に現場で着用するよう指示するなど、被告らの業務に従事する際にはじん肺対策が採られたこと、被告Y2勤務中は毎年の健康診断や少なくとも隔年によるじん肺検診においても、Aに肺機能の障害はないとされ、特段の異常は認められなかったことなどの事実から、「10年以上にわたる石綿ばく露歴も認めることができ」ないとし、②についても「平成19年9月時点までに至る胸部X線検査において不整形陰影は認められておらず」、結論として「Aが石綿肺にり患していたと認めることはできない」と判断しました。
 なお、Aはじん肺管理区分管理3ロに該当する旨のじん肺管理区分決定を受けていたところ、裁判所は、「じん肺管理区分決定は、けい素や石綿等の粉じんが肺中に存在することまで確認するものではないから、同決定を受けていることをもって、Aが石綿肺にり患していたと認めることができるものではない」としました。

4.石綿ばく露を原因とする肺がん罹患の有無について
 Aは肺がんのため死亡しましたが、この肺がんは石綿が原因であったかにつき、裁判所は、平成18年12月9日付け厚生労働省労働基準局長による「石綿による疾病の認定基準について」に照らしてみると、Aについては、上記のとおり石綿肺の所見が得られておらず、胸部X線検査、胸部CT検査等により胸膜プラークが認められず、肺内に石綿小体や石綿繊維が認められないことからして、Aの肺がんの原因について石綿ばく露を原因とするものであると認めることはできず(なお、上記基準は平成24年3月29日に改正されていますが、裁判所は、改正後の基準であっても同様であると判断しています。)その他、本件全証拠によってもこれを認めることができないと判断しました。

第4.検討

 Aは被告Y1で21年間(昭和42年頃~昭和63年9月)、被告Y2で12年間(昭和63年9月~平成12年3月)、はつり工として建設作業に従事し、コンクリートやモルタルなどを削る作業や、改修工事現場において柱や壁を壊す作業も行っていたことから、石綿にばく露していた可能性は十分考えられ、現に労災申請時に被告Y2から従事歴証明書を得て、じん肺管理区分管理3ロに該当する旨のじん肺管理区分決定を受けていました。
 しかし、本判決は、胸膜プラークや石綿小体等の医学的所見、厚生労働省労働基準局長による「石綿による疾病の認定基準について」といった基準から、石綿ばく露、石綿肺や石綿ばく露を原因とする肺がんの罹患の有無を判断し、医学的所見が認められないことから、ばく露等についても認められないとして、原告らの請求を棄却しています。
 石綿関連疾患について使用者に対して損害賠償責任を問う際は、石綿粉じんのばく露が30年、40年以上前の出来事であることから、当時の資料の紛失や当時を知る関係者の逝去等、証拠の散逸が危惧されるため、これらをなるべく補完する資料とともに、石綿肺等の医学的基準を満たし、石綿関連疾患に罹患していることが医学的に証明されていることが重要と考えられます。

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