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2023.02.08

判例紹介 渡辺工業事件(大阪地判平成22年4月21日)

坂根 健

本稿執筆者 坂根 健(さかね けん)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

静岡県立浜松北高等学校 卒業
中央大学法学部法律学科 卒業
東京大学法科大学院 修了

皆様が抱えている悩みに真摯に向き合い、適切かつ丁寧に問題を解決することで、皆様がより良い生活を送る手助けをしたいと考えています。
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判例紹介 渡辺工業事件(大阪地判平成22年4月21日)
ポイント

・被災者(元労働者)は約21年間、石綿製品の製造販売、パッキングの販売等を業とする会社において、工場内で石綿含有の農耕用クラッチの組立て等(手作業)に従事していました。

・被告(Y社)の工場内には石綿粉じんが飛散しており、元労働者が石綿粉じんを長きにわたって吸引し続けたことが認められるとして、Y社において元労働者が従事していた上記作業と元労働者が罹患した肺疾患との因果関係を認めました。その上で、石綿についてのじん肺の知見の時期を昭和35年として、遅くとも元労働者が就労した昭和37年頃までにはY社における石綿粉じんの危険性や対策についての予見可能性を認め、Y社の安全配慮義務違反についても認められました。

・元労働者、及び元労働者の発症により、介護や各種手続等の負担が生じ、精神的苦痛を受けたとして損害を主張した元労働者の子による損害賠償請求についても認められ、その結果、Y社には、元労働者本人に対し2290万円、子どもに対して110万円、合計2400万円の損害賠償義務があると認められました。


〈目次〉

1.事案の概要

2.主な争点

3.判旨



1.事案の概要

 石綿製品の製造販売、パッキングの販売等を業とするY社において、農業用機械に使用するクラッチ、ブレーキ等の部品の組み立て等に約21年間従事した元労働者が、びまん性胸膜肥厚に罹患して、肺機能が悪化し、著しい呼吸機能障害が認められるに至り、じん肺管理区分4の認定を受けた事案において、元労働者は上記業務により各肺疾患に罹患したといえ、そして、Y社には従業員に対して石綿粉じんのばく露による健康被害防止措置を講じなかったこと等につき雇用契約上の安全配慮義務違反があるとして、元労働者(及びその子ども)がY社を被告として損害賠償責任を追及した事案です。

(1) 元労働者の勤務歴、業務内容について   元労働者は、昭和39年10月14日から昭和59年10月29日にY社を退職するまで、約21年間、Y社の工場において農耕用クラッチ(クリソタイル(白石綿)含有)の組立て等を手作業で行うなどの業務に従事してきました。この間における、元労働者の具体的な作業状況は以下のとおりです。

 ①入社時から昭和44年頃
   クラッチ組み立て作業

 ②昭和44年頃以降
   上記作業に加えて、10日に1度、1回2時間程度の頻度で、石綿を含む金属製のクラッチフェーシングの研磨作業 (昭和54年頃まで、Y社工場内では、研磨作業を行う部分と組立作業を行う部分との間には、仕切り等はなかった。)

(2) 元労働者の病歴等   元労働者の病歴は以下の通りです。
① 平成18年11月6日
 石綿肺(じん肺管理区分2)と肺結核の合併症につき労災認定を受ける。
② 平成19年1月以降
 呼吸困難等の症状が悪化。(平成19年2月1日から同月17日まで入院。)
③ 平成20年1月26日
 石綿肺、胸膜肥厚斑、肺結核、結核性胸膜炎等と診断される。
④ 平成21年2月以降
 びまん性胸膜肥厚の悪化により肺機能が低下。著しい呼吸機能障害が認められるに至り、平成21年3月10日付けでじん肺管理区分4の認定を受ける。


(3) 元労働者の子について   原告の主張によれば、元労働者の子は、平成13年以降、元労働者の通院のほとんどに付き添い、入院時には家族と協力しながら元労働者を看護し、元労働者の体調急変時には、駆けつけて病院に連れて行きました。元労働者の子は、平成17年以降、ほぼ毎日元労働者宅に行き、月5、6回以上通院付添いをする介護を続けてきました。
 また、元労働者の子は、勤務先で支配人の地位に就いていましたが、平成19年から20年にかけては、元労働者の通院付添いや労災申請手続のための各種資料収集や申請行為等のため、1か月に10日以上、遅刻や休暇をとるようになり、しかも、介護、家事及び仕事を続けるために睡眠不足が続いたため、体力的、精神的に無理を生じ、甲状腺異常を発症し、平成20年7月には勤務先を退職し、以後は、勤務先の厚意で以前の肩書を使用することはできたものの、同社でパートとして仕事をするようになったため、実質的な減給が生じました。また、ストレスを原因とする肋間神経痛にも罹患しました。


(4) 主なY社の反論   Y社は、元労働者が従事していた組立て作業(研磨作業については従事していないと主張)においては、石綿粉じんにばく露する機会はなかったと主張し、元労働者が石綿粉じんにばく露したことを否定しました。
 また、Y社は、昭和51年 時点でもなお一般的、社会的に石綿粉じんの危険性が周知されておらず、国や業界もその危険性を十分に認識していなかったと主張し、Y社の石綿粉じん被害に関する予見可能性を否定する反論をしました。
 そして、Y社は、当時の石綿粉じん被害についての認識を前提にすれば、Y社が負うべき安全配慮義務の範囲は、あらゆる危険性を排除しなければならないほど強固なものではなく、労働者の職種や労務内容等の各種具体的な事情を総合的に考慮し、社会通念に基づいて相当と認められる範囲で行えば足りるとした上で、石綿粉じんを浴びる可能性のあった労働者に対しては、粉じんが発散する屋内作業場の発散限における局所排気装置の設置する義務等具体的な義務を設定し、いずれの義務も履行していた旨主張して、Y社は雇用契約上の安全配慮義務を履行していたと反論しました。


2.主な争点

 本判決における主な争点は、①元労働者の石綿粉じんばく露の有無、②元労働者の肺疾患発症との因果関係、③Y社の安全配慮義務違反の有無、そして④近親者(子ども)に対する不法行為責任の有無です。

3.判旨

(1) 元労働者の石綿粉じんばく露の有無について   本判決は、争点①について、元労働者が従事したクラッチ組み立て作業及びクラッチフェーシングの研磨作業の内容を認定し、元労働者が石綿粉じんにばく露した可能性があると判示しました。具体的には、以下のとおり、作業内容と元労働者の石綿粉じんばく露状況を次のように認定しています。(原告についてはそれぞれ「元労働者」及び「子ども」、被告については「Y社」と表記し、()内は筆者が追記)

 ア 元労働者は、Y社における就業期間である昭和37年9月6日から昭和38年9月28日及び昭和39年10月14日から昭和59年10月29日までの約21年間にわたって、石綿製品であるクラッチフェーシングを扱うクラッチ組立作業に従事し、この間昭和44年ころから昭和59年ころまでにかけては、10日に1度、1回当たり2時間程度の頻度でクラッチフェーシングの研磨作業にも従事した。

 イ クラッチ組立作業は、クラッチフェーシングに付着した石綿を含む粉じんや同じ工場内で行われているブレーキ組立作業で用いられるブレーキライニングに付着した粉じんのばく露を伴うものであった。

 ウ Y社工場では、昭和54年ころまでは、同じ工場内で間仕切りのない状態で、組立作業とともに、ブレーキライニングの研磨作業も行われていた。

 エ また、クラッチフェーシングの研磨作業は、ブレーキライニング製造を行う第4工場で行われ、かつ相当の粉じんが飛散する状況があった。

 オ Y社における石綿取扱量は、昭和50年ころ以降、減少したことがうかがわれるものの(中略)石綿を含むクラッチフェーシング等の取扱いはあった。

  このように裁判所は、元労働者がY社において従事していた作業を具体的に指摘しながら、石綿粉じんのばく露状況を認定しています。そして、裁判所は、「(以上の事実を総合すれば、元労働者は、)Y社における約21年間の就業期間中、クラッチ組立作業に従事し、常時石綿粉じんにばく露する状況にあり、これに加えて、昭和44年ころ以降は、10日に1度、1回2時間程度の頻度で行ったクラッチフェーシングの研磨作業により、継続的に相当多量の石綿粉じんにばく露していたものということができる。」と結論付けています。

(2) 元労働者の肺疾患発症との(個別的)因果関係   本判決は、争点②について、元労働者の発症経過について具体的に認定しながら、石綿粉じんのばく露と元労働者の肝疾患との因果関係について以下のとおり判断しました。「元労働者が、Y社における最初の石綿粉じんばく露である昭和37年ころから約40年を経過した平成13年ころから、息切れや胸苦しさ、全身疲労感等の症状を発症するようになり、平成18年1月ころ、石綿肺、肺結核と診断され、同年11月6日付けでじん肺管理区分2と判断され、労災休業補償給付を受給するようになったこと、平成20年1月26日には、石綿肺のほか、石綿に起因する特有的な病変である胸膜肥厚斑(胸膜プラーク)等と診断され、更に、平成21年3月10日付けでじん肺管理区分4と判断された。
 これらの事実は、前記認定のとおりの石綿肺、胸膜肥厚斑等の症状、発症時期等に関する知見と矛盾するものではない。そして、元労働者がY社における就業に関し、労働基準監督署長の労災認定を受けている。
 以上を総合すれば、元労働者の石綿肺等の発症は、Y社における石綿粉じんのばく露と因果関係があるものということができる。」
 また、Y社の元労働者の石綿肺等の疾患は、石油化学工場に勤務していた夫の作業着等に付着していた石綿を吸引したことによるものである旨のY社の反論に対しても、「(元労働者の夫が)死亡したのは、昭和45年12月であるうえ、同人は、石油化学工場に勤務していたとはいえ、その勤務先の設備や具体的作業内容は、本件全証拠によっても明らかではなく、また、(元労働者の夫の)作業着に石綿が付着していたことを裏付ける積極的な証拠はない。これに対し、元労働者が約21年間にわたるY社における就業の間、石綿粉じんにばく露したこと、石綿の高濃度ばく露による疾患とされる石綿肺を発症したこと、石綿肺、胸膜肥厚斑等の症状や発症時期は、Y社における就業開始をばく露開始とみても矛盾するものでない」とし、「仮に、(元労働者が夫の)作業着に付着していた石綿を吸引した事実があったとしても、Y社における就業開始前から昭和45年12月までの期間につき、他の原因による石綿粉じんのばく露があったということであって、せいぜい原因の競合が考えられるにとどまり、(元労働者)のY社における就業と石綿肺等の発症との因果関係を否定するものではない。」と明確に示しました。


(3) Y社の安全配慮義務違反の有無
  ア 作業環境管理義務違反
    元労働者が従事したクラッチ組立作業は、作業時に粉じんの飛散する状態であったこと、少なくとも昭和54年ころまでは、Y社の第2又は第5工場内でブレーキライニングの研磨作業が行われた部分と組立作業が行われた部分との間仕切り等もなかったこと、Y社が粉じんの飛散を防止するような局所排気装置、全体換気装置等の設置又は湿潤化等が行われた事実は認められないことなどから、Y社において、適切な局所排気装置等の設置による粉じん発生の抑制等の措置をとる義務等の履行がされたものと認めることはできず、同義務の懈怠があったものというべきであるとしました。

  イ 作業条件管理義務違反
    Y社には、じん肺法、特化則等に照らし、そもそも、事業所における粉じん作業及び同作業に従事する労働者を把握すべき義務があったにもかかわらず、元労働者が従事するクラッチ組立作業において粉じんの飛散を生じる実情があったこと、元労働者が粉じん作業であるクラッチフェーシングの研磨作業に従事していることを把握しておらず、これに応じた労務管理や粉じん作業従事者であることを前提とした指導を怠ったことが推認されることなどから、Y社について、安全配慮義務等違反のあったことは明らかであるとしました。

  ウ 健康等管理義務違反
    元労働者が、Y社工場内の石綿を取り扱う作業場において、粉じんの飛散を伴う組立作業に常時従事し、昭和44年ころ以降は、10日に1度、2時間程度ほぼ継続的に従事していたクラッチフェーシングの研磨作業において、継続的に相当量の石綿粉じんにばく露していたにもかかわらず、Y社が、元労働者を粉じん作業に従事する労働者と取り扱わなかったことから、じん肺健康診断及び改正特化則による特殊健康診断を受けたことがなかったものである。また、Y社が石綿粉じんに関するじん肺予防及び健康管理に必要な教育をした事実も認めることができない。以上からすれば、Y社には、安全配慮義務等違反があったものと認められるとしました。
 そして、本判決は、「Y社は、元労働者に対し、粉じん作業に常時従事する労働者に対して行うべき作業環境管理、作業条件管理ないし健康等管理の義務を怠ったものであるから、安全配慮義務等に違反したものといわなければならない。」とY社の安全配慮義務違反を認定しました。


(4) 近親者(子ども)の損害について
  本判決は、元労働者の家族(子ども)の慰謝料請求が認められた点も重要です。本判決は、子どもの損害について以下のとおり示しました。
「元労働者は、進行性、不可逆性の疾患である石綿肺等に罹患し、現在では著しい肺機能障害を生じてほとんど寝たきりの状態にあり、治ゆの見込みがなくむしろ症状の進行が避けられず、将来的には上記疾患による死亡の可能性も高いといわざるを得ない。そうすると、子どもにおいても、その精神的苦痛は、決して看過できるものではない。そして、子ども自身も、元労働者の上記疾患のため、同元労働者の発症後は、自らの仕事や家庭における家事を犠牲にして、同原告の毎日の介護、通院付添いや多数回にわたる労災申請手続等に当たることを余儀なくされ、特に平成18年から20年ころには、その負担が過大なものとなったため、仕事や健康状態に影響を及ぼしたことなどが認められる。これによれば、子どもまた、元労働者の介護等のため精神的・肉体的に大きな負担を受けたものと認められる。」


(5) 結論部分
  以上より、元労働者らのY社に対する各請求は、元労働者につき2290万円(及びこれに対する遅延損害金)、子どもにつき110万円(及びこれに対する遅延損害金)の各限度で、認められました。

【弁護士への相談について】

 本判決が示すとおり、石綿肺を発症されている方で、会社での作業によって常時かつ相当量の石綿粉じんにばく露する状況にあったと考えられる場合には、業務に従事したことでアスベストによる健康被害を受けたとして、損害賠償を行うことができる可能性があります。
 また、アスベストによる健康被害を受けた方のご家族の方々におかれましても、介護や各種申請手続等の負担などにより精神的苦痛を受けた場合には、固有の損害を主張することができる場合があります。
 具体的な事案において損賠賠償請求できるか否かについては、個別的・専門的な判断を必要としますので弁護士までご相談ください。

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