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2024.07.24

判例紹介 石綿管を製造する工場で働いていた従業員に対する安全配慮義務違反を認めたうえで、当該従業員の家族であり、被告会社の工場の近隣に居住していた被災者に対しても、会社が一般不法行為上の注意義務を負う場合があるとした事例(さいたま地裁平成23年1月21日判決判例時報2105号75貢)。

水谷 由記

本稿執筆者 水谷 由記(みずにた ゆき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

はじめまして、弁護士の水谷由記です。 一つ一つのご相談に丁寧かつ真摯に対応致します。皆様の心の負担が少しでも軽くなりますよう、お手伝いさせていただきます。 いざ、弁護士に法律相談するとなると、抵抗を感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひお気軽にご相談下さい。

判例紹介 石綿管を製造する工場で働いていた従業員に対する安全配慮義務違反を認めたうえで、当該従業員の家族であり、被告会社の工場の近隣に居住していた被災者に対しても、会社が一般不法行為上の注意義務を負う場合があるとした事例(さいたま地裁平成23年1月21日判決判例時報2105号75貢)。
判決のポイント

①石綿管を製造する被告の工場で働いていた従業員であり、会社での業務が原因で石綿関連疾患にり患し死亡した患者について、会社の安全配慮義務違反を認めたものの、消滅時効が成立しているとしました。

②①の患者の家族であり、会社の工場の近隣に居住していた被災者について一般不法行為上の注意義務を負う場合があることは認めましたが、本件においては会社の義務違反と被災者らの健康被害との間に因果関係を認めがたいとして、患者の家族の請求を棄却しました。


〈目次〉

第1.事案の概要

 1.本件工場における石綿管製造について

 2.Aらの作業期間

 3.Aらの病歴

 4.Xらの居住状況

  (1) X1について

  (2) X2について

 5.Xらの石綿曝露状況

 6.Xらの病歴

第2.主な争点

第3.判決

第4.判旨

 1.被告会社の安全配慮義務の発生時期及び内容について

  (1) 予見可能性について

  (2) 安全配慮義務違反の有無について

 2.石綿に曝露した者と同居していた家族に対する、被告会社の注意義務の発生の有無及び内容について

  (1) 安全配慮義務違反の存否について

  (2) 不法行為責任の有無について

   ア 予見可能性について

   イ X2に対する被告の責任

   ウ X1に対する被告の責任

 3.消滅時効の成否について

第5.検討


第1.事案の概要

 本件は、石綿管を製造する被告会社と雇用契約を締結し、被告会社が管理する石綿管の製造工場(以下、「本件工場」という。)で就労した亡A、亡Bの相続人である原告らが、雇用契約上の安全配慮義務違反を理由に損害賠償金の支払いを求めるとともに、Aらの家族であり、かつ、本件工場の近隣に居住していたX1(亡Aの長男)とX2(亡Aの三男)(以下、併せて「Xら」といいます。)が、Aらが自宅に持ち帰っていた作業着等を介し、あるいは本件工場から排出された石綿粉じんに曝露したことによる健康被害を生じたとして、雇用契約上の安全配慮義務違反ないし不法行為責任を理由に損害賠償金等の支払いを求めた事案です。 なお、本件工場には、亡A、亡Bのほか、亡C(亡Aの次男)も勤務していました(以下、A、B、Cを総称して、「Aら」といいます。)。原告らは、亡Cの死亡慰謝料等は請求していません。

1.本件工場における石綿管製造について
  石綿管とは、セメント、石綿、水を原料として製造されるパイプであり、主として上水道や簡易水道、農業用水、工業用水等の管として使用されていた製品です。
 被告会社における石綿管の製造工程は、①石綿を解綿機によって細かい繊維状にしたのち、セメントと水を混合したうえで、かく拌し、②①の混合液に圧力を加えながら型取りを行い、③養生を行い強度をつけた石綿管を製品規格の長さにするために両端を切断したうえで、石綿管のつなぎ目部分を所定の直径に削るなどというものでした。そして、これらの各作業において、石綿粉じんの発生が不可避であり、Aらは大量の石綿粉じんが発生する作業場で作業を行わなければなりませんでした。


2.Aらの作業期間
  亡Aは、昭和21年3月から昭和49年3月までの約28年間、本件工場で勤務していました。
 亡Bは、昭和23年7月から昭和46年4月までの約23年間、本件工場で勤務していました。
 そして、亡Cは昭和44年1月から昭和61年1月までの約17年間本件工場で勤務していました。


3.Aらの病歴
  亡Aは昭和40年ころから喘息の症状が出始め、昭和50年5月に急性肺炎により死亡しました。Aの死後、平成18年に、医師等の意見を踏まえた調査の結果、亡Aが石綿肺であったと認定されました。
 亡Bは昭和62年1月に肺がんにより死亡しました。Bの死後、亡Bは石綿を吸入しましたことにより肺がんにり患したと認定されました。
 亡Cは昭和60年にじん肺管理区分2の認定を受け、平成17年12月にがん性腹膜炎により死亡しました。Cの死後、石綿による腹膜中皮腫とこれを原因とする腹水が原因で死亡したと認定されました。


4.Xらの居住状況
 (1) X1について
   X1はAの長男として生まれ、出生時から亡Aが被告を退社するまでの約32年間、Aと同居していました。また、亡Cが石綿関連の業務に従事していた期間のうち約13年間、Cと同居していました。そして、X1の自宅は被告の本件工場と5ⅿほどの道路を挟んだところにありました。

 (2) X2について
   X2はAの三男として出生し、亡Aが石綿関連の業務についていた期間のうち約24年間、Aと同居していました。また、亡Cが石綿関連の業務に従事していた期間のうち約7年間をCと同居していました。

5.Xらの石綿曝露状況
  本件工場の敷地内には、旋盤加工職場で出た石綿粉じんや破損した石綿管を置いておく場所があり、風が吹くと山積みにされた石綿粉じんの入った箱から石綿粉じんが舞い上がるという状況でした。
 また、亡Aは毎朝作業着を着用して本件工場に出勤し、仕事後も、工場に設置された風呂に入浴後、石綿粉じんが付着した作業着を着用したまま自宅に帰宅していました。作業で用いたマスクを持ち帰ることも数回ありました。帰宅時の亡Aの作業着は全体に石綿粉じんが付着して真っ白で、作業着は、亡Aが洗濯機を購入するまでは、自宅の廊下に置かれており、その当日又は翌日に、亡Aの妻が手洗いし、洗濯水は、庭にそのまま流していました。洗濯機を購入後は、他の洗い物と一緒に脱衣所の一角に置かれていました。
 また、X1は3歳頃から小学生のころまでの間、本件工場内に立ち入り、遊んでおり、その際、本件工場敷地内に積まれた石綿管に触るなどしたこともありました。


6.Xらの病歴
  X1は、平成20年10月に、胸膜肥厚斑(胸膜プラーク。以下同じ。)、胸膜石灰化と診断されました。
 X2は、平成20年10月に、胸膜肥厚斑と診断されました。


第2.主な争点

 本件の主な争点は、①被告会社の安全配慮義務の発生時期及び内容、②石綿関連業務に従事していた労働者の家族(X1、X2)に対する被告会社の注意義務の発生の有無及び内容③消滅時効の成否です。

第3.判決

 被告の亡Aらに対する安全配慮義務の不履行に基づく債務不履行責任が認められたものの、亡Aと亡Bについては、死亡から10年が経過していることを理由に時効により権利が消滅しているとされ、原告らの請求は棄却されました。
 また、石綿作業に従事している労働者の家族に対して被告の不法行為責任が認められる可能性があるとしたものの、本件においては、被告会社の義務違反は成立せず、原告ら(X1、X2)の健康被害との間に因果関係は認められないと結論付けました。

第4.判旨

1.被告会社の安全配慮義務の発生時期及び内容について
 (1) 予見可能性について
   被告会社が負う安全配慮義務の前提として、労働者の生命及び身体等に危険が発生する恐れがあることについて、使用者に予見可能性があることが必要であるところ、その予見義務の内容は、生命・健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する傷害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきであると判示しました。
 そして、我が国における石綿に関する調査状況及び石綿に関する作業に係る法令の整備状況に照らせば、遅くとも旧じん肺法が制定された昭和35年ころまでには、石綿関連事業の作業員が石綿粉じんに曝露することによりじん肺その他の健康・生命に重大な損害を被る危険性があることについて、被告会社を含む石綿を取り扱う業界にも知見が確立していたものということができ、被告会社においても、遅くとも昭和35年ころまでには、労働者が石綿粉じんに曝露することにより健康被害を生じることについての予見可能性があったとしました。


 (2) 安全配慮義務違反の有無について
   被告会社の安全配慮義務の具体的な内容としては、①定期的な粉じん測定を行い、それに基づいて作業環境状態を評価する、②石綿粉じんの発生・飛散の抑制措置を採る、③労働者にマスクを支給し、着用を指導する、④労働者に対し、じん肺や石綿関連疾患のメカニズム、有害性等に関する教育を行う、⑤じん肺健康診断を実施し、その結果を労働者に通知する、⑥労働者に健康被害が生じるおそれがある場合には、配置転換を行ったり、操業自体を中止するなどの義務があったとしました。そして、被告会社においては、結果回避義務を尽くしたとの証拠がないこと等から、安全配慮義務違反を認めました。

2.石綿に曝露した者と同居していた家族に対する、被告会社の注意義務の発生の有無及び内容について
 (1) 安全配慮義務違反の存否について
   安全配慮義務とは、労働者が労務提供のため設置する場所、設備、若しくは、器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程で、労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮すべき義務をいい、労務提供の過程で使用される作業着等が自宅に持ち帰られることがあるとしても、そのことから直ちに、直接の労働契約の当事者ではない労働者の家族に対する関係でも、労働契約に付随する上記義務が発生すると解することは困難と判断し、被告会社の安全配慮義務違反は認めませんでした。

 (2) 不法行為責任の有無について
  ア 予見可能性について
    被告会社が元従業員らの家族に対して安全配慮義務を負わないとしても、被告会社は、その作業員が作業着やマスクを自宅に持ち帰ることにより従業員の家族が石綿粉じんに曝露することや、本件工場周囲に石綿粉じんが飛散し、また、関係者以外の者が本件工場に立ち入ることにより、近隣住民が石綿粉じんに曝露することなどを回避するよう措置を講ずるべき一般不法行為上の注意義務を負うべき場合があるとしました。
 もっとも、被告会社がこのような義務を負う前提として、労働者の家族や近隣住民に石綿による健康被害が生じる危険性があることについて、その当時、被告会社に予見可能性があったことが必要であり、我が国においては、昭和47年頃より、石綿の間接曝露の危険性について論文が報告されたこと、昭和50年には、法律上、原則として、吹き付け石綿作業が禁止されたこと、昭和51年の通達により、換気中における石綿粉じんの抑制措置として濃度基準が設定されるとともに、石綿業務従事者が作業衣等を家庭に持ち込まないよう指導するものとされ、これにより、被告会社に対しても、同通達に沿った指導がなされたと推認されることなどからすれば、石綿粉じんの間接ばく露による健康被害について、被告会社においてその予見が可能になったのは、昭和51年頃以降であるとしました。


  イ X2に対する被告の責任
    X2については、昭和51年以前に間接ばく露したと主張していることから、被告会社に予見可能性がなく、注意義務違反は認められないとしました。

  ウ X1に対する被告の責任
    本件工場においては、石綿粉じんの周囲への飛散や家庭内への持ち込みを防止するための十分な措置が講じられていたとは認めがたいこと、X1ら以外の本件工場の労働者の家族にも胸膜肥厚斑の所見が認められた例が少なからず存在することなどからすれば、X1の胸膜肥厚斑が本件工場から排出された石綿粉じんに曝露したことによって発生したものである可能性は否定しきれないとしながらも、昭和52年以降は、被告会社において、石綿粉じん飛散防止のための一定の措置(集じん機の設置等)が講じられていたことからすれば、一般不法行為上の注意義務に直ちに違反したとは言い難く、X1の胸膜肥厚斑と当該注意義務違反との因果関係を直ちに認めることは困難とし、また、胸膜肥厚斑の所見が認められても、胸膜肥厚斑の所見が認められること自体を損害とするのは認め難いとして、X1の請求を棄却しました。

3.消滅時効の成否について
  本件においては、亡A・亡Bについては死亡時から10年以上経過していたことから、原告らは、消滅時効の起算点について、行政の調査の結果、本件元従業員らが本件工場での石綿曝露により死亡したことが明らかになった時点、本件で言うと、死亡時ではなく特別遺族給付金の支給決定がなされた時点であると主張しましたが、判決では、「債務不履行に基づく損害賠償請求権は、権利として成立すればこれを行使する上での法律上の障害はないから、その成立時が消滅時効の起算点になるのであって、権利を行使し得ることを権利者が知らなかった等の事実上の障害は時効の進 行を妨げることにはならないというべきである。」として、原告らの主張を受け入れませんでした。
 また、原告らは、被告会社が消滅時効を援用したことについて、被告会社が石綿被害の危険性を労働者に周知等しなかったこと、原告らにおいて調査が事実上不可能であったこと、被害が甚大であることなどを理由として、消滅時効を援用することは権利の濫用に当たり許されない旨主張しましたが、裁判所は、「損害賠償請求権の消滅時効の援用が権利の濫用に当たるのは、債権者が、訴え提起その他権利行使や時効中断のための措置を講じることを債務者が妨害等したなど、債務者が消滅時効を援用することが時効援用権について社会的に許容された限界を逸脱するものとみられる場合に限られ、単に、時効にかかる損害賠償請求権の発生原因が悪質であったことや権利侵害が甚大であったことは、時効援用権の行使が濫用に当たることを基礎付ける事実とはならないものといわざるを得ない。」と判断し、本件においては、被告会社が原告らの訴訟提起を妨害したとの事実は認められないこと等を理由に、権利濫用を認めませんでした。


第5.検討

 裁判所は、被告会社での石綿関連業務の内容及びAらの作業内容等を考慮して、Aらが石綿粉じんに曝露し、それにより石綿関連疾患にり患したと認定しました。そして、亡Aらに対し、少なくとも昭和35年以降は被告会社の安全配慮義務違反が認められると判示しました。
 また、本件では被告会社に責任は認められなかったものの、工場労働者の家族らに対して、会社が賠償責任を負う場合があると判示しました。
加えて、消滅時効においては、本件は、石綿関連疾患による死亡後に行政上の認定が認められたケースでしたが、時効の起算点は死亡時点とされ、単に、時効にかかる損害賠償請求権の発生原因が悪質であったことや権利侵害が甚大であったことは、時効援用権の行使が濫用に当たることを基礎付ける事実とはならないと判示しました。
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