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2022.11.22

裁判例紹介 X塗装工業事件(大阪地判平成27年4月15日)

坂根 健

本稿執筆者 坂根 健(さかね けん)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

静岡県立浜松北高等学校 卒業
中央大学法学部法律学科 卒業
東京大学法科大学院 修了

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裁判例紹介 X塗装工業事件(大阪地判平成27年4月15日)
裁判例のポイント

・亡患者(元労働者)は約47年間、新築工事現場、及び改修工事現場において内装塗装業に従事していました。

・Y社(被告)の作業現場には石綿粉じんが飛散しており、亡元労働者がそれを長きにわたって吸引し続けたことが認められるとして、Y社における塗装作業と亡元労働者の肺疾患との因果関係を認めました。その上で、石綿じん肺の知見の時期を昭和35年として、昭和35年以降にはY社に安全配慮義務違反があるとされました。

・元労働者は間質性肺炎に罹患し死亡してしまいましたが、元労働者の遺族によるY社に対する請求のうち約3522万円の損害賠償義務があると認められました。



〈目次〉

1.事案の概要

2.主な争点

3.判旨



1.事案の概要

 建築塗装会社であるY社において塗装工として約47年間勤務した元労働者が、間質性肺炎にり患して死亡した事案において、元労働者は上記勤務により石綿肺に罹患し(胸膜プラークあり)たといえ、そして、Y社には同塗装工に対し石綿粉じんのばく露による健康被害防止措置を講じなかったこと等につき安全配慮義務違反があるとして、遺族(妻)がY社を被告として損害賠償責任を追及した事案です。

(1) 元労働者の勤務歴、内装塗装作業について
  元労働者は、昭和26年6月から平成10年6月までの約47年間、Y社の従業員(塗装工)として建築現場において内装の塗装作業等に従事していました。この間における、元労働者の具体的な作業状況は以下のとおりです。

 ①昭和26年(入社時)から昭和58年:新築工事現場、改修工事現場双方で従事  ②昭和58年:百貨店の特定店舗における内装工事の責任者に就任  ③昭和58年以降:上記百貨店店舗の塗り替え作業に専従

  新築工事現場における内装塗装作業は、基礎工事及び建物の躯体工事が終わり、内装工事の仕上げの段階で行われ、その工程には、下地調整作業(電動工具等を用いて、モルタル壁やボード壁といった素地の表面を平滑にする作業)、シーラー塗り作業及び塗装塗り作業があります。このシーラー塗り作業や塗料塗り作業の際には、塗装面をきれいにするため、それ以前の工程で発生した粉じんやほこりを刷毛等で取り除く必要がありました。
 また、塗り替え作業の場合は、下地調整作業において、前記作業工程に加えて、従前の塗料を取り除く作業が必要となる場合がありました。


(2) 元労働者の病歴等   元労働者は、石綿粉じんのばく露による体調の悪化により塗装工を続けることが難しくなったことから、平成10年6月30日,被告を依願退職し、その後、乙内科に通院するようになりました。なお、元労働者は,少なくとも昭和41年頃から平成11年頃までの約33年間にわたり、1日当たり20本程度喫煙していました。
 元労働者は、平成13年の冬、乙内科から,丙病院を紹介され、同病院での精密検査の結果、間質性肺炎との診断を受けました。
 その後、元労働者は、平成14年8月2日に呼吸が困難になり、甲病院に緊急入院し、元労働者を検診した甲病院呼吸器内科の担当医師は、胸部CT上,左右下肺野に優位に分布する網状影を認め、かつ、壁側・臓側胸膜の肥厚と石灰化(胸膜プラーク)が後背部に多く存在したこと、血清学的に膠原病を思わせる特異的所見がないこと、職歴にて約50年前より建物専門の塗装業に従事していたこと、特異な胸膜肥厚および石灰化が認められたことから、石綿ばく露が原因の肺線維症、すなわち石綿肺であると診断しました。
 元労働者は、平成14年9月14日に甲病院を退院し、乙内科での治療を続けたものの、平成15年3月11日,呼吸が困難になり甲病院に再入院し,同年6月17日、間質性肺炎により死去しました。


(3) 特別遺族年金の認定について   原告は、平成21年1月6日頃、労働基準監督署から、元労働者の死亡原因が石綿による健康被害の救済に関する法律(以下「石綿救済法」といいます。)に該当する指定疾病である石綿肺であると認められ、平成21年2月から平成26年8月までに、石綿救済法に基づく特別遺族年金として、合計1352万5000円を受領しました。

(4) 主なY社の反論   Y社は、Y社の現場で取り扱っていた塗料は、石綿含有のものではなかったとY社の現場一般における石綿粉じんの飛散を否定しました。そして、元労働者が昭和58年以前に従事したのは、主に改修工事現場での塗り替え作業であり、他の作業工程を全く伴わない作業であった上、元労働者が同年からほぼ専従した百貨店の特定店舗での内装工事も、他の作業工程を伴わない壁の塗り替え作業であったことから、元労働者がY社において従事した具体的な作業について、いずれも、石綿粉じんを大量に、かつ長期間にわたって吸入するおそれのあるものではなかったと反論しました。
 また、元労働者の死亡との因果関係についても、胸膜の異常の原因が間質性肺炎の原因と一致するとは限らないところ、元労働者には、少なくとも33年間に及ぶ1日20本程度の喫煙歴など間質性肺炎発症の様々な他原因が考えらるため、因果関係は立証されていないと反論をしました。
 そして、Y社に安全配慮義務違反があったか否かという点について、①Y社は、塗装工に対し、創業当初から、石綿粉じんの体内侵襲を防ぐことはできないものの、防じん用マスクを配付し、清掃(一斉清掃)や下地調整作業等、ごく微量であってもほこりが舞うような状況では、これを着用するよう指導していたこと、②法令上、平成24年時点においてすら、石綿除去という極めて石綿ばく露の危険性が高い現場における作業であっても、石綿除去等以外の作業では、石綿の体内侵襲を防げない使い捨て防じん用マスクの備付けで足りるとされているのであるから、石綿除去現場とは比べられないほど石綿ばく露の危険性の低い内装塗装現場においては、その程度のマスクの備付けで十分であったこと、以上の2点を理由に、Y社に安全配慮義務違反はないと反論しました。


2.主な争点

 本判決における主な争点は、①元労働者の石綿粉じんばく露の有無及び死亡との因果関係、②Y社の安全配慮義務違反の有無です。

3.判旨

(1)元労働者の石綿粉じんばく露の状況について
  本判決は、争点①について、元労働者が従事した塗装工としての具体的な作業内容を認定し、元労働者が石綿粉じんにばく露した可能性があると判示しました。具体的には、以下のとおり、塗装工としての作業内容と元労働者の石綿粉じんばく露状況を次のように認定しています。(()内は筆者が追記)
「a 塗装作業は、下地調整作業、シーラー塗り作業、塗装塗り作業の順に行われるところ、下地調整作業においては、手触りを良くするため、サンドペーパーや電動のオービタルサンダー等を用いて、塗装面にある細かい凹凸をできる限りなくす作業や、パテでボード壁にあるボードとボードのつなぎ目の隙間を埋めた上、サンドペーパー等を用いて表面を平滑にする作業が行われた。また、改修工事現場における塗装作業(塗り替え作業)では、前記作業に加えて、従前の塗料にネオリバーを塗って、へらでこそげ落とす作業が行われた。これらのサンドペーパー、へら等を用いた下地調整作業の際には、モルタル、ボード及びパテ等の細かい粉じんが発生した。また、シーラー塗り作業や塗料塗り作業の際には、塗装面に付着した粉じんやほこりをはけ等で取り除く作業が行われ、その際にも、細かい粉じんやほこり等が舞うことがあった。さらに、新築工事現場では、1週間に1回、一斉清掃(塗装作業のフロア等、指定されたフロアをほうきで掃いてごみを集めるもの)をすることが通例であり、その際、塗装作業前の工程で発生した粉じんやほこりが舞うこともあった。Y社は、塗装作業の際、このように細かい粉じんやほこりが舞うことを認識し、塗装工に対し、防じんマスク(スポンジマスクや紙マスク)を支給していたものの、そのマスクには、石綿粉じんのばく露を防ぐ効果はなかった。なお、Y社は、支給した防じんマスクの着用を個々の塗装工の判断に委ねていたところ、元労働者は、粉じんやほこりを気にして、この防じんマスクをまめに着用していた。
b (Y社における)新築工事現場における塗装工事は、基礎工事及び建物の躯体の工事が終わり、内装工事の仕上げをする段階で行われた。例えば、ビルやマンションの新築工事の場合、フロアごとに工程が管理されており、塗装工があるフロアで塗装工事を行うのと同時並行で、別のフロアで別職種の者が内装工事を行ったり、耐火被覆の吹き付けを行ったりすることがあった。また、作業現場によっては、工期が詰まった突貫工事となることがあり、その場合、塗装工が塗装作業を行っているのと同じフロアの目に見える範囲で、ボード貼りやモルタル塗り等の作業等が行われる場合もあった。」

  このように裁判所は、塗装工、とりわけ新築改修工事における塗装工が行う作業を具体的に指摘しながら、石綿粉じんのばく露状況を認定しています。そして、裁判所は、「(以上の事実に鑑みれば、)元労働者は、昭和26年6月から平成10年6月までの約47年間にわたり、Y社の塗装工として、Y社の塗装現場において塗装作業に従事したこと、塗装作業の際には、石綿を含むモルタル、ボード、塗料等の粉じんにばく露した可能性があること、元労働者の左右下肺野には胸膜プラークが認められるところ、胸膜プラークは我が国においては専ら石綿粉じんへのばく露に起因するものであることから、Y社の作業現場には石綿粉じんが飛散しており、元労働者がそれを長年にわたって吸引し続けたことが認められる。上のとおり、電気工は、天井内の配管、配線作業、貫通部分の耐火被覆作業、照明器具の取り付け、ボックス出し作業において、大量の石綿粉じんを吸い込むことを余儀なくされたのである。」と結論付けています。


(2)Y社の元労働者に対する安全配慮義務の有無について
  本判決は、争点②について、石綿粉じん被害認知の歴史的背景に言及した上で、安全配慮義務が認められる時点について確定しました。具体的には、まず一般論として、安全配慮義務についての規範を述べた後、次のように述べて、遅くとも昭和35年の時点でアスベスト被害について認識できたものであったとして、Y社にはアスベスト粉じんばく露を防ぐための安全配慮義務があったと示しました。
 「昭和5年前後には、石綿ばく露と石綿肺に関する欧米の知見が我が国にも紹介され、昭和12年から昭和15年にかけて石綿肺に関する本格的な調査が実施され、石綿工場の労働者の相当数に異常所見が見られるとともに、勤続年数が長期になるほど石綿肺の発症率が高くなる旨の結果が得られ、昭和20年から昭和34年にかけてけい肺のみならず石綿肺に対する対策が必要であると認識されるに至り、昭和35年には、石綿も規制対象とする旧じん肺法が制定され、石綿を吹き付けたり、石綿製品を切断、研磨したりする場所における作業が規制対象とされたというのである。そして、Y社の塗装工は、サンドペーパー等を用いた下地調整の際、モルタル、ボード及びパテ等の細かい粉じんを発生させており、また、Y社の塗装現場では、塗装作業と同時並行で、別フロアで耐火被覆の吹き付けが行われたり、内装工事が行われたりすることもあったというのであるから、Y社は、昭和35年には、石綿を含む粉じんが人の生命、身体に重大な障害を与える危険性があること、及びY社の塗装工が石綿粉じんにばく露して、生命、身体に重大な障害が生じる可能性があることを十分に認識でき、また認識すべきであったと認められる。そうすると、Y社には、同年以降、Y社の塗装工が石綿粉じんを吸入しないようにするための措置を講じるべき安全配慮義務があった。」
 そして、Y社が負っていた安全配慮義務の具体的内容について、「Y社は、同年(昭和35年)以降、安全配慮義務の具体的内容として、①石綿粉じんの生じる作業とそうでない作業を隔離するなどして可能な限り塗装工が石綿粉じんに接触する機会を減少できるような作業環境を構築するとともに、塗装工の作業場に堆積した粉じん等が飛散しないように撒水等をする設備ないし態勢を整える義務、②粉じんの飛散するおそれのある場所で作業する塗装工が石綿粉じんを吸入しないように、塗装工に対して石綿粉じんの吸引防止効果のある粉じんマスクを支給し、その着用を指示指導する義務、③塗装工に対し、健康診断を実施したり、石綿粉じんの危険性を認識させるための必要な安全教育を実施したりして、同人の健康を管理する義務を負っていたというべきである。」と示しました。
 さらに、本判決では、具体的な義務違反と考えられる次のような事実を認定し、Y社に元労働者に対する安全配慮義務違反があったことを認定しています。
 「①石綿粉じんの生じる作業とそうでない作業を隔離するなどして、可能な限り元労働者が石綿粉じんに接触する機会を減少できるような作業環境を構築すること、及び、元労働者の作業場に堆積した粉じん等が飛散しないように撒水等をする設備ないし態勢を整えること、②元労働者に対して石綿粉じんへのばく露を防止する効果のある防じんマスクの着用を徹底させること、③元労働者に対して石綿粉じんばく露に関する健康診断を実施したり、石綿粉じんの危険性を認識させるための必要な安全教育をしたりしたことを認めることはできず、Y社は、元労働者に対し、石綿粉じんに関する対策を何ら講じなかったことが認められるから、Y社は昭和35年以降には安全配慮義務に違反していたというべきである。」
 なお、以上のようにY社の安全配慮義務違反を認定した後で、石綿肺が一定以上の高濃度の石綿累積ばく露がなければ発症しないものであることに加え、本件において、元労働者が一定量の石綿粉じんを継続的に長期間ばく露し続けたものと推認されることに鑑み、元労働者は、昭和35年以前の石綿粉じんばく露と同年以後の石綿粉じんばく露とが競合して、石綿肺にり患し死亡したものと認められるとし、したがって、Y社の昭和35年以降の安全配慮義務違反と元労働者の死亡との間の因果関係は認められると判断しました。


(3)結論部分
  本判決は、元労働者がアスベストにばく露したこと、Y社の元労働者に対する安全配慮義務違反、及び当該義務違反と元労働者の死亡に対する因果関係を認め、元労働者の遺族によるY社に対する請求のうち、合計約3522万円及びこれに対する遅延損害金の損害賠償請求を認容しました。

【弁護士への相談について】

 本判決が示すとおり、建築現場で塗装工として塗装業務に従事していた方でアスベストによる健康被害を受けた方についても損害賠償を行うことができる場合があります。
 また、塗装作業従事者が、企業に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求(民事訴訟)を提起した場合、昭和35年以降の作業に関しては、アスベスト粉じんばく露を防止することを目的とした企業側の安全配慮義務が認められ、かかる安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求ができる可能性があります。
 具体的な事案において損賠賠償請求できるか否かについては、個別的・専門的な判断を必要としますので弁護士までご相談ください。

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