まずはお気軽にお電話でお問い合わせ!

0120-003-897

<平日9~19時 土日10~18時>

アスベスト情報

トップ > アスベスト情報 > 勤め先企業・元請け企業に対する安全配慮義務違反に基づく請求について

2020.08.06

勤め先企業・元請け企業に対する安全配慮義務違反に基づく請求について

稲元 祥子

本稿執筆者 稲元 祥子(いなもと しょうこ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

聖心女子学院高等科 卒業
聖心女子大学文学部国際交流専攻 卒業
東京大学法科大学院 修了

全ての事案に全力で臨み、依頼者の方にとって最善の道を模索していけるよう取り組んでまいります。

勤め先企業・元請け企業に対する安全配慮義務違反に基づく請求について
【ポイント】
  • アスベスト関連疾病に関する損害の補填については、労災保険制度による給付や、救済法に基づく給付申請を行う方法のほか、雇用主や元請会社に対して、安全配慮義務を果たしていなかったとして損害賠償を求める方法がある。
  • 安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、原則として「権利を行使することができる時から10年間」となる。

目次

第1 はじめに
第2 企業に対する損害賠償請求の方法
第3 安全配慮義務について
  1 安全配慮義務とは
  2 労働契約関係における安全配慮義務
  3 元請・下請関係の安全配慮義務
  4 安全配慮義務違反が認められるための条件
第4 労基法上の災害補償や労災保険法による労災保険給付との関係
第5 消滅時効
  1 消滅時効の起算点
  2 民法改正との関係
第6 おわりに

第1 はじめに

 業務に関連してアスベスト疾病にり患した患者やその遺族は、労災保険や救済法による給付等を請求できるほか、勤務先の企業等に対して、安全配慮義務違反を理由とした損害賠償請求を行うことで、企業から一定の賠償を得られる場合があります。

第2 企業に対する損害賠償の請求方法

 業務上アスベスト関連疾患にり患した患者は、勤務先の企業等に対して、以下の2つの方法により損害賠償を請求できる可能性があります。
 ①不法行為に基づく損害賠償請求
  →故意・過失によって生じた損害に関する賠償請求
 ②債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求
  →履行すべき義務を果たさなかったことによって生じた損害に関する賠償請求

 2020年4月に民法が改正されましたが、改正前の民法においては、①不法行為に基づく損害賠償請求権は、通常、②債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求権よりも早く消滅時効期間が経過していました(詳細は第5の2を参照)。
 そのため、アスベスト関連疾病に関する損害について企業に対して請求を行う場合、一般的には②債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求の方法が用いられてきました。
 そこで、本記事では、②債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求について記載します。

第3 安全配慮義務違反について

1 安全配慮義務とは
 「安全配慮義務」という考え方は、昭和50年の最高裁判決によって最初に確立されました。
 同判決は、公務員(自衛隊員)が死亡したことについて国に対して損害賠償請求が行われた事案において、国が公務員に対して、安全配慮義務、すなわち、「国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務」を負うことを認めました。
 その中で、同判決は、「安全配慮義務」について、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」という定義付けを行っています(最三判昭和50年2月25日民集29巻2号143頁)。

2 労働契約関係における安全配慮義務
 上記昭和50年最高裁判決は「国 対 公務員」の事案でしたが、その後、従業員から勤務先企業に対する損害賠償請求の事案において、昭和59年の最高裁判決は、以下のように判示しています(最三判昭和59年4月10日民集38巻6号557頁)。
 通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもない
 すなわち、労働契約関係に基づいて使用者がその従業員に対して負う安全配慮義務について、労働者が労務を提供するに際に「労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」であるとした上で、使用者が負う義務の具体的な内容については、各事案の詳細に即して判断されると判示しました。
 上記のような判例も踏まえ、労働契約関係における安全配慮義務、すなわち、使用者がその従業員に対して負う安全配慮義務については、労働契約法において明文化されました。
労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮) 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

3 元請・下請関係の安全配慮義務
 1で紹介した昭和50年の最高裁判決の定義によれば、安全配慮義務は、労働契約関係に限らず、「特別な社会的接触の関係」に入った当事者において認められる義務となります。
 そのため、元請企業について、直接の労働契約関係にはない下請企業の従業員に対する安全配慮義務違反を認めた最高裁判決も出現しました(最一小判平成3年4月11日集民162号295頁)。
 同判決においては、以下のように判示し、元請企業の安全配慮義務違反を認めています。
 上告人の下請企業の労働者が上告人の神戸造船所で労務の提供をするに当たっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対して安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
 また、その他の下級審判決(東京高判平成13年10月23日判時1768号138頁、東京地判平成22年3月19日判タ1335号152頁)においても、元請企業の下請企業の従業員に対する安全配慮義務違反について、両者間の実際の指揮命令関係等に鑑みて、雇用関係に準ずるような特別な社会的接触関係にあったか否かが判断されています。
 そのため、常に元請企業に下請企業の従業員に対する安全配慮義務が認められるわけではありませんが、元請企業・下請企業の従業員間に、雇用契約に近い関係がある場合には、直接の労働契約関係にないとしても、元請企業に安全配慮義務が認められる可能性があります。

4 安全配慮義務違反が認められるための条件
 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を行う際には、まずは原告の側が、安全配慮義務違反の具体的な内容を特定した上で、相手方が当該安全配慮義務を果たさなかったことにより生命・健康等が侵害されたことを立証する必要があります(最二小判昭和56年2月16日民集35巻1号56頁)。
 したがって、アスベスト関連疾病による健康被害に関しては、アスベスト関連疾病による健康被害を受けている患者又はその遺族が、具体的な事案に即して、企業が果たすべきであった安全配慮義務の内容(石綿粉じんの発生の防止措置、発生した石綿粉じんの飛散防止措置、防塵マスク等の保護具の支給、安全教育や健康診断の実施等。参照元:水町勇一郎著「詳解 労働法」一般財団法人東京大学出版会、2019年9月、817頁参照。)を明らかにした上で、企業がそのような措置を取っていなかったこと、そのためにアスベスト関連疾病にり患したこと等を、証拠に基づいて主張立証することになります。
 さらに、元請企業に対する請求においては、元請企業との間に、雇用契約に準ずるような指揮命令関係等があったことも主張立証しなければなりません。

第4 労基法上の災害補償や労災保険法による労災保険給付との関係

 アスベスト関連疾病にり患した患者が労働者(従業員)であった場合には、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求のほか、労働基準法(以下「労基法」といいます。)に基づく災害補償や、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)に基づく労災保険給付の申請も行うことが考えられます。そのため、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償・労基法に基づく災害補償・労災保険法に基づく労災保険給付の額の調整を行う必要が生じます。

 この点、まず、使用者の労基法に基づく災害補償義務は、労災保険法に基づく労災保険給付が行われた場合には免除されます(労基法第84条第1項)。
その上で、労基法第84条第2項において、「使用者は、この法律による補償を行った場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる」と規定されています。同規定は、労基法に基づく災害補償に関する規定ですが、労災保険法に基づく労災保険給付についても、同条項が類推適用されると考えられています。
 そのため、労働者が労基法に基づく災害補償や労災保険法に基づく労災保険給付を受けた額を限度として、使用者(企業)は、補償や給付を受けた事由と同一の事由について、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償義務を免れることになります。
 ただし、上記の災害補償や労災保険給付は、財産的損害の一部を填補する趣旨で支給されるため、災害補償や労災保険給付の対象とならない財産的損害や慰謝料等の賠償額から、災害補償や労災保険給付の額を控除することは認められません。
(参照元:水町勇一郎著「詳解 労働法」一般財団法人東京大学出版会、2019年9月、809頁・荒木尚志著「労働法<第3版>」株式会社有斐閣、2016年11月、262~264頁)。

第5 消滅時効

1 消滅時効の起算点
 2で述べるとおり、2020年4月に改正民法が施行され、消滅時効に関する規定にも変更が生じました。しかし、経過措置により、アスベスト関連疾病に関する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求権については、原則として、改正前の民法が適用されることになります。
 改正前民法によると、安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求権の消滅時効は「権利を行使することができる時から10年間」となります。
 そこで、「権利を行使することができる時」がどの時点を指すのかが問題となります。
この点、最高裁判決は、じん肺にり患した労働者から安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が行われた事案について、じん肺の症状は徐々に進行することや、進行の速度や程度は患者毎に多様であることに鑑みて、消滅時効は、じん肺法所定の管理区分についての「最終の行政上の決定」を受けたときから進行すると解されると判示しました(最三判平成6年2月22日民集48巻2号441頁)。一方、じん肺によって患者が死亡するに至った場合については、最終の行政上の決定を受けたときではなく、死亡のときが消滅時効の起算点になると解される旨が判示されました(最三判平成16年4月27日集民214号119頁)。
 もっとも、一度も行政上の決定(じん肺管理区分等)を受けていない場合等については、判例上判断基準が示されていないため、消滅時効が成立するか否かについては、各事案について、個別具体的な事情に応じた検討が必要となります。

2 民法改正との関係
 2で述べたとおり、民法改正前は、安全配慮義務違反(債務不履行)を理由とする損害賠償請求権の消滅時効期間は「権利を行使することができる時から10年間」とされていました。  一方、2020年4月に施行された改正後民法では、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権」の消滅時効は「権利を行使することができることを知ったときから5年間」または「権利を行使することができる時から20年間」のいずれか早い時点で成立することとなりました。
 そのため、改正後民法に基づいた場合、最短5年で消滅時効が成立します。
 もっとも、民法改正の経過措置により、「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。」(附則第10条第4項)とされているため、債権発生の原因行為が施行日前に行われていれば、改正前民法が適用され、消滅時効期間は「権利を行使することができる時から10年間」となります。
 この点、労働者から使用者(勤務先)に対する安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求の事案については、「債務の発生原因である法律行為」は「雇用契約」であり、施行日(2020年4月1日)前に雇用契約が締結されている場合には、改正前民法が適用されると解されます。
(参照元:法務省:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について経過措置に関する説明資料.4頁目(最終アクセス日:2020年7月1日))  アスベスト関連疾病に関して安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を行う場合、原則として2020年4月1日以前に雇用契約等が締結されているはずですので、消滅時効期間については、改正前民法の規定(権利を行使することができる時から10年間)が適用されると考えられます。

第6 おわりに

 企業が補償金制度を設けている場合や、交渉で任意の支払いに応じる場合を除き、企業に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を求めるためには、訴訟を提起する必要があります。訴訟において妥当な判決を得るためには、事実の精査、必要な証拠の収集や法律的に効果的な主張の組み立てが必要となります。
 また、交渉段階でも、専門家である弁護士が関与することで、企業に対して説得的な主張を行い、企業の支払額を増額できる可能性がありますので、訴訟提起については迷っているものの、企業との交渉は行いたいという方も、弊所までお気軽にご相談ください。
 もっとも、消滅時効との関係から、アスベスト関連疾病を発症された時点や、患者様がお亡くなりになられた時点から10年近く経過していらっしゃる場合には、早めのご相談をお勧めいたします。
以上
一覧に戻る

ASCOPEでは、

1

工場型アスベスト被害

2

建設型アスベスト被害

これらに限定されず、業務上に起因してアスベスト被害を受けた方々
(及びご遺族の方)のご相談を幅広く受け付けております。
お気軽にお問い合わせください。

まずはフリーダイヤル、
LINE、メールにて、
お気軽にお問い合わせください。

まずはお気軽に
お電話で資料請求!

<平日9時~19時 土日10時~18時>

0120-003-897

0120-003-897

お問合せはLINEが便利です

QRコードを読み込んで簡単、
法律事務所ASCOPEを友達追加しよう

「友だち追加」ボタンを
タップ頂くことでご登録頂けます。

メールでの
お問い合わせはこちら