本稿執筆者
川島 孝紀(かわしま たかのり)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
浦和高等学校 卒業
明治大学法学部 卒業
早稲田大学大学院法務研究科 修了
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〈目次〉
1.塗装工の作業内容と石綿ばく露の関係性
2.使用された可能性のある建材
3.利用可能性のある救済制度等
1.塗装工の作業内容と石綿ばく露の関係性
そして、塗装工は、裁判例(※1)上、以下のような作業において石綿にばく露する可能性があったとされています。
塗装工は、塗装する前に、ボードの継ぎ目にパテを塗り込み、これが乾燥した後、下地の凹凸をなくし平坦にするための下地調整作業としてモルタルやボードのサンダーがけを行いますが、その際に、モルタル等から粉じんが発生し、モルタルやボードに石綿が含有されている場合には、石綿粉じんに曝露する可能性があります。そして、鉄骨造建築物においては、吹付け石綿を剥がして塗装を行う場合があり、このときに発生する石綿粉じんに曝露する可能性があります。
また、塗装工は、他の職種の建設作業従事者と同時に作業をすることがあり、その際には、他職種の作業によって発生した石綿粉じんにばく露する可能性もあります。
さらに、塗装工は、清掃の際、床に堆積している石綿粉じんにばく露する可能性があります。
(※1)東京高裁平成30年3月14日判決民集75巻6号2347頁
2.使用された可能性のある建材
裁判例(※2)上、塗装工が直接取り扱った建材について具体的に認定されていませんが、上記1での説明のように、塗装工は、建物の天井や内壁、外壁の仕上げに塗料を塗る作業の前提として、モルタルやボードのサンダーがけ(研磨)を行いますが、その際にモルタル等から粉じんが発生し、モルタルやボードに石綿が含有されている場合には、石綿粉じんにばく露する可能性があるため、以下の建材が石綿ばく露の原因となる可能性が考えられます。
(※2)京都地裁平成28年1月29日判決判タ1428号101頁
(1)石綿含有スレートボード・フレキシブル板
スレートボードの代表的な製品で、高い強度、靱性及び防火性を有し、外装材としては軒天井への、内装材としては火気を用いる可能性又は高湿度となる可能性のある部屋、例えば、浴室、台所などに使用されることが多かったものです。
(2)石綿含有スレートボード・平板
スレートボードの普及品であり、軽量かつ防火性を有しますが、加工性は高くありませんでした。素材のまま使用されるほか、塗装下地、パネルの表面材及び化粧板の基材としての用途があり、外装材として軒天井に、内装材として壁及び天井に使用されました。大平板と呼ばれることもありました。
(3)石綿含有スレートボード・軟質板
加工性をよくして釘の打ち直し、直打ち及び筋折りなどができるようにした製品ですが、湿度による伸縮性があるため外装材には適さず、専ら浴室及び洗面所を除く内装材として使用されました。
(4)石綿含有スレートボード・軟質フレキシブル板
化粧加工用に開発された材料で、加工性に優れており、化粧板メーカーが加工して製品化する際の基材として、メーカーに対して卸されたものが多くありました。耐水性等を付与した製品は軒天井などの外装材として、その他は内装材として使用され、吸音効果のために穴を開けた製品は、部屋の壁や天井にも使用されました。
(5)その他の石綿含有建材
上記4種類に該当しない、種々のスレートボード等が含まれる区分です。
ア.石綿含有スラグせっこう板
スラグや石膏などの主原料と繊維を混合して成形した、加工性のよい製品であり、表層材の種類によって住宅などの内装、外装及び軒天井など様々に使用されているが、居室内装工事の仕上げ材として用いられるものが多くありました。
イ.石綿含有パルプセメント板
防火板とも呼ばれ、セメント、パルプ及びパーライトなどの無機質混合材を主原料とし、波状に成形したもので、防火性、遮音性及び吸音性があり、軽量で加工性に優れていました。耐水性が低いため、主に内装材として使用されますが、外装材に使用される例もありました。
ウ.石綿含有押出成形セメント板
中高層のS造建物における外壁及び間仕切り壁などに用いる材料で、セメント、けい酸質原料及び繊維質原料を、中空を有する板状に押し出し成形し、オートクレープ養生したパネルをいいます。
エ.石綿含有けい酸カルシウム板第1種
石灰質原料、けいそう土などけい酸質原料及び石綿が主原料で、スレート板に比べて軽く、加工性、断熱性に優れており、一般的な建物の天井、壁、軒天井、耐火間仕切り壁などに使用されました。
オ.石綿含有ロックウール吸音天井板
人工繊維であるロックウールを主原料に結合材及び混和剤などを混ぜて成形した製品であり、表面に穴が開いている特徴があるため、吸音性及び断熱性があり、様々な場所に広く使用されました。
カ.石綿含有せっこうボード
石膏を芯として、両面及び側面をボード用原紙で被覆し、板状に成形した製品であり、防火・耐火性、断熱性、遮音性及び寸法安定性を有し、天井、壁などに大量に使用されました。「ラスボード」「プラスターボード」「ジプトーン」などと呼ばれることもありました。
キ.石綿含有パーライト板
石綿含有パーライト板は、セメント及びパーライトを混合して成形した製品で、軽量である上に防水性、断熱性及び吸音性があり、天井や壁の下地材として使用されました。
ク.その他の石綿含有パネル・ボード
石綿、セメント、けい酸カルシウム、石膏、パーライトなどの他、炭酸カルシウム等様々なものを混合した製品で、素材のまま、あるいは塗装又はセラミック加工を施すなどして、内壁や天井など様々な箇所に使用されました。パネルは、他の種類のボードや鋼板、木材などを貼り合わせて一体化させたもので、主に外壁及び室内の壁に用いられました。
ケ.石綿含有壁紙
石綿紙にビニルフィルムを合わせたもので、火気を使用する場所並びに避難階段及びエレベーターホールの壁・天井などにも使用されました。
コ.混和剤
滑らかなモルタルの塗り付けを可能にし、左官作業の作業性を向上させるためにモルタルセメントに混ぜる乾燥粉末のことで、モルタルをこねる左官が取り扱いました。職人によっては、「テーリング材」と呼ぶ方もいたようです。
3.利用可能性のある救済制度等
上記2で説明したような石綿含有建材が使用された建設現場において、塗装工の職務に従事し、石綿にばく露した結果、石綿関連疾患を発症してしまった方については、①労災制度による補償、②石綿健康被害救済制度(石綿救済法)による給付が考えられるほか、③国に対する損害賠償請求、④建設アスベスト給付金制度による国に対する請求、また、⑤使用者(又は一定の要件を満たす元請企業)や⑥建材メーカーに対する損害賠償請求などの手続を利用が検討されます。
【弁護士への相談について】
塗装工がどのような作業、建材が原因となってアスベストにばく露したのかがお分かりいただけたかと思います。
どのような作業を行っていたかはアスベスト被害救済の観点から重要といえますので、特に、ご遺族がアスベスト被害救済についてご検討の際には、救済の対象となると考えられるご家族が建設現場でどのような作業をされていたのか一度整理しておかれると良いでしょう。
また、詳細が分からない場合であっても、お気軽に弁護士までご相談ください。どのような救済が受けられるのか一緒にご検討させていただきます。