本稿執筆者
小林 一樹(こばやし かずき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
新宿高等学校 卒業
青山学院大学法学部 卒業
青山学院大学法科大学院 修了
私が法律家として常に心がけていることは、人の気持ちを大切にするということです。問題を根本的に解決するために、法律のみならず、紛争でお困りの方の抱える思いについてもフォローできるよう日々精進して参ります。
〈目次〉
1 はじめに
2 大工仕事に関する一般的な作業内容と石綿暴露との関係について
3 石綿粉じんに暴露した可能性のある大工作業とその作業で使用された可能性のある石綿含有建材について
(1) 大工作業において石綿粉じんに暴露する可能性があるとされる石綿含有建材の例
(2) 裁判例において認定された大工の事例(大阪高判平成30年9月20日)
4 利用可能性のある救済制度等
1 はじめに
以下では、いわゆる建設型アスベスト訴訟において、損害賠償請求が認められる可能性があるとされる職種のうち、「大工」について、①どのような大工作業において石綿粉じんに暴露する機会があったとされているか、②どのような石綿含有建材が大工作業の石綿粉じんに暴露する原因となっていた可能性があるかについて、これまでの裁判例の動向を踏まえて説明します。
2 大工仕事に関する一般的な作業内容と石綿暴露との関係について
一般に、大工は、木造建物の新築工事では、工程全体に関与し、鉄骨造建築物及び鉄筋コンクリート造建築物の新築工事においては、主に内部造作の作業を行うものとされ、また、これらの建物の改修工事及び解体工事にも関与する職種です。そして、これらの工程に関与する際、石綿含有建材の切断、切断面のやすり掛け、釘打ち等の作業、及び各作業の前に石綿含有吹付け材をこそげ落とす作業があり、この際、石綿粉じんに曝露するとされています。また、増改築工事、解体工事において、石綿含有建材を取り壊し粉砕する際にも、石綿粉塵に曝露することがあります。
さらに、大工は、清掃の際に床に堆積している石綿粉塵に曝露することがあるほか、左官、電工等と同時並行で作業を行うことがあり、これらの各職種の建設作業従事者の作業により発生した石綿粉塵に(間接的に)曝露することもあります。なお、裁判例(京都地判平成28年1月29日等)でも、このような一般論があることが認定されています。
このように、大工は、建物の建築工事における様々な工程に関与し、その作業内容も、石綿含有建材の加工を伴う作業が多いとされていることから、建設型アスベスト訴訟において損害賠償請求が認められている他の職種と比べても、石綿粉じんに暴露する機会が比較的多い職種であったと考えられています。
3 石綿粉じんに暴露した可能性のある大工作業とその作業で使用された可能性のある石綿含有建材について
(1) 大工作業において石綿粉じんに暴露する可能性があるとされる石綿含有建材の例
大工作業は、建設工事において様々な工程に関与するため、いつどのような作業をしている際に石綿粉じんに暴露した可能性があるかについても様々といえます。
ただし、一般に、大工作業において特に石綿粉じんに暴露する可能性が高いとされる作業及びその際に使用された可能性のある石綿含有建材とされているものは以下のとおりと考えられています。
① 石綿吹付作業(施工された吹付材を削る作業を含む)
●作業箇所
・鉄骨、天井など
●使用建材
・吹付石綿
・石綿含有吹付ロックウール
・湿式石綿含有吹付材
② 耐火材取付作業
●作業箇所
・鉄骨、天井、梁、エレベーター周辺など
●使用建材
・石綿含有けい酸カルシウム板第2種
・石綿含有耐火被覆板
③ 内装材施工作業
●作業箇所
・天井、内壁、耐火間仕切り、浴室、台所など
●使用建材
・各種石綿含有スレートボード・フレキシブル板
・石綿含有けい酸カルシウム板第1種
・石綿含有パーライト板
④ 床材施工作業
●作業箇所
・事務室、商業施設及び公共施設の床、一般住宅の台所及び洗面所の床など
●使用建材
・石綿含有ビニル床タイル(Pタイル)
・石綿含有ビニル床シート
(2) 裁判例において認定された大工の事例(大阪高判平成30年9月20日)
なお、例として、裁判例(差し戻し前(1)の判決(大阪高判平成30年9月20日))において、建材メーカーの責任が認められた石綿含有建材及びその建材を製造していたメーカーは次のとおりです(この裁判は、現在も審理中であり、次に述べる建材メーカーの損害賠償責任は確定したものではないため、あくまで参考である点に注意してください)。
・認定された大工作業の内容
木造住宅の新築工事、増改築工事、鉄骨4階建てのマンションや倉庫の新築工事、大阪空港周辺整備機構の民家防音工事等(基礎工事から、上棟、屋根下地・屋根仕上げ工事、外壁下地・外壁仕上げ工事、内壁下地・内壁仕上げ工事等全ての工程)
・石綿関連疾患発症への影響度が高いとされた石綿含有建材
内装材、そのうちでも石綿スレートボード、けい酸カルシウム板第1種
・主要原因企業
(1) 最高裁判決(最判小一令和3年5月17日)において、一般論として建材メーカーが責任を負うことが認められ、記事作成日時点(令和4年1月11日時点)では差し戻された高等裁判所において、建材メーカーにおける具体的な損害賠償責任の内容が審理されている状況です。
エーアンドエーマテリアル、エム・エム・ケイ
4 利用可能性のある救済制度等
上記2で説明したような石綿含有建材を使用した建設現場において、大工の職務に従事していた方につきましては、建設現場における他の職種の方と同様に、①労災制度による補償、②石綿健康被害救済制度(石綿救済法)による給付、③国に対する損害賠償請求訴訟、④建設アスベスト給付金制度、⑤使用者(又は一定の要件を満たす元請企業)に対する損害賠償請求訴訟、⑥建材メーカーに対する損害賠償請求訴訟など救済手続の利用や訴訟手続をすることができる可能性があります。
【弁護士への相談について】
以上が、建設型アスベスト訴訟において損害賠償請求が認められる可能性があるとされる「大工」に関する説明となります。
建設型アスベスト健康被害におけるアスベスト関連疾患の被災者の方に対する損害賠償責任については、国・使用者・建材メーカーが負うものとされており、建材メーカーが被災者の方に負っている責任は少なくありません。
現在、国の被災者に対する損害賠償については、給付金制度が構築される法案が成立し、訴訟以外の解決策が模索されていますが、建材メーカーの被災者に対する損害賠償については、現時点ではそのような制度はなく、個別に訴訟等の手続をする必要があります。
そのため、もし「大工」として屋内作業に従事し、アスベスト関連疾患に罹患するなどしてお困りの場合には、ぜひ一度弁護士に相談してみることをお勧めいたします。