本稿執筆者
川島 孝紀(かわしま たかのり)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
浦和高等学校 卒業
明治大学法学部 卒業
早稲田大学大学院法務研究科 修了
どのような事柄でもまずはお気軽にお話しください。早期にお話しいただくことが解決の鍵となることもございます。
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【ポイント】
❶現在(令和3年2月17日時点)の建設型アスベスト訴訟では、国の責任が最高裁判所で認められ、アスベスト(石綿)を含んだ建材メーカー(以下「メーカー」といいます。)の責任についても、最高裁判所において認められるに至っています。
❷メーカーの責任を認めた事例では、メーカーは国と共同して責任を負うとされています。
❸一定のシェアを有していたメーカーに責任が認められています。具体的に必要とされるシェアについてはメーカーの責任を認めた裁判例によって差異があり、最高裁判所による統一的な基準が示されることが待たれます。
〈目次〉
1 アスベスト健康被害の責任の所在
2 共同不法行為論
3 シェア論
4 まとめ
1 アスベスト健康被害の責任の所在
まず、アスベスト健康被害の責任はどこにあるのでしょうか。
国の責任について、これまで最高裁は、工場型アスベスト訴訟において、石綿工場において局所排気装置の設置を法令改正等により義務付けなかった点につき違法であると認めていました。
建設型アスベスト訴訟においても東京高判平成30年3月14日において国が関係法令を改正する等による事業者に対する防じんマスクの着用、製品等への警告表示、事業所への警告表示の義務付けを怠ったことについて違法性があるとして、国の責任を認めました。そして、最高裁は、令和2年12月、東京高判平成30年3月14日における国の上告受理申立てを退け、国の責任が最高裁判所でも認められることとなりました。
メーカーの責任については、建築作業従事者が上記認識の欠如から石綿粉じんに曝露し、アスベスト関連疾患に罹患する結果を回避するため、建築作業従事者に取り扱い建材の石綿含有の有無及び石綿粉じん曝露の危険性とその対策を具体的に認識させるに足りる警告表示を行う義務があったにもかかわらず、これを怠ったという違法性が認められた判決(大阪高判平成30年8月31日)などが存在し、同判決は、令和3年1月の最高裁の決定によりメーカー側の屋内作業労働者に対する主張を退け、メーカーの責任が認められるに至りました。なお上記東京高判ではメーカーの責任が否定されていますが、現在(令和3年2月17日時点)、最高裁で審理されています。
2 共同不法行為論
民法上、メーカーの行為が原因となって被災者の損害が発生したといえる相当程度の関係性(相当因果関係といいます。)が認められなければメーカーの損害賠償責任は認められません。そして、複数のメーカーの製造した石綿含有建材が原因となって健康被害が発生しているため、民法上の共同不法行為という制度によってメーカーの責任が認められないかということが裁判において検討されました。メーカーの責任を認めた上記大阪高判では、民法上の共同の不法行為と評価するには、結果の発生について各共同行為者の加害行為が客観的に関連し共同していること(客観的関連共同説)で足りるが、各共同行為者の加害行為が当該被害者に対する権利侵害ないし損害の発生との関係において、「社会通念上一体をなすものと認められる程度の緊密な関連共同性」があることを要すると解するのが相当であり、この「社会通念上一体をなすものと認められる程度の緊密な関連共同性」を認めるためには、「共謀、教唆、幇助、相互に双方の行為を利用するといった共通の意思の存在、資本的・経済的・組織的結合関係といった共同の利益の享受、時間的・場所的近接性といった主観的又は客観的に緊密な一体性が認められることが必要である」と解釈され、メーカー間相互に一定程度の結びつきが必要とされる一方、各メーカーはそれぞれ独立して石綿含有建材の製造販売を行っていたため、民法上の規定から直接的にはメーカーの責任を認めませんでした。
しかし、上記大阪高判では、石綿含有建材から発生した石綿粉じんに長年にわたって多数の現場でばく露し、このような石綿粉じんが混ざり合い、体内に取り込まれて蓄積した石綿繊維から石綿関連疾患に罹患したという性質を考慮し、被災者らの就労した現場に石綿含有建材が到達し、その結果、当該建材に由来する石綿粉じんに曝露した相当程度以上の可能性がある場合には、このような到達の相当程度以上の可能性が認められる複数の企業がそれぞれ製造・販売した石綿含有建材の全部又は一部に由来する石綿粉じんに累積的に曝露した結果、被災者らが石綿関連疾患に罹患したと認め、民法上の規定を類推適用することにより相当因果関係を認め、ひいてはメーカー共同不法行為責任を認めました。
3 シェア論
では、どのようなメーカーが責任を負うのでしょうか。
上記2で石綿含有建材に由来する石綿粉じんが被災者の就労した現場に到達した相当程度以上の可能性があるというためには、メーカーが多くの石綿含有建材を製造販売している必要があります。
そこで、上記大阪高判は、石綿含有建材の流通状況及び使用状況が被災者らの状況と整合していれば、当該建材を製造・販売したメーカーのシェアを基礎として、当該建材が被災者らに到達した可能性の程度をある程度推測することが可能であり、その可能性が相当程度を超える場合には、当該メーカーは、共同不法行為者となり、共同不法行為責任を問われる場合があると判断しました。
具体的に必要とされるシェアについてはメーカーの責任を認めた裁判例によって差異があり、最高裁判所による統一的な基準が示されることが待たれます(令和3年2月17日時点)。
第4 まとめ
以上から、メーカーに対する損害賠償請求を検討する場合には、当該被災者がどこでどのような作業に従事していたか、どのような建材が使用されていたかによって責任を追及すべきメーカーが異なってきます。したがって、アスベスト健康被害に遭われた方やご遺族がメーカーに対するアスベスト訴訟提起を検討する場合、まず、当時の作業状況について振り返るとともに、関連する資料を準備しておくと良いでしょう。
【弁護士への相談について】
ここまでアスベスト健康被害に関するメーカーの責任についてご説明しましたが、メーカーの責任については、それぞれの当時の状況や、今後の最高裁判所の判決内容によって異なる場合がありますので、詳細は弁護士までご相談ください。