本稿執筆者
田畑 優介(たばた ゆうすけ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
愛知学院大学法学部 卒業
明治大学法科大学院 修了
弁護士の職務は困った立場にある方のお話に傾聴し、寄り添い、よりよい解決に向けた道しるべを提供することであると考えています。お困りごとを抱えていらっしゃる方は一度お話をお聞かせください。よりよいアドバイスができるよう誠意努力いたします。
ポイント
①アスベストを原因とする疾病を患い石綿被害救済法の認定をされた方が、建設アスベスト給付金等を検討している場合に、救済法認定時に収集・送付した資料や環境再生保全機構が作成した調査資料等を取得し、調査する方法があります。
②個人情報開示手続きでは開示決定がなされるまで1か月以上かかることがありますが、当時作成された診断書を再度確認するだけで十分な場合は、資料提供依頼の方法だと費用を要せずかつ速やかな開示が期待できます。
〈目次〉
第1.はじめに
第2.環境再生保全機構に対する「資料提供依頼」の方法について
第3.請求方法・申請書類について
1.請求方法(開示請求先)
2.申請書類
第4.留意点
第1.はじめに
アスベストを原因とする疾病を患い、救済法(石綿による健康被害の救済に関する法律をいいます。以下同じ。)の認定を受けた方が、建設アスベスト給付金や企業賠償等を検討している場合、まずは、救済法の申請時に収集した資料や認定時に環境再生保全機構(救済法認定機関)が作成した調査資料等を取得し、同資料を検討することが有用です。
調査資料等を取得・収集する方法として、①「個人情報開示」手続きにより請求する方法と、②環境再生保全機構に対して任意の「資料提供依頼」を請求する方法の2種類があります。特に、「資料提供依頼」の方法では簡易かつ無料で資料の提供を受けられるメリットがあるため、本稿では「資料提供依頼」の方法について紹介します。
第2.環境再生保全機構に対する「資料提供依頼」の方法について
「資料提供依頼」による調査資料等の収集方法は、個人情報開示手続きとは異なり、無料で、救済法申請時に申請者から機構側へ提出した資料一式(診断書、X線検査、CT検査画像等の各種医療記録、職歴や居住歴等に関するアンケートなど)の写しの交付が受けられます。また、個人情報開示の手続きでは、救済法認定資料の開示・不開示の決定を法律の定めにより30日以内に行わなければならないとされていますが、資料提供依頼はあくまで任意の開示手続きであり特に開示期間の定めはありませんが、個人情報開示に比べて速やかな提供を受けられることが多いです。
ただ、一点注意すべきなのは、環境再生保全機構が調査した資料等の開示については、個人情報開示によらなければ受けられない可能性もあるため、救済法申請時の病態によっては個人情報開示手続きによる資料開示を検討することも必要です。
たとえば、肺がんの病態で企業賠償を検討するにあたり、肺がんにはアスベストに限らず様々な原因があることから、環境再生保全機構が調査した資料まで必要であり、個人情報開示手続きに依る必要があるといった判断があり得ます。
そのため、救済法申請時に提出した資料の中にあった当時の医療記録等が手に入れば良いといったケースの手続きで有効に活用できます。
第3.請求方法・申請書類について
1.請求方法(開示請求先)
「独立行政法人環境再生保全機構(総務部石綿健康被害対策部申請課)」へ問い合わせを行うことにより、案内資料の一式が送付されます。同機構から送付されてきた申請書式にしたがって開示手続きをとればよいです。
独立行政法人環境再生保全機構
総務部石綿健康被害対策部申請課
(電話番号:044-520-9603)
【申請書類】
・資料提供依頼書
「請求者」「被害者」「請求者と被害者との関係」「請求書類」(※)「使用目的」「添付書類」(身分証明書などの機構から特に指示があったもの)をボールペンで記入し、下記返信用封筒に入れてポスト投函してください。
※「請求書類」は機構の指示を参考にしていただくことが無難ですが、たとえば以下のように記載します。
(記載例)
石綿による健康被害の救済に関する法律に基づく指定疾病の認定について、機構が保管する被害者から提出された認定申請に係る書類一式、及び機構から被害者に送付した認定決定通知書の写し
・機構への返信用封筒
切手不要なので、上記申請書類を入れてポスト投函すれば足ります。
第4.留意点
以上に述べたとおり、救済法の認定を受けた方による建設アスベスト給付金請求や企業賠償等の検討にあたっては、まず救済法認定時の収集資料や調査資料等の開示を受け同資料を精査することから始めますが、調査資料等の開示を受けても必ず石綿ばく露歴に関する有益な資料を得られるわけではありません。特に、肺がんや中皮腫の病態で認定されている場合、ばく露作業歴の申告書の提出が不要となっていることから、建設アスベスト給付金請求や企業賠償等を検討する際には、改めてばく露作業に関する調査を行う必要がありますので、この点は予め注意が必要です。
【弁護士への相談について】
救済法の認定を受けている場合、弁護士に相談する前に予め救済法の認定通知や申請資料の控えが手元にあるとスムーズになると思います。また、申請時の控えの資料がお手元にない場合であっても、機構に資料提供依頼を申請することで入手が可能です。自身での申請が困難な場合は、弁護士にて申請を行いますのでお気軽にご相談ください。