本稿執筆者
田畑 優介(たばた ゆうすけ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
愛知学院大学法学部 卒業
明治大学法科大学院 修了
弁護士の職務は困った立場にある方のお話に傾聴し、寄り添い、よりよい解決に向けた道しるべを提供することであると考えています。お困りごとを抱えていらっしゃる方は一度お話をお聞かせください。よりよいアドバイスができるよう誠意努力いたします。
〈目次〉
第1.はじめに
第2.溶接工の具体的な業務内容とアスベスト被害との関係について
1.溶接工の業務内容と石綿粉じんばく露の機会
2.溶接工が石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性がある建材
第3.利用可能性のある救済制度等
第1.はじめに
建設業に従事していた方の業務中における石綿ばく露被害(いわゆる「建設型アスベスト被害」)において、損害賠償請求等が認められる可能性があるとされる職種のうち、「溶接工」について、①どのような作業において石綿粉じんにばく露する機会があったとされているか、②溶接工が石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性がある建材について、及び③利用可能性のあるアスベスト被害救済制度について説明します。
第2.溶接工の具体的な業務内容とアスベスト被害との関係について
1 溶接工の業務内容と石綿粉じんへのばく露の機会
溶接工は、建設工事業の中でもあらゆる現場において作業を行う機会があり、新築住宅建築の現場やビルの補修工事の現場、造船所内での作業など多様な建設現場で作業します。
そのため、アスベストにばく露する可能性のある作業やその機会も多様な場面で考えられます。例を挙げると、鉄骨を組み立てる現場では石綿含有製品を切断することがあります。また、これらの石綿含有製品に穴を開けたり、取り付けを行ったりといったように、アスベスト粉じんを生じさせ吸い込んでしまうことのある作業を行うことがあります。このように、溶接工は、作業を行う中で発生する石綿粉じんにより石綿粉じんにばく露する可能性があります。
そのほか、アスベストが吹き付けられた鉄骨を溶接するといった作業では、特に石綿粉じんにばく露する危険性が高いと考えられます。また、ボイラーの修理作業では、ボイラーに取り付けられた石綿を含む保温材・断熱材・防災シート等を切断、加工、取付等した時に発生する石綿粉じんにばく露することも考えられます。
判例(東京高裁平成30年3月14日判決民集)においては、「溶接工は、鉄骨、鉄材等の金属材料の接合させたい部分の隙間に溶接棒等を接触させ、そこに熱を加えて金属材料に溶接棒を溶かしながら金属材料同士を接合させる作業を行う。
新築建物(物流倉庫)の鉄骨の骨組みを完成させた後、溶接作業を行う場合、高所作業車(ゴンドラ)に乗って、躯体に吹き付けられた吹付け材を剥がし、落下した石綿含有吹付け材を踏み付け、足場の床にたまっている石綿含有吹付け材にセメント、水と混ぜて、溶接部分等に貼り付ける際、石綿粉じんに曝露することがある。
増改築工事において、古い鉄骨を取り外し、新たな鉄骨を取り付けるには、既存の石綿含有吹付け材を剥がして作業することになり、また、吊り天井が施工されている建物の作業では、天井裏の狭いスペースでの作業となるため、石綿含有吹付け材に接触等して石綿粉じんに曝露することがある。
さらに、解体工事では、鉄骨の搬出・運搬を容易にするため、鉄骨を細切れにする作業が必要となるが、その際、石綿含有吹付け材を削る際に粉じんが発生し、石綿粉じんに曝露することがある。」と認定されています。
2.溶接工が石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性のある建材について
上記したとおり、溶接工は様々な建築現場で作業を行う機会があるため、石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性のある建材も様々考えられますが、上記の作業例でいえば、石綿を含む配管、アスベストが吹き付けられた鉄骨、石綿を含む保温材・断熱材・防災シートなどが挙げられます。
溶接工の方が石綿粉じんにばく露した原因となる可能性のある建材等
・石綿含有製品の配管等
・アスベストが吹き付けられた鉄骨
・石綿含有製品である保温材・断熱材・防災シート等
第3.利用可能性のある救済制度等
上記2で説明した石綿含有建材を使用した建物内において、溶接工の職務に従事していた方につきましては、①労災保険制度による補償、②石綿健康被害救済制度(石綿救済法)による給付、③建設アスベスト給付金制度、④国に対する損害賠償請求訴訟、又は「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」(いわゆる「建設アスベスト給付金制度」)に基づく給付金請求、⑤使用者(又は一定の要件を満たす元請企業)に対する損害賠償請求訴訟、⑥建材メーカーに対する損害賠償請求訴訟など、救済手続の利用や訴訟手続により救済を受けられる可能性があります。
【弁護士への相談について】
現在または過去に溶接工として屋内作業に従事しており、アスベストに関連する疾患に罹患してお困りの方は数多くいらっしゃるかと思います。上記ご紹介した救済制度について、そもそも自分が利用できる可能性はあるのか、どのような条件で救済が受けられるのかなど、専門家のアドバイスを受けることが有益です。また、救済を受けるにあたってどのような方法を選択し、どのように進めていくのがベストかなど、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。
詳細の事情を把握しておらず記憶が曖昧な場合であっても、労災や救済法等に基づく申請など請求可能なお手続について一緒に検討させていただきますので、お気軽にご相談ください。