本稿監修者
樋沢 泰治(ひざわ たいじ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
〈目次〉
第1 はじめに
第2 現場監督の具体的な業務内容とアスベスト被害
1 現場監督の石綿粉じん「間接ばく露」
2 現場監督が石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性がある建材
第3 救済制度等
1 労災・救済法・建設アスベスト給付金等
2 建材メーカーに対する損害賠償請求について
第1 はじめに
いわゆる建設型アスベスト被害において、損害賠償請求が認められる可能性があるとされる職種のうち、「現場監督」について、①どのような作業において石綿粉じんにばく露する機会があったとされているか、②現場監督が石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性がある建材について、令和3年5月17日に出された最高裁判決等を踏まえて説明します。
加えて、現場監督の業務により石綿ばく露による健康被害に遭われた方々において利用可能性のある救済制度等についても説明いたします。
第2 現場監督の具体的な業務内容とアスベスト被害
1 現場監督の業務内容と石綿粉じんの「間接ばく露」
現場監督は、建設の着工から引き渡しまで、工程、品質、安全、原価管理といった施工管理を行います。
現場監督は特定の工事を自ら直接行うわけではありませんが、建設現場を確認して指示を出すため、他の建設作業員が石綿含有建材を用いて建設作業をしている場合には、石綿粉じんにばく露する環境下で業務に従事することになります。
石綿含有建材を直接取り扱う業務ではないものの、石綿含有建材が使用されている現場で従事することで石綿粉じんにばく露することを「間接ばく露」といいます。
現場監督はこの「間接ばく露」によってアスベスト被害に遭う可能性が高い職種と言えます。
2 現場監督が石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性がある建材
上記のとおり、現場監督は建設現場で着工から建設工事に携わるため、建設現場のあらゆる場面で石綿粉じんに石綿粉塵にばく露しする可能性があります。その代表例として以下の建材が挙げられます。
石綿含有屋根材、石綿含有ボード(外壁材・内装材)
石綿セメントビニル管
石綿吹きつけ材
石綿保温材・煙突材
また、吹付け作業や張り付け作業という特定の作業においても、石綿粉じんにばく露する可能性が高く、代表例として以下のような建材が挙げられます。
石綿吹きつけ材、石綿含有岩綿吹きつけ
石綿フェルト
石綿含有バーミキュライト吹きつけ
石綿含有パーライト吹きつけ
さらに、現場監督は解体作業においても建設現場で従事していることも多いため、解体時に石綿粉じんにばく露する可能性があり、代表例として以下の建材が挙げられます。
石綿吹付け材
石綿含有ボード(外壁材・内装材)
石綿含有屋根材
石綿保温材・煙突材
第3 救済制度等
1 労災・救済法・建設アスベスト給付金
現場監督の業務に従事したことによりアスベスト被害に遭われた方々につきましては、他の建設作業者と同様に、①労災制度による補償、②石綿健康被害救済制度(石綿救済法)による給付、③国に対する損害賠償請求訴訟、④建設アスベスト給付金制度、⑤使用者(又は一定の要件を満たす元請企業)に対する損害賠償請求訴訟、⑥建材メーカーに対する損害賠償請求訴訟など救済手続の利用や訴訟手続をすることができる可能性があります。
2 建材メーカーに対する損害賠償請求について
先にみてきたように、現場監督は様々な機会に、様々な建材から石綿粉じんにばく露する可能性が考えられます。そして、石綿粉じんばく露による健康被害に遭われた方の救済方法の1つに、建材メーカーに対する損害賠償請求が考えられます。
ただし、石綿含有建材を使っていたことは一般論としては認められたとしても、具体的にある期間や場所において具体的にどの建材を使用していたかまで特定することは困難です。そこで、裁判所は、相当程度の市場シェアを有する建材メーカーの建材であれば、現場監督が従事した複数の現場のうち、どこかの建設現場では当該建材を使用したと認めることができるというシェア論を採用しました(令和3年5月17日最高裁判所第一小法廷判決においてもこの考え方は維持されています。)。
この考え方を採用することで、建材メーカーに対しても損害賠償請求の途が開かれました。
【弁護士への相談について】
現場監督は、建設現場で建築工事の着工から引き渡しまで携わり、様々な場面で石綿粉じんにばく露する機会があります。アスベスト被害の救済手続に際して、いつ頃石綿粉じんにばく露していたと考えられるかは重要な事情となりますので、まずは具体的な就労時期をご確認ください。現場監督として就労していた時の勤務先、施工内容(一軒家、ビル、商業施設)など、具体的な仕事内容が確認できるとより望ましいです。
これらの事情が分からない場合であっても、請求可能なお手続を一緒に検討させていただきますので、お気軽に弁護士までご相談ください。