本稿監修者
樋沢 泰治(ひざわ たいじ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
【ポイント】
・特別遺族給付金は、労災保険の請求期限を経過してしまった患者様のご遺族が対象です。
・特別遺族給付金には、特別遺族年金と特別遺族一時金の2種類があります。
・特別遺族給付金が支給されるには、①受給対象者、②労災保険との関係、③業務と石綿関連疾患の罹患・死亡との関係、④請求期限についての各要件を充足する必要があります。
・特別遺族年金の場合には原則240万円/年が支給され、特別遺族一時金の場合には1200万円が支給されます。
・特別遺族給付金と特別遺族弔慰金・特別葬祭料を同時に受給することはできませんが、同時に申請することが可能です。
〈目次〉
第1 特別遺族給付金の概要
第2 特別遺族給付金の種類
第3 支給要件等
第4 請求に当たっての注意点
第1 特別遺族給付金の概要
石綿関連疾患には、①石綿への曝露から30~40年という非常に長い潜伏期間を経て発症すること、②発症から1、2年で死亡に至るケースもあること、③石綿と疾病との関連性に本人も医師も気づきにくい状況にあったこと等の特殊性があるため、石綿関連作業における被災労働者が石綿関連疾患による死亡であることに気づかずに、労災保険を未申請のまま、請求期限を経過する可能性が危惧されていました。
このような状況に鑑み、石綿による健康被害の救済に関する法律(以下「石綿救済法」といいます。)により、特別遺族給付金が創設されています。これによって、石綿曝露作業の従事により石綿関連疾患に罹患し死亡した労働者につき、労働者の死亡日の翌日から5年を経過して時効により労災保険の請求権が消滅してしまった場合には、その遺族に対して特別遺族給付金が支給されることになりました。
第2 特別遺族給付金の種類
特別遺族給付金には、特別遺族年金と特別遺族一時金の2種類があり、特別遺族年金の支給対象者がいる場合は特別遺族年金が支給され、特別遺族年金の支給対象者がいない(若しくはいなくなった)場合に、特別遺族一時金が支給されることになります(石綿救済法61条参照)。
この点につき、特別遺族年金の受給者に該当する遺族は、基本的には、以下のとおりです(同法60条1項)。
・死亡労働者等の死亡の当時その収入によって生計を維持していた(以下「生計維持要件」といいます。)妻(事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含みます。)
・生計維持要件を満たす55歳以上の夫(事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)
・生計維持要件を満たす55歳以上の父母又は祖父母
・生計維持要件を満たし、18歳に達する以後の最初の三月三十一日までの間にある子又は孫
・生計維持要件を満たす55歳以上の兄弟姉妹
・生計維持要件を満たし、18歳に達する以後の最初の三月三十一日までの間にある兄弟姉妹
・生計維持要件を満たすものの、上記に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、一定の障害の状態にあること。
※ただし、一定期間において婚姻や養子、離縁した等の事情がある場合には、受給対象者から外れる場合があります。
この内、特別遺族年金を受けるべき遺族の順位は、【配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹】の順序となります(同法60条2項)。
一方、特別遺族一時金の受給者の範囲は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹であり、特別遺族一時金を受けるべき遺族の順位は、【配偶者→生計維持要件を満たす子→生計維持要件を満たす父母→生計維持要件を満たす孫→生計維持要件を満たす祖父母→生計維持要件を満たさない子→生計維持要件を満たさない父母→生計維持要件を満たさない孫→生計を維持要件を満たさない祖父母→生計維持要件を満たさない兄弟姉妹】の順序となります(同法63条1項、2項)。
なお、生計維持要件については、
こちらの記事を参照してください。
第3 支給要件等
特別遺族給付金の支給要件をまとめると、以下のとおりです。
① 令和8年3月26日までに亡くなった労働者のご遺族の方であること
② 労災保険の遺族補償給付の権利が時効(5年)によって消滅していること
③ 被災労働者が石綿に曝露する作業に従事したことによって石綿関連疾患に罹患した結果、同原因により死亡したこと
④ 法律上の請求期限内(現行法(※)では令和14年3月27日まで)に請求すること(※令和4年6月17日改正法成立時点)
また、上記支給要件を満たし、特別遺族給付金の支給が決まった場合の支給額ですが、特別遺族年金の場合には原則240万円/年が支給され、特別遺族一時金の場合には1200万円が支給されます(同法施行令15条、16条)。
第4 請求に当たっての注意点
1 提出書類(厚労省「特別遺族給付金に関するQ&A」参照)
特別遺族年金の場合には、以下の書類を提出することになります。
① 死亡労働者に関して市町村長に提出した死亡診断書、死体検案書又は検視調書に記載してある事項についての法務局の発行する証明書
② 請求人及び請求人以外の特別遺族年金を受けることができる遺族と死亡労働者との身分関係を証明することができる戸籍の謄本又は抄本
③ 請求人又は請求人以外の特別遺族年金を受けることができる遺族が死亡労働者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者であるときは、その事実を証明することができる書類
④ 請求人及び請求人以外の特別遺族年金を受けることができる遺族が死亡労働者等の収入によって生計を維持していたことを証明する書類
⑤ 請求人及び請求人以外の特別遺族年金を受けることができる遺族のうち、一定以上の障害の状態にあることにより特別遺族年金を受けることができる遺族である者については、その者が死亡労働者の死亡の時から引き続きその障害の状態にあることを証明することができる医師又は歯科医師の診断書その他の資料
⑥ 請求人及び請求人以外の特別遺族年金を受けることができる遺族のうち、請求人と生計を同じくしている者については、その事実を証明することができる書類
特別遺族一時金の場合には、以下の書類を提出することになります。
① 請求人が死亡労働者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者であるときは、その事実を証明することができる書類
② 請求人が死亡労働者等の収入によって生計を維持していた者であるときは、生計を維持していたことを証明する書類
③ 特別遺族年金を受けることができる遺族がいないときにあっては、
ア 死亡労働者に関して市町村長に提出した死亡診断書、死体検案書又は検視調書に記載してある事項についての法務局の発行する証明書
イ 請求人と死亡労働者との身分関係を証明することができる戸籍の謄本又は抄本
④ 特別遺族年金を受ける権利を有する者の権利が消滅した場合において、他に当該特別遺族年金を受けることができる遺族がいない場合の特別遺族一時金の請求であるときは、③のイの書類
また、労災申請と同様に、申請書には石綿ばく露状況等を記載し、事業主の証明等を得る必要があります
2 請求期限
法改正により特別遺族給付金の申請期限は、令和14(2032)年3月27日まで延長されました。
3 環境再生保全機構に対する手続との両立
環境再生保全機構による特別遺族弔慰金・特別葬祭料を同時に受給することはできませんが、同時に申請すること自体は可能となっています。
【相談のポイント】
特別遺族給付金は、労災申請の期限が過ぎてしまった場合における救済制度です。そのため、通常の労災申請と同様に、患者様の生前の勤務状況、石綿ばく露作業状況などを一度振り返り、関連する資料があれば準備しておくとスムーズになると思われます。