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2024.08.30

石綿粉じんが飛散する工場に勤務していた被災者について、使用者の安全配慮義務違反を認める一方で、被災者の病態により損害発生の有無を区別した事例(高松地判平成24年9月26日判例時報2178号50頁)

加藤 怜美

本稿執筆者 加藤 怜美(かとう さとみ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

・九州国際大学付属高等学校 卒業
・中央大学法学部法律学科 卒業
・一橋大学法科大学院 修了

さまざまなご不安を抱えていらっしゃる中で、勇気をもってご相談くださった皆様に、誠心誠意向き合ってまいります。小さなことかもしれないとお思いのことでも、皆様に安心してお話しいただくことができるよう努力いたします。
よろしくお願いいたします。

石綿粉じんが飛散する工場に勤務していた被災者について、使用者の安全配慮義務違反を認める一方で、被災者の病態により損害発生の有無を区別した事例(高松地判平成24年9月26日判例時報2178号50頁)
ポイント

①昭和35年頃には、じん肺法が公布・施行され、石綿を常時取り扱う民間事業者において、石綿粉じんが生じる作業を通じて石綿粉じんにばく露することにより健康被害が生じることを具体的に予見することが可能となったとして、これ以降には安全配慮義務が生じるとされました。

②管理区分2のじん肺を認定された元労働者に対して損害賠償責任を認められた一方で、管理区分1の認定に留まった元労働者には、損害賠償責任が認められませんでした。


〈目次〉

第1.事件の概要

1.Y社について

 (1)Y社の概要

 (2)本件工場

2.Xらについて

 (1)作業内容

 (2)病態

第2.主な争点

第3.判決

第4.判旨

1.予見可能性に基づく結果回避義務の有無(①)

2.当該義務違反の有無(②)

 (1)具体的義務

 (2)義務違反

第5.検討



第1.事件の概要

 石綿管製管工場を稼働させていたY社(訴訟時においてはリゾート経営会社となっていました。)の従業員であったX1ないしX6が、Y社の高松市における石綿管製管工場(以下「本件工場」といいます。)に勤務していた昭和27年頃から昭和44年頃の間に石綿粉じんにばく露したことを原因としてじん肺に罹患したとして、損害賠償を求めた事案です。
 裁判所(高松地裁)は、Y社に安全配慮義務違反があったと認定した上で、Xらのうち3名については管理区分2のじん肺を発症したことを認定しY社の損害賠償責任を認めた一方で、他3名については管理区分1のじん肺を発症するにとどまるとしてY社の損害賠償責任を否定しました。

1.Y社について
 (1)Y社の概要
   Y社は、昭和8年4月に石綿管の製造に係る操業を開始し、昭和10年頃に本件工場の操業を開始しました。その後、石綿管の需要の低下等に伴い、本件工場は、昭和44年12月18日に事実上操業を停止し、昭和57年12月15日をもって閉鎖されることとなりました。

 (2)本件工場
   本件工場において、石綿管は、セメント珪砂、石綿、水を材料として製造され、以下ⓐないしⓖの作業工程に分けられていました。

  ⓐ石綿原料が詰められた麻袋を倉庫や作業場に運搬する
  ⓑ石綿を解綿機でほぐし、工場3階に運搬する箇条書き
  ⓒ貯留槽において、石綿、セメント及び水を混ぜ、原料液を作る
  ⓓ原料液を、フェルト製の帯状のベルトに乗せ、丸い棒に塗りつける
  ⓔコンクリートが硬化し強度が出るよう、養生を行う
  ⓕ硬化した石綿管の両端をグラインダーで切断する
  ⓖ旋盤で両端を削り、管同士を接続できるようにする

   また、本件工場においては、保守作業が行われており、担当の従業員は機械や部品の製造や交換等を行っていました。

2.Xらについて
 (1)作業内容
   X1は、Y社在籍中(昭和27年頃から昭和45年頃まで)は一貫して保守作業に従事していました。
 X2は、Y社在籍中のうち、昭和31年ないし32年頃から本件工場の操業停止までの間、ⓓの作業に従事していました。
 X3は、Y社在籍中(昭和32年頃から昭和45年頃まで)は一貫してⓖの作業に従事していました。
 X4は、Y社在籍中のうち、昭和40年頃から本件工場の操業停止までの間、ⓓの作業に従事していました。
 X5は、Y社在籍中のうち、昭和40年頃から本件工場の操業停止(昭和44年頃)までの間、ⓔの作業に従事していました。また、月25日かつ1日1時間の頻度で、ⓐ及びⓓの作業にも従事していました。
 X6は、Y社在籍中のうち、昭和40年頃から本件工場の操業停止までの間、ⓓの作業に従事していました。


 (2)病態
   X1は、管理区分2のじん肺及びその合併症として続発性気管支炎を発症していることが認定されました。
 X2及びX3は、管理区分2のじん肺を発症していることが認定されました(合併症なし)。
 X4ないしX6は、管理区分1(じん肺の所見なし)と認定されました。


第2.主な争点

 本件における主な争点は、Y社の安全配慮義務違反の有無であり、具体的には①予見可能性に基づく結果回避義務の有無、②当該義務違反の有無です。

第3.判決

 裁判所は、Y社においては予見可能性に基づく結果回避義務が認められることを前提として安全配慮義務違反があることを認定し、Y社に対し、X1について1430万円、X2及びX3についてそれぞれ1000万円の支払いを命じました。
 他方で、他3名のX4ないしX5については、管理区分1であり、はじん肺の所見がなく、また胸膜プラークそれ自体で肺機能の低下が起こることは通常ないとされている等から損害が具体的に発生していないとして、Y社の損害賠償責任を否定しました。
 なお、Y社は過失相殺(Xらにじん肺発症についての落ち度があること)や他職粉じん歴(Y社以外での就業中に石綿にばく露したことがじん肺発症の一因であること)を主張しましたが、これらは認められていません。

第4.判旨

1.予見可能性に基づく結果回避義務の有無(①)
  昭和22年には労働基準法施行規則の制定により、労働基準法上の疾病の範囲がけい肺からじん肺に拡大されました。もっとも、昭和30年に制定された「けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法」(以下「けい特法」といいます。)においては、対象疾病はけい肺に限定され、じん肺は含まれていませんでした。
 また、昭和31年5月や昭和33年5月には粉じんが発生する作業を行う労働者に対してはじん肺の診断が可能な健康診断の受診を勧奨すべきであることや労働環境の改善等を内容とする通達がなされました。他方で、この頃、石綿粉じんに起因するじん肺に関する医学的知見からの研究結果の発表がなされましたが、その結果報告書は、一般の目にふれるものではなく、一般の民間企業がこれを把握するのは困難であったと結論付けられました。
 しかし、当該報告書等やこれまでのじん肺に関する流れの中で、昭和35年3月に、けい特法を改正する形でじん肺法が制定されました。
 これにより、昭和35年以降においては、石綿を常時取り扱う民間企業においても、石綿粉じんが生じる作業に従事する労働者が石綿粉じんにばく露することにより、健康被害を生ずることを具体的に予見することが可能となったと結論付けられました。
 これを前提として、Y社には、「石綿粉じんが生じる作業に従事する労働者が石綿粉じんにばく露することにより、健康被害を生ずる結果を回避すべき義務が生じた」と認定されました。


2.当該義務違反の有無(②)
 (1)具体的義務
   抽象的に予見可能性に基づく結果回避義務を負うとしても、その具体的な義務の内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等、安全配慮義務が問題となる当該具体的状況に応じて決定されます。
 本件工場においては、後述のとおり、前記ⓐないしⓖの作業のうち養生など粉じんが飛散しにくい作業を除き、各作業において石綿粉じんがほぼ恒常的に発生しており、その濃度も高濃度であり、健康被害発生の蓋然性も高いと認められました。また、じん肺法等関連法令の規定に照らすと、Y社は、石綿管製造工程等に従事する労働者に対し、「㋐石綿粉じん飛散抑制義務、㋑じん肺予防のための教育・指導義務、㋒石綿粉じん吸引防止義務、㋓早期発見、救護義務を負っていた」と認定されました。


 (2)飛散・ばく露状況
   前記ⓐないしⓖの製管工程での粉じんの飛散状況は以下のとおりです。
  ⓐ搬入搬出作業は手作業で行われ、麻袋から石綿粉じんが漏れ、飛散していた
  ⓑ解綿機は密閉された機械ではなく、解綿作業中に石綿粉じんが飛散していた
また、3階への運搬は、昭和28年頃まではスコップを用いてカゴに積み運んでおり、昭和28年頃からは送風機で吹き上げていたため、いずれの方法によっても石綿粉じんが飛散していた

  ⓒ3階から2~3メートル下の貯留槽に落下させており、落下の際及び水面に当たる際に粉じんが飛散していた
  ⓓ帯状ベルトは使用後水洗いをするが、染み込んだ石綿粉じんは除去しきれず、乾燥させた後には、付着していた石綿粉じんが飛散していた また、ⓑの作業場からの粉じんが流れ込んでいた
  ⓔ水中での養生及び水蒸気の発生するタンク内での養生の方法が採用されていたが、いずれの方法によっても粉じんはほとんど飛散していなかった
  ⓕ水をかけながらの作業であったものの、粉じんの発生を完全に抑えることはできておらず、粉じんが飛散していた
  ⓖ集じん装置が設置されていたが、全量を吸引処理する能力はなく、粉じんが飛散していた

   また、本件工場においては保守作業が行われていたが、各機械の清掃や部品交換等においては、各作業に従事する従業員の清掃では除去しきれなかった粉じんにばく露していました。保守作業に従事する従業員は、有給休暇取得者の代替要員や休憩時間の代替要員として、製管作業にも従事していました。

 (3)義務違反
   本件工場においては、従業員がばく露作業をせずに済むような作業の機械化はなされておらず、集じん機の設置または改良はなされていませんでした(㋐)。
 また、Y社は、本件工場において「安全衛生心得」手帳を労働者へ配布していたことを主張しましたが、関係従業員の証言等からは実際には配布されていなかったと認定されました。本件工場においては他に安全衛生に関する指導教育は行われていませんでした(㋑)。
 さらに、本件工場においては、昭和35年頃までは、製管作業及び保守作業に従事する従業員に対して防じんマスクの支給はなく、手製のガーゼマスクが希望者に支給されたのみでした。昭和35年頃から防じんマスクが設置された可能性は否定できないとされましたが、当該防じんマスクは一時的な粉じん作業を念頭においたものであり、フィルターの目詰まりで使用できず、実際には使用されることはほとんどなかったと認定されました(㋒)。
 その上で、本件工場においては、じん肺の診断が可能な臨床医が関与するじん肺健康診断は行われていなかったことが認定されました(㋓)。
 以上から、本件工場においては、㋐ないし㋓いずれの義務にも違反し、Y社には石綿粉じんに起因する健康被害の発生を防止する安全配慮義務の違反があったことが認められました。


第5.検討

 本判決は、昭和35年頃には、石綿を常時取り扱う民間事業者において、石綿粉じんが生じる作業を通じて石綿粉じんにばく露することにより健康被害が生じることを具体的に予見することが可能となったとして、これ以降には安全配慮義務があることを認めました。
 また、本判決は、安全配慮義務の具体的な内容及びこれらの安全配慮義務が履践されていたかが詳細に検討されています。アスベスト被害の損害賠償請求等を検討される方が、当時の状況を振り返る上で、参考にすべき事項が含まれていると考えられます。
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