本稿執筆者
田畑 優介(たばた ゆうすけ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
愛知学院大学法学部 卒業
明治大学法科大学院 修了
弁護士の職務は困った立場にある方のお話に傾聴し、寄り添い、よりよい解決に向けた道しるべを提供することであると考えています。お困りごとを抱えていらっしゃる方は一度お話をお聞かせください。よりよいアドバイスができるよう誠意努力いたします。
【ポイント】
・石綿健康被害救済法は労災保険給付の対象外の方や、時効等によって労災保険給付の請求ができない方も対象としています。
・石綿健康被害救済法に基づく認定を受けるためには、エックス線検査等各種の検査方法で、肺がんの発症リスクを高める量の石綿ばく露によって原発性肺がんに罹患したと判定される必要があります。
・ご遺族が申請を行う場合は、患者様の亡くなられた時期によって必要書類が異なります。
・石綿健康被害救済法が施行される前(平成18年3月26日以前)にお亡くなりになられた患者様のご遺族が請求を行う場合の請求期限は令和4年3月27日までとなっており、申請期限が迫っているため注意が必要です。
〈目次〉
第1 石綿健康被害救済法とは
第2 指定疾病である肺がんの医学的判定の考え方
第3 給付の内容
1 療養中の患者による申請の場合
2 肺がんによって死亡した患者の遺族による申請の場合
3 患者が療養中に申請して認定を受け、その後死亡した場合
第4 申請に必要な書類
1 療養中の方が申請する場合
2 お亡くなりになった方について申請する場合
第5 既に石綿健康被害救済法による給付を受けられた方が建設アスベスト給付金の申請をする場合
第1 石綿健康被害救済法とは
「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下、石綿健康被害救済法といいます。)は、アスベストによる健康被害の迅速な救済を図るために平成18年3月27日に施行された法律です。石綿健康被害救済法により、アスベストを吸入することによる労働者災害補償保険法等で補償されない中皮腫や肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の健康被害を受けられて療養中の方や、これらの疾病に起因して死亡した方のご遺族に対し、医療費等の救済給付が支給されます。
すなわち、石綿健康被害救済法により、アスベスト工場の近隣住民や一人親方等、そもそも労災保険給付の対象外の方や、時効等によって労災保険給付の請求ができない方も、給付を受けられる可能性があります。ただし、労災保険給付と石綿健康被害救済法に基づく給付の両方を受給することはできないため、労災保険給付が既に支給されている方は、本制度による給付を請求できません。
なお、本制度により救済給付の対象となる指定疾病は、アスベストを吸入することにより発症する次の4種類です。
・中皮腫
・肺がん
・著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
本記事では肺がんに焦点を当てて制度の内容をご案内いたします。
第2 指定疾病である肺がんの医学的判定の考え方
石綿健康被害救済法に基づく認定を受け、給付を請求するためには、「日本国内においてアスベストを吸入することによって肺がんにかかったこと」が必要となります。
肺がんは、胸部エックス線検査・CT検査によって、石綿を原因とする原発性肺がんであるとの判定が必要です。
肺がんであることの判定方法については、「石綿による健康被害の救済に関する法律施行令の一部を改正する政令の施行(指定疾病の追加)について(通知)」(平成22年6月10日環保企発第100610001号)の中で以下のように示されています(下線部は筆者にて追記)
肺がんについては、原発性肺がんであって、肺がんの発症リスクを2倍以上に高める量の石綿ばく露があったとみなされる場合に、石綿を吸入することによりかかったものと判定するものであること。
肺がんの発症リスクを2倍に高める量の石綿ばく露があったとみなされる場合とは、国際的にも、25本/ml×年程度のばく露があった場合であると認められており、また、これに該当する医学的所見としては、次のア又はイに該当する場合が考えられること。
ア 胸部エックス線検査又は胸部CT検査により、胸膜プラーク(肥厚斑)が認められ、かつ、胸部エックス線検査でじん肺法(昭和35年法律第30号)第4条第1項に定める第1型以上と同様の肺線維化所見(いわゆる不整形陰影)があって胸部CT検査においても肺線維化所見が認められること。
イ 肺内石綿小体又は石綿繊維の量が一定量以上(乾燥肺重量1g当たり5、000本以上の石綿小体若しくは200万本以上(5μm超。1μm超の場合は500万本以上)の石綿繊維又は気管支肺胞洗浄液1ml当たり5本以上の石綿小体)認められること。
また、「石綿による健康被害の救済に関する法律における指定疾病に係る医学的判定に関する考え方等の改正について(通知)」(平成25年6月18日環保企発第1306182号)の中で、以下のように述べられています(下線部は筆者にて追記)
石綿を原因とする気管支又は肺の悪性新生物(以下「肺がん」という。)に係る医学的判定では、原発性肺がんであって、肺がんの発症リスクを2倍以上に高める量の石綿ばく露があったとみなされる場合に、石綿によるものと判定することとしているが、これに該当する医学的所見として、新たに次の場合を定めることとする。
1 胸部正面エックス線写真により胸部プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT写真により当該陰影が胸部プラークとして確認されるもの。この場合において、胸部プラークと判断できる明らかな陰影とは、以下の(1)又は(2)のいずれかに該当する場合をいう。
(1) 両側又は片側の横隔膜に、太い線状又は斑状の石灰化陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。
(2) 両側側胸壁の第6から第10肋骨内側に、石灰化の有無を問わず非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。
2 胸部CT画像で胸部プラークを認め、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸部プラークが最も広い広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の4分の1以上のもの。
3 肺組織切片中に石綿小体が認められるもの。
すなわち、肺がんの判定については、原発性肺がんであることを前提とし、各種の検査方法により肺がんの発症リスクを2倍以上に高める量の石綿ばく露があったとみなされる必要があります。
第3 給付の内容
石綿健康被害救済制度に認定された場合、患者様の状況等に応じて、以下のような給付が行われます。
1 療養中の患者による申請の場合
給付の種類 |
給付の内容等 |
請求期限 |
医療費 |
肺がんの療養を開始した日(申請前3年以上前の場合には、申請日の3年前の日)以降要した医療費(自己負担分)が支給される。
認定後は石綿健康被害手帳が交付され、同手帳を保険医療機関等に提示することで窓口での自己負担分の支払が免除される。
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医療費(自己負担分)の支払いを行った日の翌日から2年以内。ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については、申請日から2年以内。 |
療養 手当 |
月10万3870円
基準日の属する月の翌月から、支給すべき事由が消滅した日の属する月まで支給される(原則として偶数月に、前月及び前々月分が支給される。)。
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特になし |
2 肺がんによって死亡した患者の遺族による申請の場合
肺がんによってお亡くなりになられた患者様のご遺族が申請される場合、請求権者は、患者様の死亡当時、患者様と生計を同じくしていた以下のご親族のうち、もっとも優先順位が高い方となります。
【請求権者と優先順位】
①配偶者(事実婚を含む)
②子
③父母
④孫
⑤祖父母
⑥兄弟姉妹
死亡日 |
給付の種類・内容 |
請求期限 |
平成18年3月26日以前 |
①特別遺族弔慰金 280万円
②特別葬祭料 19万9000円
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令和4年3月27日まで |
平成18年3月27日以降(患者本人が申請手続をせずに死亡) |
・死亡日が平成18年3月27日~平成20年11月30日 →令和5年12月1日まで
・死亡日が平成20年12月1日以降 →死亡した日の翌日から15年以内
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3 患者が療養中に申請して認定を受け、その後死亡した場合
給付の種類 |
給付の内容等 |
請求期限 |
葬祭料 |
19万9000円 葬祭を行う者に支給される |
死亡した日の翌日から2年 |
未支給の 医療費・療養手当 |
遺族(請求権を有する者)に支給される。 |
医療費の自己負担分については、請求をできる日から2年 |
救済給付 調整金 |
患者本人又は遺族に支給された医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合に、差額分が遺族(請求権を有する者)に支給される。 |
死亡した日の翌日から2年 |
※患者様がアスベストを原因とする肺がんとしての認定を受け、その後肺がんに起因してお亡くなりになられた場合に限られます。
第4 申請に必要な書類
石綿健康被害救済法に基づく認定を受けるためには、必要資料を申請窓口へ提出します。申請窓口は、環境再生保全機構、各地の保健所または環境省の地方環境事務所です。
お亡くなりになられた方について申請する場合には、亡くなられた時期により必要書類が異なりますので、注意が必要です。
1 療養中の方が申請する場合
①申請書類
・認定申請書
・戸籍の記載事項を確認できる書類(戸籍謄本、住民票など)
・療養手当請求書
②医学的資料(病院に準備をお願いしていただきます)
・肺がん診断書
・エックス線検査、CT検査などの画像
・病理診断書等の根拠資料
2 お亡くなりになった方について申請する場合
(1)平成18年3月27日以降に認定の申請を行わずにお亡くなりになった方
①申請書類
・特別遺族弔慰金等請求書
・身分関係を証明できる戸籍類(戸籍謄本、改製原戸籍など)
・生計を同じくしていたことを証明できる書類(戸籍の附票や保険証の写しなど)
・死亡診断書または死体検案書の写しなど
②医学的資料(病院に準備をお願いしていただきます)
・肺がん診断書
・エックス線検査、CT検査などの画像
・病理診断書等の根拠資料
(2)平成18年3月26日以前(法施行前)にお亡くなりになった方
①申請書類
・特別遺族弔慰金等請求書
・身分関係を証明できる戸籍類(戸籍謄本、改製原戸籍など)
・生計を同じくしていたことを証明できる書類(戸籍の附票や保険証の写しなど)
・死亡診断書等を法務局に照会することに関する同意書
※申請にかかる方が指定疾病に起因して死亡したのかどうかを、窓口の機構が確認するために必要な同意書です。
②医学的資料(病院に準備をお願いしていただきます)
・石綿が原因であることの根拠に関する報告書
・石綿が原因であると判断した根拠となる胸部エックス線・CT検査の画像等
第5 既に石綿健康被害救済法による給付を受けられた方が建設アスベスト給付金の申請をする場合
肺がんの方が石綿健康被害救済法に基づく認定を受けるためには、各種の検査方法により肺がんの発症リスクを高める量の石綿ばく露によって、原発性肺がんに罹患したと判定されることが重要であり、労災申請とは異なり、救済法の申請の対象となる方のアスベストばく露作業の具体的内容等の情報は必ずしも必要とされていません。そのため、石綿健康被害救済法による認定を受けた方が建設アスベスト給付金申請をする場合には、アスベストのばく露歴に関する情報を改めて確認することが必要になります。
【弁護士への相談について】
石綿健康被害救済法に基づく給付金の制度は、労災保険給付の対象外の方や、時効等によって労災保険給付の請求ができない方も対象としている制度です。
特に、石綿健康被害救済法が施行される前(平成18年3月26日以前)に亡くなられた方の申請必要書類は多くありませんので、もしご家族の方が肺がんで亡くなられている場合には、ぜひ一度お問合せください。