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2022.11.30

裁判例紹介 タイヤの製造工程で使う粉末に含まれるアスベストなどが原因で元従業員が肺がんや中皮腫を発症したとして、タイヤ製造業者の責任が認められた事例(神戸地判平成30年2月14日判時2377号61頁)

森﨑 蓮

本稿執筆者 森﨑 蓮(もりさき れん)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

長崎県立長崎東高等学校 卒業
早稲田大学法学部 卒業
早稲田大学法科大学院 修了
早稲田大学法科大学院 アカデミックアドバイザー(2022年~)

日々を過ごす中で気になることがございましたら、遠慮なくご相談いただければと思います。小さな悩みを解消することが大きな不安を取り除くことにもつながります。皆様の一助となれるよう尽力します。どうぞよろしくお願いいたします。

裁判例紹介 タイヤの製造工程で使う粉末に含まれるアスベストなどが原因で元従業員が肺がんや中皮腫を発症したとして、タイヤ製造業者の責任が認められた事例(神戸地判平成30年2月14日判時2377号61頁)
ポイント

①因果関係の判断において、厚生労働省の出している通達を基準としつつ、発症した病気の内容ごとに因果関係を検討し、その際に粉じんの飛散状況や業務の内容、ほかの原因による病気の発症の可能性等を考慮して石綿等のばく露と病気の発症との因果関係を判断しました。

②被告会社の安全配慮義務について、被告会社は、石綿ないしタルクが、人の生命・健康に重大な障害を与える危険性があると認識することができ、かつ、認識すべきであったとしたうえで、石綿粉じんないしタルク粉じんの発生・飛散の防止及び粉じん吸入防止について、粉じんの発生状況等に応じて粉じん作業従事者の生命・健康に重大な障害が生じることを防止する義務を負っていると判示しました。

③消滅時効の援用を主張する場合、その援用の意思表示は常に認められるものではなく、時効援用の対象となる権利を、その権利者が時効期間内に行使しなかった原因が時効の援用権者に認められる場合には、時効援用の意思表示が権利の濫用と評価される場合があることを判示しました。


〈目次〉

第1.事案の概要

第2.主な争点

第3.判決

第4.判旨

第5.まとめ


第1.事案の概要

 本件は、タイヤの製造工場に勤務していた7名の元従業員(A~G)が、タイヤの製造工程で使われる鉱物である「タルク」を原料とする粉末にアスベストが含まれていたこと、及びアスベスト含有の保温材を使用していたことにより、アスベスト粉じんにばく露した結果、肺がんや中皮腫等を発症したと主張して、元従業員及びその遺族が被告会社に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求をした事案です。
 タルクとは、「滑石」という鉱石を微粉砕した無機粉末であり、マグネシウムとシリコンが酸素及び水酸基と結びついてできた層状粘土鉱物の一種です。タルクは、非常に柔らかく、耐熱性に優れ、化学的に安定した物質であるため、紙・パルプ、プラスチック、セラミックスなどの配合充てん剤として幅広く用いられ、ベビーパウダー、化粧品、塗料、チョーク、農薬などの製品に使用されてきました。タルクには、昭和60年ころ以前のものについては、不純物としてアスベストが混入していることがありました。
 A~Gの7名の従業員は、1945年(昭和20年)から1961年(昭和36年)にかけて、タイヤ製造を業とする被告会社に入社し、被告会社の工場でタイヤのゴムを練る作業や成形業務に従事していました。上記7名の従業員は、被告会社を退社後、肺がんや中皮腫等を発症し、うち6名は死去しています。
 被告会社は、タイヤ・チューブの製造及び販売等を業とする株式会社です。
 A~Gの7名の従業員及びその遺族は、上記の7名の従業員が肺がんや中皮腫を発症したのは、被告会社においてタイヤを製造する際に使用する粉末に含まれるアスベストが原因であると主張して、被告会社に対し、合計約1億3300万円の損害賠償請求訴訟を提起しました。

第2.主な争点

 本判決の主な争点は、①元従業員らが肺がんや中皮腫を発症した原因(タイヤの製造工程で使う粉末に含まれるアスベストが原因なのか)、②被告会社の債務不履行(安全配慮義務違反)の有無、③被告会社の主張する消滅時効の援用が権利の濫用にあたるか、という3点にあります。

第3.判決

 裁判所は、被告会社のA、C、D、F及びGに対する安全配慮義務違反を認め、被告会社に対し、合計約5900万円の請求を認容しました。

第4.判旨

1.争点①(元従業員らが肺がんや中皮腫を発症した原因)

(1)結論
  裁判所は、石綿肺で死亡したA、中皮腫で死亡したC及びFについては因果関係を認める判断をしました。肺がんを発症したB、D、E、Gについては、D、Gの肺がんの発症と石綿ばく露との間の因果関係が肯定された一方で、B及びEの肺がんの発症は工場での勤務に起因するものであることが高度の蓋然性をもって証明されたとはいえず、損害賠償請求が認められないと判断しました。

(2)理由
 ア.因果関係の立証について
  裁判所は、因果関係の有無を判断するにあたっては、原因となる事象から特定の結果が生じることについて高度の蓋然性が認められることが必要である旨を示したうえで、元従業員らの石綿ばく露と発症との間の因果関係は、発症した病気ごとに個別的に検討するとしました。

 イ. 肺がんの発症との間の因果関係について
  肺がんの発症と石綿ばく露との間の因果関係について、裁判所は、石綿ばく露による肺がん発症について確立された医学的知見厚生労働省の定める通達(平成24年3月29日基発0329第2号通達)に定められている石綿の累積ばく露量の指標が実質的に認められるか否かをもって検討するのが相当であるとしました。
 この基準に沿って、肺がんを発症したB、D、E、Gについて、裁判所はそれぞれ以下のように判断しました。(下線部は筆者。)


  (ア)B及びEについて
   Bは、被告会社工場において、約26年間タイヤの成形工程における成形作業に従事しており、Eは、被告会社工場において、約39年間電気設備保守業務に従事していました。
 裁判所は、Bが相当長期にわたりアスベストを取り扱う被告会社において勤務していたものの、勤務していた工場ではタルクの粉じんが飛散こそしていたが、Bの業務内容に照らすとばく露量がそう多くなかったと考えられること、Bに石綿肺の所見があるとは言えないこと、Bが相当長期にわたり1日15~20本程度の喫煙をしており肺がんの発症原因が喫煙に起因することの疑いをぬぐい切れないこと(すなわち、被告会社の工場におけるアスベスト粉じんばく露以外に発病原因が考えられること)等を理由に、因果関係を否定しました。
 Eについても同様の理由を判示して、因果関係を否定しました。


  (イ)Dについて
   Dは、被告会社工場において、約33年間、タイヤの混合工程におけるゴム練り作業に従事していました。
 タイヤの混合工程にはタルクが使用されていたことから、Dの就業場所においてはタルクの粉じん飛散量も多かったものと考えられるため、裁判所は、Dが「10年間を優に超える長期間、多量のタルク粉じんを吸入し、不純物として含まれる石綿にばく露した」ものと認定しました。
 このようなDのばく露状況に加えて、Dには医学的にも裏付けのある胸膜プラークの所見が多数見られること、上記通達に定められている累積ばく露量の指標が認められることなどを理由に、因果関係を肯定しました。


  (ウ)Gについて
   Gは、被告会社工場において、約18年間、材料班の業務としてアスベストを用いた保温材等を使用しており、さらに約12年間、ゴムの加硫業務に従事する際に、タルクや石綿が含まれている道具を利用する業務に従事していました。
 裁判所は、Gは加硫業務に従事していた12年間において、相当量のタルク粉じんや石綿を日常的に吸入していたものと判断し、これに加えてGには胸膜プラークの所見が認められたことから、上記平成24年の通達に定められる指標に達する累積ばく露量が認められるとして、因果関係を認める判断をしました。


 ウ.中皮腫の発症との間の因果関係について
  中皮腫を発症したCとFについて、Cは約30年間、被告会社工場においてタイヤ成形作業に従事しており、Fは約22年間タイヤ成形作業に従事していました。
 裁判所は、被告会社工場では日常的に石綿が飛散する状況にあったことから、CとF両名についての石綿ばく露を認定しました。そして、「中皮腫は石綿ばく露を原因とする特異的疾患で、日本では他の原因が極めて稀であること」から、裁判所は、CとFの中皮腫の発症について因果関係を認めました。


 エ 石綿肺の発症との間の因果関係について
  石綿肺を発症したAは、約20年間、被告会社工場において、電気・動力関係の業務に従事しており、電動機のエアブローの立ち会い、工場で使用していた保温材としてのアスベストテープの点検等の業務を行っておりました。
 裁判所は、Aがこれらの業務に20年間という相当長期間従事しており、各業務においてタルクないし石綿粉じんを吸入する可能性が高いものと判断し、Aが長期間継続的に石綿にばく露し続けたものと判断しました。
 これに加えて、Aにはじん肺と胸膜プラークの所見が認められることから、Aは被告会社工場における作業によって石綿にばく露し、石綿肺を発症したものと認定しました。


2.争点②(被告会社の債務不履行の有無)
(1)結論
  裁判所は、被告会社の債務不履行(安全配慮義務違反)を認めました。

(2)理由
 ア.予見可能性について
  被告会社の債務不履行の判断にあたって、裁判所は、「安全配慮義務の前提として使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重大性に鑑みると、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない」と判断し、まずは被告会社の認識すべき予見義務の内容を検討することが必要であると判示しました。
 そして、被告会社の予見義務の内容を認定するにあたり、裁判所は、まず石綿およびタルクによる健康被害の可能性についての一般論を検討し、「じん肺法が施行されるころには」、石綿およびタルクが、「生命・健康に対して危険性を有するものであるとの抽象的な危惧を抱かせるに足りる知見が集積していたといえる」と評価しました。
 このような石綿やタルクに関する当時の知見の集積状況に加えて、被告会社が各種タイヤの製造工程において粉塵の発生する工場での製造業を営む大企業であったこと、製造工程においてはタルクを直接に使用し、工場内においては石綿製品が多数使用されているという状況の下で、従業員に作業させていたこと、粉じん職場であってじん肺の発生が報告されていることからして、粉じんに関する知見の広がりに先駆けて粉じんの危険性を認識し得る立場にあったこと等を認定し、「被告会社は、遅くとも、昭和35年までには、石綿ないしタルクが、人の生命・健康に重大な障害を与える危険性があると認識することができ、かつ、認識すべきであったと認められる」と判断しました。


 イ.安全配慮義務違反について
  裁判所は、被告会社の安全配慮義務の内容について、「昭和35年以降、石綿粉じんないしタルク粉じんの発生・飛散の防止及び粉じん吸入防止について、粉じんの発生状況等に応じて粉じん作業従事者の生命・健康に重大な障害が生じることを防止する義務」を負っていると判断しました。
 次に、安全配慮義務の具体的内容について、裁判所は、「じん肺法では、じん肺の予防に関して、技術の進歩に即応した粉じん発散の抑制装置、呼吸器保護具の整備着用、作業環境の測定等じん肺の予防のために適切な措置について使用者と労働者双方の努力義務を定めるとともに、使用者は粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺の予防及び健康管理に関し必要な教育の徹底を図るべきことなどが規定されていること」、製造工程で多量のタルク粉じんが生じていること、被告会社の経営する工場における石綿粉じんの飛散実態を踏まえ、被告会社には、以下の義務があることを認めました。


  〔1〕粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務
  〔2〕呼吸用保護具を適切に使用させる義務
  〔3〕粉じん濃度を測定し、その結果に従い改善措置を講じる義務
  〔4〕安全教育及び安全指導を行う義務

  そして、被告会社の安全配慮義務違反については以下の通り判示しました。

 (ア)粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務
   裁判所は、「粉じんの発生自体を防止するための湿潤化対策が採られていたと認めることはできないし、清掃・除去の過程でのエアブローの多用は、かえって粉じんを生じさせる方法で清掃が行われていたといえ、発生した粉じんの飛散を防止する措置が採られていたと認めることはでき」ず、「粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務が尽くされていたとはいえない」と判断しました。

 (イ)呼吸用保護具を適切に使用させる義務
   裁判所は、「発生した粉じんの吸入を防止するためには、石綿やタルク粉じん対策用のマスクを支給するか、これが困難であっても、粉じんが生じ得る作業に従事させる際には、マスクを着用させるべきである」としたうえで、本件において従業員が着用していたマスクが対防じん用のものではないこと、暑い時期にはマスクを外していたことを認定し、被告会社が呼吸要保護用具を適切に着用させていたとは言えないと判断しました。

 (ウ)粉じん濃度を測定し、その結果に従い改善措置を講じる義務
   裁判所は、「被告会社は、粉じん濃度を測定し、職場環境改善の必要性を検討している」事実を認定したものの、「粉じん濃度の測定や職場環境改善が必要な程度に粉じんが飛散している職場である以上、粉じん対策が不要になるわけではない」ため、被告会社が粉じん測定の結果を踏まえて改善措置を講じる義務を尽くしたとは言えないと判断しました。

 (エ)安全教育及び安全指導を行う義務
   裁判所は、被告会社の工場において被告会社がじん肺健康診断を行った事実を認定しましたが、「従業員において、粉じんの発生・飛散を防止し、さらに粉じんを吸入しないための措置をとっているとは認められないことに照らせば、被告会社において、石綿粉じんないしタルク粉じんについて、各時点の知見の集積状況や、各工場の粉じんの飛散状況や飛散可能性に応じて、十分な安全教育ないし安全指導を行っていたとは認めることはできない」と判断し、被告会社が安全教育及び安全指導を行う義務を尽くしていないと判示しました。

3.争点③(被告会社の主張する消滅時効の援用が権利の濫用にあたるか)
(1)結論
  被告会社は、死亡から10年を経過した元労働者については、債務不履行責任の消滅時効を援用し、不法行為責任の追及に対しては、石綿健康被害救済法に基づく救済給付の各請求を行ってから3年が経過したものとして、消滅時効を援用しました。
 裁判所は、被告会社によるこれらの消滅時効の援用について、消滅時効の完成を認定しつつも、以下の事情から被告会社による消滅時効の援用は権利濫用に当たることから許されないと判断しました。


(2)理由
 ア.判断基準の明示
  裁判所は、消滅時効制度の機能ついて、「時効によって利益を受けることを欲しない場合にも、時効の効果を絶対的に生じさせることは適当でないともいえるから、民法は、永続した事実状態の保護と時効の利益を受ける者の意思の調和を図るべく、時効の援用を要するとしている。」と判示しました(民法145条)。
 そのうえで、時効を援用して時効の利益を受けることについては、援用する意思表示を要件とするのみで、援用する理由や動機、権利の発生原因や性格等を要件としていないことに照らせば、時効の利益を受ける債務者は、債権者が期間内に権利を行使しなかったことについて債務者に責めるべき事由があり、債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情がない限り、消滅時効を援用することができるというべきであるとして、債権者が債務者の行為が理由となって権利行使をしなかった場合には、債務者による消滅時効の援用を許さない旨を判断しました。


 イ.被告会社による消滅時効の援用が権利の濫用にあたること
  裁判所は、一般論としてアスベスト疾患を理由とした企業の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求訴訟について遺族による訴訟追行(主張や立証)や請求自体に困難が伴うことを示したうえで、原告らは、元従業員らの被災状況が判然としないことから被告会社に対して原因を究明するように求めるとともに団体交渉を申し入れている事実を認定し、被告会社に対する損害賠償請求権の行使が容易ではなく、損害賠償請求権を行使するために準備行為を継続的に行っていたと評価しました。
 一方で、裁判所は原告らと被告会社間の団体交渉が申し入れから実現までに5年の期間を要しており、その原因が、被告会社による団体交渉の申入れ拒否にあり、団体交渉実現のために裁判にまで発展したこと、その裁判において被告会社の団体交渉に応じる義務があったと認定された従前の経緯を踏まえ、原告らが被告会社に対する損害賠償請求権を行使するにあたって、解決すべき事実上ないし法律上の問題点を解消するために期間を要した原因が被告会社にあることを認定しました。
 以上の理由から、裁判所は「被告会社が、積極的に、原告らの権利行使を妨げたなどの事情は認められないものの、上記のとおり、被告会社の看過できない帰責事由により、原告らの権利行使や時効中断行為が事実上困難になったというべきであり、債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情が認められる」と判示しました。


第5.まとめ

1.元従業員らの発病原因(石綿等のばく露と発病との間の因果関係)について
  本判決において、裁判所は、元従業員らの肺がん・中皮腫・石綿肺の発症と石綿等のばく露との間の因果関係について、発症した病気の内容ごとにそれぞれ検討していましたが、いずれの病態についても考慮されるべき事情としては、石綿にばく露したと思われる事業場内の石綿等の粉じんの飛散の有無及び飛散状況(石綿が含まれる粉じんが多量に飛散しているのか、飛散した粉じんの中に含まれるアスベストの程度等)、事業場で業務に従事した期間の長短、従事する業務においてアスベストにばく露する機会とその頻度、医学的所見の内容(胸膜プラークのようにアスベストを吸引したことで生じる特異的変化の有無等の医学的所見)、他原因との鑑別といった事情が挙げられています。
 今後、石綿関連疾患を理由とした訴訟を検討する際には、上に列挙した事情が存在するのか、それを証明することができるかを整理することが重要であるといえます。
 また、発症した病気が中皮腫の場合については、日本国内においてはアスベスト粉じんを吸引すること以外の理由で発症することがおよそ考えにくい疾病であると判示されていることからして、中皮腫でかつ石綿粉じんのばく露を証明することができた場合にはおよそ因果関係も認められると考えられる点は注目すべきポイントだといえます。


2.被告会社の債務不履行(安全配慮義務違反)について
  本判決において、裁判所は、アスベストが含まれた原料を用いるなど、製造行程で工場内に粉じんが恒常的に飛散するような状況下で従業員を勤務させる企業においては、〔1〕粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務、〔2〕呼吸用保護具を適切に使用させる義務、〔3〕粉じん濃度を測定し、その結果に従い改善措置を講じる義務、〔4〕安全教育及び安全指導を行う義務が認められると認定しております。
 そして、上記の判旨からもわかる通り、裁判所は、アスベストを取り扱う工場においては、粉じんの発生及び飛散自体を防止しうる程度の措置をとることを求めるのみならず、従業員に対して徹底した吸引防止のため、適切な保護用具の使用を徹底することを求めているといえます。また、工場内の粉じん濃度を測定し、粉じんの飛散の有無と程度、粉じんの濃度を踏まえて職場環境を詳細に検討するよう求められているとともに、従業員に対する定期的な健診等を通じて従業員の体調に粉じん吸引による悪影響が生じていないか十分な安全指導と安全教育を施すように要求しているといえます。


3.消滅時効について
  本判決では、被告会社による消滅時効の主張は、権利の濫用にあたるとされ、排斥されました。消滅時効は、長期間継続した事実関係を維持して尊重することが法律関係の安定につながる等の趣旨から時効援用の意思表示をすることで権利を消滅させる制度ですが、消滅時効を援用できる者は常に時効援用の意思を表明して権利を消滅させることができるというわけではなく、消滅時効の対象となる権利を持つ者がその権利を行使しなかったことについて、その責任が権利の相手方に認められる場合には、時効の援用が制限される可能性があることを裁判所が判示した点が本判決のポイントといえます。
 本判決では、元従業員や遺族らが団体交渉を申し入れ、被告会社はこれを拒否したものの、最終的には裁判によって団体交渉に応じる義務があると判断され、本判決では不当な団体交渉拒否であると判断した上で、被告に帰責事由を認め、消滅時効の援用が権利の濫用にあたるとしています。そのため、上記のような特段の事情が無い場合は、消滅時効の援用がそのまま認められてしまう可能性があることに注意が必要です。

【弁護士への相談について】

 工場における商品の製造過程でアスベストを含んだ素材を取り扱っていた方は、相談前に当時の作業内容や石綿の飛散状況、マスクを着用して勤務をしていたか、勤務先からアスベストに関してどのような教育や指導がなされていたか、ご自身のご病気に対して医師からどのような診断を受けているかなど、一度これらのご事情を整理し、相談に臨んでいただけるとよいと思います。

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