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2025.07.28

裁判例紹介:じん肺管理区分3ロの決定及び健康管理手帳を受け、その後肺がんで死亡した労働者ついて、労働者の死亡は石綿ばく露、石綿肺を理由とする肺がんではないとして、損害賠償請求を棄却した事例(東京地判平成24年10月30日労働経済判例速報2160号11頁)

柏木 利直

本稿執筆者 柏木 利直(かしわぎ としなお)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

・明治大学附属中野八王子高等学校 卒業
・明治大学法学部法律学科 卒業
・明治大学法科大学院 修了

はじめまして、弁護士の柏木利直です。

私は、ご依頼者様のどんな些細な不安や心配事にも真正面から真摯に向き合い、解決に向けて最善を尽くすことをお約束いたします。
個々の問題ごとに最適な解決方法をご提案し、皆様から信頼のおかれるリーガルサービスをご提供できるよう日々精進いたします。

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裁判例紹介:じん肺管理区分3ロの決定及び健康管理手帳を受け、その後肺がんで死亡した労働者ついて、労働者の死亡は石綿ばく露、石綿肺を理由とする肺がんではないとして、損害賠償請求を棄却した事例(東京地判平成24年10月30日労働経済判例速報2160号11頁)
ポイント

 約33年にわたって「はり工」として、Y1社及びY2社以下(以下、Y1社とY2社を合わせて「被告両社」といいます。)に勤務していたAについて、

①作業現場に石綿が含まれていた可能性は否定できないとした一方で、医師の診断において、Aに胸膜プラークはなく、喀痰等から石綿小体が確認されたとの記載もないことから石綿ばく露が認められず、また、不整形陰影も認められないことから石綿肺にり患していたとは認められないとされたことから、Aの死亡は、石綿ばく露等を理由とする肺がんではないと認定されました。

②じん肺管理区分決定は、けい素や石綿等の粉じんが肺中に存在することまで確認するものではないから、同決定を受けていることをもって、Aが石綿肺にり患していたと認めることができるものではないと認定されました。

③健康管理手帳の交付の事実をもって、Aが石綿関連疾患にり患していたことが直ちに認められるものではないと認定されました。


〈目次〉

第1.事案の概要

第2.重要な争点

第3.判決

第4.判旨

第5.検討



第1.事案の概要

 Aは、昭和42年4月から昭和63年9月まで、被告Y1社(以下、単に「Y1社」といいます。)に、昭和63年9月から平成12年11月まで、被告Y2社(以下、単に「Y2社」といいます。)に、はり工として勤務していました。
 そして、Aは平成11年頃じん肺症、肺線維症、慢性気管支炎などと診断され、入退院を繰り返し、平成19年11月には東京労働局長よりじん肺管理区分3ロの決定を受け、健康管理手帳も受けていたところ、平成20年5月に肺がんで死亡しました。
 本件は、Aの一部の相続人(以下「原告ら」といいます。)が、Aは建築現場において大量の石綿粉じんにばく露したことによってじん肺、肺がん等にり患して死亡したとして、Y1、Y2及び、国に対して、損害賠償請求をした事案です。

1.当事者
 (1)原告ら
   原告らは、Aの相続人です。

 (2)A
   Aは、Y1社及びY2社において約33年間にわたってはつり工として勤務し、作業内容は新築工事現場における躯体調整、新築現場や改修工事現場における躯体調整というコンクリート、モルタル、ブロック等を削る作業のほか、改修工事現場において柱や壁を壊す作業も行っていました。
 平成12年3月27日朝、作業現場に向かう途中で倒れ、同日から同年4月7日までa病院に入院して治療を受け、その後も療養を続け、入退院を繰り返しました。
 平成19年11月28日、東京労働局長は、Aに対し、じん肺法に基づき、じん肺管理区分管理3ロに該当する旨のじん肺管理区分決定(以下「本件区分決定」といいます。)を行い、同局長から、平成20年1月15日、「健康管理手帳(石綿)」(以下「本件手帳」といいます。)の交付を受けていました。
 もっとも、Aは上記入退院を繰り返していましたが、仕事に復帰することができず平成20年5月2日、肺がんのために死亡しました。


 (3)被告両者
   Y1社は、木造家屋、コンクリートの解体作業等を業とする株式会社です。
 Y2社は、建造物解体工事に関する設計及び施工等を業とする株式会社です。
 Y2社は、昭和63年9月、当時Y1社の代表者の弟が独立して設立した会社で、Y1社からはつりの仕事を引き継いだ会社です。


2.作業現場における石綿の存在
  Aの作業内容は前述のとおりであるところ、コンクリート、モルタル、ブロック等に石綿が含まれていることは考え難いものの、他方、改修工事現場において壊す柱や壁内に石綿が含まれていた可能性は否定できず、実際に被告両会社において、防じんマスクの着用等じん肺対策が採られていました。

第2.重要な争点

 本件での重要な争点は、Aの死因である肺がんが石綿被害を原因とするものであるかについてです。

第3.判決

 本判決は、Aの死因である肺がんについて、石綿被害を原因とするものであるとは認められないとし、原告らの被告両者、国への請求を棄却しました。
 具体的には、Aについて、石綿ばく露があったこと、石綿肺及び石綿ばく露を原因とする肺がんにり患していたとは認められず、Aの傷害及び死亡について石綿ばく露、石綿肺及び石綿ばく露を原因とする肺がんによるものであったと認めることはできない、としました。

第4.判旨

1.前提事項
 【じん肺、石綿肺等】
   裁判所は、本判決の前提として、じん肺や石綿肺の用語説明、石綿ばく露の指標となる医学的所見、及び石綿関連疾患の石綿肺診断に必要な要件について明示しました。

 (1)じん肺
   じん肺とは、小さな石ぼこりや金属の粒などの無機物又は鉱物性の粉じんを長期間吸入することにより、肺に線維増殖性変化を主体とした不可逆性病変を生じたものをいい、けい肺、石綿肺、滑石肺、炭肺、珪藻土肺などに分類されます。
 そして、じん肺法においては、じん肺とは「粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」(同法2条1項1号)とされています。じん肺は、粉じんが肺の奥深く吸い込まれて沈着すると、異物である粉じんを肺胞マクロファージ(白血球の一種)が貪食し、それを取り除こうとする反応が生じますが、その反応が激しいとかえって肺の組織が傷付き、傷付けられた組織を修復するために、肺の中に線維組織が増えて肺の線維化が進むことによって引き起こされる疾病です。


 (2)石綿(アスベスト)
   石綿とは、蛇紋石族(クリソタイル)、角閃石族(クロシドライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライト)のうち顕微鏡レベルで長さと幅の比(アスペクト比)が3以上の繊維状ケイ酸塩鉱物の総称をいいます。石綿は、粉砕した時に縦に裂けて次々に細い繊維になり、直径が非常に細い繊維は、その繊維が長くても吸入性粉じんとなり、ヒトの肺胞にまで到達します。

 (3)石綿ばく露に関する医学的所見
   石綿ばく露の指標となる医学的所見としては、①胸膜プラークの病態が見られること、②気管支肺胞洗浄液又は喀痰の中に石綿小体が見られることが挙げられています。

 (4)石綿肺(いしわたはい)
   石綿肺とは、石綿の高濃度ばく露によって発生するじん肺の一種であって、病理学的にはびまん性間質性肺炎(病変の主体が肺胞壁にあって、浮腫や細胞性の炎症から結合組織の増加による線維化に至り、病変部の縮小・虚脱が起こり、肺が破壊される病態)を意味します。
 そして、臨床による石綿肺の診断には、①10年以上の職業性石綿ばく露歴があること②胸部X線で下肺野を中心にした不整形陰影を認めること③他の類似疾患(突発性間質性肺炎、膠原病や薬剤性、感染症などによる間質性肺炎等)や石綿以外の原因物質による疾患を除外することが必要です。
 石綿肺は肺線維症の1つで、肺線維症は様々な原因で発症する疾患であるが、そのうち大量の石綿を吸入することによって発生するものが石綿肺です。
 そのため、客観的な石綿ばく露作業歴が確認できた症例で、かつ胸部X線所見や肺機能低下が認められた場合に初めて石綿によるものとして、石綿肺と診断されるものであって、石綿ばく露が確認できなければ石綿が原因であると診断することは難しいとされています。
 石綿ばく露で肺内に吸入された比較的長い石綿繊維は、マクロファージ等による貪食・運搬作用がうまく機能せずにそのまま長期間肺内に滞留し、そのうちの一部は、多数のマクロファージの作用で鉄アレイのような形をした石綿小体を形成します。組織検査において、この石綿小体が線維化巣に認められることが、石綿肺の最終的診断の決め手になります。


 (5)業務上疾病
   業務上疾病とは、つまり、当該肺がんが石綿にさらされる業務による肺がんであるといえるのか、ということになります。
 平成18年2月9日付け厚生労働省労働基準局長による「石綿による疾病の認定基準について」においては、石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって、次のア又はイに該当する場合には、労働基準法施行規則別表第1の2第7号7に該当する業務上疾病(石綿にさらされる業務による肺がん)として取り扱うこととする、とされています。
 そして、ア じん肺法に定める胸部X線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていること、イ 次の(ア)又は(イ)の医学的所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること、と定められています。
 さらに、(ア)胸部X線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること、(イ)肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること、と定められています。


2.Aに対する認定
 (1)石綿ばく露について
   Y2社では、従業員に対して毎年健康診断を実施しており、Aに対し、少なくとも平成元年、同3年、同6年、同8年、同10年にじん肺検診を受診させていましたが、いずれも、じん肺による肺機能の障害はないとされ、X線写真による検査結果において不整形陰影は認められず、また、胸膜プラークを示す「plc」にチェックはされておらず、胸膜プラークは確認されませんでした。
 また、独立行政法人国立病院機構災害医療センターでのAに対するじん肺健康診断において、平成19年4月時点のX線写真の像に不整形陰影は認められず、「plc(胸膜プラーク)」にはチェックされませんでした。
 加えて、平成20年1月23日付けの労働基準監督署長宛ての同災害医療センター医師作成の書面において、Aにつき、X線検査及びCT検査の結果では胸膜プラークはなく石綿肺の所見もないとされ、また、同人についてたばこ40本を40年間吸ったとの記載がされました。
 Aにおいては、平成19年9月時点のX線検査及びCT検査において胸膜プラークは確認されておらず、また、平成20年1月23日付けの独立行政法人国立病院機構災害医療センター医師作成の書面(以下略)においてもX線検査及びCT検査の結果では胸膜プラークがないとされています。
 また、上記じん肺健康診断において、Aの喀痰等から石綿小体が確認された旨の記載もありませんでした。
 また、被告両会社においてはじん肺対策が採られ、また、被告Y2勤務中は毎年の健康診断や少なくとも隔年によるじん肺検診においても、Aに肺機能の障害はないとされ、特段の異常は認められておらず、少なくとも同人に10年以上にわたる石綿ばく露歴があったと認めることはできないとしました。
 そのため、Aについて、石綿ばく露の指標となる医学的所見を確認することはできないと認定しました。


 (2)石綿肺のり患について
   裁判所は、Aについて、平成19年9月時点までに至る胸部X線検において不整形陰影は認められておらず、また10年以上にわたる石綿ばく露歴も認めることができないことから、Aが石綿肺にり患していたと認めることはできないと認定しました。

 (3)石綿ばく露を原因とする肺がんであるといえるかについて
   裁判所は、Aは、石綿肺の所見が得られておらず、胸部X線検査、胸部CT検査等により胸膜プラークが認められず、肺内に石綿小体や石綿繊維が認められないことからすれば、Aの肺がんの原因について石綿ばく露を原因とするものであると認めることはできないと認定しました。

3.本件証明書と本件手帳
  原告の一人が、平成19年12月12日付けY2社作成の、Aを被証明者とする、「従事歴証明書(事業者記載用)(石綿)」(以下「本件証明書」という。)の交付を受けていました。  本件証明書には、雇入年月日、離職年月日、事業場の主な業務内容、具体的な業務内容が記載されており、事業場の主な業務内容として「とび土工工事業」、具体的な業務内容として「新築現場及び建物解体現場での斫り作業」との記載がされていました。
 また、業務の種類として「石綿が吹き付けられた建築物、工作物の解体、破砕等の作業」のところに印が付けられ、さらに同業務への従事期間・頻度などが記載されており、同従事期間における石綿健康診断の実施状況として「有」に印が付けられていました。
 もっとも、当時のY2社の社長は、事務担当者に対して、Aの家族からの要望を聞いて融通をきかせてあげてと指示をしていました。
 裁判所は、本件証明書は、Aの相続人の一人が要求したことから、同事務職員としては作業員が現場で具体的にどのような作業を行っているかは必ずしも十分に把握していないのに、同指示に基づき融通をきかせて作成されたものであって、必ずしも実態を反映したものではないとしました。
 そのうえで、本件手帳も上記経緯のもと作成された本件証明書に基づき交付されたものであることに加え、前述のとおりAに石綿ばく露の事実を確認できないことを考慮し、本件手帳が交付されていた事をもって、Aが石綿関連疾患にり患していたことが直ちに認められるものではないと認定しました。


4.本件区分決定について
  裁判所は、Aは管理3の区分決定を受けていたところ、じん肺管理区分決定は、けい素や石綿等の粉じんが肺中に存在することまで確認するものではないから、同決定を受けていることをもって、Aが石綿肺にり患していたと認めることができるものではないと認定しました。

5.結論
  裁判所は、Aについて、石綿ばく露があったこと、石綿肺及び石綿ばく露を原因とする肺がんにり患していたとは認められず、Aの傷害及び死亡について石綿ばく露、石綿肺及び石綿ばく露を原因とする肺がんによるものであったと認めることはできないとの判断のもと原告らの請求は認められないとの判決をしました。

第5.検討

 本判決は、Aについてじん肺管理区分決定を受けているにも関わらず、判決では、石綿肺所見が得られなかった、及びAが石綿粉じん吸引したことを認定できないことを理由に、原告らの請求を棄却した事件です。
 これについては、石綿ばく露の重要な指標である胸膜プラークがAには認められていなかった点も大きいと考えられますが、本判決も「一般に胸膜プラークが石綿肺の症例に認められる頻度は85%程度といわれており、また、胸膜プラークは石綿ばく露を示唆する所見とされるが、石綿にばく露した者に必ず胸膜プラークが生じるわけではなく、また、胸膜プラークは、石綿肺が生じ得ない程度の低濃度の石綿ばく露でも生じるものであることから、胸膜プラークが存在するからといって線維化の原因が石綿ばく露であるとは限られず、したがって、胸部X線像で胸膜プラークが認められれば石綿肺、それが認められなければ石綿以外の原因による間質性肺炎と単純に整理することはできない。」と指摘するとおり、胸膜プラーク所見がなかったことが石綿粉じんにばく露していないことを示すものでもありません。
 それでも本件で原告らの請求が認められなかった原因として、やはり不整形陰影が認められない等の石綿肺所見が認められなかったことが大きいものと考えられます。
 また、本件においては、本件証明書の作成経緯において、その記載内容が必ずしも実態を反映したものではなかったという、特殊な事情があったことも軽視してはならないと思います。
 そうだとしても、本判決文からすると原告らが石綿肺に限定して主張していることから請求棄却した、とも読み取れるような書きぶりであり、仮に石綿に限らない「じん肺」での健康被害の主張を行った場合にはどういった結論になったかは明らかではないところです。
 本判決は、請求が認められなかった事例の分水嶺として、学べることもあると考えられます。

【弁護士への相談について】

 本判決からすると、じん肺管理決定や、健康管理手帳の交付及び、石綿に関係する業務に従事していたことが記載された従事歴証明書等があっても検査所見等などによって請求が棄却されてしまう可能性があることがわかります。
 もっとも、前述のとおり、本件においても主張を限定しなければ結果が異なった可能性は否定できず、早々に諦めてしまうのは合理的ではありません。
 企業に対する責任追及が認められるかどうかの見通しを判断や、裁判の中で最適な主張内容・方法の検討には、弁護士による詳細な事情の確認や専門的な判断が必要ですので、過去にアスベスト粉じんにばく露する作業に従事した方で具体的な救済方法についてご関心のある方は、ぜひ一度弁護士までご相談ください。

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