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2025.08.13

裁判例紹介:在日米軍基地で冷蔵庫や空調装置の機械工として業務に従事したことが原因で退職後に胸膜中皮腫に罹患し死亡したとして、国に使用者としての責任が認められた事例

村上 将紀

本稿執筆者 村上 将紀(むらかみ まさき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

・広島大学附属福山高等学校 卒業
・中央大学法学部法律学科 卒業
・中央大学法科大学院 修了

はじめまして。弁護士の村上将紀です。

法律問題に直面すると、多くの方が不安や戸惑いを抱えることと思います。そのような時に、少しでも安心していただけるよう、丁寧で分かりやすい説明を心掛けております。
また、弁護士に相談するのは敷居が高いと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。話しやすい雰囲気を作るよう努めて参ります。
小さなことでも構いません。まずは一度、お話をお聞かせください。お一人おひとりのお悩みに真摯に向き合い、最善の解決策を一緒に考えさせていただきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

裁判例紹介:在日米軍基地で冷蔵庫や空調装置の機械工として業務に従事したことが原因で退職後に胸膜中皮腫に罹患し死亡したとして、国に使用者としての責任が認められた事例
ポイント

①冷蔵庫や空調装置の設置・修理・解体作業を行った際、断熱材に含まれるアスベストが粉じん化し、これを吸引したとして、これらの作業が石綿ばく露作業であると認定されました。

②当時、横須賀基地内では、湿潤化、局所排気装置の使用、防護衣・マスクの着用、安全教育、健康診断といった措置が講じられていなかったこと等を根拠に、雇用主である国の安全配慮義務違反が認定され、国に損害賠償を命じる判決が出ました。


〈目次〉

第1.事案の概要

第2.主な争点

第3.判決

第4.争点に対する判断

第5.検討



第1.事案の概要

 本件は、国(本稿では、日本国のことを指します。以下同じ。)に雇用され、米軍横須賀基地で冷蔵庫や空調装置の機械工として業務に従事した亡Aの相続人である原告らが、Aは、横須賀基地での勤務中にアスベストに曝露し、米海軍及び国の安全配慮義務違反により、胸膜中皮腫に罹患し死亡したと主張し、国を被告として、債務不履行責任、又は、不法行為に基づく損害賠償金等の支払を請求した事案です。

1.Aの職歴および勤務内容
 (1)横須賀基地勤務以前の職歴
   Aは、高校卒業後から昭和52年7月までB株式会社に勤務し、商品の受注と配達の仕事に従事していました。

 (2)横須賀基地での勤務内容
   Aは、B株式会社退職後の昭和52年8月から、米海軍横須賀基地の米海軍横須賀施設本部に就職し、就職直後から平成7年2月28日まで、冷蔵及び空気調節機械工として勤務していました。その間、Aは、①冷蔵庫の修理・解体の際、冷蔵庫の配管、ダクトから断熱材を撤去する作業②住宅や工場、倉庫の外壁を切断して壁に穴を開け、窓付け型エアコンを設置する作業③冷房装置の修理作業に従事していました。このうち、①の作業では、冷蔵庫の修理の際、配管やダクトに断熱材を取り付ける作業が含まれることがあり、③の作業では、修理前にダクトを被覆している保温材をはがし、修理後に再び取り付ける工程が含まれていました。

2.Aの病状
  Aは、平成17年の夏頃から頻脈があり、翌平成18年4月、胸膜中皮腫(二相型)と診断されました(後に検体の精査を受けた結果、悪性胸膜中皮腫と診断されました)。Aは、その後、入退院を繰り返し、平成19年2月には、腫瘤が脊髄を圧迫し、胸から下の部分が麻痺して寝たきりの状態となり、同年5月、胸膜中皮腫により死亡しました。

第2.主な争点

 本件の主な争点は、①Aは、米海軍横須賀基地における業務中にアスベスト粉じんに曝露し、胸膜中皮腫に罹患したものであるか否か②国の安全配慮義務の内容及び安全配慮義務違反の有無です。

第3.判決

 本判決は、被告の安全配慮義務違反が認められるとして、原告であるAの遺族に対し、総額でおよそ7685万円の損害賠償を命じました

第4.争点に対する判断

1.Aは、米軍横須賀基地における業務中にアスベスト粉じんに曝露し、胸膜中皮腫に罹患したか否か
  裁判所は、断熱材には、アスベストが使用されているものがあり、Aが横須賀基地での業務で扱う住宅や工場、倉庫等の外壁には、アスベストスレートが使用されているものがあったと認定しました。
 そのうえで、Aには、横須賀基地における業務以外にアスベスト粉じんにばく露する機会があったことや、アスベストとは別の原因により中皮腫に罹患した可能性を窺わせるような事情は認められないとして、Aは、昭和52年以降、横須賀基地においてアスベスト粉じんの生じる作業に従事し、その際に、アスベスト粉じんにばく露した結果、胸膜中皮腫に罹患したと認定しました。


2.国の安全配慮義務の内容及び安全配慮義務違反の有無
 (1)国の安全配慮義務の有無・発生時期
   国が発出した昭和46年1月5日基発第1号には、「石綿粉じんを多量に吸入するときは、石綿肺をおこすほか、肺がんを発生することもあることが判明し、また、特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた」との記載がありました。
 また、米海軍が発出した昭和49年4月9日付けの通達6260・1においては、「アスベスト繊維を過剰吸引すると、深刻な肺の損傷を生じうる。肺機能を無力化するとか、致命的な肺の線維症を起こしたりする。アスベストはまた、胸部と腹部を覆う粘膜の癌(中皮腫)を発症させる原因物質の一つであることも判っている」とも記載されていました。
 さらに、昭和40年頃には既にアスベスト粉じんが人体に有害作用を起こすとの指摘があったほか、昭和45年ごろからアスベストの発がん性に言及する報道も見られました。裁判所は、これらの事情を踏まえ、国は、Aが就職した昭和52年以前において既に、アスベスト粉じんばく露により中皮腫に罹患する危険があるなど、アスベストの健康被害について認識していたと認定しました。
 そのうえで、国は、アスベスト粉じん対策を講じる必要性、緊急性を認識し、直接、間接にアスベスト粉じん対策を実施すべき義務を負っていたというべきであると判断しました。


 (2)国の安全配慮義務の具体的な内容
  ア.アスベストの湿潤化
    旧労働安全衛生規則、労働安全規則に注水についての規定があり、改正特化則に湿潤化についての規定がありました。また、米海軍の通達でも、湿潤化についての規定がありました。これらの事情から、裁判所は、アスベスト粉じんの発生を抑制するには、作業前や作業中に、散水や噴霧などの湿潤化対策を講じるのが有効な手段であることが認められると判断しました。そのうえで、国は、昭和52年までに、そのことを認識していたといえるから、安全配慮義務の一内容として、粉じん作業前や粉じん作業中の散水、噴霧を行うよう従業員を指導、監督すべき義務を負っていたというべきであると認定しました。

  イ.局所排気装置の使用
    旧労働安全衛生規則や基発第338号、基発第609号、旧特化則、労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則、特化則等に、少なくとも屋内での作業実施時における局所排気装置による換気に関する規定があることを根拠に、裁判所は、局所排気装置等の通気システムの設置が、発生したアスベスト粉じんが作業現場に滞留することを防止するのに有効な手段であることが認めました。
 そのうえで、国は、昭和52年までに、そのことを認識していたというべきであると判断し、現場で湿潤化措置をとる等のアスベスト粉じんが許容濃度を超えて浮遊するのを抑制する適切な措置がとられていないこと等から、国は、局所排気装置を使用する義務があったと判示しました。


  ウ.防護衣及びマスク
    旧労働安全衛生規則や基発第338号、旧特化則、労働安全衛生規則、特化則等にマスクに関する規定があること、労働安全衛生規則等に防護衣に関する規定があること等からすれば、アスベスト粉じんばく露を防止するためには、防護衣や、アスベスト粉じん濃度に応じたマスクの着用が有効であることは明らかであり、国は、昭和52年までにそのことを認識していたと裁判所は判断しました。
 そして、裁判所は、Aが就職した昭和52年において、国は、安全配慮義務の一内容として、防護衣やアスベスト粉じん濃度に応じたアスベスト粉じん用マスクを整備し、アスベスト作業の際に、これらを着用するよう従業員を指導監督すべき義務を負っていたというべきであると認定しました。


  エ.安全教育
    裁判所は、アスベスト関連疾患の重大性に照らせば、アスベスト作業に従事する従業員に対し、アスベストの特徴、アスベスト関連疾患の原因、症状及びその予防法等について十分な教育を行い、アスベスト対策の重要性を認識させる必要があり、ひいては、それが、上記のようなアスベスト対策の確実な実施につながるということができるとして、国は、安全配慮義務の一内容として、従業員に対し、安全教育を実施すべき義務を負っていたというべきであると判断しました。

  オ.健康診断
    裁判所は、前提として、アスベスト関連疾患の重大性に照らせば、従業員に対し、定期的に健康診断を実施してアスベスト関連疾患の早期発見に努めるとともに、健康診断の結果を踏まえ、アスベスト対策が適切に実施されているか否かにつき検討することが必要であると解しています。
 そのうえで、基発第308号において、石綿を扱う作業に従事する従業員に対し、X線直接撮影による胸部の変化の検査実施が推奨され、改正特化則においては、石綿等を取り扱う業務に常時従事する者に対して、6か月に1回、胸部X線直接撮影を含む石綿健康診断を実施することが規定されていることからすれば、国は、安全配慮義務の一内容として、アスベスト作業従事者に対し、胸部X線直接撮影を含む健康診断を定期的に実施すべき義務を負っていたと認定しています。


 (3)国の安全配慮義務違反
   裁判所は、以下のとおり、昭和57年ころまで、湿潤化の不実施、局所排気装置の不使用、防護衣の不使用、安全教育の不実施、健康診断の不実施という安全配慮義務違反を認定し、適切な防塵マスクの着用については、昭和62年頃まで安全配慮義務違反の状態にあったと認定しています。

  ア.アスベストの湿潤化
    国は、当時の米海軍通達等を根拠に、アスベストの湿潤化措置がとられていたと主張しましたが、裁判所は、証人尋問の内容等から、昭和57年以前においては、湿潤化を図ってアスベスト作業を実施させていた事実を認めることはできないとして、湿潤化について安全配慮義務違反を認定しました。

  イ.局所排気装置の使用
    裁判所は、証人尋問の内容等から、昭和57年以前においては、屋内でのアスベスト作業の際に、局所排気装置を使用することによる通気は適切に図られていなかったと認定しました。

  ウ.防護衣及びマスク
    裁判所は、防護衣については、遅くとも昭和57、8年ころから従業員に着用させてアスベスト作業にあたるよう指導監督がなされていたと認定しました。
 一方で、マスクについては、少なくとも昭和62年ころまで、本来、アスベスト作業の際に使用すべきでないとされるマスクがアスベスト作業の際に使用されていたと認定しており、作業内容やアスベスト粉じん濃度に応じた適切なマスクを整備し、従業員に、それを着用して作業にあたるよう十分な指導監督がなされていなかったとして、安全配慮義務違反を認めました。


  エ.安全教育
    裁判所は、昭和58年ころ以降は、少なくとも年1回程度、アスベストの定義、性質、基地内で扱うアスベスト製品、アスベスト取扱作業、アスベストの危険性、各作業における注意点、必要となる対策、手袋の外し方、使い捨てつなぎの脱ぎ方等について説明を行う安全教育が行われていたと認定したものの、同年以前は、アスベストの特徴や危険性、関連疾患等を内容とする安全教育が行われていたと認定できないと判示し、同年以前の安全配慮義務違反を認めています。

  オ.健康診断
    裁判所は、昭和57、8年以降において、アスベスト作業に従事する従業員に対し、胸部X線直接撮影を含む健康診断が被告によって実施されるようになったと認定しているものの、昭和57年以前については、アスベスト作業従事者に対し、胸部X線直接撮影を含む健康診断を実施されたことを認めるに足りる証拠はなく、アスベスト作業者に対し、胸部X線直接撮影を含む健康診断が実施されていたと認めることはできないとして、安全配慮義務違反を認めています。

第5.検討

 裁判所は、Aの生前の職歴や職務内容を基に、Aがアスベストに曝露したのは横須賀基地内での作業が原因であると認定しました。そのうえで、旧労働安全衛生規則、労働安全規則や通達等を基に、国の具体的な安全配慮義務の内容を検討した上で、安全配慮義務に違反した状態にあったことが認められるとして、国に損害賠償を命じました。
 なお、本件は、在日米軍基地内での作業に関する事例ですが、判決理由中に、Aの労務の管理者は米軍であったものの、国は、Aの雇用者であるとし、安全配慮義務の具体的な内容等について詳細な検討が行われています。在日米軍基地内で勤務されていた方のみならず、公務員としてアスベストばく露作業に従事していた場合等であっても、参考になる事例だと考えられます。

【弁護士への相談について】

 本裁判例のように、安全配慮義務違反を根拠とする損害賠償を請求するにあたっては、アスベストの曝露状況、雇用者の具体的な安全配慮義務の内容、安全配慮義務の履行状況等がポイントとなります。そして、これらのポイントを踏まえて、損害賠償請求が認められる可能性があるか否かを判断するには、弁護士による詳細な事実経過の確認や、専門的な検討が必要です。
 過去にアスベスト粉じんにばく露する作業に従事した方で、各種救済制度にご関心がある方は、ぜひ弁護士までご相談ください。

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