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2025.10.24

裁判例紹介:建設作業に従事した際に石綿を含有する建材から生じる石綿粉じんにばく露し、石綿関連疾患を発症した被災者に対して、建材メーカーの損害賠償責任を認めた事例(札幌地判令和6年9月20日裁判所ウェブサイト)

村上 将紀

本稿執筆者 村上 将紀(むらかみ まさき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

・広島大学附属福山高等学校 卒業
・中央大学法学部法律学科 卒業
・中央大学法科大学院 修了

はじめまして。弁護士の村上将紀です。

法律問題に直面すると、多くの方が不安や戸惑いを抱えることと思います。そのような時に、少しでも安心していただけるよう、丁寧で分かりやすい説明を心掛けております。
また、弁護士に相談するのは敷居が高いと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。話しやすい雰囲気を作るよう努めて参ります。
小さなことでも構いません。まずは一度、お話をお聞かせください。お一人おひとりのお悩みに真摯に向き合い、最善の解決策を一緒に考えさせていただきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

裁判例紹介:建設作業に従事した際に石綿を含有する建材から生じる石綿粉じんにばく露し、石綿関連疾患を発症した被災者に対して、建材メーカーの損害賠償責任を認めた事例(札幌地判令和6年9月20日裁判所ウェブサイト)
ポイント

①石綿を含有する建材を製造・販売していたメーカーに対して、昭和49年1月1日以降に警告表示を行う義務を認定しました。

②建材メーカーに対して、上記義務違反に基づき、石綿関連疾患を発症した被災者等に対する損害賠償責任を認めました。

③シェアが10%を超える建材メーカーが製造・販売した石綿含有建材は、建設現場において相当程度使用されたことを一応推認できると判断されました。


〈目次〉

第1.事案の概要

第2.主な争点

第3.判決

第4.主な争点に対する判断

第5.検討



第1.事案の概要

 本件は、建設作業に従事した際に石綿(アスベスト)を含有する建材による石綿粉じんにばく露し、中皮腫、肺がん等の石綿関連疾患を発症したと主張する、北海道在住の元建設作業員又はその遺族(相続人)である原告らが、建材を製造・販売していたメーカーである被告らに対し、上記の疾病は、被告らが石綿含有建材を製造・販売する際に石綿の危険性について警告表示をすべき義務を怠ったために発症したものであると主張して、不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案です。

1.原告らについて
  原告らは、いずれも、北海道に在住し、建設作業に従事した際、石綿を含有する建材から生じた石綿粉じんにばく露し、石綿関連疾患にり患したと主張する被災者又はその相続人です。本件の被災者は、いずれも、石綿関連作業によって石綿肺、肺がん、中皮腫のいずれかに罹患した者として、労災認定を受け、本人ないしその相続人が労災保険年金、労災保険休業(補償)給付、労災遺族年金等の労災補償の給付を受けています(ただし、被災者の1人は、石綿関連作業及びアーク溶接作業の双方を粉じん作業とするじん肺症として労災認定を受けています。)。
 被災者の人数は21名、原告数は34名です。被災者が石綿粉じんにばく露した期間は、最も少ない人でも少なくとも4年8か月であり、長い人では30年を超えていました。


2.被告らについて
  被告らは、いずれも、石綿含有建材を製造・販売していた企業又はその地位を承継したとされる会社です。被告企業の数は19社でした。

第2.主な争点

 本件の主な争点は、①被告らの注意義務違反(特に警告表示義務違反の有無)②石綿含有建材の建設現場への到達③主要原因企業が負うべき責任(寄与割合)です。

第3.判決

 本判決は、被告らのうち5社の警告表示義務違反が認められるとして、原告ら34名全員に対し、総額で約2億5281万円の損害賠償 を命じました。

第4.主な争点に対する判断

1.被告らの注意義務違反
 (1)被告らの警告表示義務の有無及び内容
   裁判所は、一般的に、製品を製造・販売する企業は、自社の製品の原材料やその特性についての知見・情報を保持し、使用方法に伴うものも含め、自社製品の危険性について高い関心を払い、その安全性確保に向けた対策を講ずるべき立場にあるとした上で、石綿含有建材を製造・販売する企業は、自社製品を使用して建設作業に従事した者が同建材から発散した石綿粉じんのばく露によって石綿関連疾患にり患する危険を具体的に予見できた場合には、かかる危険を回避するために、警告義務を負うと判断しました。
 そして、被告らの製造・販売する石綿含有建材は、その性質上、切断や加工等の作業をする際に石綿粉じんを発散し、石綿粉じんにばく露した者が石綿関連疾患にり患する危険性のある製品であるから、石綿含有建材を製造・販売していた被告らにおいて、屋内建設作業に従事する者が当該建材から発散される石綿粉じんにばく露し、石綿関連疾患にり患する危険を具体的に予見することができる場合には、それが二次加工メーカーに出荷した分か否かを問わず、当該建設作業者との関係で、その製造・販売する石綿含有建材に内在する危険性の内容及び回避手段を警告すべき義務(警告義務)を負うと判示しました。そして、石綿含有建材の性質に加え、石綿含有建材の流通形態等を踏まえれば、各建材に共通する警告義務の具体的な内容として、①建材に石綿が含有されていること、②石綿粉じんを吸引すると石綿肺、肺がん、中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険性があること、③上記危険を回避するために、当該建材を取り扱う際には適切な防じんマスクを着用する必要があること等を、当該建材に明確かつ具体的に表示することが要求され、建材を取り扱う作業者の目に確実に触れるように、個々の建材自体(又はその最小単位の包装)にラベルを貼付すること等により表示すべき義務(警告表示義務)があると判断しました。


 (2)被告らの予見可能性
   我が国では、昭和33年3月頃には石綿肺の医学的知見が確立したと裁判所は認定しました。その後も石綿粉じんと肺疾患に関する研究が重ねられたこと、海外でも石綿粉じんばく露と肺がん及び中皮腫との関連性に関する報告が複数あったことからすると、昭和47年の時点においては、石綿粉じんばく露と肺がん及び中皮腫との関連性、肺がん及び中皮腫が潜伏期間の長い遅発性の疾患であることに関する医学的知見が国際的に確立していたと裁判所は認定しました。そして、この知見は、昭和48年には我が国においても公表されていたと裁判所は認めました。
 かかる医学的知見の集積を背景として、昭和48年7月には労働省労働基準局長が通達を発出し、石綿が肺がん、中皮腫等を発生させることが明らかとなったこと等により、各国の規制においても気中石綿粉じん濃度を抑制する措置が強化されつつあることを理由として、石綿の抑制濃度を5本/㎤と指導することを指示しました。
 これらの事情から、被告らと屋内作業に従事した者との関係においては、遅くとも昭和48年7月頃の時点においては、上述の警告をしなければ、建設作業者が当該建材から発散される石綿粉じんにばく露し、石綿関連疾患にり患する危険を具体的に予見することができたとして、裁判所は、昭和48年7月頃には被告らの予見可能性があったと判断しました。


 (3)被告らの警告表示義務違反
   裁判所は、石綿含有建材を製造・販売する被告らにおいて、屋内建設作業に従事する者との関係で、石綿含有建材から発散される石綿粉じんにばく露し、石綿関連疾患にり患する危険性を具体的に予見できた時点から、警告表示を準備するまでには迅速な対応が求められていたというべきであると判断しました。
 その上で、上述のとおり、そもそも昭和47年には石綿粉じんばく露と肺がん及び中皮腫との関連性、肺がん及び中皮腫が潜伏期間の長い遅発性の疾患であることに関する医学的知見が国際的に確立しており、その知見はいずれも昭和48年には我が国においても公表されていたと認められるほか、同年7月には上述の通達によって石綿が肺がん、中皮腫等を発生させることが明らかとなったこと等を理由として石綿に対する規制が強化されたこと等の事情を考慮すれば、建材メーカーは、実際に警告表示を行うために必要な準備期間を考慮しても、昭和49年1月1日までに屋内建設現場における建設作業者との関係で警告表示義務を負うに至ったと判断しました。
 そして、被告らのうち、警告表示義務を負っていた者が、かかる義務を履行したと認める証拠はないとして、被告らの警告表示義務違反を認定しました。


2.石綿含有建材の建設現場への到達
 (1)共同不法行為責任の成否
   本件では、特定の企業が製造・販売した石綿含有建材から発散した石綿粉じんが被災者の石綿関連疾患のり患にどの程度の影響を与えたかは明らかではないこと、被災者が本件訴訟の被告ら以外の企業が製造・販売した石綿含有建材から発散される石綿粉じんにばく露している可能性もあることから、共同不法行為責任を定めた民法719条1項後段を直接適用することは困難であると判断されました。
 しかし、石綿含有建材を製造・販売する被告らが警告義務を負っていながらこれを履行しておらず、これによって、本件被災者が複数の建材メーカーが製造・販売した石綿含有建材を取り扱うこと等により、累積的に石綿粉じんにばく露し、中皮腫や肺がん等の石綿関連疾患にり患した場合においては、当該被災者の取り扱った石綿含有建材のうち被告らの製造・販売したものが当該被災者の稼働する建築現場に相当回数にわたり到達して用いられているとの事情(建材現場到達事実)が認められる場合には、当該建材がかかる石綿関連疾患のり患に寄与しているといえると裁判所は評価しました。そして、かかる場合にあっては、個々の建材が石綿関連疾患に影響した程度が不明であったとしても、民法719条1項後段が直接適用される場合との均衡を図り、同項後段の類推適用により、警告表示義務違反と石綿関連疾患のり患との間の因果関係の立証責任が被告らに転換されると裁判所は判断しました。


 (2)建材現場到達事実の認定
   国土交通省及び経済産業省は、共同で、建材メーカーが過去に製造した石綿(アスベスト)含有建材の種類、名称、製造時期、石綿(アスベスト)の種類・含有率等の情報を提供するデータベースを作成し、インターネットで公開しています。
 裁判所は、このデータベースを基に分類された石綿含有建材の種別や、建設作業者の職種ごとに取り扱う頻度・時間等を基に、原因建材を選定しました。
 その上で、建材のシェア(市場占有率)が高ければ高いほど、また、被災者の作業現場が多ければ多いほど、建材現場到達事実が認められ得る蓋然性が高くなるという経験則に基づき、被災者が石綿粉じんにばく露した期間は最も少ない者でも4年8か月であって作業現場数が相当多数に上るという前提のもと、裁判所は、シェアがおおむね10%を超える企業が製造・販売した石綿含有建材は、建設現場において相当程度使用されたことを一応推認できると判断しました。
 そして、裁判所は、かかる推認ができる場合について、個々の被災者に対する建材現場到達事実を、個別の事情に照らして検討しました。


3.主要原因企業が負うべき責任(寄与割合)
  上述のとおり、被告らの警告表示義務は昭和49年1月1日から生じたものであり、被告らが責任を負う期間は同日以降であるところ、被災者の中には、同日より前にも石綿粉じんばく露作業に従事していた者が含まれていました。
 裁判所は、被告らが責任を負わない期間の石綿粉じんばく露については、昭和49年1月1日より前に石綿粉じんばく露作業に従事していた者について、期間に応じて寄与度減責を行っています(判決では「期間減額」としています。)。
 また、被災者の現場に到達した建材の中には、シェアが10%を下回る建材メーカーが製造・販売した石綿含有建材が含まれており、これらの建材の切断・加工等や間接ばく露も本件被災者の個々の石綿関連疾患に寄与したと考えられます。石綿粉じんばく露期間が長くなれば、現に取り扱った、あるいは間接ばく露の原因となった建材であって、シェアが10%を下回るメーカーが製造したものの種類も多くなると考えられます。さらに、被災者が、被告らの警告義務の対象にならない解体・改修作業に従事し、これによる石綿粉じんばく露が認められる場合には、この点においても被告らの警告義務違反による責任は限定的になります。このような観点からも、裁判所は、一定の寄与度減責を行っています(判決では「他原因減額」としています。)。
 「期間減額」については、個々の被災者が石綿粉じんばく露作業に従事していた期間のうち、被告らが責任を負わない昭和49年1月1日より前の作業期間の長さを基に、減額割合が定められました。昭和49年1月1日より前の作業期間が3年前後の被災者は概ね2割程度、同期間が6年前後の被災者は概ね4割程度、同期間が10年以上の被災者は概ね5割程度の減額がされる傾向がありました。昭和49年1月1日より前に石綿粉じんばく露作業に従事していない被災者への期間減額はありませんでした。
 他原因減額については、4割の減額がされた被災者が多く、様々な建材を取り扱っていた被災者については他原因減額が2割ないし3割にとどまる例や、石綿粉じんばく露の主たる原因が解体作業である被災者については他原因減額が6割とされる例もありました。
 期間減額と他原因減額をあわせた減額は、多い人で7割、少ない人で2割でした。


第5.検討

 裁判所は、屋内作業を行う建設作業者との関係で、遅くとも昭和49年1月1日以降は、建材メーカーに警告表示義務があると認めました。そのうえで、建材の種類、メーカーのシェア、被災者の石綿粉じんばく露作業期間、被災者の作業内容等を基に、建材メーカー5社に対して、損害賠償責任を認めました。
 石綿関連疾患は長い潜伏期間を経て発症するものであるため、発症後に建材メーカー等への請求を検討する時には、当時使用していた石綿含有建材やそのメーカーを特定できる証拠がない事例が多いと思われます。本件は、そのような場合に建材メーカーに対する責任追及を行う際に参考になる事例であると考えられます。

【弁護士への相談について】

 本裁判例のように、建材メーカーに対して、警告表示義務違反を根拠とする損害賠償を請求するにあたっては、当時の作業内容、作業期間、建材メーカーのシェア等がポイントとなります。そして、これらのポイントを踏まえて、損害賠償請求が認められる可能性があるか否かを判断するには、弁護士による詳細な事実経過の確認や、専門的な検討が必要です。
 過去にアスベスト粉じんにばく露する作業に従事した方で、救済のための各種制度にご関心がある方は、ぜひ弁護士までご相談ください。

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