本稿執筆者
小林 一樹(こばやし かずき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
新宿高等学校 卒業
青山学院大学法学部 卒業
青山学院大学法科大学院 修了
私が法律家として常に心がけていることは、人の気持ちを大切にするということです。問題を根本的に解決するために、法律のみならず、紛争でお困りの方の抱える思いについてもフォローできるよう日々精進して参ります。
〈目次〉
1 はじめに
2 解体工に関する一般的な作業内容と石綿暴露との関係について
3 石綿粉じんに暴露する解体工の作業と石綿関連疾患の原因とされる石綿含有建材について
4 利用可能性のある救済制度(建材メーカーに対する責任追及を除く)
1 はじめに
以下では、いわゆる建設型アスベスト被害において、損害賠償請求等が認められる可能性があるとされる職種のうち、「解体工」の作業について、①どのような作業において石綿粉じんに暴露する機会があったとされているか、②どのような石綿含有建材が石綿粉じんに暴露する原因となった可能性があるかについて、これまでの裁判例の動向を踏まえて説明します。
2 解体工に関する一般的な作業内容と石綿暴露との関係について
一般に、解体工は、改修工事及び解体工事において、重機又は手作業によって、床、壁、天井等に用いられた建材等を破壊する作業のほか、鉄骨建物を破壊する場合の間仕切り、天井板、内壁等の内装材を破壊する作業、外壁を引き倒して破壊する作業、又は重機を用いて屋根、内装、外壁を破壊する作業においては、建物の各部分に使用された石綿含有建材(内装材、保温材等)から発生した石綿粉塵に曝露することがあると考えられています。
なお、解体用の重機を建物の階上に揚げて上階から解体していく階上解体の場合、建物の周囲に足場を組み、ビニールシート等の養生材を設置し建物内において解体作業を行うため、密閉空間で石綿粉じんに暴露する作業が行われていた可能性があります。
この点、最一小令和3年5月17日・判タ1487号149頁(最高裁判決の元となった第1審判決(京都地判平成28年1月29日など)を含む)でも、解体工は、解体作業及び改修作業において、重機を用いて又は手作業によって建物の各部位を解体するため、建物に使用されている石綿含有建材を破壊する際に飛散した石綿含有建材に曝露した可能性があったことが認定されています。
3 石綿粉じんに暴露した可能性のある解体工の作業とその作業で使用された可能性のある石綿含有建材について
解体工の作業は、その作業の性質上、解体対象の建物に使用された建材全てに接触する可能性があり、石綿粉じんに暴露する可能性がある石綿含有建材も多岐にわたると考えられます。
この点、解体工は、完成した建物を取り壊す作業従事者であるため、建物を完成させる際の全行程に関与していた大工が作業時に取扱ったとされる建材と重なると考えるのが自然です。
そこで、以下では、例として、大工の作業内容毎に暴露した可能性のある石綿含有建材を紹介いたします。
① 石綿吹付作業=石綿吹付材(施工された吹付材を削る作業を含む)
●作業箇所
・鉄骨、天井など
●使用建材
・吹付石綿
・石綿含有吹付ロックウール
・湿式石綿含有吹付材
② 耐火材取付作業=石綿含有耐火材
●作業箇所
・鉄骨、天井、梁、エレベーター周辺など
●使用建材
・石綿含有けい酸カルシウム板第2種
・石綿含有耐火被覆板
③ 内装材施工作業=石綿含有内装材
●作業箇所
・天井、内壁、耐火間仕切り、浴室、台所など
●使用建材
・各種石綿含有スレートボード・フレキシブル板
・石綿含有けい酸カルシウム板第1種
・石綿含有パーライト板
④ 床材施工作業=石綿含有床材
●作業箇所
・事務室、商業施設及び公共施設の床、一般住宅の台所及び洗面所の床など
●使用建材
・石綿含有ビニル床タイル(Pタイル)
・石綿含有ビニル床シート
4 利用可能性のある救済制度(建材メーカーに対する責任追及を除く)
上記2で説明したような石綿含有建材を使用した建設現場において、解体工の職務に従事していた方につきましては、建設型アスベストの健康被害に関する要件に該当する場合、他の建設現場における職種の方と同様に、①労災制度による補償、②石綿健康被害救済制度(石綿救済法)による給付、③国に対する損害賠償請求、④建設アスベスト給付金制度、⑤使用者(又は一定の要件を満たす元請企業)に対する損害賠償請求などの救済手続を利用できる可能性があります。
ただし、解体工については、他の職種の方と異なり、建材メーカーに対する損害賠償請求(※)は認められていませんのでご留意ください。
(※) 前掲最高裁判決の控訴審である大阪高判平成30年8月31日(判時2404号4頁)では、解体工に対する建材メーカーの責任は、製造・販売する石綿製品についての警告表示義務違反にあり、かかる義務の具体的内容は当該建材自体又はその最小単位の包装に、石綿含有の有無及び量、その危険性等を明確かつ具体的に、印刷又はシール貼付その他適切な方法によって表示すべき義務とされ、この表示を解体工は直接視認することがない上、警告表示による結果回避可能性がない(それゆえ解体工については損害賠償責任を負わない。)と判断しました。
【弁護士への相談について】
以上が、建設型アスベスト訴訟において損害賠償請求が認められる可能性があるとされる「解体工」に関する説明となります。
建設型アスベスト健康被害におけるアスベスト関連疾患の被災者の方に対する損害賠償責任については、一般に国・使用者・建材メーカーが負うものとされていますが、裁判例では、解体工に対する建材メーカーの責任が認められていませんのでご留意ください。
上記のうち、国の被災者に対する損害賠償については、現在では給付金制度が構築され、順次救済が図られることになりました。他方で使用者に対する損害賠償請求については引き続き訴訟等による対応が必要となります。
そこで、「解体工」として屋内作業に従事し、アスベスト関連疾患に罹患するなどしてお困りの方は、ぜひ一度弁護士に給付金制度の利用、使用者に対する損害賠償訴訟について相談することをお勧めいたします。