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2024.06.26

判例紹介 運送会社に勤務して取引先の石綿工場に常駐するなどして悪性中皮腫となった被災者について、使用者の安全配慮義務違反を認めた一方で、取引先の安全配慮義務違反及び不法行為責任は認めず、損害額については過失相殺をした事例(大阪高判平成24年5月29日)

加藤 怜美

本稿執筆者 加藤 怜美(かとう さとみ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

・九州国際大学付属高等学校 卒業
・中央大学法学部法律学科 卒業
・一橋大学法科大学院 修了

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判例紹介 運送会社に勤務して取引先の石綿工場に常駐するなどして悪性中皮腫となった被災者について、使用者の安全配慮義務違反を認めた一方で、取引先の安全配慮義務違反及び不法行為責任は認めず、損害額については過失相殺をした事例(大阪高判平成24年5月29日)
ポイント

①運送会社Y1に勤務していた被災者Aについて、雇用関係にあるY1との関係では、既に通達により安全管理のための法規制がなされていたこと、及びY1は石綿原石及び石綿製品を大量に運搬する運送業者であったことから、Y1に健康・生命を損なう危険性があることの予見可能性があったとして、安全配慮義務違反を認めました。

②雇用関係にない取引先Y2との関係では、Aは本件工場における作業をY1の指示の下に行っていたこと、Aが本件工場で作業をすることはY1とY2間の契約の遂行上必要なものではなかったこと、Y1が石綿による危険性を十分に認識しており、また認識すべきであったことから、AはY2の指揮命令の下にはなかったとして、安全配慮義務は認められませんでした。

③社会保険労務士資格を有し、Y1の衛生管理者となっていたAは、石綿の危険性につき十分認識しており、また認識すべき立場にあったこと、危険回避のための手段を有していたことからA自身にも過失があると認定され、過失相殺がなされました。


〈目次〉

第1.事件の概要

 1.被告Y1について

 2.被告Y2について

  (1)Y2の概要

  (2)石綿工場

 3.Aについて

  (1)作業内容

  (2)Aの病歴等

第2.主な争点

第3.判決

第4.判旨

 1.Aの悪性胸膜中皮腫と作業の因果関係

 2.Y1の責任

 3.Y2の責任

  (1)本判決における判断

  (2)第一審及び本判決の相違

 4.過失相殺

第5.検討

 1.安全配慮義務違反について

 2.過失相殺について



第1.事件の概要

 運送会社Y1の従業員であったAが悪性胸膜中皮腫を原因として死亡したところ、悪性胸膜中皮腫の原因は、取引先Y2の工場に常駐し作業をしていた昭和44年7月から昭和46年8月の期間(以下「本件期間」といいます。)に石綿粉じんにばく露したものとして、Aの相続人である原告らがY1及びY2に対し、損害賠償等を求めた事案です。
 第一審ではY1及びY2に安全配慮義務違反があるとして責任が認められましたが、控訴審ではY1の責任は肯定されたものの、Y2の責任は否定されました。

1.被告Y1について
  Y1は、鉄道利用運送事業、貨物自動車運送事業等を業とする会社で、Aの勤務する本件支店においては、Y2を荷主として、Y2の本件工場で用いる石綿原料の搬入・運搬及び本件工場で製造した石綿製品の搬出・運搬を取り扱っていました。

2.被告Y2について
  Y2は、珪藻土その他鉱物岩石の採掘、精製、加工並びにこれら原料、材料もしくは製品の製造及び販売等を業とする会社で、本件期間当時、石綿を原料とした石綿製品の製造販売を行っていました。

 (1)Y2の概要
   Y2は、珪藻土その他鉱物岩石の採掘、精製、加工並びにこれら原料、材料もしくは製品の製造及び販売等を業とする会社で、本件期間当時、石綿を原料とした石綿製品の製造販売を行っていました。

 (2)石綿工場
   Y2の本件工場においては、石綿ジョイントシートやグランドパッキンなどのシール材、石綿保温材、石綿糸・石綿織布などの紡織品が製造されていました。

3.Aについて
 (1)作業内容
   Aは、社会保険労務士資格を有しており、Y1の支店において主任並びに衛生管理者として勤務していました。
 Aは、昭和44年7月~昭和46年8月の間、取引先であるY2の本件工場に常駐し、製品、原料の数量や種類のチェックや伝票の整理、Y2との打合せ等を行っていました。Y1のトラックが本件工場倉庫に石綿原料を搬入する際や、本件工場から石綿製品を搬出する際等に、荷物個数や種類の確認、伝票の受渡し等石綿製品の搬入出や運搬の立会いを行っていた他、Y2工場内事務所に設置しているA専用の事務机を利用して事務作業を行っていました。


 (2)Aの病歴等
   Aは定年退職後4年ほど経過した後、悪性胸膜中皮腫と診断され、入退院及び通院を繰り返し、67歳で死亡しました。病理解剖の結果、石綿肺及び胸膜プラークの所見はなかった一方で、肺組織内にアスベスト小体が認められ、ばく露から33年後に発症した悪性胸膜中皮腫であること、当該悪性胸膜中皮腫が死因であることが診断されました。
 また、Aは生前、労働者災害補償保険法に基づく労災申請を行っており、業務上の災害と認められ、療養補償給付及び休業補償給付が支給されており、A死亡後は、原告である遺族に、遺族補償給付が支給されています。

第2.主な争点

 本件における主な争点は、①Y1及びY2の安全配慮義務違反または不法行為責任の有無と、②Aの過失相殺の可否です。

第3.判決

 原審(第一審)では、Y1及びY2に安全配慮義務違反があることを認定した上で、Aの過失割合は1割であることを認定し、原告らに連帯して合計約2620万の支払いを命じました。 本判決(第二審)では、Y1については安全配慮義務違反を認め、原告らに対して合計約2620万の支払の判決を維持したものの、Y2については安全配慮義務違反及び不法行為責任は認めず、原告らの請求を棄却しました。

第4.判旨

1.Aの悪性胸膜中皮腫と作業の因果関係
  本件期間中、石綿製品の搬入出及び運搬の立会い作業時に石綿粉じんにばく露する機会はあったものの、Aが許容濃度を超える石綿粉じんにばく露する業務に従事していたことは認められないとする一方で、本件支店での勤務を除けば石綿ばく露の可能性のある作業に従事したことはないこと、Aが悪性胸膜中皮腫を発症したのは本件期間から約31~33年後であることが認められることから、悪性胸膜中皮腫とAの作業との因果関係を認めました。

2.Y1の責任
  昭和45年には石綿が中皮腫を引き起こす発がん物質であることが認識され、本件期間中である昭和46年には既に通達により安全管理のための法規制がなされていたこと、及びY1は石綿原石及び石綿製品を大量に運搬する運送業者であったことから、本件期間においては石綿粉じんにばく露することによりじん肺その他の健康・生命を損なう危険性があることの予見可能性があったと認定しました。その上で、雇用契約に付随する義務として信義則上、その生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務があることを前提として、Y1の安全配慮義務違反を認めました。
 具体的には、Y1には、防じんマスク等の支給・交換をし、従業員に着用を義務付け、定期的に安全教育や安全指導を行う安全配慮義務があったにもかかわらず、これらに違反したことを認定しました。


3.Y2の責任
 (1)本判決における判断
   本判決は、Aは職務の内容、勤務時間、勤務場所、上司への報告等はすべてY1の指揮・監督の下で行っており、Y2から直接指示を受けたり、指揮を受けたりすることはなかったことを認定し、A及びY2の間には、雇用関係に準じる特別な社会的接触の関係はなかったとして安全配慮義務を負わないと判断しました。
 また、本件期間当時には、Y2は、石綿が長時間粉じんにばく露される従業員のみならず、工場に出入りする者等に対しても少量のばく露を防ぐため、徹底した粉じん対策を要する有害物質であるとは認識していなかったし、また認識することが可能であったとまでは認められないとして、一般的な注意義務を負っていたとまでは認められないところ、不法行為責任を負わないと判断しました。


 (2)第一審及び本判決の相違
   第一審は、①Y1とY2との間で石綿原料や石綿製品の運送契約が締結され、Aを含めたY1の従業員がY2の石綿原料や石綿製品の運搬に立ち会っていたこと、②本件工場における石綿原料及び製品搬入出の作業は、Y2の従業員が管理していたこと、③Aは工場に常駐し、Y1の業務のうち、Y2に関する業務を行っていたこと及び④Y2においてもAがこのような業務を行っていたことを認識していたこと、並びに、⑤Y2は、石綿を長年にわたって取り扱ってきており、本件期間に至るまで石綿による危険を回避する取組みをしてきたことをも総合案すれば、Y2は、Aに対し、石綿による危険を管理し、その危険に対する安全対策を取ることができる地位にあったと認定しました。
 他方で、本判決は、Aの立ち会いはY1の事務作業としての一環でありY1指示に従って行われていたこと(①②)、Aが本件工場に常駐していたのは、主として営業上の必要性、すなわち得意先であることを明示するためであり、運送契約の遂行上の必要から行われたわけではないこと(③)、Y1もY2と同様長期にわたり石綿原料・製品の運送業務を取り扱っていたこと(⑤)を認定し、Aは一貫してY1の指揮命令の下にあったことを認定しています。


4.過失相殺
  Aは衛生管理者であり、社会保険労務士の資格を有していたところ、本件支店では本件期間の途中からではあるが防じんマスクが備え付けられておりAにおいて着用しようとすればできたこと、Aは衛生管理者かつ主任として、現場作業者に対してマスクを着用するよう指導し、模範を示す立場にあったこと、石綿粉じんの危険性についてはAにおいても石綿を吸入することにより石綿肺を発症するおそれがある知識を持っていたこと等から、A自らの注意により被害を避けられたと認定し、Y1との関係での1割の過失相殺があると判断されました。

第5.検討

1.安全配慮義務違反について
  雇用関係にある場合には、一般論として使用者が被用者に対して安全配慮義務を負っていることから、被用者が石綿ばく露作業に従事し、石綿健康被害に遭った場合には、具体的な安全配慮義務違反が認定されやすいものと考えられます。本件でも、石綿粉じんのばく露が健康・身体への危険を及ぼすものであるとの知見が一定程度確立されていたことを前提として、Aと雇用契約にあったY1については安全配慮義務違反が認められました。
 他方で、雇用関係にない会社等に請求する場合には、当該会社等が安全配慮義務を負っているかどうかが認定されるために、両者の具体的な関係性の検討が必要となります。本件では、Aは本件工場における作業においても使用者であるY1の指示の下に行っていたこと、Aが本件工場で作業をすることはY1Y2との間の契約の遂行上必要なものではなかったこと、Y1が石綿粉じんばく露による危険性を十分に認識しており、また認識すべきであったことから、Y1の指揮命令の下に作業をしており、Y2の指揮命令の下にはなかったと判断されました。
 そこで、雇用関係にない者についても安全配慮義務を負うことが認められるには、当該雇用関係にない者の指示が及んでいたこと、当該雇用関係にない者の管理する作業場において作業をする業務遂行上の必要があったこと、雇用関係にある者と雇用関係にない者との間に石綿の危険性に関する認識の差があり雇用関係にない者が危険回避のための手段を与える必要があったこと等を立証する必要があるものと考えられます。


2.過失相殺について
  本判決では、A自身が、社会保険労務士の資格を有し、Y1において主任並びに衛生管理者として勤務していたことから、Aは石綿の危険性につき十分認識しており、また認識すべき立場にあったこと、Y1が防じんマスクを設置しており、危険回避のための手段を有していたことから、A自身にも注意義務があったのであり、Aの悪性胸膜中皮腫の発症にはA自身にも責任があるものと判断されました。 そのため、衛生管理者の立場等にあった者が損害賠償請求をする際には、相手方から過失相殺の主張があり得ることを想定しておく必要があります。
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