労務コラム / 労働基準監督署対応
労基署の「申告」対応は大丈夫ですか?
情報開示請求で入手した行政文書をもとに、元労働基準監督官が解説します。
この記事でわかること
- ・「申告は原則全件受理」は新しい方針ではなく、従来からの取扱いであること
- ・令和6年度の長時間労働主眼監督では、81.1%の事業場で労働基準関係法令違反が確認されたこと
- ・会社が平時に確認しておくべきポイント
- ・「申告される前」にリスクを把握・是正しておくことの重要性
労働基準法違反などが疑われる場合、労働者は労働基準監督署(労基署)に対し、賃金不払い・未払い残業・長時間労働などの是正を求めて「申告」を行うことがあります。
近時、労働関係の専門紙において、厚生労働省が令和8年度の監督指導方針で、労働者などからの申告を原則すべて受理する方針で臨むことが報じられました。もっとも、これは新しい方針ではありません。当法人が情報開示請求で入手した監督業務運営要領でも、申告は「法違反を構成しないことが明白な場合を除き、すべて受理する」取扱いとされています。この運営要領は昭和39年に発出され、改正を重ねながら運用されてきたもので、少なくとも令和6年の時点でこの取扱いが定められていました。つまり、従来から申告は受理され、内容に応じて監督指導につながる可能性があったということです。
申告で多い内容
申告として多いのは、賃金不払い、残業代の未払い、解雇・退職をめぐるトラブル、長時間労働、休憩・休日・年次有給休暇、労働条件通知書・雇用契約書の不備などです。特に、賃金不払い・未払い残業・長時間労働は、監督署の調査につながりやすい領域です。
データで見る監督指導(令和6年度)
厚生労働省が公表した令和6年度の「長時間労働が疑われる事業場」への監督指導結果では、26,512事業場に監督指導が実施され、そのうち21,495事業場・81.1%で労働基準関係法令違反が認められました。違法な時間外労働があった事業場は11,230事業場、賃金不払残業があった事業場は2,118事業場でした。
「相談されてから」では遅い場合がある
監督指導は、36協定の内容や長時間労働が疑われる情報、過労死等に係る労災請求などを契機に行われます。その「各種情報」には、労働者からの申告や情報提供も含まれます。つまり、長時間労働などの端緒が、従業員からの情報によって把握されることもあります。
申告を契機に監督指導が行われれば、未払い残業代の遡及支払い、労働時間管理の見直し、36協定の再整備、健康確保措置の是正など、短期間で多くの対応を求められる可能性があります。「従業員から労基署に相談されてから対応する」では、間に合わないことがあります。
会社が確認すべきポイント
申告リスクを下げるためには、日頃から次の点を確認しておくことが重要です。
- ・労働条件通知書・雇用契約書を適切に交付しているか
- ・勤怠記録が客観的に残っているか
- ・残業代の計算(固定残業代・各種手当の設計を含む)に誤りがないか
- ・36協定を締結・届出し、上限時間を超えていないか
- ・休憩・休日・年次有給休暇の管理が適切か
- ・健康診断・長時間労働者への面接指導・ストレスチェック等の安全衛生対応に漏れがないか
- ・退職・解雇をめぐるトラブルへの初動対応が整っているか
特に、勤怠管理と残業代計算は問題になりやすい領域です。自己申告制で労働時間を管理している場合でも、入退館記録やPCログ等と大きな乖離があると、実態調査や労働時間の補正を求められることがあります。労働時間をどう把握し、どの資料で説明できるかは、平時から確認しておきたいポイントです。
「申告されない会社」にするために
重要なのは、申告された後の対応だけではありません。申告される前に、労務管理上の不満やリスクを把握し、是正しておくことです。給与や労働時間の説明が不十分、退職時の対応への不満、労働条件と実態の乖離などが、相談の背景になりがちです。雇用契約書・就業規則・勤怠・残業代計算・36協定・安全衛生を点検し、客観的な資料で説明できる状態にしておくことで、申告があった場合の対応負担や是正リスクを下げることができます。
ASCOPEでできること
社会保険労務士法人ASCOPEでは、労基署対応・申告対応、未払い残業や労働時間管理の見直し、就業規則・36協定・雇用契約書の整備、健康診断や安全衛生体制の確認などをご支援します。元労働基準監督官の知見をもとに、監督署が確認しやすいポイントから貴社の労務リスクを点検します。
こんな場合は、まずはお気軽にご相談ください。
「今の労務管理で問題がないか確認したい」/「労基署対応に備えておきたい」/「未払い残業や長時間労働のリスクを点検したい」
初回相談では、現在の勤怠管理、雇用契約書、36協定、残業代計算、安全衛生対応などを確認し、優先的に点検すべきポイントを整理します。
出典
- 厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します」(令和7年7月30日 報道発表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59983.html - 労働新聞社「8年度監督指導方針 申告は原則すべて受理を 請求行為前提にせず 厚労省」(2026年5月14日)
https://www.rodo.co.jp/news/218756/ - 情報開示請求により当法人が入手した監督業務運営要領(申告の処理に関する記載)
※本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案への対応を保証するものではありません。具体的なご判断にあたっては、専門家にご相談ください。

