本稿執筆者
紺野 夏海(こんの なつみ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
錦城高等学校 卒業
中央大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了
私は、依頼者の方と信頼関係を築けるよう、常に誠意を持って対応することを心がけております。依頼者の方から、相談して良かった、と思っていただけますよう尽力いたします。
【ポイント】
・じん肺管理区分はじん肺健康診断の結果に基づき都道府県労働局長によって決定されます。
・じん肺管理区分の決定申請は随時可能です。
・じん肺管理区分が管理2又は管理3(イ又はロ)である方は、都道府県労働局への申請により健康管理手帳が交付されます。
・じん肺管理区分が管理2以上の決定を受けた方は建設アスベスト給付金制度に基づく給付金を受け取れる可能性があります。
〈目次〉
第1 じん肺管理区分とは
第2 じん肺健康診断の内容
第3 じん肺管理区分決定の申請方法
1 申請時期
2 申請書類
3 申請先
第4 じん肺健康診断の結果とじん肺管理区分の関係
第5 じん肺管理区分の決定を受けた方が受けられる給付等
1 健康管理手帳の交付
2 労災保険給付
3 建設アスベスト給付金制度に基づく給付金
4 国家賠償請求
第1 じん肺管理区分とは
じん肺管理区分とは、じん肺健康診断の結果に基づき、じん肺を区分したものです。じん肺とは、主として小さな土ぼこりや金属の粒などの無機物または鉱物性の粉じんの発生する環境で仕事をしている方が、その粉じんを長い年月にわたって多量に肺に吸い込み、この粉じんに対して肺が反応し、変化を起こした病気です。
日本においては、粉じんの発生する職場で働く方々をじん肺から守るために、じん肺法、労働安全衛生法、粉じん障害防止規則等が施行され、作業管理、作業環境管理に加えて、健康管理が事業者の責任においてなされることになっています。そしてこの健康管理のひとつの制度として、じん肺法に基づくじん肺健康診断があります。
また、じん肺にり患するおそれのある(管理区分の決定対象となる)粉じん作業として、じん肺法施行規則別表に、「石綿をときほぐし、合剤し、紡績し、紡織し、吹き付けし、積み込み、若しくは積み卸し、又は石綿製品を積層し、縫い合わせ、切断し、研まし、仕上げし、若しくは包装する場所における作業」が挙げられています。
じん肺法は、じん肺に関する健康管理のための法律ですが、本記事では石綿に関する制度に焦点を当てて関係する制度の内容をご案内いたします。
第2 じん肺健康診断の内容
粉じん作業に従事した事業場に勤務している間は、事業者によりじん肺健康診断が実施されます。一方で、離職後は、本人自らじん肺についての健康診断を受ける必要があります。
じん肺健康診断の内容は次のとおりです。
【参照:厚生労働省「
離職するじん肺有所見者のためのガイドブック(全体版)」】
① 粉じん作業の職歴の調査
② 胸部エックス線直接撮影
③ 胸部臨床検査
④ 肺機能検査
⑤ 結核精密検査その他合併症に関する検査
また、② 胸部エックス線直接撮影の結果、エックス線写真の像を次のように分類します。
型 |
エックス線写真の像 |
第1型 |
両肺野にじん肺による粒状影または不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第2型 |
両肺野にじん肺による粒状影または不整形陰影が多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第3型 |
両肺野にじん肺による粒状影または不整形陰影が極めて多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第4型 |
大陰影があると認められるもの |
1 申請時期
常時粉じん作業に従事する労働者の方、または常時粉じん作業に従事する労働者であった方は、いつでもじん肺健康診断を受けて、都道府県労働局長にじん肺管理区分の決定申請をすることができます(じん肺法第15条)。
2 申請書類
じん肺管理区分決定の申請に必要な書類は次のとおりです。
① じん肺管理区分決定申請書様式第6号(じん肺法施行規則第20条関係)
(様式第6号には、粉じん作業についていた事業場の事業者に、粉じん作業に常時従事していた証明書等を添付する必要があります。詳しい必要書類については、申請先の都道府県労働局にお問い合わせください。)
② 胸部エックス線写真
③ じん肺健康診断結果証明書様式第3号(じん肺法施行規則第20条関係)
3 申請先
じん肺管理区分決定の申請先は、住所地を管轄する都道府県労働局労働基準部の健康課又は健康安全課です。じん肺の管理区分の決定は、地方じん肺診査医による審査を経て、都道府県労働局長によりなされます。
第4 じん肺健康診断の結果とじん肺管理区分の関係
じん肺健康診断の結果とじん肺管理区分の関係は次のとおりです。数字が大きくなるにつれて、じん肺が進行していることになります。
じん肺管理区分 |
じん肺健康診断の結果 |
管理1 |
じん肺の所見がないと認められるもの |
管理2 |
エックス線写真の像が第1型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの |
管理3 |
イ |
エックス線写真の像が第2型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの |
管理3 |
ロ |
エックス線写真の像が第3型又は第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の、3分の1以下のものに限る。) で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの |
管理4 |
1 エックス線写真の像が第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1を超えるものに限る。)と認められるもの
2 エックス線写真の像が第1型、第2型、第3型又は第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で、じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるもの
|
第5 じん肺管理区分の決定を受けた方が受けられる給付等
管理2以上のじん肺管理区分の決定を受けた方で必要な要件を満たす方は、次のような給付等を受けることができます。
1 健康管理手帳の交付
じん肺管理区分が管理2又は管理3(イ又はロ)の決定を受けた方は、労働安全衛生法に基づき、健康管理手帳の交付を受けることができます。健康管理手帳が交付されると、都道府県労働局と委託契約を結んでいる医療機関において無料で定期的にじん肺に関する健康診断を受けることができます。
健康管理手帳の所持者が受けられる健康診断の詳細や健康管理手帳の申請方法については、「
健康管理手帳制度について」の記事で紹介をしていますので、こちらをお読みいただければと思います。
2 労災保険給付
じん肺管理区分が管理4の決定を受けた方又はじん肺管理区分が管理2もしくは管理3(イ又はロ)の決定を受けた方で、じん肺法施行規則で定める合併症(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支炎拡張症、続発性気胸)を併発した人は、療養補償給付等の労災保険給付を受けられる可能性があります。
石綿健康被害に対する労災保険給付とじん肺管理区分の関係については、「
石綿健康被害と労災制度について」の記事で紹介をしていますので、こちらをお読みいただければと思います。
3 建設アスベスト給付金制度に基づく給付金
令和3年6月9日に、議員立法により「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、同月16日に公布されました(施行日は、一部の規定を除き、法の公布の日から1年以内で、政令で定める日となっています。)。
この法律により、石綿にさらされる建設業務に従事した労働者等で一定の要件の満たす方は、自身が受けた損害の迅速な賠償を受けることができるようになります。じん肺管理区分の決定を受けた方との関係では、管理2以上の決定を受けた方が給付の対象となり得る方となっています。
【参照:厚生労働省ホームページ「
建設アスベスト給付金制度について」(令和3年10月1日に閲覧)】
(1)対象者
次の要件を満たす方が対象です。
① 昭和50(1975)年10月1日から平成16(2004)年9月30日までの間に(吹付作業に従事した者にあっては昭和47(1972)年10 月1日から昭和50(1975)年9月30日までの間に)、
② 屋内建設作業(屋内吹付作業も含む。)の従事によって石綿(アスベスト)粉じんにばく露し
③ 石綿関連疾患(石綿肺管理2・3・4、中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水)を発症した
④ 労働者・一人親方・労災保険の特別加入資格を有する中小企業主及びそのご遺族であること
(2)給付金の金額
給付金の金額は、認定審査会の審査の結果に基づいて、病態区分に応じ厚生労働大臣が決定します(注1)(注2)。
石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のない者 |
550万円 |
石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のある者 |
700万円 |
石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のない者 |
800万円 |
石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のある者 |
950万円 |
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺管理4、良性石綿胸水である者 |
1,150万円 |
上記1及び3により死亡した者 |
1,200万円 |
上記2、4及び5により死亡した者 |
1,300万円 |
(注1)給付金を支給された後に症状が悪化した方は、請求に基づき、追加給付金(表における区分の差額分)が支給されます。
(注2)石綿にさらされる建設業務に従事した期間が一定の期間未満の方、肺がんの方で喫煙の習慣があった方については、給付金の額が1割減額されます。
(3)給付金の支給の開始日
給付金等の支給開始については、法の公布の日(令和3年6月16日)から1年以内で政令で定める日となっています。
4 国家賠償請求
石綿肺などの石綿関連疾患によるじん肺管理区分の認定を受けた方で一定の期間内に石綿工場で働いていた方または建設現場で働いていた方などについては、国家賠償請求手続の対象となる可能性があります。
石綿工場で働いていた方(工場型)については、
こちらの記事
建設現場で働いていた方(建設型)については、
こちらの記事を参照してください。
【弁護士への相談について】
じん肺管理区分の認定を受けている場合、健康管理手帳の交付のほか、他の給付・請求手続に繋がる可能性があります。石綿にさらされる作業に従事していた方で、じん肺管理区分の決定を受けた方は、ぜひ一度お問合せください。