本稿執筆者
村上 智映(むらかみ ちえ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士
長野高等学校 卒業
上智大学法学部国際関係法学科 卒業
社会福祉法人 勤務
上智大学法科大学院 修了
どのような案件も、法的紛争である以前に、人の心に由来する事象であることを忘れてはならないと思っています。法に依拠しつつ、法的視点のみに拘泥することなく、ご要望に合致した最善の解決の実現のために尽力させていただきます。
【ポイント】
- 労働者の方が「石綿肺」という診断を受けられた場合、じん肺管理区分4に該当するか、じん肺管理区分2~4に該当し合併症がある場合のみ、労災保険給付の対象となる可能性がある
- じん肺管理区分2~4に該当する場合の合併症とは、肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・続発性気管支拡張症・続発性気胸の5つ疾病をいう
第1 労災保険給付の対象となる石綿肺とは
石綿(アスベスト)ばく露作業に従事した労働者の方が、「石綿による疾病」を発症された場合、労災保険給付の対象となる可能性があります。この「石綿による疾病」とは、石綿肺・中皮腫・肺がん・良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚の5つの疾病をいい、このうち、
石綿肺については、
①じん肺管理区分4に該当するか、②じん肺管理区分2~4の石綿肺に合併した疾病がある方のみがアスベスト被害労災保険給付の対象となる可能性があります(詳しくは、「
石綿健康被害と労災制度について」をご参照ください。)。
このうち、
②じん肺管理区分2~4の石綿肺に合併した疾病とは、以下の5つの疾病をいいます。
1.肺結核
2.結核性胸膜炎
3.続発性気管支炎
4.続発性気管支拡張症
5.続発性気胸
本記事では、上記の合併症の概要を解説いたします。(筆者は医療の専門家でないため、内容が正確でない可能性があります。詳しくは、専門家である医師にお問い合わせください。)
第2 労災保険給付の対象となる石綿肺の合併症
1.肺結核
肺結核とは、結核菌という細菌が肺で増殖することによって起こる感染症であり、石綿肺を含むじん肺の所見を有する者の罹患率が一般よりも高く、じん肺の重要な合併症であるとされています。
主な症状としては、咳・痰・血痰・発熱・胸痛・全身倦怠感・寝汗・体重減少等が挙げられ、胸部X線検査・胸部CT検査・血液検査における特徴的な所見、喀痰検査による結核菌の検出等により診断されます。肺結核と診断された場合は、主に抗結核薬の内服による治療が行われます。
2.結核性胸膜炎
胸膜炎とは、両肺を覆う胸膜に炎症が起きた状態をいい、肺結核などの感染症や悪性腫瘍が原因となって起こることが多いとされています。このうち、結核菌の感染が原因で起こる胸膜炎を結核性胸膜炎といい、前述のとおり肺結核がじん肺の重要な合併症であることから、結核性胸膜炎についてもじん肺の合併症とされています。
主な症状としては、胸痛・咳・発熱・寝汗・胸水等が挙げられ、胸部X線検査、胸部CT検査、胸水検査、胸膜の生検等により診断されます。結核性胸膜炎と診断された場合は、結核に対する治療と同様に、抗結核薬の投与等による治療が行われます。
3.続発性気管支炎
気管支炎とは、ウイルス・細菌の感染により気管支に炎症が起きた状態をいいますが、続発性気管支炎は、じん肺法によりじん肺の合併症として定められた法律上の呼称であり、医学上の病名ではありません。続発性気管支炎とは、じん肺の不可逆性の病変と考えられる持続性の咳・痰の症状を呈する気道の慢性炎症性変化に、可逆性の細菌感染等が加わった状態をいうとされ、胸部X線検査等で結核などの明らかな病変が認められないが1年のうち3ヶ月以上毎日のように咳と痰の症状があり、精密検査で痰の量・性状の検査結果が一定の基準を満たす場合に診断され、主に抗菌薬による治療の対象となります。
続発性気管支炎については、医学上の病名として定義される慢性気管支炎と混同されやすいことから、専門医による適切な診断を受けられるよう特に留意する必要があります。
4.続発性気管支拡張症
気管支拡張症とは、感染症、気道閉塞、免疫異常等の原因により、気管支に非可逆的な拡張が生じる病態をいいますが、続発性気管支拡張症は、上述の続発性気管支炎と同様に、じん肺の合併症として定められたじん肺法上の呼称です。
一般に慢性の炎症等による気管支の拡張は不可逆性の変化ですが、続発性気管支拡張症は、じん肺の不可逆的な病変である気管支の拡張に、可逆性の細菌感染等が加わった状態をいい、主な症状としては、多量の痰・血痰のほか、発熱・胸痛・喀血・息苦しさ・疲労感・体重減少等が挙げられます。胸部X線検査・CT検査等により気管支の拡張が見られ、痰の量及び性状の検査結果が一定の基準を満たす場合に診断され、抗菌薬等による治療の対象となります。
5.続発性気胸
気胸とは、肺に穴が開いてそこから空気が漏れ、肺が萎んでしまった状態をいい、明らかな原因がなく突然発症するもの、外傷によるもの、肺気腫や間質性肺炎といった肺の疾患によるもの等があります。このうち肺の疾患によって起こる気胸を続発性自然気胸といいますが、じん肺の患者はそれ以外の呼吸器疾患の患者よりも気胸の発生頻度が高いことが報告されており、じん肺法においては、じん肺所見のある者に起こった気胸を続発性気胸と呼称し、じん肺の合併症としています。気胸の症状は、胸痛・呼吸困難・頻脈・動悸・咳などが挙げられますが、軽症であれば自覚症状がないこともあり、重症であれば心停止など重篤な状態に至ることもあり、病状により症状の程度は異なります。胸部X線検査、胸部CT検査により診断され、気胸と診断された場合は、病状に応じ、経過観察や外科的治療等が行われます。
※参考文献
工藤翔二ほか『呼吸器疾患診療マニュアル』日本医師会、2008年
堤寛『完全病理学各論第5巻呼吸器疾患』学際企画(株)、2007年
独立行政法人労働者健康安全機構続発性気管支炎の研究班『じん肺の合併症 続発性気管支炎・続発性気管支拡張症の診断・治療と症例』、2017年
(旧)労働省安全衛生部労働衛生課『じん肺診査ハンドブック改訂第4版』中央労働災害防止協会、1979年
【弁護士への相談について】
「石綿肺」という診断を受けられた労働者の方・労災保険に特別加入をされていた一人親方の方等が、労災保険給付の申請を検討するにあたっては、その合併症の有無・ご病状等について、医師の診断が必要となる場合があります。場合によっては、適切な専門医療機関を受診していただく必要が生じることも考えられます。
詳細については、弁護士にご相談ください。