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2021.03.31

良性石綿胸水の患者様・ご遺族による請求

小林 一樹

本稿執筆者 小林 一樹(こばやし かずき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

新宿高等学校 卒業
青山学院大学法学部 卒業
青山学院大学法科大学院 修了

私が法律家として常に心がけていることは、人の気持ちを大切にするということです。問題を根本的に解決するために、法律のみならず、紛争でお困りの方の抱える思いについてもフォローできるよう日々精進して参ります。

良性石綿胸水の患者様・ご遺族による請求
【ポイント】 ・アスベストを原因とする良性石綿胸水の患者様又はそのご遺族の方が金銭的な救済・補填を受ける方法としては、主に、①労災保険給付を請求する方法、②国・企業に対する賠償請求をする方法があります。 ・良性石綿胸水は、石綿による健康被害の救済に関する法律による救済方法の対象外の疾病であるため注意が必要です。

〈目次〉

第1 はじめに
第2 良性石綿胸水に関する概要
第3 良性石綿胸水の患者様・ご遺族の方が金銭的な救済・補填を受ける方法
第4 労災保険法に基づく給付の請求
 1 概要
 2 労災保険給付の認定状況
 3 給付の条件
 4 給付の内容
  (1) 療養中(治療(症状固定を含む。)又は死亡するまで)
  (2) 治療(症状固定を含む。)後
  (3) 死亡時
第5 国に対する請求
 1 概要
 2 請求方法
 3 工場労働者型
 4 建設型労働者
第6 企業に対する請求
 1 概要
 2 請求方法

第1 はじめに

 アスベストを原因とする良性石綿胸水の患者様やそのご遺族は、一定の要件を満たす場合に、労災保険給付を請求できる可能性があります。またそれに加えて、企業や国に対して損害賠償請求を行うことで、一定の賠償金の支払を受けられる場合もあります。

第2 良性石綿胸水に関する概要

 良性石綿胸水は、石綿粉じんを吸引したことを原因として胸膜炎が発生することにより胸水が生じたものをいいます。胸水は、胸腔内に体液(胸水)が貯留してしまうことをいい、石綿粉じんを原因とするものの他に、様々な原因(肺炎や悪性腫瘍等)で生じる可能性があるとされています。そのため、良性石綿胸水と診断するには、胸水が石綿以外の原因によって生じた可能性を排除する必要があるとされています。
 また、良性石綿胸水の自覚症状としては、一般的に呼吸困難や胸痛、発熱等が挙げられますが、自覚症状がない場合もあります。なお、その他の石綿関連疾患と同様に、長期間の潜伏期間を経て発症する傾向があるとされています。

第3 良性石綿胸水の患者様・ご遺族の方が金銭的な救済・補填を受ける方法

1 労災補償制度による給付を請求する方法

 補償制度を利用する方法として、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)に基づく労災保険給付を請求する方法があります。
 良性石綿胸水の方については、その他のアスベストによる肺疾患(中皮腫や肺がん、石綿肺等)の方と異なり、石綿による健康被害の救済に関する法律(以下「救済法」といいます。)に基づく救済は認められていないので注意が必要です。

2 国・企業に対して賠償請求を行う方法

 労災保険給付を請求することに加え、国に対して国家賠償請求を行うこと、又は企業等に対して損害賠償請求を行うことができる場合もあります。
 この方法による請求を行う場合、原則として裁判を提起する必要があります(ただし、企業が交渉で任意の支払に応じる場合もあります)が、労災保険法による補償・給付制度による給付を受けていることは、賠償請求を行う妨げとはなりません。また、事情に応じて、国と企業の双方に対して請求を行うことも可能です。
※その他、一定の要件を満たす方は、健康管理手帳の交付を受け、特定の項目に関する健康診断を一定回数無料で受けることができます。

第4 労災保険法に基づく給付の請求

1 概要

 良性石綿胸水の患者様やそのご遺族は、会社の業務を原因とする良性石綿胸水の発症やそれによる死亡について、一定の要件を満たす場合、会社の所在地を管轄する各都道府県の労働基準監督署に申請し労災認定を受けることで、各種の労災保険給付を受けることができます。
 ただし、患者様が良性石綿胸水にり患した原因が業務以外である場合や、患者様が労働者ではない場合(いわゆる一人親方の場合や業務委託契約による場合等※特別加入制度を利用している方を除く)には、労災保険給付を請求することはできません。
 なお、一人親方の方などで、労災保険の特別加入制度を利用している場合には労災保険給付を受けられる可能性があります。

2 労災保険給付の認定状況

 厚生労働省が公表している、アスベストによる良性石綿胸水に関する直近の10年間の労災保険給付の認定状況は以下のとおりです。 ※認定率は、(当該年度における支給決定件数)÷(当該年度における決定件数)によって算出された数値を指す。「決定件数」とは、当該年度に請求されたものに限らない。 ※2019年度については速報値、それ以前は確定値である。 ※特別遺族給付金は含まない。 【「平成26年度 石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況まとめ(確定値)」・別添資料表1(厚生労働省)及び「令和元年度 石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況まとめ(速報値)」・別添資料表1(厚生労働省)をもとに作成(いずれも2020年11月30日に利用)】

3 給付の条件

 アスベストを原因とする良性石綿胸水について労災保険給付を受けるためには、労働者としてアスベストばく露作業に従事していたことにより良性石綿胸水を発症したこと(業務上疾病であること)が必要となります。
 この点、アスベストを原因とする良性石綿胸水の場合、他のアスベストによる疾患と異なり、良性石綿胸水として労災認定されるための明確な基準は定められていません。
 仮に基準を挙げるとすれば、胸水の発生原因として考えられる石綿以外のさまざまな原因(結核性胸膜炎、リウマチ性胸膜炎など)を全て除外できる場合ということになるでしょう。
 なお、良性石綿胸水は全ての事案について本省協議の対象とされています。
 本省協議とは、労働基準監督署が労災における病態認定をする際、本省である厚生労働省と協議しなければならないことを意味します。通常、良性石綿胸水以外のアスベストによる疾患は、各都道府県における労働基準監督署が単独で病態の認定判断をすることができるのですが、良性石綿胸水についてのみ、全事案を労働基準監督署が厚生労働省と協議を行わなければ判断できないものとされているのです。つまり、良性石綿胸水の認定は、それほど認定が困難とされていることが窺えます。
(通達「石綿による疾病の認定基準について」平成24年基発0329第2号(※))

4 給付の内容

 労災認定を受けた場合、患者様の状況等に応じて、以下のような労災保険給付が支給されます。
 なお、以下は、アスベストによる良性石綿胸水を発症した場合に限らず、一般的な労災保険給付の内容となります。また、以下のような労災保険給付と併せて、特別支給金(年金・一時金)が給付される場合もあります。
(1) 療養中(治癒(症状固定を含む。)又は死亡するまで) (2) 治癒(または症状固定を含む。)した後 (3) 死亡時 ※労災認定を受けた傷病(良性石綿胸水)によって死亡したことが条件となります。 (4) その他 【以下の資料をもとに作成(いずれも資料の作成元は厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署、利用日は2020年8月31日)】 ・「労災保険給付の概要」 ・「療養(補償)給付の請求手続」 ・「休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続」 ・「障害(補償)給付の請求手続」 ・「遺族(補償)給付 葬祭料(葬祭給付)の請求手続」 ・「介護(補償)給付の請求手続」 ・「二次健康診断等給付の請求手続※労災保険給付の給付内容や請求手続、請求権者等の詳細については、「石綿健康被害と労災制度について」のページをご覧ください。

第5 国に対する請求

1 概要

 業務に関連して良性石綿胸水にり患された患者様やそのご遺族は、国に対して国家賠償請求を行うことで、国から一定の賠償金を得られる場合があります。このような国家賠償請求は、労災保険給付による給付を受けている方であっても行うことができます。ただし、この請求は、現状必ず訴訟手続(裁判)を経る必要があります。

2 請求方法

 国家賠償請求訴訟においては、国がアスベストについて適切に規制権限を行使しなかったこと、すなわち、アスベスト被害を防止するために必要な措置(防じんマスクの着用・警告表示・局所排気装置の義務付けやアスベストの製造等禁止等)を取るべきであったのに取らなかったことが原因で良性石綿胸水を発症したことを理由として、国の責任を争うことになります。
 なお、国家賠償請求については、おおまかに、①工場労働者型(アスベスト製品を製造・加工する工場内で製造・加工に従事していた方又はそのご遺族による請求)と②建設労働者型(建設(又は解体)現場において、アスベストが使用されている建物内外で作業に従事していた方又はそのご遺族による請求)に二分されています。
 訴訟手続においては、アスベストへのばく露状況やその時期等の個別具体的な事情に基づき、当時国が取るべきであった規制措置の内容等を検討し、国が当該措置を取っていなかったこと等を主張立証する必要があります。もっとも、工場労働者型については、一定の要件を満たす場合には、和解による迅速な解決を目指すことができます。
 ただし、損害の発生等から一定期間(消滅時効期間・除斥期間)経過すると、国家賠償請求ができなくなる場合があります。

3 工場労働者型

 平成26年の大阪泉南アスベスト訴訟の最高裁判決を受け、工場労働者型の元労働者の方やそのご遺族が国に対して訴訟提起を行い、以下の要件を満たすことが確認された場合、国は訴訟の中で和解手続を勧め、一定の損害賠償金を支払うこととなりました。

◆和解の要件
①1958年(昭和33年)5月26日から1971年(昭和46年)4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと。
②その結果、石綿による一定の健康被害(石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚など)を被ったこと。
※良性石綿胸水は、上記の健康被害に関する項目に明記されておりませんが、上記②のびまん性胸膜肥厚「など」に含まれる症状とされています。
③提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること。

◆賠償金の額
良性石綿胸水の場合、その他の病態とは異なり、和解金額については事案毎に個別判断となります。(遅延損害金・弁護士費用相当額については別途支払い)

【出典:厚生労働省ホームページ「アスベスト(石綿)訴訟の和解手続について」(2020年11月30日に最終アクセス)】

4 建設労働者型

 建設労働者型については、令和2年12月に最高裁の決定により、国の責任が認められましたが、工場労働者型と異なり、現時点(2021年2月20日時点。以下同じ。)で和解の手続は整っていません。
 しかし、建設労働者型の場合にも、良性石綿胸水を発症後死亡したとして「死亡」という病態で提訴をし、これに勝訴した原告が複数存在すること、裁判例の内容において、良性石綿胸水が石綿関連疾患と認定されていること、工場労働者型における国家賠償請求訴訟の和解手続における対象疾病とされていることからすると、請求対象の病態と認められる可能性が高いと考えられます。
 現在、建設労働者型については、最高裁判所で係争中であり、国の責任が認められる条件(アスベストへの暴露状況や時期・期間等)や責任範囲(賠償額)はそれぞれの裁判において異なりますが、近い内に最高裁判所の判決による統一的な見解が出されることが期待されます。

第6 企業に対する請求

1 概要

 業務に関連して良性石綿胸水にり患された患者様やそのご遺族は、(元)勤務先企業や元請け企業等に対して請求を行うことで、企業から一定の賠償金を得られる場合があります。
 このような請求は、労災保険給付や石綿健康被害救済法による給付を受けている方であっても行うことができます。
 また、企業が交渉で賠償金の支払いに応じる場合や、企業内部に独自に補償制度を設けている場合もあります。そのため、国に対する請求とは異なり、必ずしも裁判を起こさずに済む場合があります。ただし、企業が任意の支払に応じない場合には、結果として損害賠償請求訴訟を提起する必要が生じる場合があります。また、当該企業が既に倒産している場合等は、原則として企業に請求を行うことは困難である可能性が高いです。

2 請求方法

 前記のとおり、まずは交渉等で企業に対して任意の賠償を求めることになりますが、企業が任意の賠償に応じない場合(またはその見込みがない場合)には、訴訟を提起する必要があります。
 企業に対して損害賠償請求訴訟を提起する場合、基本的には、勤務先企業や元請け企業が安全配慮義務に違反していたこと、すなわち、企業がその雇用する労働者等をアスベスト被害から保護するために必要な措置(アスベスト粉じんの発生防止・飛散防止措置や防塵マスクの支給等)を取らなかったことが原因で中皮腫を発症したことを理由して、企業の責任を争うことになります。
 訴訟手続においては、業務の内容や業務への従事期間等の個別具体的な事情に基づき、当時企業が果たすべきであった安全配慮義務の内容等を検討し、企業が当該義務を果たしていなかったこと等を主張立証する必要があります。
 安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求の請求期限は、事案によって異なりますが、一つの目安として「権利を行使することができる時から10年間」となります。
 また、上記のような(元)勤務先企業や元請け企業による安全配慮義務違反を理由とする損害賠償のほかに、建材メーカー(アスベスト含有健在の製造や販売を行う業者)がアスベスト含有建材の製造・販売行為を行ったことついて、建材メーカーに不法行為に基づく損害賠償義務を認めた最高裁の決定や、高等裁判所の裁判例もあります。現在メーカーに対する裁判も現在最高裁で係争中であり、近い内に最高裁判決による統一的な見解が出されることが期待されます。
※企業に対する請求の詳細については、勤め先企業・元請け企業に対する安全配慮義務のページをご覧ください。

【弁護士への相談について】

 良性石綿胸水の患者様やそのご遺族がアスベスト被害について金銭的な請求を行う方法は上記のとおり複数の方法が考えられます。特に、国や企業に対する損害賠償請求を行う際には、裁判を起こす必要があるため、専門家である弁護士の関与によって、より法律を踏まえた説得的な主張を行うことができるものと考えられますので、弁護士を利用することをお勧めいたします。
 なお、いずれの請求も請求期限があり、期限を過ぎると請求自体出来なくなる可能性があります。ご自身がどのような請求が可能かご不明な方も含め、できるだけ早めに、弁護士に相談されることをお勧めいたします。

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