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2025/05/14

中小企業の経営者必見!「退職代行」への法的対応とリスク管理

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Question

 ある日突然、社員からではなく『退職代行』業者を名乗る者から連絡が来た。『本人の希望で本日付けで退職、連絡は今後すべてこちらへ』とのことだが、どう対応すれば? 引継ぎや貸与品の返却も心配だ。そもそも、こんな辞め方は認められるのか? 会社としてどう対応すべきか、専門家の意見を聞きたい。

Answer

 退職代行からの連絡でも、原則として、退職意思の伝達行為自体は否定されません。しかし、民間業者は弁護士ではないため、法的な交渉権限はありません(非弁行為)。そこで、まずは代行業者の身元と本人の退職意思を確実に確認し、記録を残すことが重要です。その上で、法的な権利・義務(有給休暇、引継ぎ要請の限界等)を踏まえ、冷静かつ毅然と対応する必要があります。安易な対応は後のトラブルを招きます。

目次

1.退職代行サービスとは? 法的性質と企業側の注意点

 近年、「退職代行サービス」を利用する従業員が増えています。背景には、上司への退職申し出の心理的負担や、引き止めへの懸念、ハラスメントなど、従業員が直接退職を言い出しにくい職場環境があると考えられます。
 企業側が注意すべきは、退職代行の運営主体によって法的な権限が異なる点です。主に以下の3つに分類されます。

  • 弁護士・弁護士法人:従業員の代理人として、退職意思の伝達、退職条件の交渉(退職日、有給消化、未払い賃金等)、法的手続きまで広範な対応が可能です。
  • 労働組合:団体交渉権に基づき、退職日の調整や有給消化など、一定範囲の交渉が可能です。
  • 民間企業(非弁護士業者):原則として、従業員の退職意思を伝える「使者」としての機能しか果たせません。退職条件に関する「交渉」は、弁護士法第72条で禁止される「非弁行為」に該当する可能性が極めて高いです。

【非弁行為のリスク】

 弁護士資格のない民間業者が交渉を行うことは違法であり、刑事罰の対象となり得ます。

2.退職代行から連絡が! 企業が取るべき初期対応フロー

 退職代行業者から連絡があっても、冷静かつ事務的に対応することが重要です。感情的な対応や無視は事態を悪化させます。

  • 連絡者の身元確認:相手の会社名(または組合名、法律事務所名)、担当者名、連絡先を確認し、運営主体を把握します。
  • 従業員本人の意思確認:最も重要です。委任状や本人の身分証明書のコピーの提示を求め、本人の意思に基づいているか確認します。提示がない、または疑義がある場合は、手続きを保留することも検討します。本人への直接連絡も可能ですが(弁護士が代理人の場合を除く)、あくまで意思確認に留め、丁寧な対応を心がけましょう。 。
  • 記録の保持:やり取りの内容(日時、相手、内容、提出書類、応答等)を詳細に記録します。書面やメールでのやり取りを基本としましょう。
  • 回答書の作成・送付:本人の意思確認後、退職申し出の受理と今後の手続き(退職届原本の提出依頼、貸与品返却方法等)を記載した回答書を作成し、記録の残る方法で送付します。

3.退職代行による退職申し出:企業の法的権利と義務

 退職代行サービス経由であっても、基本的な法的枠組みは従業員から直接退職の意思を伝えられる場合と同じです。法的な権利と義務を正確に理解し、冷静に対応しましょう。

  • 退職の自由(民法第627条):期間の定めのない雇用契約の場合、従業員は申し出から2週間経過すれば、会社の承諾なく退職できます。これは退職代行利用時も同様で、会社は基本的に退職申し出を否定できません。
  • 有期雇用契約の場合(民法第628条):原則、契約期間満了まで自己都合退職できません。ただし、「やむを得ない事由」(病気、介護、ハラスメント等)があれば中途解約が可能な場合があります。
  • 年次有給休暇の消化(労働基準法第39条):従業員には有給休暇を取得する権利があり、会社は原則拒否できません。退職日までに現実的に変更しうる他の取得日がない場合は会社は時季変更権を行使できない可能性が高いです。なお、民間業者は有給取得日の「希望」は伝えられますが、「交渉」はできません。また、有給の取得できる日は、いわゆる所定労働日に限られます。
  • 不利益取扱いの禁止:退職代行利用のみを理由とする懲戒処分や退職金の不支給・減額は、無効となる可能性が高いです。

 法的に認められた従業員の権利(退職の自由、有給の時季指定権)は原則受け入れ、会社として行うべき手続き(引継ぎ依頼、貸与物返却等)に注力するのが賢明です。

4.「突然の離職」に伴う実務課題への対応:引継ぎ・貸与物返却・諸手続き

 突然の離職は、引継ぎや貸与物返却などで実務上の課題を生じさせます。適切に対処し、業務支障を最小限に抑えましょう。

(1) 業務の引継ぎ(引継ぎ)

  • 法的根拠と限界:従業員には信義則上の引継ぎ義務がありますが、退職の自由や有給の時季指定権との関係上、引継ぎを強制することは事実上困難な場合が多いです。就業規則等で引継ぎ義務を明記しておくことなどで予防的な対応をすることが考えられます。
  • 要求方法:退職代行業者経由等で協力を丁寧に要請します。出社困難なら代替案(資料作成、メール回答、リモート会議等)を提示します。高圧的な態度は避けましょう。
  • 損害賠償請求の難しさ:引継ぎ不足による損害賠償請求は、因果関係や損害額の立証が困難な場合があり、仮に認められても損害賠償の範囲が限定的とされる可能性があります。

(2) 貸与物の返却(貸与物返却)

  • 対象:パソコン、スマホ、社員証、制服、名刺、健康保険証など会社貸与品が対象となります。
  • 返却方法:郵送の場合は返却物リストと送付先を明確に伝え、記録・追跡可能な方法(書留、レターパック等)を指示します。送料は原則従業員負担として構わないと思われます。
  • 従業員の私物:勝手に処分すると後にトラブルになる場合が想定されますので、本人に連絡し返却方法を確認・手配します。

(3) 最終給与の支払いと社会保険・雇用保険手続き

  • 最終給与: 退職日までの給与を計算し、給与支払日に支払います。退職金規定があればそれに従います。
  • 社会保険・雇用保険:資格喪失手続きを速やかに行います。健康保険証は回収します。
  • 離職票の発行:従業員から請求された場合、ハローワークへ「離職証明書」を提出し、交付された「離職票」を本人に送付しなければなりません。原則、退職日の翌々日から10日以内に手続きが必要です(違反した場合、罰則が適用される可能性があります(雇用保険法第83条4項))。遅延はトラブルの元なので迅速に対応しましょう。

 これらの実務対応を正確に行うことが、紛争リスク低減に不可欠です。

5.退職代行利用を未然に防ぐ:予防的労務管理のポイント

 退職代行の利用は、従業員が直接退職を言い出せない職場環境の問題を示唆していることが多いです。根本的な解決策は、日頃からの労務管理体制の整備です。

  • コミュニケーションの活性化:従業員が意見や懸念を表明しやすい風通しの良い職場環境(心理的安全性)を醸成します。定期的な面談等で意見をヒアリングしましょう。
  • ハラスメント対策の徹底:法律に則ってハラスメントを許さない方針を明確にするなどの対応を行い、研修実施、相談窓口設置、発生時の厳正な対処と再発防止策を講じます。
  • 労働時間管理と職場環境の改善:長時間労働の是正、有給休暇を取得しやすい雰囲気づくり、公平な評価制度の構築・運用に努めます。
  • 適切な退職手続きの周知と運用:通常の退職手続きを明確にし、周知します。退職申し出があった際は、本人の意思を尊重し、過度な引き止めは避けます。

 退職代行利用は、労務管理上の「警報」と捉え、背景にある組織的問題の改善に取り組むことが、健全な企業経営につながります。

法律事務所ASCOPE 監修

本稿執筆者
法律事務所ASCOPE 監修
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 退職代行サービスからの突然の連絡に、戸惑いや憤りを感じる経営者の方も多いかと存じます。しかし、初期対応を誤ると、法的なリスクを抱えたり、他の従業員への悪影響が出たりする可能性も否定できません。特に、代行業者の種類に応じた適切な対応、引継ぎや有給休暇の法的整理、非弁行為への対処などは専門的な判断が必要です。
 当事務所は、常に企業側の視点に立ち、労働法規に基づいた最適な解決策をご提案します。これまで数多くの中小企業経営者様・人事労務担当者様からご相談をいただき、退職代行に関するトラブル対応や予防策の構築を支援してまいりました。
 退職代行に関する対応でお悩みの場合は、問題が複雑化・深刻化する前に、ぜひ一度、経験豊富な当事務所の弁護士にご相談ください。貴社の状況を丁寧にお伺いし、具体的なアドバイスとサポートを提供いたします。

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