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2020/08/12

解雇無効に伴う種々のリスクについて

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Question

 従業員の解雇が不当と判断された場合に生じる、金銭的リスクやその他考えられるリスクにはどのようなものがありますか。

Answer

 想定される金銭的なリスクとしては、解雇日から裁判所による判断がなされるまでの期間に相当する当該従業員の給与の支払い義務(バックペイ)が課され、また、退職を前提とした和解を行うのであればバックペイ以外にも解決金を必要とする場合が考えられます。場合によっては、慰謝料の支払いが必要となることもありえます。
 その他のリスクとして考えられるのが、解雇無効の判断に伴い、当該従業員には貴社従業員としての地位が存続することになりますが、従業員が上記解決金による退社に応じず、あくまで貴社の従業員として働きたいと希望した場合には、貴社はこれを拒むことができないということなります。

ポイント

  • ・解雇が無効であるとの判断がなされると、解雇日から裁判所の判断がなされるまでの期間に相当する当該従業員への給与の支払いが必要となる。
  • ・慰謝料の支払いが必要となるケースもある。
  • ・従業員が復職を望んだ場合、会社はこれを拒むことができない。
  • ・解雇が無効であるとされた場合に、退職を前提とした和解を試みる場合には解決金の支払いを求められることがある。

目次

1 解雇に伴う金銭的リスク

(1)バックペイ

 解雇とは、会社が従業員との労働契約を、一方的な意思表示により終了させることです。その結果、従業員は賃金を受け取ることができなくなります。
 しかし、解雇が無効であると裁判所から判断されると、会社による無効な解雇が原因で受け取ることのできなかった過去の賃金(一般的には解雇日から裁判終了時までの賃金を請求される場合が多いです。)について会社に支払いを求めることが認められます(民法536条2項)。このことを、一般的にバックペイと言います。
 どのくらいの期間バックペイが発生するかにつきましては、当該従業員が解雇通知後のいつの時期に解雇の無効を主張してバックペイの請求を行うか、訴訟手続きに先行して労働審判手続や団体交渉申し入れ等の手段を講じるか、その他事件の難易及び争点の多寡によっても異なってきます。
 以下に、解雇を争う場合の手続きの一例を挙げ、想定されるバックペイの額を試算したものを記載します。あくまで試算の一例に過ぎないですので、個別具体的な事情により期間の長短は変動しますが、ひとつの参考例としてご参照ください。

(例)解雇通知後、当該従業員が直ちに労働審判手続を申し立て、3回の審判期日を経た後、訴訟に移行したケースに想定されるバックペイの額
(訴訟で判決までに要する期間は第1審だけでも1年以上を要することもあります。)
 ① 労働審判手続に3か月かかったと想定
 ② 訴訟手続きに1年かかったと想定
 ①+②=15か月 × 60万円/月額  ⇒ 900万円(バックペイ額)
 ※月額60万の場合を想定して試算

 なお、バックペイは、未払いになっている過去の賃金の支払いを命じるものです。そのため、会社は従業員に対して、各月の賃金について各賃金支払日の翌日から支払い済みに至るまでの遅延利息の支払いも別途必要になります。

(2)慰謝料

 事案によっては、無効な解雇を行ったことを理由に、慰謝料の支払いが必要になるケースも存在します。例えば、ある裁判例では、解雇によって自らの意思に反してその職を奪われ、精神的な損害を被ったとして、30万円の慰謝料の支払いを会社に対して命じています(O法律事務所事件、名古屋高裁平成17年2月23日判決、労判909号67頁)。
 しかし、解雇が無効と判断された場合、かならず慰謝料の支払いが必要になるわけではなく、通常解雇は得られたはずの賃金が得られなくなるという財産的損害しか生じないことから、バックペイが支払われれば精神的苦痛は慰謝されると考える裁判例や(東京地裁平成15年7月7日判決、労判862号78頁など)、解雇の態様が特に従業員の人格非難に及ぶものであったなどの、特段事情がない限り慰謝料の支払いが必要となる違法行為とは評価できないとする裁判例もあります(東京地裁平成23年11月5日判決、労判1045号39頁など)。

2 その他のリスク(復職・解決金)

 上記1で述べたバックペイ等に加えて、解雇が無効(すなわち、従業員の貴社における従業員としての地位が存続していること)であることを前提として、当該従業員の地位を消滅させるための解決金が必要となるケースが実務上多くなっています。具体的な解決金額は交渉事項となり、解雇が争われた場合の勝訴見込み等の諸事情にも左右されるため、一概には申し上げられませんが、労働審判等の早期の解決を目指す手続きにおいては、給与月額の3か月分から9か月分程度となる事例が多いように思われます。一方で、訴訟手続によった場合、それまでの審理期間も必然的に長くなることから、その相場は高くなる傾向にあるといえるかと思います。
 もちろん、解決金を支払わずに復職させるという選択肢もありえますが、復職させる場合には、当該従業員の従前の労働条件・職責のもとでの復職となります。これらの条件面で不利益な取扱いをしたり,労働条件の切下げをしたりすると、新たな法的紛争を生じさせることになりかねません。このような場面でも、労働条件を変更するためにはそれ相応の理由が必要となる点にはご注意ください。

田畑 優介(たばた ゆうすけ)

本稿執筆者
田畑 優介(たばた ゆうすけ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 ここまで記事をご覧いただき,解雇後、当該解雇が無効であると判断された場合に生じる種々のリスクについては、ある程度ご理解頂けたかと思います。
 解雇の有効性が訴訟で争われると、判決までに1年以上の期間がかかることが一般的であり、特に問題の多かった従業員ほど、その一つ一つの問題点を審理すると判決までに膨大な時間がかかってしまいます。
 そうすると、最終的に解雇が無効であると判断がされると、審理期間が長いほど高額のバックペイの支払いが必要となることになります。
 このような事態を回避するためにも,解雇を決断する前に、解雇が無効であると判断されるリスクを極力減らすための事前準備が必要となります。たとえば、注意指導を繰り返し行ったが改善しなかったことや、配置転換や上司の変更など解雇回避の措置を尽くしたといった事実が解雇の有効性を判断するうえで重要な事実になってきます。そして、それらの事実についてどのような証 拠が必要かということは、やはり訴訟の専門家である弁護士が一番理解しています。
 また、そのように準備を行ったうえでも、必ず裁判で勝てるとは限りませんから、解雇に踏み切る前には、退職勧奨を行うなど、異なる視点からのアドバイスも弁護士はノウハウを持っています。
 したがって、弁護士への相談は法的トラブルが実際に生じてからとお考えにならずに、解雇に踏み切るには事前準備が必要であるということを念頭において、法的紛争の専門家である弁護士に事前にご相談ください。

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