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2022/02/15

事業譲渡に伴う雇用関係について

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Question

① 事業譲渡をした場合に,事業の譲受会社は譲渡会社で雇われていた従業員を必ず雇わなければいけないのでしょうか。従業員の一部は譲受会社で雇わず,その他の従業員だけを雇うということも可能でしょうか。
② 仮に譲受会社で雇う場合の労働条件は,譲渡会社の労働条件と同じにしなければいけないのでしょうか。

Answer

① 事業譲渡をした際に,譲渡会社で雇われていた従業員に関する労働契約が譲受会社に当然承継されるとした過去の裁判例もありますが,現在では,労働契約が承継されるためには,労働契約も事業譲渡の対象に含めることを譲渡会社と譲受会社が合意し,従業員も個別に合意することが必要であるという考え方が通説となっています。この場合,譲渡会社と譲受会社が労働契約は事業譲渡の対象に含めないとの合意をした場合には,労働契約は承継されないことになるため,譲受会社としては,譲渡会社で雇われていた従業員を必ず雇う必要はないということになります。また,譲渡会社と譲受会社が従業員の一部のみの労働契約を承継の対象とする合意をすることもありえます。
 しかし,事業譲渡に際し,特定の従業員のみを切り捨てる目的など不当な目的を有しているとされる場合には,法人格否認,不当労働行為などの理論を用いて従業員との雇用関係が承継されると判断した裁判例もあるため注意が必要です。

② 雇用の承継の方法には,従業員の同意を得て使用者の地位を移転する方法のほか,譲渡会社で労働契約を終了させ,譲受会社で新たに従業員と労働契約を締結し直す方法も考えられるところ,前者の方法の場合には労働条件は維持されることになります。後者の方法では,譲受会社と従業員の合意によって労働条件が決定されることになりますが,譲渡会社の労働条件よりも不利な労働条件となる場合には,合意にあたって十分説明を尽くすなど,トラブルとなるリスクを避けるための対応が必要となるでしょう。

ポイント

  • ・労働契約を事業譲渡の対象に含めることを譲渡会社と譲受会社が同意しない場合には,労働契約は承継されないことになるのが原則である。
  • ・ただし,法人格否認,不当労働行為などの考え方により,従業員との雇用関係が承継されると判断した裁判例もあるため,注意が必要である。
  • ・従前の労働条件が譲受会社で引き続き維持されるかについては,事業譲渡契約の内容及び譲受会社と従業員との合意の内容により異なるが,従業員の労働条件を不利に変更する場合にはトラブルとなるリスクがあるため注意が必要である。

目次

1.事業譲渡契約に関する基本事項について

(1)事業譲渡契約とは

 事業譲渡契約とは,会社の事業を第三者に売却することをいいます。ここでいう事業とは,一定の営利目的のために組織され,有機的一体として機能する有形・無形のあらゆる財産を指します。例えば,ある会社に不動産部門,IT部門があるとき,IT部門を部門ごと第三者に売却するケースでは,そのIT部門に存在する人材の他,ノウハウや,技術,顧客名簿,パソコンなどの財産がこれに該当します。
 このケースの場合では,事業の全部を売却するということを想定していることになりますが,事業譲渡は事業の全部を売却する場合の他,事業の一部分のみを売却することもできます。

(2)事業譲渡契約は特定承継とされていること

 事業譲渡における権利義務の承継は原則として特定承継とされています。特定承継とは,譲渡人と譲受人の間の契約によって承継すべき権利義務の範囲を設定し,特定の財産や権利義務を移転する承継のことをいいます。
 したがって,事業のうちどの部分をいくらで売却するかという点を個別に確定することが基本となり,事業に含まれる財産の全部が自動的に譲受人に引き継がれるというものではありません。

2.事業譲渡契約における労働契約の承継について

(1) 譲渡会社及び譲受会社の合意に加えて、従業員の個別の合意を要すること

 前述したとおり、事業譲渡における権利義務の承継は特定承継とされるため、労働契約を承継する場合には、譲渡会社と譲受会社間で労働契約を承継する旨の合意を要することになります。また、従業員の一身専属性を定めた民法625条1項により、承継をするには前提として従業員の同意が必要となります。

(2) 従業員の一部を承継しないあるいは採用しない事業譲渡スキームの有効性について

 上記で述べた法律論によれば、事業譲渡契約では、当事者が個別具体的に譲渡の対象を選択できるのであるから、企業は、従業員のうち当該事業遂行に不可欠な一部の人材のみを雇い、それ以外を雇わないことも原則として自由に行うことができるはずです。この点、実務的にも、事業譲渡の際に、従業員の一部との労働契約を承継しない又は採用しないという事業譲渡スキームが利用されることが多々あります。
 しかしながら、これらのスキームが法律を潜脱する目的で行われたとして労働契約の承継を認める判断をした裁判例が存在するため、上記の事業譲渡スキームを利用しようと考えている経営者の方々は注意が必要です。
 例えば、経営不振により、ある会社が新会社を設立し、当該新会社に全資産及び債権債務を承継する一方で、全従業員を解雇し、新会社において大半の従業員を再雇用したものの一部の従業員を雇用しなかったケースにおいて、旧会社と新会社は「高度の実質的同一性」があるとして、いわゆる法人格否認の法理を用いて新会社に労働契約の承継を認め、上記の事業譲渡スキームが無効とされた事案があります(大阪地決平成6年8月5日労判668号48頁)。また、事業譲渡に際し、組合に属していた一部の従業員を雇わなかった事案について不当労働行為があったとして労働契約の承継を認め、上記の事業譲渡スキームが無効とされた事案があります(東京高判平成14年2月27日労判824号17頁)。
 一方で、上記の事業譲渡スキームを有効とした裁判例も存在します。
 例えば、ある会社が事業継続を困難とみて複数の取引先に働きかけて譲受会社が設立され、その譲受会社に事業譲渡を行った際に一部従業員のみの採用がなされたケースにつき、譲渡会社は真に事業継続を断念しており、何か不当な目的を持って事業譲渡を悪用したという事情は見当たらないとして事業譲渡スキームを有効とした事案があります(仙台地決昭和63年7月1日判タ678号102頁)。また、学校法人が新法人に経営を引き継がせるために事業譲渡を行った際に一部の従業員を雇用しなかったケースにつき、事業譲渡の目的は在籍する生徒の教育に一切支障を来さない為であったとして事業譲渡スキームを有効とした事案があります(東京高判平成17年7月13日労判899号19頁)。
 これらの裁判例を見る限り、事業譲渡スキームの有効性についての判断は、事案毎に異なっていると言わざるを得ません。しかし、スキームの有効性を予測する上で重要な判断要素と考えられるものも存在し、例えば、事業譲渡の目的がいかなるものかという点が重要であるといえます。ただし、事業譲渡の目的は、事業譲渡契約の経緯や、譲渡会社の事業継続の有無、承継する従業員と承継しない従業員の性質の相違点など各事実を総合的に考慮することで判断されるものですので、個別の事案における具体的事情を精査し、当該事案において事業譲渡スキームの有効性が認められるかについての予測を立てる必要があります。

3.事業譲渡契約における労働条件について

 事業譲渡において労働契約を承継する場合、従前の労働契約における労働条件を維持しなければならないのでしょうか。
 この点、雇用の承継の方法には、従業員の同意を得て使用者の地位を移転する方法のほか、譲渡会社で労働契約を終了させ、譲受会社で新たに従業員と労働契約を締結し直す方法も考えられるところ、前者の場合には労働条件は維持されることになります。後者の場合には、労働契約を新しく締結することになるため、理論的には譲受会社で新たな労働条件の設定をすることができるということになりますが、再雇用にあたっての契約につき従業員の同意を要し、新しい労働条件を一方的に設定できるものではありませんので、譲渡会社の労働条件よりも低い労働条件となる場合には、合意にあたって十分説明を尽くすなど、トラブルとなるリスクを避けるための対応が必要となるでしょう。
 なお、譲渡会社を解散して全従業員を解雇し、労働条件の切下げに同意する者のみを再雇用するという方法をとった事例に関する裁判例として、事業譲渡契約において労働契約の承継につき実質的に労働条件低下に合意しない者を排除するものであり、当該部分が公序良俗違反(民法90条)とされ譲受会社が従業員全員を引き継ぐとされた事案もあります(東京高判平成17年5月31日労判898号16頁)ので、こうした観点からも十分注意が必要となります。

【参考文献】
東京弁護士会労働法制特別委員会編著・新労働事件実務マニュアル(令和2年)ぎょうせい.406 -408
菅野和夫著(2020).労働法[第12版] 弘文堂.764-774

小林 一樹(こばやし かずき)

本稿執筆者
小林 一樹(こばやし かずき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 以上が、事業譲渡の際に生じる労働契約の承継問題の概要となります。
 事業譲渡そのものは、前述したとおり、事業承継をする上で柔軟かつ有用な方法のため、実務的にも利用されることが多く、注目すべき法的スキームといえます。
 しかしながら、事業譲渡を利用した法的スキームは、裁判例においても事案による個別判断がなされることが多く、選択した法的スキームの有効性について予測をたてることが難しいことも事実であるため、その運用には細心の注意を要するところです。
 いずれにせよ、事業譲渡契約における労働問題は生じるインパクトが大きく、また多様な法律問題が生じうるものですので、事業譲渡後に紛争が生じないように一度労働問題や企業法務専門の弁護士に相談することをおすすめいたします。

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