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2021/03/31

(私傷病が生じた)従業員への休職制度適用の要否について

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Question

①.精神的な不調により1週間欠勤を続けている従業員がいます。当社の就業規則には休職制度の定めがありますが、このような従業員は必ず休職させなければなりませんか。
②.このまま、出社の可否については本人の判断に任せておき、欠勤が長期間に及んだ場合には解雇しようと考えていますが、この対応に問題はありますか。

Answer

①.精神的な不調により1週間欠勤を続けている従業員がいます。当社の就業規則には休職制度の定めがありますが、このような従業員は必ず休職させなければなりませんか。
②.このまま、出社の可否については本人の判断に任せておき、欠勤が長期間に及んだ場合には解雇しようと考えていますが、この対応に問題はありますか。

ポイント

  • ・休職制度適用を会社に義務づける法律はない。
  • ・休職させるためには、就業規則に休職制度を規定しておくべき。
  • ・休職制度は解雇猶予としての機能を持つため、私傷病により長期間にわたって労務の提供ができないことを理由に解雇をする場合には、当該解雇判断の社会的相当性を担保する意味で休職制度を適用すべき。
  • ・そもそも就業規則において休職終了後に復職不可能と判断した場合の効果は「解雇」ではなく「当然退職とする」旨の定めとしておくべき。

目次

1.休職制度の基本事項について

(1) 休職制度とは

 休職制度とは、業務上の災害を除いた理由(いわゆる「私傷病」と呼ばれるものです。)で怪我や病気などになり労務の提供が行えない従業員を、会社の業務命令により一方的に休ませる制度です。休職制度は、法律上、会社に義務づけられた制度ではないため、従業員を休職とするか否かについて自由に決定できるものとされています。
 したがって、私傷病により労務の提供ができない従業員について休職制度を適用して休ませるか、休職制度を適用せず単純な欠勤として様子を見るかについては会社が自由に決定できるのが原則になります。

(2) 休職制度を適用するとどうなるか

 一般的な休職制度を従業員に適用した場合、当該従業員は休職期間中において会社で労務を提供することを要しないことになる反面、労務を提供していないためノーワークノーペイの原則により無給となるのが通常です。もちろん休職制度は任意の制度のため、休職の理由によって有給とする会社もあります。
 休職した従業員は、その後、傷病が治癒し、復職が可能と判断された場合には、会社に復職することになります。逆に、休職期間中に傷病が治癒せず、復職が不可能と判断された場合には当該従業員を当然退職として取扱う会社が一般的です。

2.解雇猶予措置としての休職制度

 長期間にわたって労務の提供ができない従業員は、一般的には普通解雇事由に該当するとして解雇が検討されることになりかねませんが、休職を選択した場合には当該従業員の労務提供の可否につき様子を見ながら判断することができますので、休職制度は解雇猶予措置として意味があります。
 確かに、復職の見通しが立たない程重大な怪我や病気を負った場合、休職制度を適用せずに解雇するということも、実際上の対応としてはありうるところです。しかし、精神的な不調により約40日間にわたり欠勤を続けた労働者に対し、休職措置を講じないで論旨退職処分としたことについて、「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上告人としては、・・・精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、・・・欠勤を正当な理由なく無断でなされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の態度としては適切なものとはいい難い」として、諭旨退職処分を無効と判断した裁判例があります(最判平24・4・27労判1055・5)。
 そのため、会社の対応としては、治癒可能性がある傷病で長期の欠勤が必要となる従業員がいる場合には、即座に解雇するか否かの判断をするのではなく、医師の診断書などの客観的資料を基に従業員の状況を継続的に確認しつつ、本人とも相談した上で当該従業員を治療に専念させるために、休職制度を活用すべきと考えます。

小林 一樹(こばやし かずき)

本稿執筆者
小林 一樹(こばやし かずき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

以上が私傷病の従業員に対する休職制度適用の要否に関する説明になります。休職制度の適用は義務ではありませんが、判例の動向を踏まえると就業規則に休職制度の定めを置くことは標準的と言えるでしょうし、解雇の前提として休職命令を適用することも一般的な方法と言えるでしょう。
 しかし、人材に余裕のある大企業であればともかく、そうでない企業においては、休職制度を運用する上で、より実践的な判断を行いたいという経営者の方も多く見受けられるところです。そのような場合には、会社と従業員の個別事情を考慮し、解雇した場合の法的リスクを踏まえた上で休職制度適用の要否を専門的に判断する必要があります。また、休職させた場合にも、今度は復職の可否と復職を認めた場合の法的リスクが生じることを検討する必要があります。いずれにせよ、休職制度の運用には、複数の法的リスクがついて周りますので、労働専門の弁護士に対応方法を相談することをおすすめいたします。

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