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2024/01/25

学校法人の理事長の横領行為などの不正経理問題をマスコミに公表することをほのめかして、理事長ほか3名の理事の即時退任を求めるなどした職員に対する普通解雇が解雇権の濫用に当たらないとされた事例 東京高判平成14年4月17日(労働判例831号65頁)

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目次

1.事案の概要

 本件は、学校法人が、労働者である職員2名を、①職員らが理事らの即時退任を要求したときの態様(ア:理事らが即時退任に応じない場合には学校法人の理事長の不正経理問題をマスコミ等に流すとほのめかしたこと、イ:学校法人が、職員らに不正経理問題に言及している文書の提出を命じた行為に対して、従わなかったこと、ウ:職員らが系列の高校・大学の労働組合を巻き込み、学校法人は労働組合から、不正経理問題、労働条件、労働環境等についての問い合わせなどを受けて、この対応を余儀なくされたこと等)、②職員2名が、①を理由として自宅待機処分を受けていたところ、自宅待機処分の取消訴訟を提起し、同日、記者会見を開いて、集まった記者らに対して、学校法人には不正経理問題があるとして、その概要や資料等を公表したことが懲戒解雇事由に該当するとして、普通解雇したという事案です(本件の学校法人の就業規則において、懲戒解雇が相当な場合に普通解雇することができると解される規定があります。)。


2.裁判所の判断の概要

 裁判所は、①の行為について、ア:(これらの言動が刑法上の脅迫・強要に該当するかどうかはともかくとして)不正経理問題がマスコミ報道されることによって被る被害の大変さを知っている理事らにとっては、自由な意思に相当な抑圧を与えるものであり、仮に不正経理問題が合理的な根拠のある事実であったとしても、そのような事実の公表が学校法人の経営に致命的な影響を与えることに思い至ることは容易であるから、内部の検討諸機関に調査検討を求めるなどの手順を踏むべきであり、こうした手順を捨象していきなりマスコミ等を通じて外部へ公表するという行為は、雇用契約において労働者が負担する信頼関係に基づく誠実義務に違背するものであり許されない、イ:不正経理問題が記載された文書の提出を命じた行為は、学校法人の円滑な運営を目的とするものであって、一種の業務命令に当たるもので、不正経理問題について適切な調査と対処が求められる緊急の事情があること、職員らが不正経理問題等を指摘して理事長らの退任を求めていながら、その根拠を記載した文書を十分に閲読させないといった態度等を考慮すると、文書の提出を命じた業務命令に従わなかったことは業務違反であり、そこにやむを得ない正当な理由があるとはいえない、ウ:労働組合からの質問等を受け、本来の業務以外の事柄に余計な労力を費やされたこと、理事らの退任を申し入れた行為は特定の理事に対する個人的かつ感情的な動機に基づくきらいがないではないことを考慮すると、労働組合に支援を求めた行為を正当な求支援行為と解することには直ちに賛同できない、②不正経理問題について、記者会見等を通じてマスコミに公表する行為は、仮にこれが真実であったとしても明らかに理事長個人や学校法人の名誉・信用を著しく毀損し、その経営活動に重大な影響を与えるものであり、現に入校生徒数の激減という状態に追い込まれ、かつてない経営難に陥っており、このため職員らの給与切下げを余儀なくされ、職員の生活が圧迫される厳しい事態を招いていると認定し、懲戒解雇事由に該当すると判断しました。
 また、解雇権濫用に当たるという原告の主張に対しては、原告らがした各行為の原因、動機、性質、態様、学校法人及びその職員に対する影響、勤務態度等を併せ考察すると、本件各解雇が合理的根拠を欠き社会通念に照らして相当でないということはできないとして、学校法人の職員2名に対する普通解雇は有効と判断しました。


3.裁判例のポイント

 本事例は、学校法人の理事長の不正経理問題を追及しようとした労働者の行為態様(マスコミへの公表等)が懲戒解雇事由に該当すると判断されているところに特徴があります。また、解雇の対象となった職員2名は、不正経理問題は無いと認識したうえで、あえて不正経理問題として取り上げた疑いもあるとして、行為態様の悪質性にも言及しています。
 労働者が会社の不正を取り上げる行為に対しては、その不正そのものが真実であるか否かは当然重要な要素ですが、それにとどまらず、その取り上げる行為態様や労働者の認識、会社に与える影響も重要であることを示す裁判例といえます。

法律事務所ASCOPE 監修

本稿執筆者
法律事務所ASCOPE 監修
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 近年は、会社の内部情報についてSNS等を通じて簡単に公表等することが可能となっています。本事例を踏まえ、従業員が、会社の内部情報をいきなり外部に公表等することがないように、従業員が問題行為を認識した際の報告先などルールを定めておくことも有用と考えます。会社内部における報告先など問題発生時の体制を整備されていない場合には、弁護士に相談し、必要な制度を構築されることをお勧めいたします。

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