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2021/12/22

本採用拒否が認められる場合について

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Question

 当社には現在、試用期間中の従業員がいるのですが、この従業員が以前勤めていた会社から解雇されて、これを裁判で争っていることが最近判明しました。この従業員は履歴書に解雇されたことを書いていませんでした。この従業員を本採用拒否しても問題ないでしょうか。

Answer

 上記の事実のみでは直ちに本採用拒否が有効になるとは言い切れません。採用拒否が有効になるためには、当該従業員の採用の経緯や採用後の勤務態度、能力等を考慮し、当該従業員を引き続き雇用しておくのが適当でないと客観的に相当と判断されることが必要です。

ポイント

  • ・試用期間は解約権留保が付された労働契約期間である。
  • ・本採用拒否が認められるためには、解約権留保の趣旨・目的に照らし、客観的合理的理由が存し、社会通念上相当と是認されることが必要。
  • ・本採用拒否事由の正当性は厳しく判断されている傾向にある。

目次

1.試用期間とは

 試用期間は、採用した従業員の適性を見るための期間であり、解約権留保が付された労働契約期間(解約権留保付労働契約)です。試用期間の法的性質に触れた三菱樹脂事件判決(最大判昭和48年12月12日・民集27巻11号1536頁)では、試用期間における解約権行使が認められる場合について、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、……客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができる。」と示しています。

2.本採用拒否が争われた裁判例

 上記三菱樹脂事件判決が出されて以降、本採用拒否(試用期間中の解雇及び試用期間満了時の解雇を合わせて、以下単に「本採用拒否」といいます。)が認められるか否かは、解約権留保の趣旨・目的に照らし、客観的合理的理由が存し、社会通念上相当かを基準に判断されています。そして、これまでに本採用拒否が争われたれた裁判例としては以下のものが挙げられます。

(1) 本採用拒否が認められた場合の例

①日本基礎技術事件(大阪高判平成24年2月10日・労判1045号5頁)

 この裁判例では、会社が必要な研修、指導を十分に行っていたこと、それにもかかわらず会社が求める能力を身につける見込みが立たなかったことが重視されています。新卒者を能力不足を理由として本採用拒否する場合においては、会社が十分な指導、教育を行うことがまず求められると考えられます。

 1つ目は、日本基礎技術事件です。この裁判例は、新卒者として採用した技術社員を、能力不足を理由として試用期間中(6か月の試用期間中のうち、4か月弱が経過した時点)に本採用拒否した事案です。裁判所は、「繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るというだけでなく、……研修に臨む姿勢についても疑問を抱かせるものであり、今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であった」、技術社員は「改善するために必要な努力をする機会も十分に与えられていた」、そして会社は「本採用すべく十分な指導、教育を行っていたといえる」などとして、本採用拒否を有効と判断しました。

②アクサ生命保険ほか事件(東京地判平成21年8月31日・労判995号80頁)

 2つ目は、アクサ生命保険ほか事件です。この裁判例は、以前勤めていた会社から解雇されていた事実を秘匿していたという経歴詐称があったこと、副業と見られる活動を行っていたこと、業務中に私用メールを大量に送受信していたこと等を理由に本採用拒否をした事案です。裁判所は、「以前の会社……への就職及び解雇の事実を明らかにしなかったことは、金融機関における業務経験とインベストメント・プロジェクトの管理・運営等の業務に対する高度の知識を求めて求人を行っていた被告会社が原告の採否を検討する重要な事実への手掛かりを意図的に隠した」ものであるとし、経歴詐称に当たると評価しました。また、「原告は、担当する業務の企画ができなかったり、不相当な記載をしたプレゼンテーション資料を作成するなど芳しくない勤務態度が認められる」上、「自宅住所を業務上の住所として副業と見られる活動を行っていたり……すでに被告会社での勤務の意欲を失っていたともいえる。」として、本採用拒否を有効と判断しました。

 この裁判例では、経歴詐称があれば、これを信頼して採用した者との間の信頼関係が損なわれ、採用した実質的理由が失われてしまうことも少なくないとし、経歴詐称を本採用拒否のひとつの理由として認めました。もっとも、本件では経歴詐称のほか、勤務態度不良等の事情も考慮して、本採用拒否を有効と判断していますので、この点には注意が必要です。

(2) 本採用拒否が認められなかった場合の例

①ファニメディック事件(東京地判平成25年7月25日・労判1080号5頁)

 1つ目は、ファニメディック事件です。この裁判例は、獣医師として雇った者を能力不足や協調性の欠如等を理由として6か月の試用期間満了時に本採用拒否した事案です。裁判所は、従業員の請求金額のミスや薬の処方のミスは不注意の域を出るものではなく、致命的なミスとはいえない、カルテの記載が不十分だった点はその後に繰り返されているわけではないとして、「獣医師として能力不足であって改善の余地がないとまでいうことはできない」とし、本採用拒否を無効と判断しました。

 この裁判例でも「試用期間中の労働契約は、試用期間中に業務適格性が否定された場合には解約しうる旨の解約権が留保された契約であると解されるから、使用者は、留保した解約権を通常の解雇よりも広い範囲で行使することが可能である」と述べられています。しかし、結論としては本採用拒否を無効とし、本採用拒否を決して緩やかな基準で判断しているわけではないことを表しているともいえます。

②オープンタイドジャパン事件(東京地判平成14年8月9日・労判836号94頁)

 2つ目は、オープンタイドジャパン事件です。この裁判例は、取締役への昇進を予定して事業開発部長として雇った者を業務遂行状況の不良等を理由に本採用拒否した事案です。裁判所は、この者の業務遂行状況が不良であったとは認められず、この者が本採用拒否されるまでの2か月弱の間に会社が期待するような職責を果たすことは困難であったというべきであり、また、その後に雇用を継続しても、この者がそのような職責を果たさなかったであろうと認めることもできないとして、本採用拒否を無効と判断しました。

 この裁判例では、2か月弱の業務遂行状況をもって事業開発部長としての適格性を否定することはできないとしています。会社が求める能力、職責に達していないことを理由に本採用拒否する場合には、これを示す客観的な資料が必要と考えられます。

3.本採用拒否を行う際に検討・留意すべき事項

(1) 試用期間の延長

 従業員の本採用拒否を考えられているのであれば、試用期間の延長も検討すべきです。上記の本採用拒否が認められなかった場合の例では、会社が求める能力や職責に達していないことを客観的な証拠から認定できなかったために本採用拒否を無効としています。そのため、従業員の能力不足等を示す客観的な証拠がない場合であれば、試用期間を延長してこの間に再度この者の能力を測ることを検討すべきです。

 もっとも、試用期間の延長ができる場合は、個別の労働契約により試用期間の延長が合意されている場合や就業規則に試用期間の延長手続の規定がある場合に限られます。試用期間の長さは、労働契約の内容として労使間で合意するものであるため、これを使用者が一方的に変更することはできない点にはご留意ください。

(2) 試用期間中に本採用拒否するか試用期間満了時に本採用拒否するか

 試用期間の途中で本採用拒否を行う場合には、試用期間の満了時における本採用拒否よりも、更に慎重に判断する必要があります。証券会社に営業職として中途採用された従業員が試用期間の途中で本採用拒否されたニュース証券事件判決(東京地判平成21年1月30日・労判980号18頁)では、「本件雇用契約においても、留保解約権の趣旨・目的は、6か月の試用期間内の調査や観察に基づいて、原告の資質、性格、能力等が被告の従業員としての適格性を有するか否かについて最終的な決定を留保したものと解される」、「わずか3か月強の期間の手数料収入のみをもって原告の資質、性格、能力等が被告の従業員としての適格性を有しないとは認めることはできない」として本件本採用拒否は無効であると判断されました。試用期間の途中での本採用拒否は、解約権行使の事由と相当性が明らかに認められるという場合を除き、慎重に行うことが必要です。

(3) 試用期間中の解雇予告手当について

 14日を超えて雇用した従業員を解雇する場合には、試用期間中の本採用拒否であっても解雇予告手続 をとる必要があります(労働基準法20条)。労働基準法21条4号に、「試の使用期間中の者」を解雇する場合には、解雇予告手続を要しないと定められていますが、労働基準法21条ただし書で、「十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合」を除くとされていますので、注意が必要です。

4.設問のケースについて

 上記アクサ生命保険ほか事件の裁判例に鑑みれば、従業員が以前勤めていた会社から解雇されて、これを裁判で争っていることを秘匿していたとの事実のみでは、本採用拒否は認められないと考えます。本採用拒否が認められるためには、採用時に会社が一定の能力や職責を求めていることを明示しており、会社が求める能力や職責に達していないことが客観的に明らかであること、会社が必要な研修、指導を十分に行っていたにもかかわらず会社が求める能力を身につける見込みが立たないこと等の事由が必要であるため、設問のケースにおいてもその他の解雇事由としてこのような事由が必要と考えられます。

紺野 夏海(こんの なつみ)

本稿執筆者
紺野 夏海(こんの なつみ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 本記事で触れた三菱樹脂事件判決では、試用期間中は解約権が留保されていることを理由に、本採用後の解雇よりも認められる範囲が広い旨を示していますが、昨今の裁判例では、本採用後の解雇と同じような厳しい基準で判断され、本採用拒否が認められた例は限られています。
 また、経歴詐称の事実があれば本採用拒否が有効となるわけではないため、事案ごとに慎重に判断することが必要です。試用期間中の従業員対応について何かお困りのことやお悩みがありましたら、ぜひ専門家である弁護士までご相談ください。

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