1 セクシャルハラスメントの定義
セクシャルハラスメントについては、男女雇用機会均等法11条及び「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(以下「セクハラ指針」) (平成18年厚生労働省告示第615号)に置いて、具体的に規定されています。
2 セクシャルハラスメントへの対応(※2)
(1) 事実関係の調査
漫然とヒアリングを行うことは、問題解決の阻害や二次被害の発生に繋がりかねません。そこで、ヒアリングでは、次のポイントを意識するのが良いと考えられます。
- ア 被害者からのヒアリング
ヒアリングを行う場合、被害申告内容の確認及び特定を兼ねて被害者から開始します。次に、加害者のヒアリングを行い、両者の主張の相違点を明確化し、裏付け調査や第三者からのヒアリングにより、事実関係がどのようであったのか認定します。 - イ 被害者の体調への配慮
被害者は、問題発覚時、既に精神的ショックを受けていることが多々あります。ヒアリングによって負荷をかけることがないよう、社外においてヒアリングを行う、産業カウンセラー・産業医を同席させるなどの配慮が必要となる場合もあります。 - ウ ヒアリングの方法
ヒアリングすべき事項については、5W1Hを意識し、できる限り被害内容を具体的にヒアリングすることがその後の加害者の処分や再発防止策を検討するためにも重要です。
(2) 加害者への対応
- ア 調査中の取扱い
調査の結果、何らかの処分が必要である程の重大事案であると判明した場合、対応を決定するまでの間、加害者に対して、業務命令として自宅待機を命じることがあります。この場合、あくまでも処分前であり、賃金は全額支給する必要があります。 - イ 懲戒処分(※3)
懲戒処分が相当であると判断した場合、事実関係を踏まえて、処分内容を検討します。裁判例を概観すると、強制わいせつ罪に該当するような行為である場合、懲戒解雇が有効になる可能性が高くなります。
強制わいせつ罪に当たらない程度のものでも、身体接触があれば懲戒解雇が有効となる可能性があります。行為態様、状況、加害者の地位、加害者と被害者の関係、被害者の落ち度、企業の方針、加害者の反省状況、加害者の企業への貢献度などを総合的に勘案して懲戒解雇とするか検討してください。
一方、身体的接触を伴わない場合、懲戒解雇が有効となる可能性は低く、軽い懲戒処分を科すにとどまることが多いようです。 - ウ その他の措置
職場環境改善のため、以下の措置を講じることが考えられます。被害者の負担でこれらの措置を行わないことが重要です。- ① 被害者と加害者の関係改善に向けた援助
- ② 被害者と加害者を引き離すための配置転換
- ③ 加害者の被害者に対する謝罪、再発防止のための誓約
- ④ 加害者に対する教育研修の実施
- ⑤ その他、被害及び職場環境を回復するために必要な措置
(3) 紛争が生じた場合の対応
被害者は、加害者だけでなく企業に対しても損害賠償請求をすることがあります。その場合、訴訟等に至る前に、まずは、話合いによる解決を目指します。話合いがまとまった場合、合意書を締結し、紛争が再燃しないようにするべきです。
訴訟等に至った場合、セクシャルハラスメントの内容のみならず、企業がその問題に対してどのような対応をしたかという点も考慮されます。そして、企業の対応に問題があると判断された場合、会社の責任が認められ、被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。賠償額は、事案によって差異がありますが、裁判例では、会社に50万円~300万円程度の損害賠償責任が認められた例があります。
(4) 再発防止に向けて
ハラスメントに対する企業の基本方針の再確認、防止体制の必要な見直し、従業員への周知を行うことが適切です。
例えば社内ホームページにて、どのような行為がセクシャルハラスメントに該当するのか、行為者に対しては厳正に対処する旨の広報を行うといった方法があります。なお、加害者に対する懲戒処分の内容の公表は、ある程度抽象化した公表とすることが一般的です。
(※1)福岡セクシャルハラスメント事件(福岡地裁平成4年4月16日判決・労判607号6ページ)
(※2)大分放送事件(福岡高裁平成5年4月28日判決・労判648号82頁)
(※3)企業人事労務研究会『企業労働法実務入門(改訂版)』239ページ(日本リーダーズ協会、2019)