1 団体交渉申入書が届いたら
(1)団体交渉に応じなければならないか
まず、労働組合には団体交渉権があるため(憲法28条)、労働組合から団体交渉を申し入れられたら、使用者(企業)は正当な理由なしにこの申入れを拒否することはできません(団交応諾義務)。また、使用者は形式的に交渉に応じるだけでは足りず、誠実に交渉を行うことも必要です(誠実交渉義務)。なお、使用者が団体交渉を正当な理由なく拒否したり不誠実に交渉することは不当労働行為として法律上禁止されています(労働組合法7条2号)。使用者が不当労働行為を行った場合は、労働組合は労働委員会(各都道府県の機関としての都道府県労働委員会と国の機関としての中央労働委員会があります)に対し救済を求めることができ、労働委員会から団交応諾命令などの救済命令が発せられることがあります。
(2)団体交渉の期日の調整はできるのか
結論としては、労働組合に団体交渉の期日変更を申出て、調整を行うことは可能です。労働組合は、団体交渉申入書により一方的に団体交渉の期日を指定してくることがほとんどであるため、指定された期日に団体交渉を行うと業務に支障が出たり、指定された期日では団体交渉の準備が間に合わないなどの事態が生じ得ます。もっとも、先に述べたように使用者には団体交渉に誠実に対応する義務がありますので、団体交渉が早期に開催できるよう配慮して期日調整を行うことが必要です。
2 団体交渉の議題が経営に関する事項のとき
(1)団体交渉に応じなくてもよいケース
使用者として団体交渉に応じる義務がある議題は、組合員である労働者の労働条件、その他労働関係に直接関係する事項とされています(義務的団交事項)。
団体交渉の議題が経営に関する事項である場合、その議題が労働者の労働条件に全く関係ない事項であれば団体交渉に応じる義務はありません。例えば、工場や事業所の移転、経営層の人事などが議題となっていて労働者の労働条件に全く影響がない場合には、団体交渉に応じなくてもよいとされています。
(2)団体交渉に応じなければならないケース
もっとも、団体交渉の議題が経営に関する事項であっても、それが労働者の労働条件、待遇に関係する場合など組合員の労働条件に影響がある場合には、その限りで団体交渉に応じなければなりません。例えば、工場や事業所の移転問題であっても、整理解雇や労働者の賃金変更と関連するときは労働条件に影響がある場合といえるため、団体交渉に応じなければなりません。
このように、経営に関する事項ではあっても、労働者の労働条件に影響がある事柄は広い範囲で団体交渉の対象となりますので、安易に交渉を拒否しないよう注意すべきです。
3 組合員と直接交渉をしてもよいか
労働組合から団体交渉が申し入れられ、労働者が労働組合を通じた交渉を望んでいるにもかかわらず、使用者が労働者と直接交渉すると、団体交渉権等を侵害することになり不当労働行為となるおそれがあります(労働組合法7条2号、同3号)。そのため、労働組合から団体交渉の申入れがあった場合には労働者と直接交渉することは避けるべきです。