HOME人事労務ラボ賃金 > フルコミッションの採用について

2020/07/31

フルコミッションの採用について

Twitter facebook
Question

 私は新しくタクシー会社を設立しようと考えているのですが、賃金制度にフルコミッション(完全歩合制)を採用しようと考えています。一方で、フルコミッションが違法だという話も聞くのですが、このような制度は法律上問題ないでしょうか。

Answer

 賃金制度にフルコミッションを採用すること自体は可能ですが、運転手の出来高が少なくても一定の賃金が得られるように、保障給を別途用意しておく必要があります。また、タクシー運転手の賃金制度においては、累進歩合制度を採用することができませんので、注意が必要です。なお、賃金制度に関して採り得る選択肢として、フルコミッションだけでなく、賃金のうちの一部につき歩合給を採用すること(固定給+歩合給)も考えられます。

ポイント

  • ・フルコミッションを採用するには、保障給を用意する必要がある。
  • ・最低賃金法の適用にも気を配る必要がある。
  • ・タクシー会社においては、累進歩合制度を採用することができない。

目次

1 フルコミッション(完全歩合制)とは

 フルコミッション(完全歩合制)とは、物の生産量や売上成績といった一定の基準に賃金全額を連動させる制度のことをいいます。
 フルコミッションが採用される例としては、不動産や保険のセールスマン、タクシードライバーなどが挙げられます。

2 保障給の必要性

 労働基準法27条には、以下のように規定されています。
 「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」
 フルコミッションは、「出来高払制その他の請負制」に該当しますので、会社は同条に基づいて労働時間に応じた保障給を支払わなければなりません。
 同条の適用を受ける会社が保障給をどの程度支払う必要があるかについては、労働基準法上特に言及はありません。
 もっとも、タクシー会社の場合、通達によって「固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金」を保障金として支払うものとされておりますので(平成元年基発第93号)、就業規則や賃金規程を改訂してフルコミッションを採用する場合には、併せて保障給についての規定も設ける必要があります。

3 最低賃金法の適用

 加えて、タクシー運転手には、地域別最低賃金が適用されますので、1時間当たりに換算した賃金額が、都道府県ごとに定められた最低賃金額を下回らないように注意する必要があります。なお、これに従わない場合には、50万円以下の罰金に処すると規定されています(最低賃金法40条、4条1項)。

4 累進歩合制度の禁止

 タクシー会社でフルコミッションを採用する場合にもう1つ注意すべき点があります。
 それは、タクシー会社においては、歩合給のうち「累進歩合制度」を禁止されていることです。
 ここでいう累進歩合制度とは、運賃収入と賃金の関係をグラフにした場合に、グラフ上のカーブに連続していない箇所がある制度のことをさします。
 累進歩合制度として禁止されている賃金制度として、累進歩合給、トップ賞、奨励給が挙げられます(以下の制度内容につき、国土交通省「タクシー運転手に係る賃金規制の概要」を一部引用)。
 累進歩合給とは、売上げ等に応じて歩合給が定められている場合に、その歩合給の額が非連続的に増減する制度です。
 トップ賞とは、売上高等の最も高い者またはごく一部の労働者しか達成し得ない高い売上高を達成した者のみに支給する制度です。
 奨励加算とは、売上高を数段階に区分し、その売上高の区分の額に達するごとに一定額の加算を行う制度です。
 では、なぜタクシー会社において累進課税制度が禁止されているのでしょうか。
 例えば、あと1日で100キロメートル走行することで目標額を達成するタクシードライバーがいたとすると、そのドライバーは、長時間働いたり、スピード違反をしたりしてでも、早く目標を達成しようとするかもしれません。
 このように、労働者の長時間労働やスピード違反を極端に誘発するおそれがあることこそが、累進歩合制が禁止される理由なのです。

5 フルコミッション以外の歩合給制

 フルコミッションを採用しても結局保障給で通常の賃金の6割を保障しなければならないのならば、従業員の安定的な生活を保障することをアピールするために、歩合給を賃金の一部にとどめ、残部については固定給制を採用することも考えられます。
 もっとも、そのような場合であっても、賃金が通常の賃金の6割に満たない場合や最低賃金を下回る場合には、その分の賃金を支払わなければなりません。

法律事務所ASCOPE 監修

本稿執筆者
法律事務所ASCOPE 監修
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 タクシー会社のフルコミッション採用にあたっての注意点についてお分かりいただけましたでしょうか。フルコミッションを採用する場合には、就業規則または賃金規程を作成、改訂する必要があり、このような作業には専門的知識が必要となります。フルコミッションの採用を検討される場合には、専門家である弁護士に是非一度ご相談ください。

労働問題に関する
このようなトラブル
悩んでいませんか?

お問い合わせ

ご相談は以下まで、
お電話・メール・LINEにて受付ております。

相談のご予約はLINEが便利!

法律事務所ASCOPEを友達に追加しよう!

対応時間:平日10時~19時

「友だち追加」ボタンをタップ頂くことで
ご登録頂けます。

受付では、
一旦下記についてお聞きいたします。

法人名(ご担当者名)/ 所在地 / 電話番号 / 相手方氏名(コンフリクト防止のため)/
相談内容の概要(相手方代理人名、次回期日、進捗状況等)/
ご来所可能日時

TOP